探し求めた存在
本日2話目の投稿です。ご注意ください。
工場を訪れて学生証を見せると、大きな部屋に通される。既に何人か仕事を始めている人もいるようだ。
「3人にお願いしたいのは、あちらに積んであるコランダムをここまで運ぶ作業、コランダムに魔力を注ぎ込む作業、魔力を込めたコランダムを色ごとに分類し、向こうに運ぶ作業の3つです。運んだ量や魔力を注いだ数に応じて報酬を出します」
魔力を注ぎ込んだコランダムを適切な回路に組み込むと、その魔力を引き出して簡単な魔術を行使することができる。ロスが大きいのであまり大きな出力は出ないが、日用品には重宝されるのだった。
とはいえ、俺や紫苑の魔力はコランダムに魔力を込めても使えないので、肉体労働に回ることになる。華田は運ばれたコランダムに黙々と魔力を込め、水色に染め上げてゆく。
「なんか華田だけ楽してない?」
「……私たちも身体強化の練習になるから」
「いや、そうなんだけど。微妙に納得いかないんだよなぁ」
などと会話を交わしながらも、俺と紫苑は競うようにコランダムを運搬している。小柄な紫苑が、自分の身体より大きな箱を両手に持って駆けるものだから、見た目には箱が自動で動いているように見えてシュールだった。
「おう、お前ら待たせたな」
ギルドの手続きが終わったのか、瑞垣がやってきた。別に待ってはいないのだが。彼は華田の隣に腰掛けると、コランダムに魔力を注ぎ始める。注ぎ込むのにかかる時間は華田の方が明らかに短く、華田の魔力操作の練度の高さが伺える。
瑞垣が魔力を込めたコランダムは、柔らかくて可愛らしいピンク色に染まっている。同じ赤でも、グルナの燃えさかるような濃い赤とはだいぶ異なっている。
「彩斗、あれ良いの?」
並んで作業をしている華田と瑞垣を見ながら、紫苑が何やら囁いてくる。
「良いって?」
「何も思わない?」
紫苑の言葉は意図が掴みづらいことが多いが、今回はとりわけそうだった。
「まあ、あいつら座って楽しやがってとは思うけど」
「……ふうん」
彼女は納得しかねるように俺を一瞥すると、急に興味を失ったように作業に戻る。こういう気紛れなところが本当に猫のようだと思う。
結局何が聞きたかったのか分からないまま、午前中の作業を終える。働いていた時間は4時間ほどだろうか。紫苑の身長くらいの箱を1人で300箱近くも運ぶと、流石に疲れる。華田や瑞垣たちはずっと座っての作業だったが、それでも額に汗が浮かんでいる。彼らも見た目ほど楽な作業ではなかったのかも知れない。
「今日の作業の分の報酬を振り込む。順番にこの魔道具にギルドカードを載せていってくれ」
係の人に促されて魔道具に学生証を翳すと、学生証の裏面に「1440コロル」と印字された。「コロル」がこの国の通貨なのは知っているが、どれくらいの価値なのか見当もつかない。
「東雲くんいくらだったー?」
覗き込んでくる華田に学生証を見せてやる。
「えへへ、あたしの方が多いねー!」
自慢げに差し出された学生証には、「1960コロル」と記載されている。
「今日のお昼は千草が奢るべき」
「まあ、ちょっと多く出すくらいならいいよー」
華田は気前の良いことを言いながら、にこにことしている。
「お昼っていくらくらいかかるんだろう?」
「うーんと、確かちゃんとしたお店で食べるんなら300コロルくらいだったと思う!」
そうすると1コロルは10円から20円くらいの価値になるのだろうか。そんな会話をするうちに、入金を終えたらしい瑞垣が歩いてくる。
「俺さっきギルドにいた冒険者から美味い店教えてもらったんだけど、一緒に行かね?」
瑞垣の提案に3人で顔を見合わせ、頷きあう。
