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ベアトリスのオヤジさんに謝りに行きました。

誤字脱字の指摘、ありがとうございます。

 ドリスとベアトリスの事を心配しているのか、いつもよりゆっくりなノワル。

 逆にそのお陰で、感じる風が心地よかった。

 とはいえかなりの速度でノワルは飛んでいる。

 遠くに見えた村がどんどん大きくなり、いつも俺が待機している門の前に降りた。

「ドリス様ぁ、お泊りになるなら先に言っておいてください、わたくし心配しましたぞ?」

 下男が走り出てくる。

「すまん、ちょっと飲み過ぎてな。

 帰れなくなってしまった」

「まあ、ドリス様もお年頃ですから、楽しんでこられたのなら良かったです」

 俺をチラチラ見る下男であった。


 熊スーツを着た俺がいつもの巨人だとは思わないようだ。

 コスプレしているとでも思ってるのかね? 


 まあ、魔法の存在さえ知らないんだから仕方ないか。

「じゃあ、行くぞ。何かあったらパスでな」

「ありがとうアリヨシ、楽しかった」

 ノワルが羽ばたき領都にむかうのをドリスは手を振りながら見送ってくれた。


 次が難題。ベアトリスの父上様。

「ベアトリス、お父さんの名前は?」

「ステファンと言います。ステファン・クルームが父の名です」

「ステファン・クルームねぇ。

 この格好で大丈夫?」

 俺は熊の着ぐるみを着たアルバイトのような格好である。

 とても伯爵の前に出ていいような格好ではないような気がするのだが。

「アリヨシ様、大丈夫です」

 何が大丈夫なのだろうか? 

「アリヨシよあそこじゃ、あれが館じゃ。

 ベアトリス、庭に降りるので良いのかの?」

「そうしてもらえますか?」

 結構デカい街の中にひと際大きな建物。

 芝生の庭に噴水。豪邸だね。

 そこにノワルの巨体がホバリングしながらゆっくり降下する。

 館の窓にはガラスが入っていた。

 すげえなこれ。

「ブラックドラゴンとともにお嬢様が戻られた。

 クルーム様に報告を!」

 なんて声が聞こえてくる。


 多分俺って悪者だよね? 


 館内に居る警備兵に取り囲まれた俺とノワル。

 そして、ワクワクしているベアトリス。

 暫く待機していると、

 悪人の登場の音楽が聞こえそうな雰囲気で、二メートルほどのがっちりとした体格の四十前ぐらいの男が登場した。


 多分、ベアトリスのオヤジさんなんだろうね。

 腕なんてソコソコの丸太ぐらいあるんじゃないかな?

 えっ、ベアトリスって養子?

 この親の遺伝子がベアトリスにあるとは思えないな。

 母ちゃんが美人なのかね。

「お前は誰だ?

 ドラゴンを従える男など聞いたことが無い」

 怒りジワつくって俺に聞いてくるオッサン。

「誰だって言われても……俺はドラゴンを従えた魔物だよ。

 今回は、ベアトリスがお泊りしてしまった原因を作ったのが俺だから謝りに来た」

「謝る割には態度がデカいじゃないか?」

「俺は魔物だから、礼儀を知らないんだ。

 ただ、ベアトリスが俺の家に泊まったことで、あんたがベアトリスの事を心配していたのはわかる。

 だから、謝りに来た。

 すまなかった」

 俺は深々と頭を下げた。

「魔物にしては潔いじゃないか」

 苦笑いのオッサン。

「謝るぐらいはできる」

 俺はオッサンの目を見る。

「魔物には見えないな」

「間違いなく魔物なんだがな」

「魔物に育てられたのか?

 だったら、お前の礼儀知らずもうなずける。

 謝る者の態度ではないが、謝ったのはわかった。

 ただ簡単に許すことはできん。

 ベアトリスは我が娘、儂が認めた者としか付き合えんのだ」


 魔物はどうでもいいらしい。

 流された。


「付き合うとしたら、どうしたらいい?」

「我がクルーム家は王国の剣となって戦ってきた。

 それ故に武を重んじる。

 私と戦うのだ。

 この剣でな」

 俺の目の前にサーベルが投げられた。


 人の剣を使うのは初めてだが、まあ、何とかなるかな? 


「わかったよ、どこで?」

「あそこだ」

 青々とした芝生の中一帯だけ赤茶けた土になっている場所をオヤジさんは指差す。バスケットコートぐらいだろうか? 

 そこへ行き、オヤジさんと正対した。

「一つ聞いていい? 何でもあり?」

「ああ、何でもありだ」

「お父様おやめください!勝てません」

 ベアトリスが縋りつく。 

「私は、お前が付き合う男の壁にならねばならぬのだ。

 それが父としての務め、そこで待っておれ!」

 その言葉を聞いたベアトリスの口角が上がるのが見えた。

 あっ、あいつ悪い。

 オヤジさんが俺の壁になれないのを知っている。

 そしてベアトリスは、護衛に引きずられ(るふりをし)て人垣の一番前に連れて行かれた。

「誰ぞ、開始の合図を!」

 オヤジさんが言うと護衛の隊長だろうか、一歩前に出て

「それでは(わたくし)めが。

 いきまずぞ!

