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新婚初夜に『トロフィーワイフ』と暴言吐かれて放置されました  作者: 鴉野 兄貴
物憂う令嬢たち、ちっとも休めず

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悪役令嬢、ちっとも休めない【一日目と二日目】

 物憂いで寝込むなど情けなや。

 それよりデートは一瞬で終わりました。


 カラシくんのいいパンチを自ら受けて彼と意気投合したリュゼ様は『帰っていいぞ』とつれなきことを。


「ではわたくしあなたについていきます。旧友と語り合いたきことも多々あります」

「奥様。御自愛くださいね」


 いつのまにか兵士長のセルクがにこやかに。

 しかし半眼です。確実に忠言する気です。


 おのまとぺで言えば『どなどな』。

 わたくし拗ねていいでしょうか。



 ミカに申し訳ないと思うと共にミカ自身は案外元気にメイと遊んでいそうです。


 むむ。これは嫉妬というものでしょうか。


「ひまです」


 フェイロンは積み木遊びをしていましたが、わたくしが寝ないため誰かに知らせに。


「奥様。あんた、寝たんじゃないのかい」

 庭師クムの妻、サフラン様は呆れていらっしゃいます。


「だってサフラン様」


「様はやめとくれ奥様」

 むう。サフラン様も様をつけていらっしゃいます。だいたい身重の身でお世話していただき心苦しいのです。



「どうしたんだい奥様」

 サフラン様はわたくしの額を遠慮なく触って温度をみます。でも不快ではありません。むしろ子供たちに対するような親愛を感じます。

「サフランさ……サフラン。少し伺いたきことが」

「なんだい? スリーサイズなら秘密だよ? ちなみにGカップだ」(※翻訳に際してわかりやすくしました)



 かような下世話なことではございません。



「あの、なんと申しましょう。わたくしサフランを羨ましくおもうことが」


「ほうほう。お姫様に羨ましがらる庭師の嫁がいるのかね」

 わたくしのようなにわか貴族のむすめからすればサフラン様の方がお姫様ですけど。


「……わたくしもサフランのように。

 その、わたくしたちも子が欲しいのですけど彼がつれなくて」


「ブハッ」

 サフラン様は大笑いしていらっしゃいます。

「なにそれ、てっきりもっと聞かれたら困る話かと思ったよ。ああウケる」


 そんなに可笑しいことでしょうか。

 わたくしとしては夫婦円満子孫繁栄の秘訣を知りたく思うのですが。クムも朝から晩まで働いていますが彼ほどつれなくありません。



「まぁあれだ。考えすぎだよ。案ずるより産むが易しってやつで……そもそもそう言うのが全く無いのが悩みなんだよね。あの子はちゃんとそう言うのあるから気にすんな。物事なんか理由があるものさ」