「いいよー、じゃあ4人で行こうか!」
瑞垣の後に続いて工場を出る。4人とも街の地理には明るくないため、学院でもらった地図とにらめっこしつつ、家々の間を抜けていく。
「この街って、道が不思議な通り方してるよねー」
「不思議ってほどじゃないと思うけど、人工的な感じはするね」
「パリみたい」
この街は中心部に学院やギルドがあり、そこから放射状に大通りが何本か伸びている。その間には、小さな路が環状に走っていて、今俺たちが歩いているのもそのうちの1本だった。
「日本でも、田園ちょ……」
突然、背筋にぞくりと不気味な感覚が走る。
「東雲? どうし――」
――ぴしゃり。
怪訝そうな問いを遮るように、どこかで響いた鋭い音。それに呼応するように、ぴしゃり、ぴしゃりと、あちこちから扉を閉める音が響く。何かがおかしい。その違和感の正体も分からぬまま、不穏な雰囲気に包まれる薄暗い路地。俺たち4人を残して世界が空っぽになったような、異様な静けさ。隣で華田が息を呑む音がやけにはっきりと響いた。
「これって――」
華田の言葉の終わりを待たず、紫苑が跳ねた。ポトリと落ちたのは、紫苑のチョップに首を折られた1羽の小鳥。雀ほどの大きさしかないが、紫苑がたたき落とさなければ、華田の頭に鋭い嘴が突き刺さっていただろう。
見境無く人を襲う凶暴さと、ピストルの弾のような速さ。普通の小鳥のはずがない。
「これ……魔境化……」
瑞垣が呆然と呟く。街中でもごく小規模の魔境化は起こり得る。その場合には――速やかに退避すること。そんな注意事項を思い出したときには、もう手遅れだ。
「まだ来る!」
呆然とする瑞垣に声をかけ、臨戦態勢をとる。地球にいたころからは何倍にも強化された俺の視覚は、上空で羽ばたく小鳥の群をはっきりと確認していた。
明らかに自然のものではない、ギラギラとした瞳が俺を射すくめる。次の瞬間、一斉に滑空を始めた小鳥たちは、見る見るうちにスピードを上げ、俺たちの方へ突撃してくる。
「千草、壁!」
「Ice Wall」
紫苑の声に急かされて華田が張った氷の壁は、弾丸と化した小鳥たちを止めるには薄すぎて、容易に破られてしまう。
「Ice Wall! Ice Wall!」
それでも何枚も壁を張るうち、小鳥の速度が少しずつ落ちる。
「Blaze」
速度の落ちた鳥の群れを指差し、瑞垣が叫ぶ。群のただ中に生じた紅色の炎は、爆発的に広がって魔鳥を包み込むと、舐めるように羽毛に纏わりついて丸焼きにしてゆく。
それでも、仕事で消費した魔力が回復していないのだろう、2人の魔術の出力は普段より明らかに低い。上空には、焼き鳥にならずにすんだ魔鳥が未だ何十羽も飛び回っている。揃って俺たちに向けられた視線は、仲間を焼かれた憎悪に満ちていた。
自分に向けられた、明確な殺意。それを認識した瞬間、獣に取り囲まれた記憶が鮮明にフラッシュバックした。同時に呼び覚まされたのは、身体を縛りつけるような恐怖と無力感。あのときの記憶から目を背け、忘れたつもりになっていた俺の欺瞞は、心の奥底でずっととぐろを巻いていた感情に、いとも容易く打ち破られた。
怖い。自分の身体の一切が、思うままにならない。足がすくんで踏み出せず、自在に操れるはずの魔力の流れは、凍りついて動かない。
あのときから身体が大きくなり、魔力まで使えるようになって、成長したような幻想を描いていた。だが、実際のところ、俺なんて5歳の頃から今までずっと無力なままだった。目の前の絶望を覆すような力もなければ、最後の瞬間まで拳を握り続ける心の強さすらありはしなかった。
「ごめん、あたし、もう魔力が……」
