農地見学をしました。
散歩では女性の美味しい物への執着を改めて思い知らされた。
あまり期待されても困るんだけどなぁ。
次の日、ノワルにドリスとベアトリス様の回収を依頼し、グレアとウルを連れ農地に向かう。一応グレアは人化しているので俺の肩に居るのはグレアとウルの二人だ。
心なしかニコニコしている二人。
作物ができるにしても半年後だぞ?
現場に到着すると、前開墾したままの農地が広がっていた。
グレアのマーキングのお陰と思われる。魔物の気配もレーダーにはなかった。
暫くすると黒い影が飛び込んでくる。
衝撃波で農地がえぐれた。
「お待たせなのじゃ!二人が急げと言って聞かんので、最高速で来たぞ!」
二人は魂が抜けてるというか気絶している。よく気絶したままここまで来たもんだ。
「おいドリスとベアトリス様が気絶してるぞ! ノワル、気付かなかったのか? ウル、起こしてくれ!」
ウルは俺の肩から手のひら、そしてノワルの背へと移動し、二人を起こす。
ウルからパスが来る。
「ベアトリス様が失禁しています」
よくみると、乗馬用のズボンらしき服の股のところの色が変わっていた。
「ドリスは?」
「問題ないですね」
ドリスはノワルに乗るのが二回目だから、ちょっと慣れてたのかな?
回復が早い。ドリスはすんなりと立ち上がった。
「ベアトリス様をどうしましょう?」
ドリス……俺に聞くか?
「『どうしましょう』って言っても着替えさせるしかないだろう? 温泉で体洗ってもらってからだが……」
ベアトリス様は腰が抜けており立つのも儘ならない。
「ウルと俺はベアトリス様を連れて一度家へ帰る。着替えさせないとな。ドリスは農地を見てて。グレアとノワルはドリスの護衛。了解?」
ノワルが
「我はやり過ぎたのかの?」
と聞いてきた。
「そうだな、やり過ぎたのかもしれないな。でもドリスもベアトリス様も急げって言ったんだろ? 今度乗せるときは、後ろの事も考えよう。自分の一番が他人にとってどの程度か考えないとな。後でドリスとベアトリス様に謝っておけば大丈夫」
「そうか、わかった、あとで謝っておくのじゃ」
ノワルはドリスの方へ向かった。
ドリスのことだ、許してくれるだろう。
ベアトリス様とウルを手に乗せ家へ向かう。
時間的には二十分程度。
んーちょっとちべたい。服が濡れているせいもあるのだろう。
「殿方にこのようなところを見られるとは……恥ずかしくて……」
小さな声でボソボソ言ってるな。
「もう、お嫁に貰っていただくしか……」
んーなんか聞き捨てならない発言が……。聞かないふりで……。
そして家に着いた。ウルのために作った風呂を使ってもらう。
「じゃあウルあとは任せる。お前の服の予備を出してあげてくれ」
「了解です」
ウルがベアトリス様を温泉に連れていく。
「アリヨシ様は?」
ベアトリス様が心配そうに聞く。
「俺は、離れておくよ。うちは更衣室がない。風呂の間は裸になるんだ。お嬢様の裸を見る訳にはいかないでしょう?」
「それはまあ、そうですが」
「ちょっと離れて待っています」
そう言って、温泉が見えないところまで離れた。
暫くすると、二人とも温泉から出たようだ。
「洗濯物しておくから出して」
ベアトリス様とウルの洗濯物をもらい水で洗う。
縮尺的にお人形さんの服と下着をを洗う熊……シュールだ……。
ふと考える。
「ウル、水の精霊に頼んで、洗い場を撹拌してくれないか?」
ウルが呪文を唱えると洗い場の水が渦巻き始めた。
おぉ洗濯機っぽい。
「ありがと、ウル」
「いえいえ、どういたしまして」
ほどほど洗って、軽く絞る。
「ウル、火の精霊と風の精霊に頼んで、温風出して」
温風により乾燥を早めた。
「大精霊使いだな」
ポリポリと頭をかくうウル。
照れているらしい
まあ、家事魔法として精霊魔法を使うのもどうかと思うが。「それもまたよし」だろう。
洗濯をしている俺をじっと見るベアトリス様。
「どうかしましたか?」
「殿方は洗濯などしないのではないですか?」
「俺の常識ではするの。飯も作るぞ? だから、昨日のメニューが出てきたわけです」
「私の知っている殿方は家事などしません」
「そりゃ、伯爵様ならお抱えの料理人やメイドが居るでしょう? そのくらい権力を持っている人はお金を落とさなきゃいけない。自分で何でもやるほど時間も無いだろうしね。その点、私は暇だから、なんかやってる方が気が紛れるんですよ」
ポンポンと服を叩く。
「ホイ、服が乾きました。奥に行って着替えてきてください」
風呂、洗濯、乾燥、時間にして二時間程度。意外と早く終わった。
ベアトリス様とウルを連れ農地に戻ると、
ノワルがやってきた。
「お帰りなのじゃ」
「おう、戻ったぞ」
ノワルはベアトリスの方へ行くと、
「ベアトリスよ飛ばし過ぎて、すまなかったのじゃ」
ノワルはペコリと頭を下げた。
