娘は模試に挑みたい
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──娘は模試に挑みたい
ヘルヴェティア共和国での贅沢な夏休みも終わり、クラリッサたちはアルビオン王国へと帰国した。サンドラたちはみんなヘルヴェティア共和国の清らかな自然環境を満喫できたと満足度100%であった。
さて、それで夏休みの旅行が終わるといよいよ夏休み明けにある模試に備えての勉強になる。模試でいい点を取っておかないと、志望校への入試を止めるようにと進路指導の教師から言われてしまうので頑張りたいところだ。
「グレンダさん。採点はどうだった?」
「まだまだB判定というところね。この夏が頑張りどころだと思うよ」
クラリッサもグレンダから過去問を譲り受け、第一次試験を実際に時間通りに解いてみると言うことにチャレンジしていた。
だが、なかなか得点は安全圏と言えるA判定には届かない。
「ううむ。具体的にいうとどの分野がダメ?」
「古典と歴史と第一外国語、第二外国語ね。他はよくできてるわ」
クラリッサは相変わらず文系科目がダメダメだった。
だいぶ改善が進んできたかなと思われたのだが、やっぱりオクサンフォード大学という名門校に合格するためには些か足を引っ張っている。逆に理系科目はパーフェクトに近い。問題は文系科目のみである。
「むう。入試も来年度に迫ってるし、時間もないよね」
「そうね。でも、逆に言えば今覚えたことがすぐに発揮できるわけだから、頑張り甲斐があるとは思わない?」
「なるほど。確かに」
一夜漬けとはいかずとも、短時間で学習して、すぐに結果が出るというのはあまりに長期に渡る勉強の結果を1回限りで出すよりもいいかもしれない。
「模試の他にも夏休みの宿題もしないといけないしな。グレンダさん、お昼ごろから来てもらうってことはできる? お昼ご飯はうちで食べていって。御馳走を出すよ」
「ええ。研究室の仕事のないときは大丈夫。けど、研究室の手伝いとか仕事とかがあるときはやっぱりいつも通りの時間にしかこれないかな」
「そっかー」
グレンダも大学生なのでいろいろとやらなければならないことがあるのだ。
「じゃあ、来れる日でいいからお昼から来てね。そうじゃない日は友達とかと勉強してるから。夏休みが勉強漬けというのもあまりいい気分じゃないけど」
「大丈夫。この夏と高等部3年の夏をクリアしたら、大学1年生の夏ははしゃげるから。オクサンフォード大学はサークルによってはパーティーがあるよ」
「サークルって何?」
「部活動のようなものかな。私は文芸サークルに入ってる。小説を書いてるの」
「へえ。読んでみたい」
「恥ずかしいから読んでもらうのは無理かなあー……」
クラリッサは興味を示したものの、グレンダは恥ずかしがってしまった。
「よし。私も将来の夢のために頑張ろう。今は辛抱あるのみだ」
「そうそう。人生は長いんだから。頑張って合格を目指しましょう」
というわけで、クラリッサとグレンダはグレンダがお昼から来れる日を確認すると、今度からお昼から来てもらうことにしたのだった。
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グレンダがお昼から来れない日はクラリッサはウィレミナたちと勉強会をすることにした。場所は学園の図書館。夏休み中でも図書館は開いているのである。
「ウィレミナは過去問やってみた?」
「やったよ。兄貴の伝手で過去問手に入れたから」
「どうだった?」
「A判定は確実だね」
クラリッサの問いに、ウィレミナがサムズアップして返した。
「ずるい」
「ずるいって。今まで勉強していた結果が出ただけだぜ」
クラリッサがジト目でウィレミナを見るのにウィレミナがそう返した。
「サンドラはどうだった?」
「うーん。B判定かなー……」
サンドラは渋い顔でそう告げた。