華田がふらふらと地面にへたり込む。瑞垣も額に汗を浮かべ、顔をしかめている。
しっかりしなければ。自分にそう言い聞かせたところで、俺の足はプルプルと震えるばかりで、一歩も前に進めない。鳥たちがもう一度滑空を始めるのを見てなお、身体は言うことを聞いてくれない。
俺はここで死ぬのだろう。そんな現実をあっさりと受け入れてしまった俺の心に、身体を動かすほどの強さはもう残されていなかった。
「彩斗!」
無防備な俺の眼前まで迫った鳥を、紫苑がたたきおとす。
「大丈夫、彩斗にはアキヤラボパがついてる!」
いないんだよ。アキヤラボパなんて、そんなおとぎ話は……
「いる! 彩斗が信じなきゃ、何も始まらない! 誰も護れない!」
襲ってくる鳥たちをひらりと躱した紫苑は、身体を捻って拳を叩き込むと同時に、足が円弧を描いて別の1羽を穿つ。着地した勢いのまま、さらに1回転。落雷のような踵落としは2羽をまとめて撃墜した。尋常でない身のこなしからは、鬼気迫るものを感じる。
だが、いかに紫苑が獅子奮迅の闘いぶりを見せても、多方面から襲い来る鳥を全て相手取ることはできず、何羽かは紫苑を躱して華田に突撃する。今はまだ瑞垣がなんとか迎え撃っているが、魔力切れが辛いのだろう、身体がふらついて、倒れずに立っているのが不思議なくらいだ。へたり込んだままの華田も、地面に手をついて身体を支え、青魔法で援護している。
そんな状況ですら3人は、諦めていなかった。目にもとまらぬ速さで襲ってくる、何十羽もの弾丸たちを前に、歯を食いしばって耐えていた。
なのに、俺はここで何をしている?
どうして俺1人、勝手に絶望している?
俺はほんとに、何もできないのか? 諦めるしかないのか?
「――あなたはそんな、弱い人間じゃない!」
絶望が埋め尽くす俺の胸の中、紫苑の叫びは夜空を切り裂く稲妻のように、俺の胸を貫いた。今の俺には、こんなに頼りになる友人たちがいる。そんな当たり前のことに気づいた瞬間、俺の心に1つの願いが湧き上がった。
大切な仲間を護りたい。心に芽生えたその祈りは瞬く間に膨れ上がり、深く暗い絶望を俺の心から追い出してゆく。それはまるで、闇に染まった俺の心で、たった1つ明かりを放ち続ける灯火のようだった。
叶えてくれるなら、アキヤラボパでもなんでもいい。「助けて」とは、もう言わない。ただ、俺に1歩踏み出す勇気を与えてほしい。そして、願わくは護りたい人を護れる力を――
――とくん
心臓が1度大きく弾んだ。それが俺自身の秘めた強さなのか、それとも誰かが祈りを叶えてくれたのか、俺には分からない。ただ、何か温かいものが胸から湧き出しては身体に広がり、俺を縛っていた絶望という鎖を優しく溶かしてゆくのは感じ取れた。きっとこの温もりを、「勇気」だの「希望」だのと人は呼ぶのだろう。脈絡もなく浮かんだのは、そんな感想。
そして同時にアキヤラボパの存在をはっきりと感じる。脈打つ鼓動の中に、全身を巡る血潮の中に、神鳥は確かにいた。図書館でもインターネットも見つからなくて、そんなものいないんだと思いこんだ。それが大人になるということだと、割り切った。だが、アキヤラボパはずっとこんなに近いところにいたのだ。
俺に必要だったのは、自分の心と向き合う勇気。俺が信じられなかったのは、アキヤラボパではなくて――俺自身。
だからまずは、自分を信じることから始めてみよう。諦めるのも、割り切るのも、金輪際やめよう。ここから全てを――
「――始めよう」
たった1つの覚悟だけ。ただそれだけのことで、あれほど強く俺を縛り付けていた恐怖は霧散していた。感じていたつかえは嘘のように消え去り、魔力が体内を巡り始める。
