娘は高等部1年での文化祭に備えたい
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──娘は高等部1年での文化祭に備えたい
文化祭でギャンブルが中止になって早2年。
今ではクラリッサが生徒会長。
そうです。クラリッサが公約通りに文化祭におけるギャンブルを合法化します。
「今年からギャンブル解禁だよ」
「……監査委員会などの編成については?」
「そういうものはいらないと思う。いかさまはいかさまに遭う人間が悪いよ」
凄い暴論を振り回し始めたクラリッサだ。
「ダメだよ。ちゃんと監査委員会を組織して、公平さを維持しないと」
「やだー」
「やだーじゃない。君は子供か」
「ぴちぴちの16歳」
クラリッサは子供である。
「ギャンブルをするなら講習会を開いて、監査委員会を組織して、過度な賭けが行われないようにしないと。限度を超えた賭けはトラブルのもとになるからね」
「トラブルは個人個人で解決すればいいよ。私たちが口出しすることじゃない」
「ダメ」
クラリッサは何が何でも監視なしでギャンブルがしたいようである。
「じゃあ、監査委員会の人選は私に任せてね」
「ダメ」
「私が生徒会長なんだよ? 分かってる?」
クラリッサに監査委員会を組織させたら機能しない監査委員会が組織されるだけだ。
「君は生徒会長だが、好き勝手にやれるわけではないのだ。私が生徒会長の時も君はあれこれ口出しをしたし、先生たちからもいろいろと苦情を受けたし、生徒会長というのは生徒の代表として学園の自治を主導するものであり、皇帝や国王ではない」
「じゃあ、大統領で」
「肩書を変えれば良いってものじゃないんだよ!」
クラリッサ、大統領でも弾劾されたり、クーデターで追放されることがあるぞ。
「君があまりに常軌を逸した行為を行うのならば、罷免を行うからね?」
「私は生徒たちから大幅な信頼を得ている。罷免されることなんてありえない」
ジョン王太子とクラリッサの間で火花が散る。
「ふたりとも言い争っても無駄です。それよりもギャンブルを許可するための準備を行いましょう。私としてはこういうことには反対ですが、それでもどうしてもやるというのであれば、全力を尽くす次第です」
さっきから生徒会日報を作っていたクリスティンがそう告げる。
「でもさー。クラリッサちゃんは監査委員会いやなんだろ? どうするの?」
「監査委員会は必要です。監査委員会なしではそもそも文化祭そのものが危うくなります。監査委員会はギャンブル以外のことも取り締まるのですから」
そうだぞ。
クラリッサたちが中等部2年の時から収益が還元されることになったので、不正をしていないか監視するためにも監査委員会は組織されていたのだ。
「フィオナはどう思う? 監査委員会って絶対に必要?」
「あった方がいいかと思いますわ。トラブルを未然に解決すればクラリッサさんのリーダーシップも評価されるでしょうし」
「よし分かった。監査委員会を組織しよう」
フィオナの意見でころっとクラリッサの方針が変わった。
リーダーシップが取れる。すなわち、次の選挙での支持者が増える。クラリッサが再選する。そしてクラリッサはより多くの権力を手に入れる。
凄い方程式だ。
「監査委員会の権限は?」
「必要最小限。違反の報告義務のみ。その報告を見て私が判断する」
「それでは絶対に機能しないよ、クラリッサ嬢」
「何故に」
「君は絶対自分の不正には目を瞑るだろう!」
そうである。
クラリッサに最終判断を任せていたら、自分に不都合な報告は握りつぶすだろう。今のクラリッサは権力を持ち、そしてその権力を乱用して、不正に富を築こうとしているという汚職政治家も真っ青な人間なのだから。
「なら、どうするの?」
「ギャンブルをするのであれば、ギャンブル反対派と賛成派を半々で構築し、不正について摘発してもらおう。そして、その判断を下に私たち全員で対策を決める。いいね?」
「仕方ない」
クラリッサはやれやれというように肩をすくめた。
