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娘は中等部最後の夏休みを楽しく過ごしたい

……………………


 ──娘は中等部最後の夏休みを楽しく過ごしたい



 期末テストも終われば待ちに待った夏休み。


 クラリッサはこの時を心待ちにしていたぞ。


「パパ」


「どうした? そろそろ夏休みだな。宿題は計画的にやるんだぞ」


 クラリッサがリーチオの書斎に顔を出し、リーチオがそう告げる。


「別荘買って」


「また凄いものをねだってきたな……」


 車の次は別荘をねだる娘。


「どうしてまた別荘が必要なんだ? 別荘ならもうあるだろ?」


「サンドラたちと一緒に夏の時間をゆっくり過ごすの。今の別荘はパパとふたりで使うことしか考えてないでしょ?」


 既にリーチオは別荘を持っている。海と山に1軒ずつ。だが、それはリーチオとクラリッサ、そして2名程度のゲストを考えただけのものであり、クラリッサがサンドラたちを招待するなら手狭になってしまう。


「しかしな。別荘は税金もかなりかかるんだぞ?」


 そうなのだ。


 この世界ではまだ自動車には税金はかからないが、不動産には固定資産税がかかるのである。それも案外無視できない数字であり、こればかりは脱税もできないリーチオは素直に税金を納めていたのであった。


「ぶー。でも、成績上がったし、ご褒美だと思って」


「ダメ。結局5位内には入れなかっただろう?」


 クラリッサは6位という残念賞だったぞ。


「それよりもホテルにしなさい。お前は将来、ホテル経営者になりたいんだろう? それならより多くのホテルに宿泊して、経験を積んでおくといいぞ。内装とか、サービスとか勉強になることもあるだろう。どうだ?」


「確かに」


 リーチオが告げるのにクラリッサが頷いた。


「で、今年は海と山、どっちだ?」


「山で狩りっていうのはどうかな?」


「夏の動物はあまり美味くないぞ。狩りは秋か冬にするものだ」


 クラリッサが首を傾げて尋ねるとリーチオがそう告げて返した。


「じゃあ、やはり海か。フェリクスを説得しなければ」


「何人くらいで行くつもりなんだ?」


「ええっとね。サンドラ、ウィレミナ、フィオナ、ヘザー、フェリクス、トゥルーデの6人で行くつもりだよ。後、パパとシャロンも一緒に来てくれるよね?」


「友達とだけで行った方がよくないか?」


「そんなことないよ。保護者がいた方がいい」


 クラリッサたちはまだ中等部3年生だ。保護者は必要だろう。


「なら、俺もついていくが。海沿いのホテルとなるとどこがいいか」


 リーチオは考え込んだ。


「ホテルプラザ・ポセイドンはどうだ? なかなかいいホテルだぞ」


「いいね。そこにしよう」


 リーチオの提案にクラリッサがサムズアップした。


「このホテルはスイートルームが標準で、ロイヤルスイートが4部屋。グランドロイヤルスイートが1部屋。ここは予約が入ってなければグランドロイヤルスイートを味わってみるべきだな。高級ホテルの何たるかが理解できる」


「けど、1部屋しかないんでしょ? 私たち8人で行くんだよ?」


「お前だけ特別にしたらどうだ。その代わり、他の友達のホテル代は俺が持ってやろう。勉強は必要だぞ。ホテル経営者になるならな」


「うーむ。親友を裏切るようで悪いが、確かに勉強は必要だ」


 勉強と言っているが、クラリッサはリーチオと海外旅行に行くときはもっとも高い部屋を取っているので、いつでもグランドロイヤルスイートに匹敵する部屋に泊まっているのだ。ただ、今まではそういうことを意識していなかっただけである。