「サンドラでもB判定なのか」
「まだ習ってない部分もあるからね。今度の模試ではA判定を取る自信はあるよ!」
過去問は高等部3年までの授業を修めていることが条件で作られている。クラリッサたちはまだ高等部2年なので高等部3年で習っていない場所が含まれているのだ。
「まあ、できることをしていこう。……何ができるかな?」
「復習だね。これまで習ってきたことを復習していこうぜ」
「よし来た。どこから始める?」
「とりあえず──」
それからクラリッサたちは高等部1年からの勉強を復習していった。テストで間違ったり、苦手だったりした部分を重点的に。お互いに得意分野を教え合いながら、地道に勉強を進めていった。
「はあ。なかなか頑張ったね」
「くたびれた……」
クラリッサは燃え尽きている。
「今からお茶でもしに行かない?」
「いいね。ちょっとゆっくりしよう」
そんなサンドラの提案で3人は学園を出て、お茶をしに向かった。
「いいお店ある?」
「この間、アップルパイにアイスクリーム乗せて出してくれるお店見つけた」
「いいね。そこにしよう」
クラリッサたちはそのデリシャスなスイーツを出してくれるお店へと向かった。
「いらっしゃいませー。3名様ですか?」
「おう」
「それではテーブル席へどうぞー」
ウェイトレスの案内でクラリッサたちはテーブルへ。
「このアップルパイのアイスクリーム添えって奴だね」
「ううむ。名前だけで美味しそうだ」
クラリッサたちは全員で同じものを注文する。
「どんなのだろう?」
「楽しみ、楽しみ。ここのところ、暑いから冷たいものが食べたかったんだよ」
ワクワクしながら待つこと十数分。
「お待たせしましたー。アップルパイのアイスクリーム添えです」
ドンと提供されたのはボリューム満点のアップルパイ1切れにドテンとアイスクリームの丸い塊が乗ったものだった。甘さと甘さの過積載だ!
「いただきまーす」
クラリッサは早速アップルパイとアイスクリームを切り取ると、口に運んだ。
「ううむ。糖分が頭に染み渡る。やはり勉強した後の甘味は最高だな」
「本当に。これのために勉強をやっていると言っても過言ではないよ」
クラリッサとウィレミナがそう告げ合いながらもりもりとアップルパイとアイスクリームを平らげていく。
「サンドラ? 食欲ないの?」
「そ、そういうわけじゃないんだけど……」
サンドラのアップルパイとアイスクリームはあまり減っていなかった。
「なんだか太りそうで。私、クラリッサちゃんたちみたいに代謝良くないし」
「むう。サンドラも気にするほど太っているとは思えないけれど」
サンドラはちょっと丸いものの、太っているというほどではない。
「あたしと一緒に運動する? 走れば痩せるよ?」
「朝から散歩はしてるんだけどなあ」
日ごろから運動を習慣づけておかないと、まだまだ医学の面で現代地球に劣っているこの世界では生活習慣病になったらそれまでだぞ。運動の習慣と適度な食事は大事だ。
しかし、このようなカロリーの暴力を体現したような三時のおやつを食べると並大抵の運動では打ち消せないだろう。サンドラもウィレミナのように陸上部並みの運動をしなければならないかもしれない。
まあ、そう何度も食べるものでもないので気にしなくてもいいだろう。
「けど、本当にこれ、美味しいね。誰だろう、最初にこんな美味しいデザート考えたの。きっと素敵な人だね」
「いやはや。本当に。アップルパイはサクサクだし、アイスクリームは冷たいし、夏に食べるのにこれ以上のデザートはないよ」
サンドラたちは美味しいカロリーの暴力に舌鼓を打った。
「さてと。美味しいものも食べたし、勉強に戻ろうか」
「うう。つらい現実が戻ってきた」
「頑張れ」
というわけで、カロリーの暴力を食したクラリッサたちは再び勉強へ。
甘いものを食べて糖分が頭に行き渡ったクラリッサたちは夕方まで勉強を頑張ると、暗くなる前に図書館を後にしたのだった。