「いいえ、私も早く行きたいと駄々をこねました。その所為でノワルさんが速度を上げたのは知ってます。だから、ごめんなさい」
ベアトリス様もぺこりと頭を下げる。
「これでお相子って事でいいですか?」
「『お相子』ってなんじゃ?」
「どっちも悪いって事だよ。だから、お互いに謝っておしまいだ。この事はここまで」
「わかったのじゃ」
「はい、もう終わりです」
ノワルとベアトリス様はにっこりと笑った。
ウルはノワルの衝撃波で抉れた農地を精霊に頼んで元に戻す。
「ウルさんは凄いですね、この大きさの農地を一度に耕すなんて」
ベアトリス様が感心している。
精霊魔法って農業に使えそうだよね……。魔力次第だけど。
そこにドリスが農地を確認し終わったのかやってきた
「アリヨシ様、農地の確認が終わりました。凄いですねこの農地、綺麗に分けられている。水も使いやすいように水路が通してある」
「お疲れさんドリス。どう? 小麦や飼料用の大根が作れそう?」
「そうですね、問題は無いと思います。しかし、小麦を育てる時期ではないので、大豆を育ててはどうでしょうか?」
「おっ、大豆があるのか?」
「大豆がどうかしましたか?」
「いいや、こっちの事だ。では大豆を作る。六面あるんで二面を家畜用、二面を大豆、二面を飼料大根にしようか」
「そんなに飼料大根を作ってどうするのですか?」
わけが分からないのだろう。ドリスが首をひねる。
「家畜のえさにもなるし、もしかしたら砂糖もできる」
「砂糖? そんな高価なものが?」
「出来るかどうかは分からないけどね。餌だと思って作ってみればいいと思うよ」
砂糖ができるといいな。
「アリヨシ様、凄いですね。見事な畑です」
「ベアトリス様。適当ですよ、朝始めて昼にはできていましたから」
「えっ、この広さを?」
目を大きくして俺を見る。
「そう、この広さ。ここは木を抜いて平地を作ってから作った農地だから、時間がかかったほうじゃないでしょうか?」
「あの壁も?」
「はい、あの壁もです。ちょっとやりすぎましたね」
「畑を作り城壁を作るのは、領主としてやらなければならない事です。もし我が伯爵領で開墾の依頼や城壁の作成依頼を出したらやってもらえますか? 報酬は払います」
「あまり表に出たくないですね」
「その辺は考慮します」
「それでも、依頼されてから考えます。はっきり返事はできませんね?」
「わかりました。それでもお父様に進言して依頼します」
「好きにしてください」
頑固だねぇ。
「ところで、牛と土地の件はベアトリス様にお任せすることになりますがいいですか?」
「はい、問題ないですね」
「牛代は今回のワイバーンの報酬から引いてもらえますか?」
「いいえ、牛の件は私が責任を持ちます。牛の乳というものに興味がありますから、今回は私が投資します」
食べ物への執念? タダでもらえるならいいか。
「それでは、ベアトリス様に甘えさせてもらいます」
「ところで、どのような牛がいいのでしょう?」
「乳が出るという事は出産後の牛と言う事になります。この世界の牛の種類がどういうものなのか知りませんが統一しておいたほうがいいでしょう。まずは親牛と子牛を一緒に買うのも良いかもしれませんね、両方が雌だと効率がいいかもしれません」
ん? ベアトリス様の視線が痛い……。
「この世界……とは?」
あっ、やらかしたかな?
ベアトリス様は俺の失言を見逃さなかったようだ。
まあ、言っといたほうがいいか。
「まだ誰にも話はしていませんが、私は別の世界から来ています。正確には魂だけこちらに来てこの巨人の体に入っているという状況です」
「だから、色々知っている訳ですね」
「そう、死ぬ前の世界の知識です。いつかは皆に話さなければいけないと思っていますが、今はその時じゃないとも思っています。だから、内緒でお願いします」
「二人だけの秘密ですね」
嬉しそうにするベアトリス様。
「そんなに大層な物じゃないと思うのですが……」
「いいえ、私には大層なものです」
まあ、いいけど。
「では、雄牛が二頭とメス牛が十頭、子牛が十頭、子牛は雌で探してみます」
「よろしくお願いします」
ベアトリス様とドリスの農地見学が終わり話をする。
「牛を飼うにしろ鳥を飼うにしろ柵が要るな。後、牧草地のような場所も要るか。まあ土地は余っているから放牧地的な物もあるといいかな?」
「それでは私は大豆と飼料大根の種の手配をしますね。手配出来たら連絡します」
ドリスが言った
「私は何とか牛を探します。あとこの辺の土地の事はお父様に相談します。この場所はたいして重要な場所ではありませんから大丈夫でしょう」
ベアトリス様も言う。
「では、ドリス、ベアトリス様、よろしくお願いします」
農地見学は終わった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




