【17.キス?】
すみません、昨日から一日一話投稿になっています。
(完結まで予約投稿済みです。)
お付き合いいただけるとありがたいです(≧▽≦)
どうぞよろしくお願いいたします。
結局そのままセレステはブローデと婚約破棄した。
一応冷静になってからもう一度じっくり考えたそうだが、浮気に関する価値観の違いは埋められないと判断したらしく、残念がりながらもそのまま婚約破棄ということにしたらしい。
このセレステとブローデの婚約破棄の噂は、セレステの実家が一応名高いトロニック公爵家ということで、多くの人の興味を引きすぐさま王宮内を駆け巡った。
当然すぐにウォーレスの耳にも入ることとなり、ウォーレスは「どういうことか」とリーアンナを呼び出した。
呼び出されたリーアンナは怒られるだろうなと覚悟していた。
セレステがブローデの人格を疑うようになったきっかけは、リーアンナがブローデから情報を引き出せないかと鎌をかけたことなのだから。
「ごめんなさい、ウォーレス。こんな事態になってしまって、セレステに本当に申し訳なくて……」
応接間に通されたリーアンナは、座ることもなく申し訳なさそうに縮こまっている。
しかしウォーレスの方はそこまで深刻には考えていなかったようだ。
「なんでリーアンナがそんなに謝るのさ」
リーアンナは余計に落ち込んだ顔をする。
「婚約破棄、私が悪いの……。少し、ブローデ様に話をさせようとしたから……。その話がセレステには受け入れられなかったみたい。……間違ってた、セレステの前ですることじゃなかったわ……」
「あ、いや、それで婚約破棄するようなら、もともとうまくいかなかったってことさ」
とウォーレスは慰めながら言った。
「セレステに会った? 意外と落ち着いてはいるんだけど」
とリーアンナが心配そうに言うと、
「いやまだ。まずはリーアンナからそのときの状況を聞こうと思ってね」
とウォーレスは答えた。
リーアンナは汗を滲ませながら身を竦める。
「あのときの状況っていうのも……。私がけっこうエルンスト様絡みのことをブローデ様にばらしてしまったから……。セレステは知らないことがたくさんだったし、そもそも冷静に聞けばかなりアウトな話ばっかりだったから……」
しかしウォーレスは、まあだいたい予想がつくといった顔で小さく頷いた。
「どうせ僕とエルンストの話を聞いて、ブローデ殿から何か聞けないかと思って鎌かけてみたんでしょ。そんでブローデ殿が挑発にのっちゃって、それでセレステがカチンときてって、そんな流れじゃないの? それだとさ、むしろセレステはリーアンナのこと赦してるわけ?」
リーアンナは図星すぎてもっと縮こまった。
「セレステがどこまで許してくれてるかは分かんない……。そりゃあの後めっちゃ説明しまくったし、いきなり騙すような真似しちゃってごめんってすごく謝ったけど。どうだろう……婚約まで破棄することになったのだから……」
ウォーレスは「そっか」と小さく声を上げた。
「じゃ、僕からも謝っとくよ。リーアンナだけが悪いんじゃなくて、エルンストの事件の解決のためだとか何とか、後出しだけどいろいろ言ってみるよ。許してくれるかは分かんないけど。でさ。話は変わるんだけど、ブローデは何か喋った?」
ウォーレスは、セレステのことを心配しておきながら、なんだかんだやっぱり、エルンストの事件のことも気になっているようだった。
「イェレナ様の恋人はルシルダ様に命令されて刺したって」
「それはリーアンナがルシルダから聞いたってのと同じだね」
ウォーレスはそれには興味を示さずにさらっと言った。
「他には?」
リーアンナは残念そうに首を横に振った。
「あんまり聞き出せてないの。セレステが怒り出しちゃったから。あ、でも、ルシルダ様の通行許可書のこと、何か言ってた気がする」
ウォーレスの目が光った。
「通行許可書? それはエルンストも話題にしていた」
「うん。何だっけ。ルシルダ様がイェレナ様の恋人に通行許可書を出したのだけど、それをわざとエルンスト様の名前にしたとか言ってたかな?」
リーアンナが一生懸命思い出しながら言うと、ウォーレスはそれだとばかりに身を乗り出した。
「エルンストが、ダスティンって男に何か書類の手違いを相談されて気を許したところを刺されたって言ってたな。それにルシルダの通行許可書だとも言ってた」
「うわぁ」
リーアンナがドン引きする。
「その通行許可書が発行された経緯とか調べれば怪しいものが出てくるかも」
ウォーレスは目を細めた。
そして楽しそうに少し笑うと、徐にリーアンナに近づいた。
リーアンナは「え?」と思ってウォーレスを見つめる。
ウォーレスはリーアンナの体を捕えようとしていた。
リーアンナはドキッとして後退った。しかし、調度品のキャビネットに背が当たったこれ以上は逃げられない。
ウォーレスはいいところにキャビネットがあったばかりに、キャビネットにもたれかかりながら、鼻がくっつきそうな距離でリーアンナの顔を覗き込んだ。
ウォーレスがゆっくりと口づけしようと自分の唇をリーアンナの唇に寄せようとした。
「ま、待って! これ何の時間? なんでキスしようとしてるの?」
リーアンナは両手で自分の顔を覆い、真っ赤になって叫んだ。
しかし、ウォーレスは動じない。まだリーアンナの体に寄り添ったまま、耳元で言った。
「いいじゃん、僕たち婚約してるんだから、これくらいは。リーアンナがいろいろ役に立とうとしてくれるのがなんだか嬉しくって」
リーアンナは恥ずかしかった。
ウォーレスが……キスしようと? 幼馴染なだけだったのに、そんな彼が? そんなに想ってくれてる?