魔力を足に収束させてると、瑞垣の方へ一息に駆け寄り、ふらりと倒れ込む巨体を優しく受け止める。好機とみて殺到する小鳥を、1羽ずつ殴り飛ばす。気づけば紫苑も俺の背後に立っていて、華田と瑞垣を挟んで背中合わせで戦っていた。
「ごめん、心配かけたな」
「ほんとだよ。……でも、まだ手数が足りない」
肩で息をしながら、紫苑が苦しげに漏らす。ここまでかなりの数を撃墜したが、それでも相手の数は20を下回らない。しかも全方位から襲撃してくるため、拳と足だけで全てを迎え撃つことは現実的ではない。何より、俺と紫苑も疲労がかなり蓄積しており、耐久戦になれば負けは必定。それでも俺は、もう悲観しなかった――俺は、1人ではないのだから。
「大丈夫」
紫苑の言葉を打ち消し、懐からコランダムを取り出す。透明だった宝石には、玉虫色の光沢が浮かびあがっている。
「Achiyalabopa」
目を瞑り、コランダムを握って呼びかける。捧げた祈りに答えるように、体内で魔力が渦を巻きながら高まる。やがて、俺の身体を満たした七色の魔力は、そのまま背中から溢れ出した。
「彩斗、それ……」
紫苑が珍しく困惑気味の声を上げる。目を開くと、華田と瑞垣はあんぐりと口を開け、小鳥たちまで戸惑ったようにホバリングしている。無理もない。人間の背から虹色の翼が生えているのを見たら、きっと誰でもそうなるはずだ。正直俺も驚きでひっくり返りそうなのを必死に堪えている。
「似合うだろ?」
茶化すように笑いながら翼をピンと伸ばす。その先端からはらりと剥がれ落ちた、6枚の羽。俺の祈りを乗せて空高く舞い上がると、ナイフのように鋭利な切っ先で空気を切り裂き、ぐんぐん加速してゆく。薄墨を垂れ流したような曇天に七色の残像を振りまきながら、縦横無尽に空を翔ける6枚の刃は、小鳥を貫いては向きを変え、さらに別の鳥を打ち抜く。一羽、また一羽と打ち落としてゆく無慈悲で幻想的な輝きに目を奪われる。
あれほどたくさんいた鳥の群はものの数秒で全滅し、辺りは漸く静寂を取り戻す。時間にすれば襲撃から20秒足らずの戦闘だったが、一生分の精神力を使い果たしたような気分になる。
「あんな苦労したのにあっさりかよ……」
瑞垣がため息をついている。何か返事をしようと思ったところで、突然世界が回り始める。気づけば俺の翼は消失し、俺はその場にしゃがみ込んでいた。
「これ、魔力の消費エグい……」
「立ってるの私だけじゃん」
メリーゴーランドのように回り続ける視界の端っこで、紫苑が呆れたように俺を見下ろしている。
「でも、凌ぎきったんだね」
「まじで死ぬかと思ったな」
「ね、魔力ももうすっからかんだし、ここでまた別の魔物とか現れたら流石にやばいねー」
「いやいや、流石にもうこれ以上はないだろ」
華田と瑞垣もその場にへたり込んだまま、気の抜けたような会話をしている。ちなみにこうした会話は古来「フラグ」と呼ばれており――
「――あれ、どうしよ」
「何があった?」
紫苑が何かに気づいたようだ。目眩でよく見えないが、まさかさらに魔物が襲ってくるような展開はないだろう。
「さっきとは別の鳥。こっち来てる」
「……逃げるぞ!」
叫んだものの、まともに立てるのが紫苑しかいない。
「華田を抱えて走るんだよ!」
途方に暮れているする紫苑に指示を出す。魔境から出てしまえば、魔鳥の襲撃を食らうことはない。瑞垣には申し訳ないが、既に疲労困憊の紫苑が瑞垣の体重を支えて走るのは現実的に考えて不可能だ。女子2人だけでも逃れてもらうべきだろう。
「え、でも……」
「早く!」
語調を強めて、なんとか立ち上がる。紫苑たちが逃げるだけの時間は、なんとしても稼いでみせる。そんな覚悟を決めた俺の横を、一陣の突風が吹き抜けた。