「理由があったとしても教えてくださらないのなら、信頼関係に響きます」


 話しながらちょっとお布団の匂いが気になりました。

 普段の香とは違いますね。

 おそらく余った花を使いサフラン様が自ら炊いたものでしょう。


「めちゃくちゃ仲良しなのにね。まぁうちの連中はいい加減に見えて口は硬いから『領主様の第一子は男か女か』とかいい加減な賭けが街では流行っているみたいだけどね」

「あえて砕けた申し方を行うならば『めちゃくちゃお渡りありません』」

 サフラン様は「じゃ、どんなことをするんだって」と突き詰めて問いかけできました。



「そ、そ、それからですね。かれの……われ……」

「ふんふん。もっと具体的に言ってみな」



 はうっ。



「興奮すると気絶するようでは睡眠薬もいらないようで経済的さねお嬢ちゃん。おやすみ」



 く、くちおしや。

 起きても枕を投げる相手おらずに心ここにあらずでいるとフェイロンが何か妙な鉢植えを持ち込んできたのをさとりました。


 匂いはおかしくは無いのですが、タケに見えますね。

 ただし花が咲いています。

 タケは100年に一度しか花が咲かず『ゆうたまくさ』と呼び歌題としては存じていましたが花は初めてです。


「フェイロン。もう少しその花をこちらに寄せて……」

「あ。マリカおきた」


 フェイロンは普通にしていればかわいいのです。

 普通の子供は成長しますし、妖精のごとき振る舞いは行いませんが。



 いい香りとは一概に言えませんが、不愉快でもないですね。匂いとしてはイネに近い……ふむふむ。イネに近い生き物だとは存じていましたが。


「こんな時まで研究なの。呆れた」

 フェイロンはこそこそと日陰に鉢植えを動かしてこちらに寄せてくれません。



「フェイロン。お願い。もう少し見せて」

「……マリカ。これはこの地独特のタケだから日の当たる場所は厳禁なんだ」


 フェイロンが言い終わるのとわたくしの寝台近くのカーテンがひらめくのは同時だったようです。


 すわ閃光の槍。

 急激に伸びたタケは天井を穿つと、急速に枯れてしまいました。



「あーあ。ングドゥがせっかくくれた貴重なものなのに。これは陽に当てないように育てておいて、春先や雪解けを喜んで竹束を飾るものなんだよ」


 我々がネのコマツヒキをするようなものでしょうか。

 フェイロンと言い、ングドゥといい、危険なものを持ち込みます。

 タケは確か地下茎が本体で、花をつけると一斉に枯れて世代交代するという仮説は読んだことがありますが、ふむふむ……。


「あーもう着替えて着替えて!? メイでも誰でもいいから女の子来て!? もうクムのとこの子でもいいよ!?」


 当地の特殊なタケで陽光を受けると急速に成長するため、比較的早く花を見ることができるらしく、花言葉は『正義ある限り太陽は登る』だそうです。


「その花言葉は論理としては前提からして間違いですけど面白い生き物ですね」

「もともとは美しき闘将ラウメンマとかいう英雄が人間不信に陥って、仙人の作った箱庭の世界でこれを使って敵を撃退……」


 彼に抱きつかんばかりに接近して話を聞いてしまうわたくしに彼は「ぼぼば」と音がする勢いで赤くなっていきます。

 見た目は嬰児ですがませていますね。


「風邪ひくし、カーディガン羽織ってお願いっ!」


 フェイロンは肩掛けをしてくれましたが、貴重な資料は取り上げてしまいます。



 とはいえわたくしの方が背が高いので頑張れば鉢植えくらいなら。


 そんなやりとりを行なっているとサフラン様に捕まって二人がかりで寝台に押し込まれました。


 なぜかフェイロンまで。



「フェイロン、あうるべあちゃんの代わりしてな。あのぬいぐるみは洗濯しているんだ」

「ちょ、ちょ、こまるよ」


 ちょうどいい具合なのですよね。

 最近照れて離れてしまいますけど。


 次に目覚めると甘い香り。

 やさしい湯気にこころ落ち着きます。


「がく……が?」

「起きたかマリカ。薬草茶を持ってきたぞ」


 慣れた手つきで三部族独特の茶器を扱うガクガは普段の行動を除けば佳人です。

 湯気を操り茶歌を歌い花を活ける彼女はただそこにいるだけでも周囲を明るくします。


 彼女が手渡してくれたお茶は懐かしい香りがします。


 甘く柔らかで心地よい香り。

 子供の頃に屈託なく笑い合った頃の思い出。


 あれは学生時代、友と学園の敷地内にある丘に登ってお茶会をしていたとき、確かロザリア様がよからぬたくらみをみせる笑みを浮かべて。あの香りこそまさに。


 ……もしや。


「ガクガ」

「なんだ。マリカ。貴重な薬草茶だ。遠慮なく飲め。香り高く味甘く身体にも心にも心地よい。さらに絹の糸のようなよき夢を見ることができる」


 ええ。確かにそうですね。覚えていますこの香り。


「このお茶ですが、やまとでいうチョンシーチャー(※chóngshǐchá)ですね」

「なんだそれは? それは貴重な冬糸芋虫に甘露草のみを食べさせてその糞を発酵させることでできる貴重なもので茶葉を使わず依存性はなく、甘みは冬糸芋虫の冬虫夏草の乾燥粉を使うことで香ばしく甘い良きもの。おまえのために奔走したのだ遠慮するな」


