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チート野郎!  作者: 昨日の風
序章 転生
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0-7 魔法の寺子屋開校

 剣の修行に明け暮れ、ニハチに木刀を使わせ始めたころ、秋の風が吹き始め、そろそろ今年の寺子屋が始まるという時期が近付いてきた。寺子屋のことで話がしたいと村長から話が来たのは、要は寺子屋の先生をこちらに頼みたいらしい。寺子屋として道場も使いたいそうだ。

「断る」

 一言で子爵がバッサリと回答した。

「聞けば文字をかけない、読めないものに教えるとか。だがジュザ王子は既に読み書きができる。内容が異なりすぎる以上、一緒には出来ぬ」

 と、にべもない。そこへ毎日茶という名の酒を飲みに来ていた老師が、にこにこしながら入ってきた。この老師は何故かいつもタイミングが良い。獲物が少し多いときに限って夕食時に現れたり、老師に絡む話があればそこに大体現れる、という稀有な才能があるようだった。

「話はきかせてもらったがの。要は、寺子屋として字の読み書きと足し算、引き算をおぼえさせればよいのであろう? 簡単じゃからな、場所だけ何とかしてもらえるなら何とでも教えるわい。報酬は、……そうだな、冬の間の宿代を払ってくれれば良い」

 え? という顔をして子爵とマツが老師を見た。時々森に入って角熊や鹿を仕留めてくる(老師に言わせればこれらはついでなんだそうだ)以外、酒を飲んで寝ているか、ジュザやレイゼイ宅にたむろしている以外はほぼ何もしない老師が、このようなことを自分から言い出すとは予想外だったからだ。

「何なら、そうだな、多少の魔法もその後の時間で教えようよ。ま、ジュザはむしろこちらの方が本当なんだがな」

 子爵が何やら不安そうな顔で言った。

「老師、我々に丸投げする、などということはありませんよね?」

「そうさな、文字の読み書きを教えるのは、ジュザが剣の修業をする午前中、魔法は午後に儂、マツは助手を頼もうかの。どうしてもはずせぬ用があって代役が必要ならマツに頼もうよ」

 村長が心配顔で言う。

「老師の申し出はありがたいですが、我々獣人族に魔法、ですか?」

「王子一人でも100人の獣人でも話し自体は同じじゃからな。冬に森に入るのも億劫じゃ」

「獣人族には魔法は……」

「不得手じゃの。だが不得手なのと使えないのは、違う。

「魔道書を全員に買う予算は……」

「そんなもの必要ないわい。大体、この冬の間に出来る魔法は魔道書を読まなければならないような魔法ではないからの。必要ならこちらで準備するわい」


 その秋の刈り入れも終わり、小雪がちらつき始めたころ、寺子屋の開校である。場所は今までと同じく村長宅にある集会場であったが、今年からは文字の他魔法も、とあって村民の半分以上が来ており、既に立ち見が出ていた。

 午前中は文字の読み書きだ。今までは紙筆が必要だったが今回は不要、何しろ老師が直々に生活魔法の一つである<メモ>を教えたからだ。因みに小さなペンも出てくる便利仕様である辺り、老師独特の改良がおこなわれた<メモ>らしかった。しかも獣人族の小さな子供でも仕える辺り、何か独特のやり方でもあるのだろう。

 最初の一時間で生活魔法の一つであるメモを身につけられなかったものは一人もおらず、落書きをして遊んでいる子供も少なからずいた。最後の子が使えるようになったところで休憩である。

 懐から砂時計を取り出して

「この砂時計の砂が落ち切るまでは休憩じゃ」

 結局、昼前までにメモの魔法で出した紙に「い」「ろ」「は」、の三文字、早い子では「に」もを書けるようになって午前中は終了した。


 午後からは本格的に魔法である。大人たちも自警団の当番以外はほとんど集まったらしく、普段の宴でも満杯なのに更に宴には基本的に参加しない妻、子供も参加したから、本当に100人近い人間が集まっていたようだ。ただし、魔法を教える目的はジュザ王子に教えることであり他の村人に対しては役得だとでも思ってくれと事前に言っておいたので、一番前の真ん中がジュザに、その隣がレイゼイ子爵、あとは体の小さい子から順に、大人は後ろへという風に自然になった。教授役に老師がつき、その隣にはマツが興味津々という顔で参加していた。子爵とニハチは交代で自警団の方に回ることになっており、ニハチがまずは自警団に詰めていた。