「Wind Barrier」
歌うような声が風に乗って俺たちまで届く。すると、俺たち4人の周りを取り囲むようにつむじ風が巻き起こり、ちょうど突撃してきた鳥が上空へと吹き飛ばされていく。
「みんな、よく頑張ったわね」
ようやく目眩が治まってきた俺の視界を覆うように、長髪が靡いていた。髪こそ深い緑に染まっているが、声は彼女のものに間違いない。
「テールベルト……」
「あいつら片付けちゃうから、ちょっと待っててね」
彼女は一瞬こちらを振り向いて、右目を瞑って見せる。それからおもむろに右手をあげて囁いた。
「gathering」
周囲に突風が吹き始め、鳥たちは上空に吹き上げられて1ヵ所に固められる。テールベルトの髪も風に煽られてふわりと踊る。
「鎌鼬」
その一言を乗せた風が耳朶を打った次の瞬間、どさどさと何かが落ちる音が響きわたる。地面に積もった肉塊からは、今の今まで羽ばたいていた姿など想像すべくもない。今の刹那に何が起きたのか、俺には全く分からなかった。ただ目の当たりにした圧倒的な蹂躙に、言葉を失う。
テールベルトはふぅ、っと軽く息を吐き、俺たちの方へ掌を向ける。つい身構えてしまうが、程なくして、全身に負った細かい傷が癒えてゆく。
「遅くなってごめんなさい、これでも結構急いで飛んできたんだけどね」
見慣れた亜麻色に戻った髪をくるくると指に巻きつけながら、辺りを見渡す。これは俺の勘だが、彼女の「飛んできた」は恐らく比喩ではない。
「あ、あった!」
道沿いの木の方へ身軽に飛び乗ると、するすると上へ登ってゆく。少しして飛び降りてきた彼女の掌には、黄色い結晶が載せられていた。今の数秒の間に封印まで済ませてしまったのだろう。
「なんでここが魔境化してるって分かったんですか?」
俺も疑問に思っていたことを、華田が質問してくれた。
「近所の家の警報器が伝えてくれるの」
「警報器……ですか?」
「そう。この辺の家にはね、一家に一台魔境化警報器って言うのが必ずあって、近くに魔境が発生したら自動で通報するようになってるのよ」
それで、皆魔境化に気づいて閉じまりをしていたのか。結晶が封印されたことが分かったのか、今はまたちらほらと窓が開き始めた。
「ほんとはね、通行者も携帯式の魔境検知器を持ち歩くのが普通なの。街中の魔境化なんてそんな起きるものではないからと思って後回しにしてしまってたのだけど、見通しが甘かったわ。ほんとうにごめんなさい」
そこまで謝られると、逆にいたたまれなくなる。
「いえ、運が悪かった部分もありますし。たまたま華田と瑞垣の魔力が切れていたので」
「あたしの判断ミスもあったよね。なけなしの魔力を使い切って立てなくなっちゃって、足引っ張っちゃった……」
「いや、むしろ俺が足すくんで動けなかった方が迷惑かけたし、華田はちゃんと戦えてただろ。むしろあの状況でしっかり戦えてたの、すごかったよ!」
「そうかな……」
しゅんと肩を落とす華田に必死に慰めの言葉をかける。仲間が落ち込んでいれば励ますのは当然のことで、もちろん他意は無い。だから紫苑、ニヤニヤするのをやめなさい。
「まあ、反省会はあとにしましょ。すごく大変な状況だったでしょうけど、みんなよく頑張ってくぐり抜けてくれたわ」
大人が来てくれた安心感からか、力が一気に抜けて身体が動かせない。魔力の使い過ぎで頭もがんがんと痛むし、聞こえる音も段々と遠くなっていくように感じる。
遠のく意識の中で最後に俺の記憶に残ったのは、「お疲れさま」という言葉と共に俺の頭に載せられた、テールベルトの手の感触だった。