「ありがとうございます。貴重なもので馳走ありがたくおもうものの、少々体質と申しますか文化と申しますか、わたくしこの茶は飲めないようです」


 ガクガ、ごめんなさい。


 彼女はこの返答を聞くが早いか魔猿の脳髄活け作りを持ち込み、わたくしの物憂いが深刻な病と勘違いして泣き出してしまうことになります。



 わたくしはかつてロザリア様からいただいたものを全てミカの実家であるムラカミ陪臣家に送っていたことがありますが、香りを生み出す猫を用いたあの珈琲茶といいロザリア様の悪戯の出所までは存じませんでした。


 ちなみに知らずに二つとも召してしまった現ミーシャことマリア様は大変ご立腹していました。

 彼の方が読書に打ち込んだのは後にも先にもこの一件のみでしょう。




「フェイロン……休めません。みんなひっきりなしにお見舞いに来ます」

「よしよし。いーこいーこ」




 わたくしが目覚めたと聞いたのかあるいは寝ないとガクガから悩みを吐露されたのか。

 ミリオンが食べ物を運んできてくれました。


 これは10日株の甘酢漬けですね。

 ソースは……これは干し柿のペーストですか。


 酢はかなり良いものを使っていますね。

 爽やかで喉を潤し香りは鼻を通って瞳を潤ませてくれます。

 10日株は柔らかく甘みがあり、歯触りも素晴らしいです。

 甘味の糖蜜は花蜜ではなく甘葛を煮込んだもの何かでしょうか。コンジャクモノガタリにも登場する芋粥にも使います。上品な味わいですね。

 他にもセイショウナゴンが雪にかけてくちにしたとやまとの本で読みました。


「それなら食べられるでしょ。酢漬けというけど冬締めで甘みもあっておいしいんだよ」


 干し柿はミカが手ずから作ったものを分けてもらったそうです。


 やまとの甘柿は禅寺丸と呼び、やまとの暦で建保二年に突然変異で生まれたという不思議なもので、劣性遺伝による固有種でありミンなどのそれとは異なります。ムラカミ本家にはありますが。