 さて。

 魔法を難しいと思っているかもしれぬが、それは誤りじゃ。難しいものも存在はするが、非常に簡単に覚えられるものもいくつもある。その中で便利なものも多い。大体、実践向きの魔法は全て簡単なものじゃ。考えても見よ、今すぐに必要な時に難しい魔法など使っている余裕などあるはずもあるまい。

 また、体術が優れていれば魔法は不要と思うておるのも間違いじゃ。一つ魔法があるだけで、戦術の幅は大幅に増える。戦闘力にしてみれば数段違う。例えばニハチとレイゼイ子爵は、共に体術に秀でておる。剣だけで立ち合えばニハチが三本か四本に一本は取るだろう。だが魔法込みで言えばニハチは百本に一本もとれまい。その位のちがいがある。


 まず、魔法というものについて教えよう。

 魔法というのは4つの要素からなる。

  一つ目は儀式。多くの場合は魔道書を読んでおるが、正しく行えば魔道書は不要じゃ。

  二つ目は魔力。獣人族は人間族よりも少ないと思われがちだが、訓練すれば使える量で人間族を凌駕することも可能じゃ。

  三つ目は呪文。呪文というが、動作を伴うものもあり、要するにその魔法を使うための意思を示すもの全部を呪文と呼んでおるだけじゃ。

  四つ目は犠牲。昨今は魔力で代替するためにほとんど例がないが、生きた鳥や牛など捧げものをする方法もないわけではない。

 繰り返しになるが獣人族は二つ目の魔力について少ないから魔法が不得手だと言われておるが、実際のところその訓練が少ないだけで、それ以外は普通の人間族とそれほど差はない。流石にエルフの一族と比べると一歩譲るところはあるがの。



 ここで一息ついて、質問は、と言うと、後列から獣人族の男性が声をあげた。

「老師、質問ですが、獣人族が魔力に秀でていないのは鍛えていないからだけなのですか」

「生まれつきの差はあるし同じくらいの修行であれば人間族の方が獣人族よりも多くの魔力を放出できるようになる。これは正しい。じゃがの。同時に間違っておるのじゃ」

 老師の説明によれば、魔力の総量そのものは、人間族も獣人族も大体同じくらいらしい。個人差もそれほど多くはなく、平均を100とした場合に80を切るものも120を越えるものも1000人に一人もいないそうだ。ただし、魔力を魔法として放出できるのは、通常の人で1%~5%でしかない。宮廷魔道士クラスであれば50%近くとなるため、魔力の差が何倍も離れているかのように錯覚されているのだそうだ。

 俺はふと、15歳の魔力最低保証を80で設定したことを思い出した。単純に単位が一対一で換算可能だとして、平均が20ということだったから4倍だ。魔力総量が400ということなのだろうか、それとも総量はやっぱり100で、放出量だけが4倍なのだろうか? 宮廷魔道士クラスの4倍なら総量を軽々とオーバーするが、逆に総量だけ4倍なら鍛えても総量上に放出可能となるため、意味がないことになる。セト神に直接聞いても、そのへんはよくわからないのれす、あばうとでごーなのれす、と言われそうだな、思いながら老師の説明を聞いていた。

 質疑が終わり、話は次のセクションに入った。老師は突然俺に質問した。

「さて、王子、王子に聞きます。魔法はどんな種類があると思いますかな?」

 質問されて、困った。そういえば魔法の種類なんて考えたこともなかった。どんな魔法があるのか、英雄物語を思い出してみた。

「火とか、水とか、土とか、風とか。あとは時空間魔法とかあったかな? あ、生活魔法も種類になるの?」

 ふむ、英雄物語の魔法ですな、と言って老師は続けた。



 火を出す、水を出す、土を盛り上げたり穴を掘ったり、風で刃を作って飛ばしたりする。こういった現象からの分類も確かに可能じゃし、現在もそういう分類を取る人が大勢おる。何より、ほとんどの人が読む英雄物語に出てくる魔法は、火炎魔法といったカテゴリー名や風刃という魔法名が盛んに登場するからの。