頑張れ、クラリッサ。努力は必ず報われるぞ。
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模試当日。
高等部2年はそれぞれの志望校ごとに分かれることになった。
志望校が海外のフェリクス、トゥルーデ、クリスティンは一先ず一般的な難易度の試験を受ける。高等部3年に入ったら、それぞれの志望校の試験を受けることになる。
クラリッサとウィレミナはオクサンフォード大学。サンドラはセント・アンドリュー大学。ジョン王太子とフィオナはケンブリッジ大学。ヘザーはロンディニウム大学。
ジョン王太子は政治学を学ぶことにし、フィオナは自然科学──特に植物学の道に進むことにしたようだ。ジョン王太子は将来は実権を持った国王だからね。政治学は必須だね。それはそうとして理系もできないとお父さんに怒られるけれど。
「目指せ、A判定!」
「おー!」
クラリッサたちは気合を入れて模試に臨んだ。
クラリッサたちの挑むオクサンフォード大学の模試は過去問で分かっていたように非常に難しかった。問題は数捻りしてあり、そう簡単な回答は許さない。クラリッサは得意科目である理系はぱぱっと片付けたが、文系科目はじりじりと時間制限にさらされながら、必死になって解くことになった。
そして、模試は終了。
「クラリッサちゃん。実感は?」
「ムズイ……。第一外国語の作文とかかなりいかれてた」
模試が終わったクラリッサはダランと机の上に伸びる。
「あれ、難しかったよね。あたしもギリギリできたかなって感じだった」
「ウィレミナがそんな状況なのに私に解けるはずもなく……」
「諦めるな、諦めるな」
クラリッサはすっかり打ちのめされていた。
「クラリッサちゃんたちどうだった……ってクラリッサちゃん伸びてるね」
やがて模試を終えたサンドラがやってきた。
「サンドラはどうだった?」
「まずまずの出来。苦手だった理系科目がどうにかなったのが幸いだったね。でも、本番はきついのが来るかもしれないから油断大敵だよ」
サンドラは理系は苦手科目だったが、宮廷魔術師を目指すと言うこともあり、苦手分野の克服に力を入れていた。今回はそれが報われた形だ。
「むー。きつかったのは私だけ?」
「そんなことないと思うよ。ほら、ジョン王太子も伸びてるし」
クラリッサが不満そうに告げたとき、ウィレミナがジョン王太子を指さした。
ジョン王太子もクラリッサと同じように打ちのめされていた。
「まあ、ジョン王太子はジョン王太子だし」
「すげー適当な反応」
というわけで、模試は終了。
後は結果を見てみよう。
「クラリッサ・リベラトーレ。志望校オクサンフォード大学。A判定」
「おお。やったじゃん。クラリッサちゃん!」
クラリッサは見事にA判定を獲得していた。
「ウィレミナは?」
「A判定」
「だろうね」
クラリッサがA判定なのだ。ウィレミナがそれに後れを取るはずもない。
「サンドラ。どうだった?」
「A判定だって! やったね!」
サンドラも見事にA判定を獲得。
「フェリクスたちは?」
「B判定」
「あれま」
フェリクスはA判定を逃していた。
「私はA判定でした。フェリクス君にはもっと頑張ってもらわないといけませんね」
「ちっ。そう簡単にはいかないってわけか」
フェリクスはつまらなそうに舌打ちした。
「フィオナは?」
「A判定です。なんとかですね。二次試験が心配ですわ」
フィオナもA判定。
「ヘザーは?」
「B判定ですよう……。これではサドでマゾな心理学が受講できませんよう!」
「うん。まあ、頑張って」
クラリッサはかける言葉がなかった。
「よし。この調子で頑張っていこう。A判定でも油断大敵。合格するまでが受験だよ」
「おー!」
果たしてクラリッサたちは無事に志望校に合格できるのか?
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