表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新婚初夜に『トロフィーワイフ』と暴言吐かれて放置されました  作者: 鴉野 兄貴
物憂う令嬢たち、ちっとも休めず

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/66

ミカ、知人の少年と再会する【一日目。午後】

「さぁ殺しなさい! さぁさぁ遠慮なく!」


「なにあれ」

「変な人に関わってはいけませんメイ」


 無銭飲食をした流刑民が開き直るなどよくあることです。最近流刑民に実質的に財産を認めたのでややこしくなっている都合ですね。


 私、ミカ・ムラカミと城つきメイドのメイは街に遊びに来ています。

 物憂いとともに『遊んでいていいのか』という罪の意識は癒えつつあります。

 何よりこのメイというむすめが沈んだ気持ちにさせてくれません。


 先ほどは下着選びと女の子の道具選びで大騒動をしてくれました。気づいてはいましたが意外と大きくなったということもわかりましたし。



 先ほど『変な人に関わってはいけません』と申した身で言を翻しますが、大きなコカトリス三匹のうち二匹に跨って進むのはめちゃくちゃ悪目立ちします。


 先に禁じたはずですが冒険者たちが帯剣して遠巻きに見守るなか、子供たちが後ろからはしゃぎついてきて、一銭焼き屋台の匂い漂う中で集まってきた知人たちの声が響く程度には。


 ポチとタマが寄越したのか猫たちまでついてくる始末。

 ングドゥさんなど「オセンニギャラマルワ〜」と売り子をやっていますが後で見ていなさい。


 とはいえ何かに怒ってみたり戸惑っていなければ深い物憂いで沈んでしまいそうなのは確かです。

 ングドゥさんなりの思いやりかもしれません。


 それでも今日は粉屋の息子さんであるエドくんと仲直りできました。

 今となっては貴重な友人ですからね。

 もっとも彼の言う結婚の件は幸か不幸かお流れですけど。



「あっ。ミカ殿」


 知人は確かに増えましたが、『おみか』と呼ぶ同朋のやまとびとならぬ当地の人々は大抵「ミカちゃん」とか「ミカさん」と呼びます。

 まさかベンジャミンことフランクリンではないでしょうね。

 結婚するならすればいいのです。

 街中であんな恥ずかしい詩を朗読されたら恥ずかしくて外を歩けなくなるでしょうし。


 私の視線が一人の少年に自然と。


 人の良さそうな純朴な顔立ち。

 年齢にしては背が高く胸板も厚め。

 しなやかそうな背筋周りが透けて見える体型は防寒着など持っていないからでしょう。

 文系に見えて農夫出身だけあり鍛えられた身体に日焼けしたお顔。

 髪はややもつれているものの概ね美男子といえば美男子な殿方。

 先ほどまで馬車の糞便が残る街路で子供のように横臥して暴れていたためふためと見れない姿ながら知人ではあります。



「この人、ミカちゃんの彼氏? ばっちい」

「メイ」


 あなたも初めて会った時は。

 いえ声にしてはならぬこと。



「まさか。『王国の二柱の女神』と呼ばれたミカ殿とぼくとでは月と亀ですよ」

 少なくとも馬糞がついた服で近づくのは辞めてくださいなと申したくなります。

「……」


 メイは私と彼の間を視線でいったりきたり。

 真似をして三匹のコカトリスであるシロとコマとパイまで首を動かしています。

 足元では猫たちまで。

 とりあえずポチには明日鰹節はあげません。


「そのあだな。ださい」


 私、物憂いが過ぎて引きこもりになるかも知れません。



「それよりこれが大型コカトリスですか!? いやはやマリカ様のお手紙にあった通りですもっと近くで研究」


 以降は相変わらずの早口で聞き取れず、彼の早口についていけるのはお嬢様だけでございます。

 彼がお嬢様に懸想しているのは誰もが気づきそうな事実ですがお嬢様は完全に気づいていらっしゃる様子なく、彼も想いは伝わっていると誤解している節があり。


 さすがのコマも見ず知らずかつ汚物まみれの研究者に抱きつかれいささか閉口したらしく、石化毒のこもる嘴の一撃で彼を黙らせたようです。



 ざわざわと私どもを取り囲む街の皆様。

 無銭飲食代金を私に請求する食堂の亭主に帝国の銀粒を秤で示してから水につけてまた秤にかけます。



 この石像如何にしましょう。


 確かお嬢様の図鑑によればコカトリスのみが食する抗石化草で治癒でしたよね。

 さすがにそこまで手持ちなど。


「おいてこう。ミカちゃん」


 メイは二人きりに水がさすのを好まないようで、妹や弟ができた時に父や母が注ぐ愛情に一人っ子だった子供が示すものに通じる子供らしい嫉妬ジェラシーがまた可愛いのです。


 とはいえ、知人に子供たちが悪戯書きを始めるのを置いていくのは偲びません。


『”もしくはコカトリスの夫婦羽根や娘羽根を彼らから捧げられしものがその羽根で刺せば治癒する”とも書いていますね。ミカ』


 そういえばお嬢様が教えてくださいましたね。わたくしは前にパイからもらった風切り羽根を用いてライムの父であるサントスが作ってくれたものを取り出して。



「……大丈夫ですか」

「ああ。女神様。わたくしなどを迎えに来てくださりありがとうございます」


 ぷ。


 狩の獲物とおぼしき大袋を手に街にきていたガクガがいつのまにか近くにいて笑いを堪えています。

 彼女は笑い上戸のようで。屈辱的ですね。


「おいてこ。ミカちゃん」


 とりあえずガクガはまだしもンガッグックまでせんべいを売るのはやめてくださいませ。


 そこ、いい匂いでスルメを焼かないでください。

 何故デンベエじいちゃんまでいるのですか。

 しかも売り上げ良いみたいですし。


 前にこの悪徳商人のじいちゃんには助けてもらった事実はありますが、ミーシャと名乗っていたマリア様絡みと思えば複雑な気分です。彼は家族を得ましたが私は友人を二人も失いました。