クラリッサの夢はホテル・カジノ経営者だが、カジノの経営でもこんなに文句が来るかと思うとうんざりとさせられる。カジノの経営には口出ししてくる人間が来ないことを祈るばかりだとクリッサは思った。
だが、実際のところ、カジノにもこういう監査委員会のような組織が設置されることになっている。カジノの経営には、まずその組織から審査を受けて営業許可証を発行してもらう必要がある。その営業許可証も一度発行されれば永遠に有効というわけではなく、正しく法に沿って営業が行われているのか、定期的にチェックが行われるのである。
クラリッサの嫌いな監査委員会は学園の外にもあるわけだ。だから、今のうちに慣れておこうな、クラリッサ。
「監査委員会の人選は?」
「文化委員会に頼もう。彼らに中立的な立場から人選をしてもらう」
「中立なんて人間はいないよ」
「むぐ。とにかく、ギャンブル賛成派と反対派で半々。それでいいね」
というわけで、監査委員会の設置は決まった。
監査委員会が設置されるのを待つとして、ここはクラリッサの1年A組が文化祭で何をするのか、覗いてみることにしよう。
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「今年からまたギャンブル解禁だよ。いえい」
「いえい、じゃないよ。今、文化委員会は監査員会の人選がどうのってもめてるんだから。面倒ごとが増えるばかりだよ」
今年の文化祭も進行を仕切るのは文化委員のサンドラだ。
「では、皆さん、やりたいことを挙げていってください」
「はい」
「クラリッサちゃんはどうせカジノでしょ」
「凄い。サンドラはエスパーなの?」
「これぐらい誰にでもわかるよ!」
クラリッサがカジノをやりたがるのは本当に誰にでもわかる。
「他には?」
「はいはーい」
「ウィレミナちゃんは喫茶店ね」
「凄い。サンドラちゃんってエスパー?」
「ウィレミナちゃん、毎年喫茶店って言ってるじゃん!」
ウィレミナが喫茶店をやりたがるのも想定のうち。
「ここでもう一味欲しいね」
「やめよう? また毎年のように属性の過積載にするのはやめよう?」
クラリッサが告げるがサンドラがそう宥めた。
このクラス、毎年出た意見を全て載せるので、何やらとんでもないものが出来上がってしまうのである。今回はシンプルにカジノ喫茶としたいところである。
「この間の写生大会の絵を飾って、アート喫茶にするのはどうですかあ?」
そのような状況の中、ヘザーがそう告げた。
「アート喫茶か。いいね」
「写生大会の絵なら準備も楽だぜ。けど、この間の写生はいまいちだったんだよな」
「美術選択者は自慢の作品を持ち寄ることにすれば?」
「いいね!」
クラリッサとウィレミナは早速盛り上がっていた。
「ええー……。美術選択者の作品って正直……」
「言いたいことがあるなら言ってもらおうか」
美術選択者の作品は正直、個性という問題で片付けていいものじゃないぞ。
まあ、だからと言って音楽選択者に美術的才能があるわけではないことは、この前の写生大会でジョン王太子自らが証明しているのだが。
「ちょっと待ってくれたまえ。それでは美術選択者の見せ場ばかりが増えるではないか。ここは音楽選択者にも何かさせてくれたまえよ」
ここで苦情の声を上げるのはジョン王太子だ。
ジョン王太子はこの前の自分の絵が散々だったから、あまり人に見られたくないのだ。気持ちはよく分かる。
だが、美術選択者の作品がいいわけでもないぞ。
「アートというのには音楽も含まれているのでは? 音楽選択者は揃ってレコードを作って、それを収録したものを当日に流すというのはどうでしょうか」
そこでフィオナが真っ当な意見を出した。
この世界、蓄音機は存在するし、レコードもプレイヤーも存在する。
値段は大きくかかるものの、予算の枠をはみ出すほどではない。
「いいね。優雅な音楽が流れる中、ゲームをプレイするというも風情があるよ」
クラリッサはこの提案に乗った。
「じゃあ、今年の文化祭はアートカジノ喫茶店でいいですか?」
「異議なーし」
