表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
180/289

娘は高等部に進級したい

……………………


 ──娘は高等部に進級したい



 4月。


 新学期にして、クラリッサたちにとっては高等部初日である。


 早速、クラリッサはクラス分けの告知が行われている掲示板を目指した。


「ちーす。クラリッサちゃん」


「ちーす。ウィレミナ」


 クラリッサとウィレミナが掲示板の前で落ち合った。


「クラス分け、もう見た?」


「まだ。今から見るところ」


 ウィレミナが尋ね、クラリッサがそう答える。


「流石に高等部でまで同じクラスってことはないかな?」


「さて、どうだろうか」


 クラリッサたちは人込みの中を、順番を待ちながら掲示板の前に立つ。


「ええっと。クラリッサ・リベラトーレ。1年A組」


「ウィレミナ・ウォレス。1年A組」


 クラリッサとウィレミナが同時にそう告げる。


「……クラリッサちゃん。何かした?」


「……黙秘権を行使する」


 クラリッサは教師たちに袖の下を渡していつもの3人組が同じクラスになるように手配していたぞ。だが、そのことはウィレミナたちには内緒なのだ。


 ……中等部でも同じようなことをしていたな。


「クラリッサちゃん! ウィレミナちゃん! また同じクラスだね!」


「おう。奇遇だね」


「……本当に奇遇なんだよね?」


「奇遇だよ」


 しかし、既に不正は見抜かれている節があるぞ。


「フィオナさんとジョン王太子も同じクラスだって」


「ヘザーもか……」


 いつもの仲間はなんだかんだで同じクラスだった。


 ヘザーは偶然であるが、フィオナとジョン王太子はジョン王太子が教師陣に婚約者と一緒のクラスにしてもらえるように頼み込み、そしてフィオナがクラリッサたちと同じクラスしてもらえるように頼み込んだためこうなったぞ。


 王家と公爵家の威光が輝くと学園も忖度せざるを得ないのだ。


 とんだ権力の乱用もあったものである。


「まあ、とりあえず同じクラスだったから前と同じように過ごそう」


「あれ? 理系と文系で分かれるんじゃなかった?」


「んー。クラスとしては一緒で、授業の時に分かれる感じだよ。体育と魔術の戦闘科目と非戦闘科目、美術と音楽、歴史と地理みたいにね」


「なるほど」


 理系と文系で分かれると言っても、クラスそのものが分かれるわけではないのだ。


「進学コースとそうでないコースは?」


「それはもう分かれていると思うよ。1年A組と1年B組と1年C組が進学コース。私たち、全員進学コースでしょ?」


「フィオナも進学するの? すぐにジョン王太子と結婚するかと思ったのに」


「王族も最近では勉学に通じてないとダメだってことみたいだね」


 日本のやんごとなき方々がハゼ類などの研究をなさっているかのように、アルビオン王国においても王族であれ学問に通じておくのが義務となりつつある。


 そもそも、アルビオン王国で長らく科学技術の発展を支えてきたのは、金銭的に余裕があり、学問をする余裕と素質がある貴族たちだ。王族もそのような貴族を賞賛してきた。王族が学問をするというのは何ら不自然なことではないのだ。


 科学技術の急速な発展によって、普段の暮らしから国防に至るまで大きな影響を受ける最近の時代においては、政策を定める王室が学問を知らないということはあってはならないのである。


「フィオナは理系かな? 文系かな?」


「んー。成績見るとどっちもいけるみたいだよ。まさに才女だね」


 フィオナは常に2位をキープし続けてきた成績優秀者なのだ。


「あれ? でも、ヘザーは結婚するって言ってなかった?」


「よくぞ聞いてくれましたあ!」


 クラリッサが首を傾げるのに背後からヘザーが飛び出してきた。


「びっくりした。まだ何も聞いてないよ」


「でも、話題にはなさっていたでしょう。私が大学進学を志す理由をお教えしますよう。というのも、いろいろと理由があるからなのですよう」


 クラリッサが眉を歪めるのにヘザーがそう告げる。


「なんとお! ロンディニウム大学の心理学部にはサドとマゾの関係を調べるという講座や研究があるというではないですかあ! かの有名なサド侯爵の書物を読みふけり、思いをはせてきた私にはうってつけの学部なのですよう!」