 基本的にやまとびとの育てる柿のほとんどは渋柿で炙ったり干して渋を抜くのです。

 ミカの秘蔵の干し柿ならばたしかに美味しいでしょう。


「美味しいです」

「ゆっくり食べてね。今日のこれは小品なんだけどみんな喜んでいて料理人冥利につきるね」


 簡素な装いをして散歩に出ます。

 ピグリム先生から午後は可能なら散歩をするように指示されたのです。彼はおでかけですからなんかつまらないです。



 先ほどはベッポと孫のモモ、その友人のジロラモまで来ました。

 わたくし三部族の手真似をかなり勉強したつもりですが、モモのことばの半分もわからず、ベッポの解説に混乱しジロラモに揶揄われるように教えられることに。

 モモは歌い踊るように跳ねて飛んで愛くるしいのですが、わたくし自らの語学に対する自信が揺らいできました。

 ちなみにフェイロンは問題なく彼らと会話しており、三部族が持ち込んだ花を改めて活けています。ガクガは帰ってくれません。


 そしてガクガはミカの用向きをミカほどではありませんがそこそここなせます。

 意外な特技です。


 彼女の持ち込んだ花々は少々毒々しかったり『ピギィ』と鳴きますが、匂いも不快では無いです。


 当地の珍しい植物を独特のいけ方で扱うのでわたくしはガクガを質問責めにしますが彼女は丁寧に答えてくれます。

 やはり博識ですね。服さえまともならば異国の令嬢で通ります。


 実際に帝国では『守護者』は侯爵相当なのですが。



「春が来る。面白い花たくさん咲く。私はこの花が好きだ。この花とこの花、この草を合わせて嗅ぐといい匂いがするだろう」

「草そのものはほぼ無臭ですが、人間の嗅ぎ分ける機能を高めるようですね。これも麻薬ですか」

 麻薬は全て下げて欲しいのですが。


「ものごとにはよいことわるいことすべてある。片方を取り除くことはできない。薬は毒逆も真なり。


 それよりこちらの草も花の美しさを引き立てるが、香りこそみてほしい。これもおまえたちの鼻では匂いはほとんどしない。しかしその香りはおまえたちにもそしてはるかかなたにまで影響がある」

「……なにか特徴があるのでしょうか」



 ガクガ曰く、これは香りに関する記憶力を高める草だそうです。そして草などというがひとつひとつちがうもので言葉で定義するのは傲慢だという彼女ら独特の考えを語りました。


「ここにある花を添える草全てが『花薫文字』では接続詞として機能する」

 ガクガたちの学問が優れているのは存じていますが、言語学まであるのですね。

 そして草を生け花の添え物に使うのみならず接続詞として機能する文化とは初耳です。


「これらの匂いそのものはあまり感じないだろうが、その香りは人間の記憶力や嗅ぎ分ける機能や感情を揺さぶる」

「これはわかります。知的好奇心を高めるものですね」


 ガクガは呆れたのか、ハサミ代わりの黒曜石を手放しかけました。


「違う。これはただの虫除け。しかしこの城不思議。窓材もないのに暖かい空気逃げないし窓に雨が入らない。それはとにかく。


 これら接続詞になる草は記憶を呼び覚ますもの記憶に刻むもの色々ある。痛み悲しみを深め残さないものそれらを良き追憶としてとどめるものさまざまだ。


 匂いや花の美しさはこころにのこり来年の花薫文字になる。私はもう来年の花薫文字が楽しみでならない」



「あの。先ほどからガクガ。あなたのおっしゃる『花薫文字』とはあなた独特の訳でしょうか。あなたたちのことばでは」



 ガクガはまるで今日はじめてことばを耳にした哀れな赤子を見てしまったような顔をしました。



「マリカ。よく聞け。花薫文字は花薫文字だ。我々にはそれに対する音声言語での表現は無い……」



 彼女は花薫文字とは毎年誰かが育てる花々や作物、自然に咲く花、鳥やけものたち。海の生き物たちを歌いあげる花の香りと美しさを讃える独特の通信技術のようなものだと解説してくださいました。


 正直わたくしの想像を遥かに超えています。



 揮発性の香りや残留する香り、人間の記憶力や嗅ぎ分ける機能などを高める草花を用いて行う活け花であり耕作技術であり歌であり文化らしいのです。



 そもそもわたくし、ことばを伴わない歌ならば唸り声を用いた歌などは存じておりますが、音声を一切使わない歌の文化をはじめて知りました。


 ひょっとして先程のモモの手真似は歌だったのかもしれません。



「ングドゥは花薫文字がわからない人間の存在を信じていない。『大酋長たちはわからないふりをして人々の知恵を集めているのだ』と言うが……すまない考えさせてほしい」


 耳が聞こえずともこえがだせずとも気にしない三部族にとって、花薫文字がわからないということは重大な損失であることだけは理解できました。


 ガクガはこの件は誰にも話さないと申します。

 今からでも教えようと言いかけて。


「とりあえず休んだ方が良いのだろうな。簡単なことばなら教えられる」



 彼女はゆびさきをまわすようにゆっくりと自らを指してそのまま優雅にゆびさきをわたくしに。その指は同じように優雅にめぐり、小指と人差し指を伸ばしてこぶしを軽く握って見せます。