 しかし、このカテゴリー分けは、実は正しくない。

 例えば火を出す魔法でも、単純に魔力を火に変換する、周囲の熱量を集めて発火させる、光を収束させて発火させる、既についている火を転移させる、などなど方法は様々であり、全て術式が違う。それをひと括りに火魔法というのは乱暴すぎるわけじゃ。英雄物語では簡単に分かるようにそう書いただけじゃな。

 魔力を火という現象への変換、この方法は現象魔法と呼ばれておる。実は、広範に使われている魔法方式の一つじゃ。

 生活魔法の着火(メイクファイア)を使う者もこの中にはいるじゃろう。使える者は? 10名ほどか。或いはタバコを吸うじゃろうが、ライターを持っているものは? 半数近いの。その中で、魔道石を入れ変える必要がないものは魔道ライターと呼ばれているが、それを使っている者は? ライターのほとんどじゃな。或いは夜、明かりとして火を使わないライトを使っている家は? 大部分の家じゃな。

 これらは全て、魔法を火や光に変換するという現象魔法に属する魔法を使っておる。先ほど着火(メイクファイア)を使えるものとして10名ほどが手をあげたが、そなたらは既に現象魔法という魔法を使っておるのだ。あとは火力と着火する距離の問題にすぎぬ。また、魔道石を使わずに火をつける魔道ライターは半数近くが使っておったが、やっておることはお主らの魔力をライターに通し、ライターが着火(メイクファイア)を使っているにすぎぬ。明りは灯火(ライト)じゃ。

 実際問題として、簡単な魔法は生活魔法として日常に溶け込んでおるのだ。意識せずにな。

 じゃから、お主らも恐れることはない。簡単に魔法など使える、それも魔道書などというものなしに、半永久的に使える。



 ここまで来たところで、一人の獣人族の青年が手をあげた。体術には定評のある(といって自警団には決して参加しない)「たろ」だ。要するに乱暴者で、もてあましものだが、魔獣が出た場合には頼りになるため大目に見られている。その手には剣があった。

「そんな簡単な魔法が使えたから、どうだってんだ。攻撃魔法が知りたいんだよ、俺は」

「ならばの、こちらへ」

 老師が手招きした。「たろ」が教壇に遠慮なしに上がると、老師から2mほど離れた処に立つように老師が指示し、言った。

「ではの、一つ何ができるか見せようかの。儂が使うのは、簡単な魔法、灯火(ライト)じゃ。先ほどの話にも出たの。他には使わぬ。で、これから儂はこの手に持った杖でお主を打つ。頭か腹じゃ。よいかの? ああ、剣で防ぎたければ防いでも良いし、切れるなら儂を切るが良いぞ。ただ、周りに迷惑をかけぬようにな」

 老師は最前列にいたジュザをはじめとする少年たちを少し下がらせ、ではよいかの、と声をかけた。

「ではマツよ。はじめの合図を頼む」

 結果はあっけなくついた。マツの合図の後、いきなり剣を抜いて飛びかかった、否、飛びかかろうとした「たろ」の目が文字通り光ったかと思うと剣を取り落として体を丸めた。後は老師がゆっくり近づいて頭を杖で叩いて終了である。



 簡単な魔法でもな、使いようによってはその用途の幅はいくらでも広がるわい。攻撃に使おうと思えば、灯火(ライト)ですらこの通りじゃ。もっとも、ここまでになるには相当な熟練が必要だから、そなたたちがこれができるようになるとは言わん。というか、多分出来ん。じゃが魔獣相手に目晦まし、位はこの冬の間に出来るようになるじゃろう。



 そういって一旦休憩にすると宣言して老師は砂時計をおいた。砂時計が落ち切ったら再開するということらしい。


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