娘は合同水泳大会で勝利したい
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──娘は合同水泳大会で勝利したい
「個人背泳ぎ。まもなく開始です」
背泳ぎは飛び込み台から飛び込まず、プール内からスタートする。
サンドラはバーを握り、スタートの合図を待っていた。
「位置について!」
そして、審判の号令が響く。
「スタート!」
爆竹の音が鳴り響き、一斉に選手がスタートする。
サンドラは力を込めて腕を振り、必死に前に進む。戦闘科目の体育は取っていないが、基本的な泳ぎ方はちゃんと体が覚えているはずだ。そう信じて、腕を振り、水しぶきを上げながら、進み続ける。
そして結果は──。
「4位。王立ティアマト学園のサンドラ・ストーナー選手」
4位である。
何とも言えない順位だが、背泳ぎの1位の選手は王立ティアマト学園の選手で、2位も王立ティアマト学園の選手だ。サンドラはちゃんと足を引っ張らずにゴールできた。
「やったよ、クラリッサちゃん!」
「おう。やったね、サンドラ」
プールから上がってきたサンドラがクラリッサに抱き着くのにクラリッサがよしよしとサンドラの頭を撫でる。
「続いて個人バタフライです。選手は位置についてください」
「よし行くか」
王立ティアマト学園の代表選手のひとりはフェリクスだ。
「フェリクス。勝ってきなよ」
「任せとけ」
そして、フェリクスがスタート台の上に立つ。
「位置について!」
スタート台に緊張が走る。
「スタート!」
そして、一斉に選手が飛び込む。
流石はフェリクス。普段から鍛えているおかげで、一気に1位に躍り出る。聖ルシファー学園の選手が2番手につけて必死にフェリクスを追うがなかなか追いつけない。フェリクスはそのまま水しぶきをまき散らし──。
「1位! 王立ティアマト学園のフェリクス・フォン・パーペン選手!」
会場が歓声に包まれる。
「流石よ、フェリちゃん! 流石だわー!」
特に興奮しているのがトゥルーデなのは言うまでもない。
「バタフライも王立ティアマト学園の勝利となりました。聖ルシファー学園、押されています。挽回できるか? 続いての競技は個人メドレーです」
「よし。行ってくるか」
クラリッサが力を込めてそう告げる。
「頑張って、クラリッサちゃん!」
「このまま勝ち抜けー!」
サンドラとウィレミナの声援を浴びて、クラリッサがプールに向かう。
「目玉競技ともいえる個人メドレーですが、なんと両校の生徒会長同士の対決でもあります。王立ティアマト学園からはクラリッサ・リベラトーレ選手。聖ルシファー学園からはアガサ・アットウェル選手。両者ともに文武両道で知られています」
そうなのだ。
アガサは魔術と芸術だけではなく、体育にも強いのだ。プロの選手並みにとは言わずとも、水泳もかなりの得意競技である。まさに文武両道。
クラリッサもここ最近は成績が上がっているので文武両道を名乗ってもよい。
「それでは位置について!」
審判の号令が下る。
「スタート!」
そして、勝負の幕は切って落とされた!
最初にバタフライでリードしたのはクラリッサだ。
「クラリッサ・リベラトーレ選手。快調に進んでいますが、アガサ・アットウェル選手が猛烈な勢いで追い上げています! これはどうなるか!」
そんなクラリッサを逃すまいとアガサが猛追する。
水しぶきが飛び散り、両者はほぼ横並びになる。
だが、ここはクラリッサ。人狼ハーフの筋肉が伊達ではないことを示すときだ。
背泳ぎに移るとクラリッサは一気にアガサを引き離した。
アガサも負けじと追いかけるが、人狼ハーフの筋力を解放したクラリッサにはなかなか追いつけない。瞬く間にふたりの距離は離れていってしまい──。
「1位! 王立ティアマト学園のクラリッサ・リベラトーレ選手! ダントツの1位です! 他の追随を許しませんでした!」
クラリッサはアナウンサーがそう告げるのに対して、プールの中から観客席に向けてサムズアップした。それによって歓声がハディッド・センターの中にこだまし、男子も女子もクラリッサに熱烈な声援を浴びせる。
「2位。聖ルシファー学園のアガサ・アットウェル選手。残念ながらクラリッサ・リベラトーレ選手には追い付けませんでした」
2位でアガサがゴールイン。
「流石ですね、クラリッサさん」
「まーね」
息を切らせてアガサが告げ、クラリッサが胸を張った。
「ですが、そこまで泳げるのに何故水泳部に入っておられないのですか?」
「水泳部は儲からない」
クラリッサは言い切った。
「儲かる部活があると?」
「内緒」
クラリッサたちがカジノ部でぼろ儲けしたことは内緒である。
「気になりますが、それはまたいずれ」
「情報公開してもよさそうだったら教えるね」
そして、ふたりはプールから上がった。
「クラリッサちゃん! おめでとう!」
「おう。やってやったぜ」
サンドラがクラリッサを抱擁するのに、クラリッサがVサインを送った。
「クラリッサさん、凄かったですわ! 流石はクラリッサさんですわ。本当に文武両道。やはり普段から鍛えておられるのですか?」
「朝と夕のジョギングと筋トレは欠かさないよ」
クラリッサは人狼ハーフの筋力を持っているが、それを磨き続けることもやめていないのだ。こう見えて勉強の合間にしっかり鍛えているのである。
「クラリッサ・リベラトーレさん! インタビューお願いできますか!」
「おうとも。何なりと聞いてくれていいよ」
クラリッサはそれから新聞部の熱烈なインタビューに応じた。
王立ティアマト学園の士気はこのクラリッサの勝利によって大きく向上。