「このホテルのグランドロイヤルスイートにはダブルベッドのベッドルームがふたつあるから4人で泊まれるぞ。友達を誘うといい」


「なら、サンドラ、ウィレミナ、フィオナかな? 流石に女の子と一緒の部屋にフェリクスを泊めるわけにもいかないし。トゥルーデもうるさいだろうし」


 フェリクスとトゥルーデは同じ部屋にしないとトゥルーデが無理心中を試みかねないし、ヘザーと同じ部屋にいるのは疲れるし、自然と部屋割りはそういう風になる。


「その辺は友達とよく話し合って決めてくれ。俺はホテルの予約をしておく。何日ごろがいいんだ?」


「8月2日から3泊4日で。フィオナの誕生日パーティーも一緒にやるんだ」


 フィオナの誕生日は8月1日だが、流石に誕生日当日は公爵令嬢として公式のパーティーがあるので旅行にはいけない。フィッツロイ家は公爵家として、付き合わねばならない人間が多く、それもまたフィオナの仕事なのだ。


 そういう堅苦しいパーティーだけというのも何なので、クラリッサは次の日にフィオナをカジュアルなパーティーに誘ったのだった。


「なら、パーティーの準備も頼んでおかないとな。しかし、公爵家か……」


 次の王妃になる公爵令嬢がマフィアの娘とつるんでいて本当にいいのだろうかとリーチオは少しばかり疑問に思った。


 王室関係の情報を追っている記者が知ったら大スキャンダルだろう。その場合はその記者を消してでも、揉み消さなくてはなるまい。フィオナのことがスキャンダルになれば、クラリッサのこともスキャンダルになり、クラリッサが真っ当な道を歩めなくなる。


「ケーキは凄く大きいのにしてね。私の身長ぐらい」


「デカすぎだろ。誰が食うんだよ」


 クラリッサの身長は160センチほど。平均的な女子より少し高い。クラリッサが挙げた6名の中では3番目の高さだ。1位、2位はパーペン姉弟である。ウィレミナはクラリッサに身長を追い抜かれた。


「うーん。ケーキは大きい方がゴージャスじゃない?」


「カジュアルなパーティーなんだからそんなことしなくていいだろ。ケーキは普通の。その代わり高級ホテルなだけあって、豪勢な代物だぞ」


「それは期待できる」


 クラリッサが目を輝かせた。


「友達とはよく話し合っておくんだぞ。予定とか、しっかり立てなさい。それから夏休みの宿題のスケジュールもちゃんと立てるんだぞ。グレンダが手伝ってくれるからと言って無茶苦茶なスケジュールにするなよ」


「了解!」


 クラリッサは敬礼するとそそくさと書斎から出ていった。


「しかし、ホテルプラザ・ポセイドンか」


 リーチオはその名前を口の中で告げる。


 それはリーチオとディーナが新婚旅行で泊まったホテルだった。


……………………


……………………


 終業式。


 夏休みの宿題も配られ、いよいよ夏休みの始まりを告げる日が訪れた。


「サンドラ、ウィレミナ、フィオナ、ヘザー、フェリクス、トゥルーデ。集合!」


 クラリッサが3年A組の教室でそう告げる。


「何々、クラリッサちゃん?」


「夏休みの旅行のこと?」


 そしてわらわらとサンドラたちが集まってきた。


「今度の宿泊先が決まったよ。ホテルプラザ・ポセイドン」


「まあ、あそこはとても素敵なホテルですわ」


 クラリッサが告げるのに、フィオナが感嘆の声を漏らした。


「そんなにすげーところなの?」


「普通の部屋でも1泊200万ドゥカート」


「げっ」


 クラリッサが宿泊費を告げると、ウィレミナが表情を青ざめさせた。


「そんなお金ないよ?」


「安心しろ。全部私の奢りだ。私がホテル経営を学ぶためでもあるからね」


 サンドラが渋い顔をしたが、クラリッサがそう告げて返した。


「クラリッサちゃん。本当にホテル経営者になるの?」


「それからカジノ経営者にもね。成績は順調に伸びてるし、チャンスはあるよ」


 クラリッサは本格的にホテル・カジノ経営者を目指している。


 クラリッサはリーチオにホテルについて学ぶように言われてから、世界中の高級ホテルを巡るつもりだった。カジノについてもカジノ先進国である新大陸に渡って、様々なゲームを覚えてくるつもりだ。


