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【連載版】ある侯爵令嬢様が、ダンスパーティーで婚約を破棄された理由。【貴族学園の不文律】  作者: ヤマモトユウ


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11/11

仮面の騎士様が、ある貴族令息を決闘で打ちのめした理由。(6/6)


 貴族学園の廊下には、夕日が差し込んでいた。

 窓ガラス越しのオレンジの光が、廊下を歩くミネットとアリスの横顔を照らしている。


「それで」


 と、ミネットがふいに声を発した。


「アリス様は、いかほどの利益を得たのでございますか? ファイトマネー以外に」

「うぐ」


 アリスがビクッと反応して立ち止まった。


「ナ、ナンノコトデスカネー……」

「ヴィクトル様同様、ご自分に賭けていたのでございしょう? お灸をすえられる(・・・・・・・・)くらいの実力差があると分かっているのであれば、ご自分に賭けて儲けようと思うのは、自然な発想でございます」

「ご、ごめんなさい……ルール違反ですよね……」


 うなだれるアリスだが、ミネットは首を横に振った。


「不文律は学生のものでございます。学生ではないアリス様が賭けをされる分には、問題ございません。……ただ、そのお金をどうするのかは、少々気になりますが。倍率は相当高かったはずです。ヴィクトル様の補填に充てるには、大きい額になるのでは?」

「……笑いませんか?」

「小生は笑うのが苦手でございます」


 アリスは手を合わせてもじもじしながら赤面した。


「そのぉ……お、お茶とお料理の教室に通う費用に……しようかなと思ってぇ……」

「メイドなのに、今さら通うのでございますか」

「だから私、護衛なんですってばぁ! でも、もうすぐヴィクトル坊ちゃまとであって十年目の記念日で……ちょっと良い手料理とかで、お祝いできたらな、って思って……」


 上目遣いでミネットを見た。


「ミネットさんなら、わかるよね? 女の子だもん」

「はあ」

「わー、わかってなさそ……」

「個人差のある分野でございますゆえ。理屈はわかりますよ。共感は出来ませんが。要するに、恋する相手に手料理をご馳走し、喜んで貰いたいという、ありがちなお話でございましょう」

「ありがちって……」


 アリスが苦笑した。考えてみれば、あの王子様が隣にいるのに、微動だにしない人物なのだ。言っても仕方がない。


「……坊ちゃまには、秘密にしておいてくださいね?」

「ええ、もちろん黙っておきます。……ところで、でございますが」


 ミネットの視線が、すっと鋭くなった。


「アリス様が剣技を教わった相手というのは――隻腕で、ひげを生やし、自分のことを『小生』と称する老人ではございませんでしたか」

「え? そうですけど……」

「やはり。いま、その男がどこにいるか、ご存知ではございませんか?」


 アリスはふるふると首を振った。


「知らないです。先生は風来坊でしたもの。たまに村に来て、なにか調べ物をして、二、三日泊まっていくだけで……。合間に剣技を習っていたんです。『並外れた武術の才がある』と言ってくれて、一人で修行する方法なども教えてくださいました」


 アリスは、もしかして、と思い至る。


「ミネット様、もしかして先生とお知り合いなのですか?」

「ええ、まあ……。縁のある方でございまして、消息が知れればよいと思ったのでございます」

「そうだったんですね! お力になれず……すいません」

「いえ。……お料理、頑張ってくださいませ」


 歩きながら、いつの間にか、二人は校舎の玄関を通り過ぎ、前庭のまっすぐな道を抜けて、校門まで辿り着いていた。

 ミネットはアリスを見送って、そのまま街を見た。

 ガス灯が少しずつ灯され、きらきらと輝いている。学園都市は明るく、美しい街だ。――ミネットのいた場所と、まるで違う。

 だが、視線を上げて、沈みゆく太陽を見上げれば、そこだけはどこの街も同じだな、と思う。


「さてはて……どこに行ったのでございましょうね、あの愚かな義父(ちち)は」


 そう呟いて、ミネットは踵を返した。



第二エピソード終了です。

第三エピソードの更新までは、少し時間が空くと思います。

また、よろしければ、


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等々をいただけると、大変励みになります。

推理ジャンルは伸びにくいので、特にレビューをいただけますと、大変嬉しく思います。


次回の更新をお待ちいただけると幸いです。


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