「おおいたちより売り上げいいな」

「デンベエじいちゃんそんなせこい見せ物未だやっているのですか」


 おおいたちとは大きな板に赤い塗料を塗って九尺のおおいたち怖いよと客を騙すやまとの大道芸です。

 肩の上でぷよんぷよんしているスライムを掴んで睨んであげます。

 この程度でも大人を溺れさせることは可能です。


 すわ一瞬即発。

 しかしこの争いを止めたのもまたカラシ氏でした。


「俺が悪いと言うことにしろ! さぁ殺せ!」

 あとは相変わらずの早口でわかりません。


 白けたデンベエじいちゃんは泥まみれ糞便まみれの彼を助け起こしました。

 言っては悪いのですが真面目に臭いのです。

 こういうときのデンベエじいちゃんは立派です。


「おまえは何をしとる。ニコンの坊主」

「あっ。デンベエさん。あなた死んだって聞いてますけど」


「学者のくせにどうして知人周りについては一次資料?とかいうのか、それを見ないのだ。調べればわかるだろう。相変わらずお嬢様に懸想しとるのか。とりあえず銭湯代は出してやるから後でワシの家に来い」

「あ、洗濯代も。あと着替えも買ってください」

 厚かましいですね。

「おまえくらいだぞワシにたかるのは」

「あっ。できたら下宿代と食費もまけてください。いやぁ先程お嬢様に当座のお金をいただきましたけど、人助けに使ってしまいまして」


 私がお休みをしている間にとんでもないことがお城でも。

 そういえば不思議とカラシ氏とデンベエじいちゃんは仲良しでした。変な関係ですよね。

 ちなみにカラシ氏がたかるのはデンベエじいちゃんに対してだけです。

 時々へんなものを発明しては騒動を起こしていた関係でしょうね。


「あの人、変わってるね」

「メイ、あなたとおないどしですよ」


 海串焼きを手にメイはめちゃくちゃ嫌そうな顔をしました。


「あんなお友だちいらない」

「少なくともカラシ少年は教師にはなれないでしょうね」


 足湯で脚を温め喉を湯気で潤し屋台の食べ物を楽しんでいますと、皆さんが歌を歌い出しました。

 最初は哀切こめて。最後は肩を抱き合い大声で。



『くずいもや

 小さなくずいも

 傷だらけ

 寒さしばられ

 捨てられしいも


 泥まみれ

 でこぼこころぶ

 こいもたち

 そらにあめふり

 だいちはぐくみ


 はるはすぐ

 じょうぶに育ち

 立派になって

 小芋はぐくみ

 根つなげて行け


 我らいも

 くずいも集い

 陽を浴び

 手繋ぎいこう

 ひざのくにびと』


「ミカちゃん、あたしたちも『くずいもの詩』うたお」

「私、歌は苦手なので……私の歌声を聴き卒中を起こした方がいまして」


 調子はずれですが綺麗な歌声です。

 メイは訓練すれば化けますね。


 私もソロにならない程度に皆の歌に合わせます。

 苦手だからといって下手なわけではないのです。


 脚を温めるとともに流行歌に耳を澄ます私どもとは別に、男たちは勝手に旧交を温めています。



「おまえはワシと孫夫婦との間に割って入る気か」

「えっ。デンベエさん結婚していたのですか。

 お孫さんまでいつのまに。

 とりあえず奢ってください。祝杯しましょう」


 男たちは去っていきます。


「普通はおまえが奢るものだぞ。あと酒はやらんぞ。おまえはまだ子供なのだからな」

「まぁ流刑民ですのでお足がないし袖もふれないってことです」


 一銭屋台の匂いが香ばしいですね。



歩け(働け)馬鹿者」

「働けと申されても僕は農夫です。

 耕す土地さえ有ればドラゴンだって耕して見せますが10日株ですら10日必要なのです。


 学問が実を結ぶにはどんなに良いものでも多くの偏見と批判と無理解という長い長い冬に耐え、春を待たねば潰されることすらあります。


 それまでは旧友に頼らざるを。

 あ、また面白い作物の種を持ってきたのですがよかったら」


「持ってるならがささと出ぜぇだらんぼう(どあほう)が!」



 後半、またよからぬものが当地に持ち込まれそうなことを小耳にはさみましたが、ガクガがせんべいを齧っているのを見るにもう見せ物にならないと判断したのでしょう。ンガッグックも姿を消しております。



「『デンベエはよからぬ企みにカラシくんを巻き込む』とお嬢様はおっしゃっていましたが、それでもあの二人に関してはベンジャミンことフランクリンほど実害がないのがおそろしいですね……あっ」

「どひたの」


 食べてからにしなさい。

 とはいえこのお煎餅は美味しいですね。

 醤油の香りがたまりません。


「あいつら平民同士で仲良しだった!?

 しかもマリア様もといミーシャまでいるぅ!?

 お嬢様にご報告せねばー!」

「よくわからないけど、お嬢様やミカちゃんの知り合いってへんな人ばっかりだね」



 メイ。あなたが言いますか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