というわけでクラリッサのクラスの出し物は決定。
後は許可が下りるかどうかである。
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監査委員会が組織できたという知らせが文化委員会から生徒会に入ったのは1年A組の出し物が決まった3日後のことであった。
「どれどれ。人選は……」
クラリッサは早速監査委員会のメンバーの名簿を見る。
「フローレンス? 彼女に監査委員会をやらせるの?」
「そうですが、何か?」
クラリッサが渋い顔をし、文化委員長がよく理解できないという顔をする。
「彼女は個人的な恨みを抱えているし、何より選挙管理委員会のメンバーとして生徒会選挙では不正を働いている。彼女を選ぶのは適切だとは思わないな」
確かにフローレンスは問題のある人物だ。
彼女はジョン王太子を持ち上げるばかりに、クラリッサを敵視している。彼女が監査委員会のメンバーになったら、間違いなくクラリッサのクラスの出し物を妨害してくるだろう。そういう人間は中立公平であることを求められる監査委員会に向いてない。
だが、監査委員会の名を借りて、他の出し物の妨害をした経験はクラリッサにもあるぞ。それもよりよってフローレンスのクラスだったぞ。
「人選をやり直して。過去に問題を起こした人間は除外」
「しかし、となりますと……」
生徒会からは監査委員会のメンバーにはなれない。生徒会は監査委員会の上げてきた報告を基にどうするのかを判断する役割なのだから。
「他に人材がいないわけじゃないでしょ? この王立ティアマト学園なら、人材くらいほいほい集まるはずだよ」
「では、フィリップ君に頼むしかないですね」
「え?」
フィリップという名前が王立ティアマト学園に複数存在するのでなければ、文化委員長のいうフィリップとはウィレミナの思い人であるフィリップである。それもフローレンスの代わりとなるとギャンブル反対派だ。
「う、うーん。どうなのかな。実をいうと生徒会役員のひとりとそのフィリップっていう人の間には個人的な感情があると言うか」
「しかし、そのような個人的感情ばかりを考慮していては、誰しもが何らかの形でかかわっています。王立ティアマト学園は広いようで狭いですからね。ここは職務は職務と割り切って仕事のできる人間を選ぶしかないでしょう」
クラリッサは視線を泳がせるが、文化委員長はそう言いきった。
「ええい。分かったよ。そのフィリップって人でいいよ。その代わり、報告書は誰が書いたか分からないようにして提出してね。言ったけど、個人的な感情が挟まる可能性があるから。これは譲れないよ」
「そのように手配します」
そう告げて文化委員長は生徒会室を後にした。
「はあ。ウィレミナが気づかなければいいけれど」
「何に気づかなければいいって?」
クラリッサが天を仰いでいたとき、当のウィレミナが姿を見せた。
「何でもないよ。こっちの話。ウィレミナは気にせず、監査委員会からの報告を待ってて。これから各クラスの出し物が適切かどうかが判断されるから。うちのクラスは既に企画書を提出済み。企画書書いたのはサンドラだけど」
今回は企画書を事前に申請する形で監査委員会が出し物が適切かどうかを判断することになった。企画書は生徒たちの衣装や、食品を取り扱うか否か、そしてカジノの場合は賭け金についての詳細が記されることになる。
これを見て、まず監査委員会は出し物が適切かどうかを判断し、その後抜き打ちで実際に調べて、企画書通りの内容かどうかを確かめるのである。
そして、報告は生徒会に上げられ、生徒会が最終的な是非を決定する。
「そういえばさ。今年もフィリップ先輩のクラスに遊びに行こうぜ」
「う、うん。そうだね」
「どうして挙動不審になる、クラリッサちゃん」
頑張れ、クラリッサ。フィリップが監査委員会になったからと言って、ギャンブルが禁止されたりすることはないはずだぞ。
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