0-6 剣の修行
西の離宮での最初の1年は、今までにないほど面白かった。多少だれるかと思ったが、いやどうして童心に帰るというのも面白いものだ。昼の遊びでも大体勝てるようになっていたし、散歩の途中で野草のことを習ったりするのは、正直楽しい。
文字の読み書きは正直ダルかった。なにしろ読める本が簡単な絵本くらいしかないのだ。とはいえ段々と童話をはじめとした本を自由に読めるようになってきた。流石に子供むけにアレンジされたものだろうけれども、それでも英雄物語や旅行記などの物語を読むのは楽しい。未だに文字を書くのは苦手というか元の世界と同様、字が下手らしいが、それ以外は特に問題もなかった。
そういう訳で俺は、西離宮での最初の2年弱の生活でスキップを使ったことはほとんどなかった。
最初の1年が過ぎ、二年目になって変わったこととしては、離宮の一角に小さいながらも道場が作られたことだ。レイゼイ子爵の道場だ。といっても道場部分以外は、レイゼイ子爵らが住んでいる小屋と同じくらいの広さの小部屋が二つだけしかない。
レイゼイ子爵は日頃は山の危険な獣を狩ったり、様々な相談に乗ったりとそれなりに忙しくしていたようだで、道場を建てる際に村人や村長がこぞって手伝いに来ていた。道場を広くしてそこに住むことも提案されていたらしいが
「王子よりも広い屋敷には出来ませんから」
と断ったらしい。完成直後から何度か上がらせてもらったが、間取りが離れでは8畳間に4畳半が二つだったのが、4畳半・3畳の二つと、部屋数は多くなっていた。妻が来るから、ということらしい。
「わしは使用人小屋に住み続けますからの」
とニハチは言っていた。が、一人では不便だといってニハチもこの邸宅に住まわせているようだ。朝の散歩の際にちらりと水を向けると、新婚に割って入って邪魔をするのは色々と面倒だ、と言っていた。というよりも、マツという人物と同居するのは御免蒙りたいというのが、率直なところらしかった。
「嫁御料が来たら、使用人小屋に戻りますからの」
屋敷の道場が出来た翌日から朝の散歩は駆け足で回ることになり、その後素振りを延々とさせられることになった。レイゼイ曰く
「剣術の基本は刃筋をいかに立てるか、です。そのためにはまずは剣を正確に振れなければ話になりません。1回やそこらならすぐに出来ますが、千回振って万回振って尚ぶれないように練ることです。なに、たった千回、振り下ろしと横薙ぎでも1時間もあれば終わります」
とのことで、延々と素振りだけをやらされた。本当に延々と素振りだけ。
「本来は樫の木刀に重りを巻いた振り棒を使うのですが、体ができておりませんし振るための型もまだですから」
という理由で、軽い木刀、というか竹の板を削ったものに握りをつけただけの棒を延々と振ることになった。最初は振り方も見ていて、一々手の内を指導されたり、まさにマンツーマンでの英才教育といったところだ。
面倒になってスキップを使ったことが一度だけあったが、集中できていないとぼろぼろになったため、それ以後やっていない。何が「スキップで修行したという結果だけが残る」だ。
とはいえ子爵も用がある日があり、時々はニハチが受け持ちになる日があった。が、こちらの方がきつかった。ニハチ曰く
「子爵は刃筋や正しい振り方をまずはおしえていますでな、少し違うことをします。何より、剣は振るものではなく当てるものです。刃筋が通ろうが当たらなければ話になりませぬ。某が受けます故、遠慮なく打ち込み下され。ただし、型は崩さぬようにだけお気をつけを」
といって、ニハチは延々と剣をかわす。ニハチは手に扇子を持っているだけである。これを道場内で全力で動いて追い回し、間合いを見定めて剣を振る。
初日は、朝からやって昼を食べてから夕方までやり、カラスが鳴く頃に子爵が帰ってきて終了となった。一度も掠りもしなかった。
初めて扇子で防がせたのは三月ほども経った頃だ。ニハチ曰く「あと一年は扇子を使わずとも良いと思っていたのですが」とのことだ。その次からニハチは短い木刀を用意して使ってきた。ニハチからも攻撃するから、ということらしい。




