ワイバーンの査定に来ました。
開墾が終わり何日か経った夜に
「アリヨシ様、今いいですか?」
ドリスからパスが繋がった。
「どうした?」
「冒険者ギルドから先触れがありました。
明日の朝、村にワイバーンの素材を買い取りに来るそうです」
「了解、明日の朝ドリスの村へ行くよ」
「はい、お待ちしています」
嬉しそうな声だ。
そして次の日、暗いうちから支度をすると人化したゴスロリのグレアとノワル、そしてエスキモーなエルフのウルの三人を俺の肩に乗せドリスの村へ行った。
「おはようさん。こんな朝早くから待っていたのか?」
俺たちが村へ着いたのが日が出てしばらく経った程度だったので、いつから待っていたのか心配だったのだ。
「私の館の窓からアリヨシさんが来るのがわかるので大丈夫です。
見えたらすぐ迎えに出ているので、いつも居るように思われているのかもしれませんね」
「無理をしていないなら良かった」
俺はとりあえず村の外で片ひざをつき待機の姿勢になる。
「グレア、ノワル、ウルはパスを繋いで買取の立会をしてくれ。」
三人がコクリと頷く。そして、ドリスと一緒に村の中へ入っていった。
暫くすると、村の反対側の門の方に高級そうな馬車と護衛の騎士、その後ろに荷馬車が現れた。
何か見たことある馬車だよな……。
ドリスがその馬車を出迎え館の方へ向かった。
そしてパスを通してあるので会話が聞こえてくる。
「私はギルドの買取担当マーカーと言います。
今回はこの買取の担当をさせていただきます。こちらがクルーム伯爵の長女、ベアトリス様です。」
なぜに伯爵家の長女がここに……。
「私はこの村を預かる騎士、ドリス・ベックマンです。
なぜ、この場に伯爵のお嬢様が?」
「いいねぇドリス。俺も知りたかった」
とパスで言うと、
「聞いておられるのですか?」
ドリスから声が入る。
「パスを繋いだからね」
と返しておいた。
「この度、クルーム伯爵家で催し物があり、その際に提供する料理で悩んでいたそうです。たまたまギルドにクルーム伯爵本人が相談に来た時、このティング村でワイバーンを狩ったという報告がありました。
そこでワイバーンの肉を買い取りたいと申し出があり、クルーム伯爵本人の代わりにベアトリス様がこの場に来た訳です」
マーカーが言った。
「そうですか、ただ、肉は村に足一本、
残りは巨人とその巫女たち、というふうに分けました。
村の分についてはすでに食べてしまっております。
肉については巫女に相談してください。
「ちなみに相場は?」
パスでドリスに聞く。
「そうですね、拳大の塊で銀貨十枚ぐらいですね」
銀貨って貨幣価値が分からない……。
「先に肉以外の物を見ますね」
マーカーはワイバーンの素材を見始めた。
俺の巫女設定の三人の中にグレアとノワルを見つけると、
「あなたたちは先日の……」
ベアトリス様が話しかけてきた。
「先日?」
「先日、何があったのかの?」
「先日何があったの?」
ウルが知らないのはわかるが……グレアとノワルは本気で忘れているようだ……。
首を傾げて考えている。
「この前、賊に襲われた馬車を助けただろ?」
俺はパスでグレアとノワルに声をかける。
「賊に襲われた馬車?」
グレアはまだ思い出さない。
「小さくなれる魔道具を依頼しなかったか?」
「おうおう、そう言えば、そういう事もあったのう」
ノワルは思い出した。
「そう言えば、そんなことありましたね」
グレアも思い出した。
「アリヨシ様は?」
ベアトリス様が俺の場所を聞く。
「アリヨシはドリスの従魔じゃからの、門の外で待っておるぞ?」
ノワルが答えた。
「えっ、ドリス殿がアリヨシ様を倒したので?
そんなことが可能なのですか?」
「あっ、まあ、色々事情があるのです」
ドリスが口ごもる。
「事情……ですか?」
「別に言っていいんじゃない?
俺がドリスと戦うのが嫌だから従魔になってるって」
パスでドリスに声をかけたが、それより先に、
「ご主人様はドリス様と戦うのを嫌がり、ドリス様の従魔になったのです。
ただ、従魔と言っても縛りなどは有りません。
家に居てパスで呼ばれたドリスさんの村に来る程度ですね」
とグレアが説明した。
「グレア、パスの話は向こうは知らないぞ?」
「あっ」という顔をするグレア。
「アリヨシ様は優しいのですね。ところでグレアさん、パスと言うのは?」
俺はパスを使いグレアのフォローを始める。
「アリヨシ様は気に入った人と心を繋ぐことができます。
それをパスと言います。
パスが繋がると遠くに居ても話ができるのです」
俺が教えたとおりにグレアが説明する。
「どうすれば、アリヨシ様はパスというものを繋いでくれるのですか?」
「ご主人様が気に入ったらと言う条件ですので……」
グレアが口ごもる。
「どうすれば気に入るのでしょう?」
「それはご主人様に聞いてみないと……」
グレアが押され気味だね。ちょっと可愛そうだ。
「そんなに俺とパスを繋ぎたいか?」
「えっ、あっ、声が聞こえる」
ベアトリス様がきょろきょろと周りを見回す
「パスを繋いだんだ。
気に入ったらって
言っておいたのに、あんなに押して来たらグレアが困るだろ?」
「すっすみません」
ベアトリスが謝った。
「パスと言うのはこういうものだ。
わかったか?」
「今繋がっているパスはずっと使えるのですか?」
「パスは一度繋いだらずっと使えると思うぞ?
