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平民の身分ながら、ひねくれ者の第三王子様により生徒会の書記に任じられましたので、学園都市の謎を解いております。【貴族学園の不文律】  作者: ヤマモトユウ


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25/26

ある日の貴族学園生徒会役員達の、朝起きてから夜眠るまで(6)


 午後、それぞれの授業をこなし、また生徒会室へ集まる。

 夕刻には、なんとか本日中に終えたい決裁類を片付け終わった。


 カロルが伸びをした。肩に違和感がある。ソファで作業し続けていたのだ。ふかふかなのはよいことだが、仕事には向かないかもしれない。


「……しかし、意外でしたわ。オディロン様は、もっと適当に判子を押しているものだと思っておりましたもの」

「俺を馬鹿だと思っているな……?」


 同じくソファに座るオディロンが苦笑する。


「これが俺の金なら、そういうこともできたんだけどな。残念ながら、大半が皆の学費と寄付金だ。適当には扱えないだろう」

「その意識があるならば、普段からもっとしっかり仕事をしていただきたいものでございますけれども」


 書記卓に移って、別の書類を確認し始めたミネットが、ちくりと刺す。

 オディロンは「はっはっは」と笑って誤魔化した。


「で、このあとはどうする? 今日は折衝や夜会はなかったはずだな?」

「小生はまだ続けます。本日までの決裁を捌いただけで、仕事は山積しておりますので」

「わたくしは、ここまでですわ」


 カロルは立ち上がった。

 時計を見る。もう十七時を過ぎている。急いだほうがよさそうだ。


「フィーリクス様と、ディナーの約束がありますの。久々の二人の時間ですから、そちらを優先させていただこうかと」

「おや? 一昨日もフィーリクス殿とディナーじゃなかったかい?」

「つまり、昨日は離れ離れでしたの」

「……それはそれは、お熱いことで」


 オディロンはソファの背もたれに深く体を預けて、書記卓を見た。


「……それじゃ、どうだい? ミネット、たまにはうちで晩餐でも」

「過分な申し出、大変ありがたく思いますが、辞退いたします。今日は下宿先の手伝いをする約束もございますので」


 いつも通り断られる。

 残念な気持ちもあるが、むしろ、こうして袖にされたほうが心地いい……、とさえ思う。大抵の人間は、断るどころか、無理にでもオディロンと繋がりを作ろうとしてくるからだ。

 オディロンは肩をぐるぐる回した。ごり、と音が鳴る。


「仕事ばかりだと、肩が凝って仕方ないな。なにか事件が起きないものかね」

「オディロン様、まだお帰りにならないのであれば、仕事をしてくださいませ」

「……ま、たまにはいいか」


 オディロンは立ち上がり、生徒会長の机に向かった。

 ミネットが帰るまでは、だらだら働くのも悪くはないだろう。


 ●


 下校時間ぎりぎりまで書類と格闘したミネットは、歩いて下宿へ帰る。

 オディロンは送ろうかと提案したが、固辞した。


 ガス灯が明るいから、大通りを歩くだけならば、危険もない。

 そもそも、学園都市は治安がかなりいい。貴族の子女が多いという街の性質上、衛兵が四六時中、見回りをおこなっているからだ。


 歩いていると、正面に点灯夫が見えた。

 ……今日はコルボではない。

 いや、厳密にいえば、コルボが点灯夫をやっているのを見たのは、あの日が最初で最後だ。何でも屋にして情報屋。見るたびに違うことをやっているのが、コルボという男である。


 ベーカリーに帰り着き、同宿のマガリ・ミルフイユと一緒にベーカリーの経理書類を確認し――徴税官が厳しいのだ――ようやく夕食の時間である。

 経理確認のお礼もかねて、少し豪華に牛の煮込みを用意してくれた。


「貴族学園じゃ、もっといいものが出るんだろうけどねぇ」

「いやー、どうでしょー。美味しいけど、肩が凝るんですよね。マナーもありますし。あと昼休みって、なんなら学園で一番忙しい時間だから、ゆっくり食べられないし……」

「ほっとする味でございます。……貴族の食事は、緊張いたしますので」


 マガリはミネットを見て「ねー」と笑った。

 貴族学園の食事はもちろん美味しいが、盛り付けに飾り付け、その食材に至るまで、とにかく華美に過ぎる。コース仕立てになんてされたら、一食の時間も相当長くなってしまう。

 手軽にさっと済ませて勉学に取り組みたいミネットとは、単純に相性が悪いのである。


「そう言ってもらえると、作った甲斐があるよ。あ、そうだ。あんた、ワイン出しとくれ。マガリちゃんは飲むだろ? ミネットちゃんは、やめとくかい」

「はーい、飲みます!」

「下戸ですので」


 夕食を終えたあとも、マガリとベーカリーの夫婦はしばらく飲むらしかったので、ミネットは先に部屋に上がらせてもらうことにした。


 さて、自室に戻ったミネットは、まず窓に近寄った。

 裏通りに面した窓からは、町並みが見える。各建物にも窓があり、その窓の向こうにはろうそくの灯が点り……これを文明と呼ぶのだろうと、ミネットは思う。

 ……だが、それを眺めるのが目的ではない。


 さっと窓枠を確認する。

 両開きの窓の下部に、手紙が挟まっているのを見つけた。

 夜、暗くなってから誰かが挟んでいったのだ。わざわざ、二階の窓に。

 開いて確認し、ミネットは「ふむ」と頷いた。


「今日も、()の動向は掴めずでございますか……」


 嘆息して手紙を燭台に近づけ、火をつけた。


「難儀なものでございますね、人捜しというのも」



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