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開墾した場所は実験農場になりそうです。

 五人を肩に乗せ散歩に出かける。

 熊スーツの毛が上手いこと掴まる場所になり、安定感も良いようだ。

「ドリスの村は小さいな」

 俺はパスで言う。

「はい、小さいですね。ただ、私はこの雰囲気が好きです。発展させなければならないことはわかりますが、つつましくとも楽しく暮らすここの村人が好きなのです」

「何かあったらいいモノとかは無いか?」

「水源が少ないので、水で苦労しているようです。

 この先に池があるのですが……あっあれですね」

 けっこう遠くに池が見える。

「歩いていくには遠い。でもそこにしか水は有りませんから汲みに行くしかないのです。

 井戸は有りますが畑に使うほどの水量は有りません。

 用水路を作って村の近くに溜池を作れば村の者も少しは楽ができるのでしょうけど……」

「大変だな。それじゃ溜池を作るか?」

 ドリスはきょとんとしている。


 俺は穴掘り魔法のメイピで大きな穴を掘る。

 塹壕魔法のディトで池までを繋ぐ。

 後は石化魔法のメイスを使い水路と溜池を石化する。

 すでに何回かやっているので手慣れたものだ。


「はい出来上がり、水が溜まるには少し時間がかかるかもしれない。

 あと、あの池とこの溜池だと溜池のほうが低い位置にあるから溢れる可能性がある。

 そういう時は、この堰板を上流の溜池に入れればいい」

「あっ、はい、わかりました。ありがとうございます」

 ドリスが答えた。


「アリヨシ様は農業にも精通しているのですか?」

 ベアトリス様が聞いてきた。

「いいや?

 でも水があったほうが農作業が楽だろ?

 ため池程度なら簡単だから作っただけだ」

「強く、計算もでき、農業の知識もある。

 人に優しく、身内にも優しい。

 ドリス殿がアリヨシ様を気にするのはわかります」

「褒めても何も出んぞ? それに農業は素人に毛が生えた程度だ」

「巨人なのがもったいない」

「所詮巨人だよ」

 俺は苦笑い。

「我が家へ仕える気は無いですか?」

「無いね、俺はドリスの従魔だ」

「ドリス殿は伯爵家に仕える騎士ですが?」

「だから?

 俺はあなたの家に仕える必要がある?」

「無いですね」

 ベアトリス様がそう言った後、

「あなたの機嫌を損ねることが私の損失になります」

 ベアトリス様がボソリという声が聞こえる。

 色々計算しているようだ。


「ドリス、散歩しながらで悪いんだが、俺開墾したんだ。

 大きめの畑が六面あるんだがどうしたらいい?」

「見てみないとわかりませんね、ただ巨人が農業というのもおかしな話です……」

 あっ、ドリスに笑われた。

「今度、見に来てくれ」

「わかりました。迎えに来てもらえれば、いつでも行きますよ」

「ご主人様、私は野菜や穀物が無くてもいいのですが」

(われ)もあまり野菜は食べぬ」

 肉食二人組は野菜……そもそも肉以外は嫌いなようだ。

「そうなのか……。

 小麦粉や野菜が有ればいろいろな料理が思い浮かぶんだが……」

 肉に火を入れるという行為さえ知らなかったグレアとノワルだ。

「その料理はおいしいのか?」

「そうだなぁ、ピザとかも美味いし、クッキーとかも美味い。

 んー砂糖が有ればなぁ、牛乳も欲しいな。

 あと卵も欲しい。

 プリンなんてできたら……」

 懐かしい言葉に涎が出てきた。

 それを見たグレアとノワルが涎を垂らす。


 おっと、ウルも追従。


「ご主人様があんなになるなら、私が食べたらどうなるんでしょう?」

「アリヨシの顔が凄いのう。

 緩みきっておる」

「アリヨシ様があんな顔をするなんて、相当美味しいんですよ」

 まあ、ピザもクッキーもプリンも美味いのは間違いない。


「アリヨシ様、牛乳とは?」

 ベアトリス様が食いついてくる。

「ああ、牛の乳だ。体にいいんだぞ?

 色々な料理の味をまろやかにする」

「牛の乳? 労働力としてしか使っておりませんが、乳も飲めるのですか?」

「そうです、ベアトリス様。

 乳を作る専用の牛を作れば、美味しいですよ?

 まあ、好き嫌いは有るだろうけどね」

「牛の乳が美味しい。

 知りませんでした」


「卵は魔獣から得ることができますが、卵を温める魔獣はすばしっこく手に入ることは稀です」

 ドリスが俺に言った。

「飼えばいいんだよ。

 卵を産む条件を探し、条件に合った場所を作る。

 できれば飛べない鳥のようなものが居るといいかな?

 柵で事足りるから……。

 飼料を食べさせ栄養をつけ卵を産んでもらう。

 オスとメスを一緒にしておけば雛も生まれるからな。

 雛の中でオスは肉として出荷してもいいかな?

 これも結構うまい」

「アリヨシ様、その開墾した場所で牛や鳥を飼ってみてはどうですか?」

 ドリスが言ってきた。

「えっやるの?」

 俺が言うと、

「私が牛の調達をします。

 どの程度の数が必要でしょうか?」

 ベアトリス様が手を上げる。やる気満々? 

「雄二頭、雌二十頭ぐらい居ればいいんじゃないかな?

 様子を見て増やせばいいし、子が産まれれば勝手に増えると思う。

 経験がないから適当で申し訳ない」

「わかりました。先ほどの料理は美味しいのですよね!」


 あっ、そこなんだ……。


「美味いと思うぞ?」

「鳥系の魔物は、アリヨシと我らに任せるが良い。

 めぼしいのは居る」

 ノワルが手を上げる。

 えっ俺、そのメンバーに入るの? 

「アリヨシ、その料理は美味いんじゃな?」

 ノワルもそこが気になるのか? 

「美味い……はずだ……」

 次は

「小麦の種は私が準備します」

 ドリスも手を上げる。

「アリヨシ様、その料理美味しいのですよね?」

 やっぱりそこなんだ……。

「多分……」

 どんどん自信が無くなる俺。


「あと砂糖が有ればいいんだけどな」

「アリヨシ様、砂糖はなかなか手に入りません。南方から持ち込まれるために金額が張ってしまうのです」

 ベアトリス様が説明する。

「ああ、それはサトウキビで砂糖を作るからだね。こっちに飼料用の野菜で大根のように根が太くなるものは無いか?」

「あっ、有ります」

 心当たりがあるのか、ドリスが声を上げた。

「どうせ牛や鳥用に飼料が必要となる。

 植えてみよう。

 その野菜が俺が思っているものと一緒なら、砂糖ができるかもしれないね」

「ベアトリス様、俺たちが開墾した場所を買いたいのですが、伯爵様権限で何とかできないですかね?」

「わかりませんが、一度見てみたいですね。

 私は明日も居ますから連れて行ってもらえますか?」

「わかりました、明日の朝に迎えに来ます。

 ドリスも一緒に行くか?

 お前にも見ておいて欲しい」

「行きます。明日の朝ですね……」

 明日の朝は二人を迎えに来ないとな。ノワルかグレアに頼もう。


 結局散歩は俺の開墾した場所の活用方法の話になった。

 皆、美味しいものに目がない事も分かった。

 忙しくなることを期待しよう。

 ちなみに、村に帰ってもマーカーは、まだ計算していた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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