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エルフを拾ってしまいました。

 春も近づき雪が融け始めた頃。

 やることがなくボーッとしていた。

 グレアもノワルもフェンリルとブラックドラゴンの姿で入浴中だ。

 風呂の方から

「いい湯じゃのう」

「生き返ります」

 と、年寄りくさい会話が聞こえてくる。

 本格的に温泉に嵌ってるな。


 すると突然パスが繋がり、

「きゃぁーーー!」

 という悲鳴が頭に響いてきた。

「誰?」

「助けてーー!」

 という叫び声。

 ただ、グレアにもノワルにもその声は届いていないようだった。

「大丈夫か?」

 パスを通じて話をしようとするが、俺の声が聞こえてないようだった。


 一方通行? 


 レーダーで確認すると魔物に追われる人のような動きが見えた。

 俺は起き上がり熊スーツを着る。

 ナイフを持つと、その反応の方向に走った。

 んー、初めてファンタジーの定番エルフを見たね。

 それも女性。

 そこには腰まで伸びた金髪のエルフ。細いなぁ、触ると壊れてしまいそうだ。

 そしてそのエルフを襲おうとするオークが五頭居た。

 オークってでかいのね。

 でも二メートル五十センチ位かな。

 エルフの服は破られ真っ白な裸体が晒されている。

 オークは……見たくないけどヤル気満々だった。

 俺の姿を見ると、エルフもオークたちも俺を見上げ固まる。


「オーク見つけたけど、要る?」

 グレアとノワルにパスで話す。

 グレアもノワルもオークを食べるのを知っていたので聞いてみた。

「要ります」

「要るのじゃ」

 二人の声が届く。

「お土産、お楽しみに」

 俺と目線があったオークが逃げようとしたが、首を掴むと、そのまま折った。

 残りのオークも素早く捕まえ首を折った。

 グレアとノワルにお土産完成。


 目の前でオークが一方的に殺されるのを見て、恐れおののくエルフ。

 怖がらせるつもりは無いんだけどなあ。

「大丈夫か?」

 俺が声をかけても首を振るだけでなにも変わらない。


「グレア、ノワル、人化してこっちに来てくれないか?

 温泉の水路沿いに来れば居るから。

 あっそうそう、この前村人が持ってきた鹿皮の毛布持ってきてくれ」

 パスで二人に声をかけた。

「了解です」

「わかったのじゃ!」

 返事が聞こえたので待つことにした。

 エルフは腰が抜けて動けないようだ。

 春が近づいたとはいえ、寒かろうに。

 俺が手を伸ばすとあからさまに逃げる。

 端から見れば、全裸の人形を拾う熊になってる気がする。

 獸姦? 

 いやいや違うよね。

「アリヨシ様、お待たせしました」

(われ)も到着じゃ」

「悪いんだけど、毛布を渡して名前を聞いてくれない?

 ついでに誤解も解いてくれると助かる」

 グレアとノワルはエルフに鹿皮の毛布でエルフの体をくるむと話を始めた。


 とりあえず、「悪い巨人じゃない」と説明しているようだ。

「名前は『ウル』らしいです」

 グレアが聞いてくれたようだ。

「『ウル』ね了解」

 名前を聞いたことで俺からエルフへのパスを繋ぐ。

「あっあー、聞こえる?」

「誰?」

 どこから聞こえているのか分からないのだろう、エルフはキョロキョロする。

「俺は君の目の前に居る巨人。

 パスを繋いで話せるようにしたんだ」

「パス?」

「頭に直接話しかけるための線みたいなもの。

 見えないけどね。

 それで、どうしてこんなところに?」

「わからない。

 気づいたらここだった」

 首を振るウル。

「誰かと住んでいた?」

「わからない」

 再び首を振るウル。

「記憶喪失かね。色々事情があるんだろう」

 俺が言うと、

「記憶喪失とは何じゃ?」

 とノワルが聞いてきた。

「ノワル、精神に大きな傷を持ったときに、記憶を忘れてしまうことがあるんだ。それが記憶喪失」

「アリヨシは色々知っておるのじゃな」

「まあ、色々あってね」

「いつか教えてくれるのかの?」

「ああ、いいぞ?