「え。それだけのために?」


「ええ。それにサドな旦那様を見つけようにも両親にそういう伝手はないそうなので、大学でそういう学部にいる人たちから自分で探すことにしたのですよう」


「……そうか」


 クラリッサはそれ以上、ヘザーにかける言葉が見つからなかった。


「では、大学進学を目指して頑張りましょうよう!」


「おー」


 というわけで、クラリッサたちの高等部の生活が始まった!


……………………


……………………


 高等部に入ってすぐに行われるのは、進路相談である。


 その生徒の目指す進路を聞き、それに応じてカリキュラムを組むのだ。


 一応は親子で、ということになっている。


「パパ。明後日、暇?」


「暇というわけではないが……。何かあるのか?」


 リーチオの書斎でクラリッサが尋ね、リーチオがそう尋ね返す。


「今度、進路相談がある。パパも出席してって」


「進路相談か」


 進路相談! そういうのもあるのか! と思いつつも、リーチオは少し不味い予感がしていた。これまで散々、クラリッサをホテルとカジノ経営者という地位で釣って来たものの、そういうことを教師に言うといろいろと不味い。


 まず、カジノ法案はまだ通過しておらず、通過することを知っているのはマフィアと議員たちだけである。市議会では最後の反発が行われており、市民たちには本当にカジノ法案が通過するかは分かっていないのだ。


 次にホテルとカジノ開発にはマフィアががっつり関わっていることは周知の事実だということ。確かにリベラトーレ・ファミリーはカジノ事業にシフトして合法化を図っているし、開発を行っているのはリベラトーレ・ファミリーとは表向きには関係ないダミー会社である。だが、それでも市民たちは薄々これから建設されるだろうホテルとカジノがリベラトーレ・ファミリーのものだと分かっている。