「これで『私はあなたを愛している』になる。比較的簡単だ。

 違う。反対向きに回すと『愛し憎み友情を育みたくおもいます』だ……表情や脚の向きも違う」

 複雑ですね。



「この活けた花も三つの花、2つの草で構成されているが、二つの草のこのほぼ無臭の匂いが重要で」


 わたくしは真剣にメモを取ります。

 研究をしていると物憂いから解放されたようになりますが、きっと無理をしているのでしょうね。そしてまた眠りにつくのです。



 その晩。

 わたくしは寝過ぎてしまい夜の星を数えていました。

 そばではフェイロンがすやすやと。



 “ほしかぞえ

 かおりかがやき

 はなのまい


 ゆめもそぞろに

 つきはめぐりて”


 わたくしが歌っていますと、星々も揺らいで光のうたと香りを届けてくれます。

 天を分ける『輪』に月に伴う二つの浮石。


 “つちはわく

 ひかりつどいて

 みずうたい”


 海は潮香りとともに腕のように波をうみ月明かりと共に輝き歌います。


 “かぜたちぬ

 やみのしとねに

 ほのお萌ゆ”


 彼方に街が見えます。

 その灯はまるで夜を知らないかのよう。


 ーーリュゼは執務室の小さな寝台で闖入者の気配を感じ飛び起きようとした。

 しかし。

 彼の身体は柔らかく暖かいなにか甘い香りのするものに絡め取られており。


「マリカ?」

「お父さま……」


 どうやら物憂いに取り憑かれた彼女が小さな寝台に入ってきたらしい。


 彼の寝台は子供の頃から使っているものでマリカにはいささか小さすぎる。



「マリカ。すまんが」

 起こさないように外せないものか。

 しかし彼女はしなやかにかつ柔軟に動き彼を絡みとる。


「……!」


 どうしようか。

 三部族独特の花の香りがする。

 おそらく昼頃から入り浸っていたガクガが活けたものの香りだ。

 正確にはマリカ自身から漂う花の香りはごく少量なのだが、花薫文字の効果でリュゼのさまざまな記憶を呼び覚ましている。


 その中には朧げな母の顔、戸惑いつつ微笑む父の顔も見えた。


 父が遊んでくれた手のひらの暖かさ。

 母が微笑み歌ううた。



 “かぜたちぬ

 やみのしとねに

 ほのお萌ゆ……。”



 先ほどまで不埒な想いに囚われかけていたことに苦笑いし、彼は薔薇の香りを放つ桜のくちびるに触れる。



「すまない」



「だめ。いかないでお父さま」

 たぶん彼女の幼い時、彼女は父や母の褥に潜り込んでいたのだろう。

 父は時々いくさにいく。そうすれば翌朝会えない。



 私の父は帰ってこなかった。

 彼女の父は帰ってこいと言っている。


 謝礼は丁重に送り返した。

 彼女は帰ろうとしない。

 正直それを喜んでいる。


 帰らないという彼女を留め置いてどうするというのだ。



「剣を振ってくる」


 太腿に絡め取られ豊かな胸に包まれ折れそうなほどに細く儚いしなやかな腹に触れ男として思わぬことないはずはないのだが、愛しさともう会えない家族への思慕、彼女が親たちに愛されて育ったという我が事のようなよろこびが胸を満たしていた。


 翌朝。

「これは夢遊病です」

「そうです。わたくしは殿方のしとねにみずからをゆだねるような不潔な真似はしません。物憂いです」


 医者のピグリムは笑っていた。

 妻は夢遊病と称してしとねに訓練にそして行く先々にやってくる。


 二人とも絶対楽しんでいる。

 後で覚えていろ。


 久しぶりに妻がグイグイきている。

 絶対屈しないぞ。



 彼は食料品倉庫の壺の中で寒さに震えながら頑張っていた。



「あのさ。リュゼ。食べ物痛むからやめて」

「ミリオン、重要なのだ。マリカに言うなよ」



 ミリオンはリュゼを相手せず、いつのまにか現れた厚紙製の大きな箱を見ている。



 箱は何故か動いていた。ーー

リュゼが貨物コンテナボックスの規格を定めて密輸対策と貨物効率化を推し進める有能さを発揮するように。

 ダンボール箱くらいは、素材からお嬢様は作れる。

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