娘は合同体育祭の開幕を行いたい
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──娘は合同体育祭の開幕を行いたい
10月12日。
再び王立ティアマト学園と聖ルシファー学園が衝突する合同体育祭の日が訪れた。
今年も優勝をと張り切る王立ティアマト学園。今年はとリベンジを誓う聖ルシファー学園。両校の生徒たちがグレイシティ・スタジアムに集った!
「飛ぶように売れるね」
「大儲けだな」
クラリッサとフェリクスのブックメーカーはここぞとばかりに儲けていた。
聖ルシファー学園もブックメーカーが出店しているが、生徒たちはオッズが微妙に異なる両者で購入することを選んでいた。賭ける対象はこの時ばかりは愛校心に溢れ、自分の学園に賭けていく。生徒数は聖ルシファー学園の方が微妙に多いが、賭けはほぼ拮抗している。まあ、どっちが勝ってもクラリッサは収益を得るのだが。
「儲かってますか、クラリッサさん!」
「アガサ。そっちも儲かってる?」
「それはもう。ビッグゲームってのはいいものですね」
そして、満面の笑みを浮かべたアガサが姿を見せた。
「儲けに儲かる。これほどいいことはありません。ギャンブルとはいいものです」
「全くだ。ギャンブルとはいいものだよ」
ふたりは王立ティアマト学園と聖ルシファー学園の生徒会長です。
「ところで、話は変わりますが、クラリッサさんが出場されるのは模擬魔術戦と自動車レースで間違いないですか?」
「間違いないよ。アガサは?」
「私は模擬魔術戦です。この前のリベンジを果たしますよ、クラリッサさん!」
「やれるものなら」
アガサの挑戦にクラリッサは不敵な笑みを浮かべた。
「それではフェアプレーの精神で行きましょう。スポーツマンシップという奴です。そろそろ開会の挨拶が始まるのでクラリッサさんは準備された方がいいかと思いますよ」
「おう。そうだった」
今回の開会の挨拶はクラリッサがやるのだ。
「行ってくる、フェリクス」
「ああ。しっかり決めろよ」
「任せろ」
クラリッサはトトトと開会式の行われるグラウンドへ。
「クラリッサちゃん! こっち! こっち!」
グラウンドではクラリッサをウィレミナが待っていた。
「間に合った?」
「ギリギリ。そろそろ学園長の挨拶が終わるからそれからすぐ出番だぜ」
「本当にギリギリだったな」
クラリッサは遅刻はせずに済んだ。
「あ。学園長の挨拶終わった。クラリッサちゃん、ゴー!」
「行ってくる」
ウィレミナが告げるのにクラリッサが壇上に立った。
「王立ティアマト学園と聖ルシファー学園の生徒諸君!」
クラリッサが告げる。
「待ちに待った合同体育祭という名のビッグゲームの始まりだ。王立ティアマト学園が王冠を維持するのか、聖ルシファー学園が王冠を奪還するのか。まだゲームは始まっていないので断言はできない。ただ、このビッグゲームは全ての生徒にとって特別な思い出になるだろう。両校の生徒がともに汗を流し、競い合った記憶は青春の一ページを飾るのに相応しい。さあ、雄たけびを上げろ! 闘争の犬を解き放て! 合同体育祭開幕だ!」
クラリッサの宣言に会場全体が沸き上がった。
「それでは合同体育祭をこれより開始します。まずは──」
王立ティアマト学園と聖ルシファー学園の体育委員会からなる実行委員会がプログラムを読み上げていく。玉入れから自動車レースまでの十数種類のプログラムだ。
クラリッサが参加予定なのは模擬魔術戦と自動車レース。
それまでは各選手の戦いぶりを見て回ろう。
400メートルリレー走。
王立ティアマト学園の出場者はウィレミナとジョン王太子だ。
「よーい。スタート!」
爆竹の音は鳴り響き、走者が一斉にスタートする。
ジョン王太子は最初にスタートし、ギリギリ先頭集団をキープする。
「そーれ、ティアマト・ファイト!」
何せ、応援席ではフィオナが応援してくれているのだ。期待に応えないわけにはいかない。ジョン王太子は手足が焼き切れそうなほどに加速し、先頭集団に食らいつくことを維持し続けた。
「任せた!」
「はい!」
ジョン王太子からバトンを受け取った選手はジョン王太子と同様に先頭集団にギリギリ食らいつくことを維持していた。だが、先頭に躍り出ることはできない。2~3位の順位をキープしているだけだ。
「ウィレミナさん、お願い!」
「任された!」
アンカーはウィレミナ。
流石は陸上部。脚力が違う。
聖ルシファー学園も陸上部員を競技に投入していたが、こと陸上競技においては分のある王立ティアマト学園陸上部に呆気なく突破され、ウィレミナは先頭に出た。
後はこのままゴールするのみなのだが、後方からは必死に聖ルシファー学園や他のチームが追い上げてくる。これを振りきらなければ1位でゴールインとはいかない。
ウィレミナは全力で走り続け──。
「ゴール! 王立ティアマト学園Aチームが1位でゴールインです!」
なんとか1位でゴールイン!
「1位は王立ティアマト学園Aチーム。2位は──」
勝敗の結果が読み上げられていく。
この勝負を制したのは王立ティアマト学園だ。彼らのチームが1位と3位を取った。
「やったね、ウィレミナ」
「おう。やってやったぜ、クラリッサちゃん!」
クラリッサが友人を迎えるのにウィレミナは汗をぬぐいながらそう返した。
「この調子で勝ちに行こう」
「おうとも!」
そう告げてウィレミナは施設に付属しているシャワールームに向かった。
さて、次の競技は?