 つまり、クラリッサがうっかりホテルとカジノ経営者を目指して、と言おうものならば、その教師には暗にクラリッサがマフィア関係者だということがばれてしまうのだ。


 学園長は買収してあるからどうにかなるとしても、進路相談をする担当教師にまで口封じをしなければならないというのはあれである。


「クラリッサ。まだ教師にはホテルとカジノ経営者を目指していることは伏せておくんだ。いいな?」


「……? なんで? もうみんな知ってるよ?」


「み、みんな?」


「サンドラもウィレミナもフィオナもヘザーもフェリクスもトゥルーデもみんな」


 時、すでに遅し。


「分かった。それならもうぶちまけてしまえ。怪しまれたら口を封じるだけだ」


「! 豚の餌に!?」


「しない!」


 久しぶりに人をミンチにして豚の餌にするのが見られると思ったクラリッサだ。


「とにかく、出席はできるから具体的な時間帯を教えなさい」


「豚の餌……」


「おい」


 クラリッサはしょんぼりしている。


「具体的な時間帯は?」


「んー。放課後だから4時30分以降。私たちの割り当ては明後日」


「分かった。4時30分以降だな」


 リーチオはスケジュール帳に予定を書き込む。


「一応確認しておくが、志望校はオクサンフォード大学。志望学部は経営学部で良いんだな? 何か気が変わったりとかはしていないな?」


「してないよ。私は未来のホテル・カジノ経営者」


 リーチオの問いにクラリッサが堂々と胸を張って答えた。


「まあ、夢があるのはいいことだ。目標があると頑張れるからな。で、あれからオクサンフォード大学の入試については調べたか?」


「グレンダからパンフレットもらった」


「読んだか?」


「私には荷が重い……」


「パンフレットで挫折するな」


 パンフレットは5、6ページくらいしかないぞ。


「それからグレンダさんが過去問って奴、持ってきてくれた。経営学部の奴」


「ああ。それはいいことだが、まだちょっと早い気もするな」


 過去問。赤本として地球で売られている奴だ。


 アルビオン王国の大学受験には一次試験と二次試験があり、まずはその生徒の学力全般を調べる一次試験が行われる。とはいっても地球のセンター試験のように全ての大学が共通したテストをやるわけではなく、大学ごとに問題が異なる。


 そして、その一次試験でいい成績を取れた人物が二次試験に進む。


 その二次試験では学部ごとに必要とされる知識をテストされる。理学部では数学などの理系科目、法学部では国語などの文系科目といった具合に。


 まあ、センター試験がないことを除けば、日本の入試とさほど変わらない。


 後は推薦入試というものがあり、在学中の成績が優秀で、部活動や委員会活動などの課外活動にも熱心であった生徒は、推薦を受けることで面接試験だけで入試を済ませることができる。お得なようだが、推薦枠に選ばれる生徒は大学でもそれなり以上に活躍することが望まれるため、推薦枠の選抜は極めて厳しい。


 クラリッサは大人しく試験を受けて入学するしかないだろう。


「さて、どういう相談になるのかは分からないが、お前は目的も進路もはっきりしてる。特に迷うことはないだろう。後は選択科目の選び方を教えてもらうだけだな」


「おうよ」


 クラリッサは経営学部に進むつもりだが、理系を選択しようと思っている。


 そういうことが可能なのか聞いておかなければなるまい。


「お前のクラスは進学コースだって言ってたよな。勉強もこれから山ほどか?」


「それは困る。私は学園のボスにならないといけない」


「……生徒会長は学園のボスじゃないぞ」


 クラリッサは相変わらず何かを勘違いしている。


「ともあれ、また生徒会をやるなら内申点は申し分ないだろう。推薦入試じゃなくても内申点は関わってくるからな。部活動はやるのか?」


「部活動かー。あんまり興味がわかないんだよなー」


 クラリッサならば体育系の部活動全般で大活躍できるだろうが、本人にはそういう意志はなかった。ものぐさであるというよりも、純粋に興味がないのだ。


 何せ、クラリッサの身体能力ならば高校生の試合など止まって見えるというものだ。というか、プロであったとしてもそう簡単にはクラリッサには勝てないだろう。クラリッサが八百長を試みたり、ルールを覚えていなかったりということがなければ。


「何かやると内申点が上がって、合格しやすくなるぞ。無理強いはしないが、テスト勉強の合間の息抜きになりそうなものがあったら試してみなさい」


「考えとく」


 部活動に熱中して、受験勉強がおろそかになってしまっては本末転倒だ。


「でも、パパ。本当に内申点って関係あるの? 生徒会やってたのって役立つ?」


「役立つ、役立つ。生徒会をやっていたのはそれなり以上に自主性があり、社会共同体の利益に関心を持っているという証拠だ。そして、大学では常にそういう人材を育てようとしている。そういう素質がある人間のことは優遇するだろう」


 大学は王立ティアマト学園がそうであるように、次代のアルビオン王国を担う人材を育てる場所である。アルビオン王国という社会共同体について関心を持っている人間は、アルビオン王国を発展させる人材として優遇されるだろう。


「そっか。なら、高等部ではついに真の学園のボスになるね」


「…………」


 こいつに本当にアルビオン王国の次代を担わせても大丈夫だろうかと思うリーチオであった。


……………………

面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!


そして、書籍化決定です!詳細はあらすじをご覧ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「人を殺さない帝国最強の暗殺者 ~転生暗殺者は誰も死なせず世直ししたい!~」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
[一言] 表をジョン王太子が、裏を彼女が。とか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