使えるようにしておきたいんだろ?」
「ええ、まあ、知性のある巨人など聞いたことがありませんから」
ベアトリスが言う。
「戦争なんかは手伝わんぞ? 相談ぐらいはするが」
「では相談相手としてお願いします」
とベアトリスが言うので、
「それぐらいなら問題ない」
と言っておいた。
「それで、ワイバーンの肉はどのくらい要るんだ?」
「今回は足を売ってもらえれば量的に問題ありません。
金貨三十枚でどうでしょうか?」
「相場が分からないんだよな」
この世界に着て初の金勘定である。
「大体一塊で銀貨十枚ですね」
何かと知っているドリスが居ると助かる。
単純計算で、一塊が五百グラム。あの足が百キロだとすると。銀貨二千枚か……。
「ドリス、銀貨二千枚って金貨で言うとどのくらい?」
「金貨二十枚ですね」
貨幣価値では金貨一枚が銀貨百枚って考えればいいのか……。
「ベアトリス様、ちと買い取り額が高すぎませんか?」
俺が言う。
「いいえ、三十枚でも安いですね。
残った素材を見ると、丁寧に捌かれ綺麗に血抜きもされている。
魔力が高いワイバーンだったのでしょう。
腐敗も無く鮮度も申し分ない。
私もこれほどの物は見たことがありません」
そんだけわかるって事は、このお嬢さん相当ワイバーンを見てるな。
「俺たちは金貨二十枚で考えていたから、間を取って金貨二十五枚でどう?」
「高く売ろうとする者は多く見てきましたが、安く売ろうとする者は初めて見ます」
「んー、そんなにお金が欲しい訳じゃないしなぁ。
パスじゃないけどベアトリス様とつながりを持っていたほうが後々得だろうしね。
金貨五枚でベアトリス様の信用を買えるなら安いもんだろ?」
俺がそう言うと、ベアトリス様は首をかしげる。
そして、
「あなたは本当に魔物なのですか?
肉の値段も暗算ですぐに出しましたね?
魔物が計算をするなど聞いたことがありません!」
と聞いてくる。
「さあ、どうなんでしょうね?
まあ、話す機会があれば話しますよ。
代金はギルドへ振り込んでおいてください。
それでは、パスを切ります。
話したければ念じると繋がります。」
俺はパスを切った。
「こうすればいいんですね」
ベアトリス様がパスを繋ぐ。
「そういう事です」
「じゃあ、切りますね」
今度はベアトリス様がパスを切った。
素材の鑑定をしているマーカー。
「これほど丁寧に解体されたワイバーンを見たことが無い。
痛んでいる場所は、羽の根元の部分と首だけですね。
皮は革鎧だけでなく鎧の下地に、マントにも使える。
あーこれだけあればギルドの収入が……」
目がドルマーク……?
いや、貨幣単位って何だろ?
まあ、いっか。
「ノワル、悪いんだが家に帰って傷めないようにワイバーンの足を持ってきてくれないか?
奥に足だけで置いてあったと思う」
話が長そうなのでパスでノワルに頼む。
「わかったのじゃ」
ノワルは門の外まで出ると、ブラックドラゴンになり家へ戻った。
「ご主人様、長いですね」
「長いです」
グレアとウルが退屈そうだ。
マーカーはそろばんのような物を出し計算をしている。
査定に時間がかかっているのだ。
「ああ、長いな」
「アリヨシ様、ここまで綺麗な素材は無いのです。牙や爪も武器として使えますから」
ドリスが説明してくれた。
でもやっぱり暇だ。
「何を話しているのです?」
あっ、ベアトリス様がパスを繋いで入ってきた。
「査定が長いって話していたんだよ」
「確かに長いですね」
ベアトリス様も飽きているようだった。
「ノワルがもうすぐ帰ってくるぞ?
帰ってきたら散歩でも行くか?」
「ご主人様、散歩、いいですね」
「私も行きたいです」
グレアとウルは賛成らしい。
「私も行きたいですね」
「私もです」
ああ、ドリスにベアトリス様もですか……。
ん?
結局全員?
まあいっか。
「ただいまなのじゃ、足を持ってきたぞ?」
「おう、ありがとさん」
結局、肉が届いても査定は続いていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