 新大陸ではリベラトーレ・ファミリーに友好的な七大ファミリーのひとつであるヴィッツィーニ・ファミリーがカジノを仕切っている。ヴィッツィーニ・ファミリーとはクラリッサの誕生日パーティーなどで個人的な友好関係もあるので、彼らはクラリッサにカジノについて教えてくれるだろう。


 ヴィッツィーニ・ファミリーも今は麻薬戦争のただなかにあるが、クラリッサが大学生になるころにはヴィッツィーニ・ファミリーの拠点であるリバティ・シティも安定化するはずだ。彼らはそれだけの犠牲を払っているのだから。


「あたしも頑張らないとな―。医者になるのも大変だし」


「私はまだ将来何になるかなんて決めてもないよ」


 ウィレミナがそう告げ、サンドラが首を傾げる。


「トゥルーデはフェリちゃんのお嫁さんになるわ!」


「姉弟じゃ結婚できねーからな?」


 トゥルーデは相変わらずイカれていた。


「私はドサドの旦那様の奥さんになりますよう」


「候補はいるの?」


「探せばきっといますよう!」


 ヘザーは相変わらずイカれていた。


「それで、ホテルの話に話を戻すけれど、8月2日から3泊4日。部屋割りはロイヤルスイートとグランドロイヤルスイートにそれぞれ5名と4名になるよ。シャロンとうちのパパも同行してくれるからね」


「グランドロイヤルスイート。凄い響きだ」


 普通の部屋で1泊200万ドゥカートするのだからグランドロイヤルスイートはさらに高いに違いない。ウィレミナは戦慄した。


「グランドロイヤルスイートに泊まりたい人ー?」


「は-い!」


 それでいて真っ先にウィレミナが手を挙げた。


「トゥルーデはフェリちゃんとふたりっきりがいいから遠慮するわ」


「なあ、マジでホテルで無理心中しようとするなよ?」


 トゥルーデは予想通りフェリクスと一緒に。


「私は外で十分ですよう」


「はい。君はロイヤルスイートね」


 そして、ここにホテルに泊まろうともしない奴が。


「じゃあ、パパとシャロンはロイヤルスイートに泊まるから、グランドロイヤルスイートには私とフィオナとサンドラとウィレミナね」


「いいのかな? 凄く高いんでしょ?」


「まあ、1泊450万ドゥカート程度だよ」


「程度ってレベルじゃないよ!?」


 サンドラはその宿泊費に戦慄した。


「安心してよ。ホテルの宿泊費は全部私が持つから。それに今回はフィオナの誕生日パーティーも兼ねているんだから景気よくやらないと」


「う、うーん。そうだね」


 何か納得できないながらもサンドラは頷いた。


「それじゃあ、ロイヤルスイートの方の部屋割りをしよう」


 クラリッサはそう告げてメモ帳を準備した。


「フェリクスはトゥルーデとがいいんだよね?」


「いや。姉貴が俺と一緒の方がいいってだけだ」


 フェリクスは正直、面倒な姉から解放されたがっているぞ。


「ヘザーはシャロンと一緒でいい?」


「是非とも! また罵ってほしいですよう」


「罵るのは別料金になるよ」


「おいくらですかあ!?」


 そして、ここでもよからぬビジネスを始めようとするクラリッサであった。


「よし。部屋分け完了。部屋分けはしたけど、他の部屋に遊びに行ってもいいよ。グランドロイヤルスイートなんて泊まる機会はそんなにないし、部屋に遊びに来てよ」


「ああ。そうする」


 クラリッサが告げるのにフェリクスが頷いた。


「それからフィオナへの誕生日プレゼントを各自忘れないようにね。フィオナはプレゼント、楽しみにしててね」


「ええ。嬉しいですわ、クラリッサさん」


 フィオナはニコニコの笑顔だ。


「それでは中等部最後の夏休みを後悔しないように過ごそう」


「おー!」


 こうしてクラリッサたちの夏休みが始まった!


……………………

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