そのことを考えると心臓がどきどきして、何だかまっすぐ立っていられなくなる。
リーアンナは何とか話を逸らそうとした。
「わ、悪いけど、セレステの婚約ぶっ潰しておいて自分はウォーレスとうまくやりますなんて、そんな気分になれないわ……。そうだ、あなたの方は? イェレナ様の恋人とルシルダ様の件、な、何か新しい事実は見つかったりしてないの?」
ウォーレスはリーアンナの息を感じる距離で柔らかい髪に触れようとしていたが、リーアンナが「セレステの婚約ぶっ潰し」とか「新しい事実」とか言うので少し興ざめた。
「ちぇ、真面目か」
「真面目です!」
リーアンナが言い返すと、ウォーレスはつまらなさそうに少しだけ体を離して、
「イェレナの恋人の居場所は分かったよ」
と答えた。
リーアンナは驚いた。キスのことなど一気に忘れて聞き返した。
「は!? それってすごくない? 捕まえて話聞きましょうよ。エルンスト刺した件だけでもとりあえず逮捕できるでしょう、エルンスト様が顔を見ているのだったら」
「まあそうなんだけど、それでルシルダにトカゲの尻尾切りみたいに逃げられても困るから、ルシルダとの関係とか全部分かってからにしようと、泳がしてる」
「そっか、そうね。で、どうやって見つけたの?」
とリーアンナが聞くと、
「そりゃ地道に。人と金使って探させただけ」
とウォーレスはぶっきらぼうに答えた。
「どこにいたの?」
「ルシルダの筆頭後援神官のいる神殿だ。南部の中心都市の」
とウォーレスが言うと、
「? あれ、中央神殿じゃないのね」
とリーアンナが首を傾げた。
「おまえ、ルシルダのことはこの2年、本当にどうでもよかったんだな。何も知らないじゃないか」
ウォーレスは呆れ返った。
「あ、うん。関わりたくない一心で……どっちかというと避けてきたなあ」
リーアンナは頭を掻いた。
そこへ「おお~い」とひときわ大きな声が廊下から聞こえてきた。
ウォーレスとリーアンナにはそれがバートレットだとすぐに分かる。
「おいウォーレス、ちょっと馬でも付き合え! って、あれ、リーアンナ?」
バートレットはちょっと意外そうな顔をした。
リーアンナの方はというと、リーアンナとウォーレスとの婚約の筋書きを作ったバートレットだと思い、含みのある会釈をした。
バートレットは眉を顰める。
「なんだ、その他人行儀なお辞儀はよ。もしかして婚約のことか? じゃあもっと俺に感謝してもいいだろ。むしろ礼くらい言え」
「はあ」
バートレットが開き直っているので、リーアンナは納得いかない顔で生返事をした。
ウォーレスが慌てて間に入る。
「あ、バートレット、あんまりリーアンナを刺激しないで。まだ僕たち微妙な時期」
「なんだよウォーレスまで!」
バートレットが「俺が悪者か」と不満そうな顔をしたので、ウォーレスは慌てて話題を変えた。
「ってゆか、おまえがここに来たのはどうせセレステのことだろ? 付き合うよ、すぐしたくするから待ってて。てゆかリーアンナは?」
「リーアンナも来い」
バートレットが問答無用で断じたので、リーアンナは抗議の声を上げた。
「は? 私も?」
しかし、バートレットはリーアンナの不平なんてお構いなしだ。
「セレステがブローデに何か言った場面におまえもいたんだろ。聞かせてくれ」
「ああ、まあ、そうだね。作戦練らなきゃだし、セレステの状況は詳しければ詳しいほどいい」
とウォーレスまで言い出したのでリーアンナはポカンとした。
「作戦?」
ウォーレスはそっとリーアンナに耳打ちした。
「バートレットがセレステにプロポーズ」
「ウォーレス!」
漏れ聞こえたのか、バートレットが慌てて叫んだ。
ウォーレスが、なんだよと面倒くさそうな顔をする。
「嘘じゃないだろ、そのつもりだろ?」
「い、いや、俺はセレステの状況を聞いて慰めてやりたいだけで……」
急にバートレットが先ほどの勢いを失い、もごもごとやりだしたので、ウォーレスはバートレットに近づいて行ってポンっと肩を叩いた。
「僕とリーアンナの婚約以来、なんか真剣に考えること増えたじゃん? バートレットもありかもとか思ってるんでしょ、セレステとの結婚」
「ありって。そりゃ選択肢としてはありだけど!」
バートレットの耳が赤くなる。
ウォーレスはふっと笑った。
「じゃそういうことじゃん。リーアンナ。今日は乗馬用に衣装じゃないだろうし、僕が手綱を引くから。3人で少し外に出よう」