 はじめ!」

 開始の号令をかけた。オヤジさんは動かない。

「メイピ」

 オヤジさんの下に深さ二メートル程度の穴を掘ると、見事に落ちた。

 一応、怪我をしてはいけないので、地の精霊に頼み底はフカフカだ。

「ずるいぞ!正々堂々と戦え!」

 穴の中からオヤジさんの声。

「だって、何でもありって言ったし!」

 俺が言うと、

「では、魔法無しなら何でもいい!」

 条件が変わった。


 意外と駄々っ子なのはベアトリスと一緒か。


「魔法無しでいいのか?

 あったほうがいいと思うけど」

「魔法無しだ!

 魔法が無ければ何でもいい」


 あっベアトリスが笑ってる。

 あいつ結構悪いんだな。


「じゃあ、魔法無しで……。

 文句言わないでよ?」

 俺は、スプーンへの魔力供給を絶った。

 すると元の身長に戻る。


 サーベルが巨大化した。

 ああやっぱり、持ってるものや身に着けているものは適正な比率で大きくなったり小さくなったりするんだな。

 唖然とするオヤジさん。

「これでやってもいいですか?」

 俺が言うと、

「無理だ、勝てぬ。人が巨人になど、一対一で勝てるはずがない」

 全面降伏。


 ありゃ匙投げちゃったよ。


 俺をじっと見上げるオヤジさん。

「いや、えっまさか。

 お前、ベアトリスを救ったという巨人なのか?

 そう言えば知性を持っておると言っておった」

「ああ、それ俺だね。

 だから、魔物だと言ったのに」

 と言ってスプーンに魔力を通し小さくなる俺。

「いや、その格好なら魔物に育てられた野生児かと……」

 この世界ならありそうなシチュエーション。

 …………。

 何かを考えるオヤジさん。

 何かに気付くと、

「お前、岩塩鉱脈を見つけなかったか?」

 と聞いてきた。

「ああ、ドリスから手紙がここに着いたんだな。そう、見つけた。素人目だから専門知識を持つ人に見てもらいたいと思って、ドリスに頼んだんだ」

「ドリス、ああ、手紙の主はドリス・ベックマンだったな。巨人が見つけたと書いておった」

「そう、俺は彼女の従魔だからね」

「じゃが、立場は逆のようじゃな。

 お前にドリス・ベックマンが従っているように感じる」


 よくお分かりで。


「ベアトリス、ちょっと来い」

 口を押え笑いながら登場するベアトリス。

「お前こうなることを予想していたな?」

「ここまで嵌るとは思いませんでしたが、おおよそは」

 オヤジさんは俺のほうを見て聞いてくる。

「お前、ベアトリスを妻にするつもりか?」

 ベアトリスは不安げにじっと俺を見上げる。

「そうだな、できればベアトリスを妻にしたいと思っている」

 するとベアトリスはぱっと明るい笑顔になった。

「ふむ、それには、実績を残してもらわねばならん。

 何の実績も無い男に我が娘をやることはできん。

 周りを納得させる必要もあるのでな」

「俺は魔物だが?」

「我が家に貢献してもらえるのならその辺は気にしていない。

 それに、お前には知識がある。

 並みの魔物が岩塩鉱脈など知らんだろう?」

 オヤジさんは言った。

「それでは婚約……」

 ベアトリスは言おうとしたが、オヤジさん食い気味に否定する。

「婚約はまだ無理だ。

 岩塩鉱脈が実際に商業的に成り立つと判断されるまでは婚約は無い。

 まあ、どうせ儂がダメだと言うても、こいつのところに行くのだろ?」

「はい、ノワルさんも居ますから、すぐに行けます」

 それに呼応するようにノワルが翼をはばたかせた。

「一つ提案があるのだがな」

 オヤジさんが言ってきた。

「なんでしょう?」

 俺はオヤジさんを見る。

「お互い『お前』ではなく、呼び捨てでもいいから名で呼ばんか?」

「んー、それもそうですね、では、俺はステファン様と呼びます。

 あなたの立場もあるでしょう。

 こんな小童に舐められているという噂が流れてもいかんでしょうし……」

「儂は、呼び捨てでいいかな?」

「ああ、いいですよ」

「で、名は何という?」

 そういや言ってなかったね。

「アリヨシです」

「では、アリヨシと呼ばせてもらおう」



「アリヨシ、この後どうする?」

 ステファン様が俺に話しかけてきた。

「家へ帰りますよ」

「岩塩鉱脈の件はベアトリスに任せようと思う」

 オヤジさんはベアトリスのほうを見て言った。

「わかりました、お父様。私がアリヨシ様と相談して岩塩鉱脈を成り立たせてみせます」

「ふう」とため息一つつくと、

「ベアトリスと仲良くやってくれ」

 オヤジさんは俺に言った。

「気遣いありがとう。それじゃ帰ります」

 俺はノワルの背に乗り、ベアトリスに手を振る。

 そして、ノワルとともに家へと向かった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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