リレーにおいても聖ルシファー学園を破り、7対0で聖ルシファー学園に大差をつけた。当初の勝利予想は聖ルシファー学園優勢だっただけに、観客たちは動揺。しかし、この先の見えないゲームに熱中することになる。
しかしながら、この後行われた高等部3年の勝負では、王立ティアマト学園 が2対5で敗北。満を持して行われた水泳部同士の一騎打ちでも2対5で敗北。14対14という同点に持ち込まれてしまう。
勝負を決するのは最後の一試合。
つまり水着コンテストだ。
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水着コンテストのためにクラリッサは更衣室に着替えに向かった。
「サンドラはこれ、フィオナはこれね」
クラリッサは参加するサンドラとフィオナに水着を配る。
「うええっ!? こ、これ、着るの?」
「は、破廉恥ではありませんか?」
水着を準備したのはアガサのアパレルメーカーだ。会社の宣伝にしようと、ここぞとばかりに最新のデザインの水着を送り込んできたぞ。
その水着たるや、これまでの常識を覆さんとするもので、露出度はそれはもう凄かった。水着というよりただの布である。
「大丈夫。私も着るから。自分たちの美貌を見せつけるチャンスだと思わなきゃ。ジョン王太子たちも注目しているよ」
「殿下も……」
フィオナはキュンとしながらも水着を見る。
「……あまり注目してほしくありませんわ」
「そう言わない、言わない」
フィオナは冷静だった。
「けど、クラリッサちゃん。これは恥ずかしいよ。他にないの?」
「ないことはないけど……。この水着コンテストで勝敗が決まるんだから、迂闊なことはできないよ? 思いっきり肌を出していこう?」
「お父さんたちが来てるのにやだよ!」
そうなのだ。
今回の水泳大会には保護者も招かれているのだ。サンドラの両親も来ているし、フィオナの両親も応援にやってきている。フィオナの父親はグラフトン公爵の地位を持った人物である。そんな大物が来ているのに、娘が半裸に近い状態でプールサイドに現れたら、それこそバニーガール使い魔喫茶のときよろしく、卒倒しかねない。
「仕方ない……、なら、これ」
「これも露出多くない?」
「サンドラは文句が多くない?」
クラリッサはこれ以上は譲歩しない構えに出たぞ。
「これでしたらなんとか」
「よし。じゃあ、着替えるとしよう。優雅に登場するよ」
クラリッサたちはいそいそと水着を着替える。
「完璧」
「クラリッサちゃんはよくそんな水着着れるよね……」
クラリッサの水着は布面積がびっくりするほど狭い水着だ。上半身も下半身も露出度が凄い。これを普通に着てたら痴女扱い間違いなしである。
「サンドラとフィオナのもなかなかいいじゃん」
サンドラはチューブトップ型の水着だが、胸のあたりが猫の顔のように切り取られている。地球で流行った例の下着みたいな感じと言えば分かるだろう。
フィオナの水着は競泳水着のようで脇の辺りと背中の辺りが大きく切り取られており、フィオナのたわわな上半身のお肉がはみ出している。色気はばっちりだ。下半身はスカート型のフリルでワンポイント。
「それではいくとしようか、諸君」
「お、おー……!」
サンドラたちは恐る恐る更衣室を出て、選手控室に向かった。
「おおー! サンドラちゃんたちかわいー!」
控室では待っていたウィレミナが歓声を上げていた。
「そうかな?」
「うんうん。可愛いよ! フィオナさんも似合ってる! クラリッサちゃんは……」
「おい。私がどうしたのか言ってもらおうか」
クラリッサのきわどい水着にはコメントしにくい。
「クラリッサちゃんのも個性的だと思うよ、うん」
「まあ、スタイル抜群の私だからこそかな」
「確かに引き締まった肉体をしておられる」
クラリッサの体は無駄な肉がなく、研ぎ澄まされた日本刀のような肉体だ。
胸のお肉の方はアベレージ。可もなく、不可もなく。
それに対してサンドラは肉感のある柔らかそうな体をしている。平均より低い身長に対してグラマーな体型をしているからかもしれない。
フィオナの方は背丈もそれなりにあり、スタイルも抜群。プロのモデルが務まりそうなほどだ。きっとジョン王太子は見とれるに違いない。ちょっと恥ずかしがり屋なせいで、その誇るべき肉体を隠そうとするのはちょっといただけないぐらいしか弱点はない。
この3名で水着コンテストの女子部門を取りに行くのだ。
「胸を張って堂々とね。猫背になったりしたらダメだよ。何ら恥ずかしいことはないって思わないと。自分たちは魅力的なんだってことを頭に叩き込んで。審査員は恥ずかしさや照れに敏感だからね。そういうのはマイナス評価になるよ」
「お、おうー!」
クラリッサが告げるのにサンドラたちが気合を入れる。
「恥ずかしくない。恥ずかしくない。恥ずかしくない」
「そうそう。恥ずかしくない」
サンドラが繰り返すのにクラリッサが頷く。
「クラリッサ。準備はできたか?」
「おうともよ。ばっちりだ」
フェリクスが控室を覗き込み、クラリッサがサムズアップして返した。
「すげー水着着てるな……」
「見ほれた?」
「全然」
フェリクスはただ呆気にとられただけである。
「それよりそろそろ出番だから準備しとけよ。まずは男子部門からだが」
「いつでもオーケーだぜ」
「それならいいが」
フェリクスは頷くと男子控室に引っ込んだ。
「男子の水着ってどんなのかな?」
「さて。アガサのメーカーが自信を持って送り出す品でしょ」
クラリッサたちはそう告げ合って、控室からプールサイドを見た。
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