「王立ティアマト学園対聖ルシファー学園の玉入れです!」
高等部に入ってからも玉入れというのはなんだが、運動音痴の選手にはありがたい。
出場者はサンドラとヘザー。ともに運動音痴コンビである。
「よーい、スタート!」
爆竹が鳴り響き、両校の選手が必死に玉を拾い、籠めがけて投げる。
だが、今回も籠を支えているのは人間だ。それも王立ティアマト学園の側では聖ルシファー学園の選手が、聖ルシファー学園の側では王立ティアマト学園の選手がそれぞれ籠を支えているのである。
この意地悪な仕組みのおかげで玉はなかなか籠に入らない。必死にぽいぽい投げても籠が大きく揺れて玉を回避するのである。
「こなくそー!」
サンドラが気合を入れて玉を投げる。
どういうわけだが、それは籠に向かわず、籠を支えている聖ルシファー学園の選手に向かっていった。サンドラの投げた玉が聖ルシファー学園の選手の右顎に命中し聖ルシファー学園の選手が一時的にノックダウンされた。
「今だ! 今のうちに入れろ!」
「ひゃはー! 得点いただきだー!」
倒れた聖ルシファー学園の選手の握る籠に王立ティアマト学園の選手たちが玉を投げ入れていく。1、2、3と得点が重ねられていく。
「サンドラさん! 次に玉を命中させるなら私にい!」
「わざとじゃない! わざとじゃないの! 本当に!」
一方のサンドラの方は自らの暴投を前に混乱していた。そりゃそうだ。
ようやく聖ルシファー学園の選手が起き上がり、再び籠を掲げようとするが、すでに手遅れ。籠にはどっさりと玉が積み込まれ、もはや抱えきれないほどになっていた。聖ルシファー学園の選手はえっちらおっちらと籠を抱えるがこれでは飛んでくる玉を回避しようにも回避できない。玉はどんどん籠に入っていく。
「えー。時間終了です。ですが、先ほどのサンドラ・ストーナー選手の暴投について審査が行われています。結果次第では王立ティアマト学園の反則負けです」
誰もが息をのむ中審査員たちが話し合う。
「審査結果がでました。先ほどの暴投もルール内とのことです。よって、勝者は王立ティアマト学園となります!」
王立ティアマト学園、またしても大勝利!
「やったね、サンドラ」
「何かずるした気分……」
「そんなことないよ。サンドラは正々堂々と戦ったよ」
「目を見て言って」
クラリッサは視線を逸らしている。
「勝ったからいいいじゃん。スポーツマンシップとかゴミだよ、ゴミ」
「とんでもないこと言いだした」
クラリッサは勝てばよかろうなのだ。
「この調子で得点を重ねていこう。勝つぞ!」
「うーん。勝つのは確かに嬉しいけど」
サンドラはなんだか納得いかないところはありながらもクラリッサに同意した。
続いての競技は二人三脚。
野郎同士でペアになってもつまらないので、今回は基本的に男女ペアになった。
そして、集まるカップルたち。
「フェリちゃん。同じ子宮で育った運命の力を見せつけてやりましょう」
「……ほどほどにな」
集まったのはカップルたちのはずだったがどういうわけかフェリクスはトゥルーデと組んでいた。これにはクリスティンも猛反発したのだが、トゥルーデの方が体格的にもフェリクスに近く、足を引っ張らないためにトゥルーデになった。
クリスティンは観客席でイライラしているぞ。
「フェリちゃん、もっと体を引っ付けて」
「嫌だ」
「それじゃあ、勝てないわ!」
「負けた方がマシ」
フェリクスは取り付く島もなかった。
「よーい、スタート!」
そして、選手が一斉にスタートする。
先頭に飛び出したのはフェリクスとトゥルーデの姉弟だ。
しかし、それを後から追うようにアガサと見知らぬ女子生徒のコンビが続く。
二人三脚は全力で走ればいいというものではない。互いの速度に合わせて走らなければならない。足を出す順番も綺麗に整っていなければならない。
その点、フェリクスとトゥルーデのコンビは最強だ。
姉弟として息は合っているし、お互いの限界を知っている。フェリクスとしては否定したいところだろうが、フェリクスとトゥルーデのコンビはばっちりだった。
だが、アガサと女子生徒のコンビも負けてはいない。
恐らく長い練習を重ねたのだろう。フェリクスとトゥルーデ並みに息があっており、フェリクスとトゥルーデのコンビを猛追する。
「フェリちゃん! ギアを上げていくわよ!」
「ああ」
トゥルーデとのコンビは嫌がりながらもやっぱり負けたくはないフェリクスだった。
フェリクス・トゥルーデ姉弟が先頭を進み続け、アガサたちが背中を追う。
そして、ついに──。
「ゴール! 王立ティアマト学園Aチーム1位です! 聖ルシファー学園Aチームは残念ながら惜しくも2位となってしまいました!」
フェリクスとトゥルーデは見事1位を獲得した!
「やったわね、フェリちゃん! 1位よ、1位! これも私とフェリちゃんの絆のおかげよね! 大勝利だわ!」
「分かった、分かったから落ち着け姉貴。せめて足のひもを外せ」
トゥルーデが飛び跳ねるのにフェリクスは転びかけていた。
「残念です、お姉さま。私たちならいけると思ったのですが」
「また今度の機会はありますよ」
そのころアガサコンビは姉妹愛な雰囲気を醸し出していた。だが、この女子生徒とアガサは姉妹じゃないぞ。どういう意味かは分かるだろう。
「さて、そろそろ後半戦だ。この調子で勝ちに行こう!」
「おー!」
クラリッサが号令をかけ、サンドラたちが手を合わせる。
合同体育祭──ビッグゲームは後半戦へと突入していった。
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