 ただ、このエルフをこのまま放っておいても仕方ない。

 家に連れていこう。そういえば、『巫女様に』ってもらった服があったな。

 あれでも着せておくか。素っ裸のままでもいかんだろう」

 グレアとノワルに作ってくれた防寒着のような服である。

 寒いのに上着を着ないので、気にしていたということだ。

 二人にとってこの程度の寒さは問題ないのだが、村人の気遣いとして受け取っておいたものがあるのだ。

「とりあえず、手に乗せろ」

 俺は右の手のひらをトレイ状にして地面に置いた。

 その上にグレアとノワル、そしてグレアに付き添われたエルフが乗る。 乗ったのを確認すると、五匹のオークを掴み慎重に家まで帰った。


「風呂に入るか?」

 毛布をかぶったエルフに聞いてみたが、

「風呂?」

 どうも風呂を知らないらしい。

 穴を掘る魔法、メイピで、人が入れる程度の穴を作る。二メートル×二メートル×五十センチ程度の穴である。メイスで石化。そこに湯を入れ、人サイズ用の風呂を作った。

「グレア、ノワル、風呂に入れてやってくれ」

「わかりました」

「今日二回目じゃのう。じゃが風呂はいい」

 二人はエルフを連れ、即席の風呂に入る。

 体が冷えきっていたのか、かけ湯をすると痛がっていた。しかし、湯に馴染むと「ふぅ」とため息をついて、暖まっていた。

「下着あったっけ?」

「ああ、ドリスさんが粗相したときに貰ったものがあります」

 グレアが言う。

 そんなこともあったな。

「グレア、後でいいから出して着せてやってくれ」

「わかりました」

 すっかり体が暖まり全身を洗ってスッキリしたエルフは、グレアが出した下着をつけエスキモーのような防寒着を着ると、うつらうつらしだした。

そしてすうすうと寝始める。

「あんな目に遭って疲れたかな」

「私の上で寝かせましょう」

 グレアはフェンリルに戻ると丸くなり、エルフの襟を咥え自分の腹の上に置く。

 エルフは寝返りをうったが目を覚ますことはなくそのまま寝続けるのだった。


 エルフと人が戦いエルフ側が劣勢だったのはインストールされた知識で知っているのだが、その後は知らない。というか、その戦争からどのくらい経ったのかもわからないのだ。

 で、今のエルフの立ち位置ってどういう感じなんだろう……。

「グレア、ノワル、エルフってどういう立場?」

「ご主人様、私にはわかりかねます」

(われ)も知らんのう。その昔人とエルフが戦争をしたというのは聞いておるが」

「こういう時は、ドリスだね」

 政務に勤しんでいたら申し訳ないが……。


「おーい、ドリス。今、大丈夫」

「あっ……ええ、大丈夫です」

「『あっ』が気になるんだが……」

「ちょっと、手紙を失敗してしまいました」

 ドリスの残念そうな声が聞こえる。

「申し訳ない。大事な手紙じゃなきゃいいんだけど」

「書き直しは効きますので。それで、用事なんですよね」

「そうそう、聞きたいことがあるんだが」

「何でしょう?」

「この世界のエルフの立場ってどんな感じなのかなと……。

 ちょっとエルフを拾ってしまってね」

「そうですね、七百年前の人とエルフで争った前大戦でエルフ側が負けたのちはバラバラになり、森深くの集落に数十人単位で固まって住んでいることが多いです。元々エルフの数は増え辛いので、危機とは思われず放置されている感じですね。まあ、人が勝利して以降はエルフを見下す傾向があるのは否めません」


 俺が製造されてから七百年も経つのか……。


「街に出てもエルフは差別されるわけだな」

「すべての人がそうではありませんが、差別する者は居るでしょうね」

「エルフをどうしたらいいと思う?」

「私にはわかりません。

 ただ、アリヨシ様の巫女として置いておけば問題ないのでは?」

「それは別にいいんだが、食事とかがなぁ。

 服とかも無いし。

 金も無い」

「そうですねぇ、エルフの服は私が準備しましょう。

 食事は調理道具があればなんとかなるのではないですか?

 あとお金に関しての提案があるのですが……」

「ドリス、提案って?」

「あのー、アリヨシ様、冒険者登録なさいませんか?」

「冒険者?」

「はい、私の村にも小さいながら冒険者ギルドがあります。

 そこで冒険者登録を行い依頼をこなせば、お金が入ります。

 アリヨシ様ならドラゴンでも討伐できるでしょう?

 グレア様もノワル様も冒険者登録しておけばいいのでは?

 ギルドカードは身分証明としても使えますから便利です」

「ほう、金が入るか……。

 そうだなぁ、熊スーツだけってのも問題ありなんだよなぁ」

 熊スーツは暖かく冬場は最高の服ではあるが、洗い替えが無く困っていた。ちょっと臭くなっている気がする。

 春になれば裸の〇将ルックで動くことになるだろう、横チ〇モード再開となる。

 だからズボンぐらいは欲しいのだ。

「食材とかも買えるし、お金は必要だな。

 わかった、冒険者になる」

「やった!これで、アリヨシ様がこの村に足を運ぶ理由ができる」

 ドリスの小さな声が聞こえた。

「『やった!』って何?」

「いや、こっちの話です」

 モジモジしているドリスが思い浮かぶ。

「それじゃ、明日にでも皆で村に行かせてもらうよ。

 その時に服を調達できるといいんだが」

「わかりました、こちらで準備しておきます。

 お待ちしてますね」

 妙に弾むドリスの声を気にしながらパスを切ったのだった。


 さて、なんでエルフとパスがつながったのかね……。

 メイド・イン・エルフだからかね……。

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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