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娘は友達の恋を応援したい

……………………


 ──娘は友達の恋を応援したい



「うーん」


「どしたの、ウィレミナ?」


 クラリッサたちが生徒会解散パーティーを終えてから2週間後のこと。


 ウィレミナが教室でひとり唸っていた。


「いやさ。文化祭のときに紹介したフィリップ先輩、覚えてる?」


「覚えてる。ウィレミナが好きな人だよね」


「ま、まあ、そうなんだけど。先輩、高等部に進級したんだよね。それで高等部で彼女ができてるんじゃないかと、ちょっと心配になっているところ」


 ウィレミナがクラリッサたちに紹介した男子陸上部のフィリップは無事に高等部に進級していた。中等部3年に進級したウィレミナとは暫しの別れだ。


 その別れの間、ウィレミナはフィリップに彼女ができてしまうのではないかと心配していた。何せ、ウィレミナがいい感じだなと思った男子生徒はすぐに予約済みになってしまうので、なかなかの爽やかなイケメンであるフィリップも高等部で予約済みになっておかしくないのだ。


 それにウィレミナの家庭は貧乏男爵家である。家柄という点では平民より上なものの、貴族のヒエラルキーの中では下の下である。家柄で他の女子と勝負しては負けてしまうし、貴族の結婚というのは家柄で判断されるものだ。


 ウィレミナとしては学業や部活動の面でアピールし、できる女として存在感を示したいところだが、いかんせん中等部と高等部に分かれてしまってはアピールできない。


「そもそもウィレミナは学園卒業したら大学に行くんでしょ? その点どうするの?」


「先輩も大学に行くって聞いてる。先輩、成績もいいんだよ。オクサンフォード大学を目指すって。私も志望校はオクサンフォード大学だからおそろ!」


 ウィレミナはフィリップの後を追うようにオクサンフォード大学に入るようだ。


「私もオクサンフォード大学目指してるよ。パパと約束したんだ」


「そうだったね。なら、クラリッサちゃんも勉強頑張らないと」


「試験前に頑張るよ」


「それじゃあ、絶対に受からない」


 クラリッサ、大学入試で一夜漬けは無理があるぞ。


「それはそうと、ウィレミナはその先輩のことが気になるんだよね?」


「そうだねー。高等部にはもっと大人な人とかいるだろうし、またひとり憧れの人が予約済みになってしまわないか心配だぜー」


 そう告げてウィレミナはぐんにゃりと伸びた。


「ふむ。なら、高等部に遊びに行けばよくない?」


「生徒会も解散しちゃったし、高等部に行く口実がないよ」


「私が口実を作ってあげよう」


 クラリッサは自分に任せろというようにサムズアップして返した。


「……碌でもない口実だったりしない?」


「親友は信じるべきだよ」


「うーむ。なら、お願いしようかな」


 というわけで、ウィレミナはクラリッサの手引きで高等部に向かうことになった。


 果たしてクラリッサはどんな口実を準備するのだろうか。


……………………


……………………


 放課後。


 生徒会も解散し、部活動もないのでクラリッサはいつものように闇カジノに顔を出す。闇カジノではいつもの面子がギャンブルに勤しんでいた。


 今のところ、面子はあまり変わっていない。卒業していった人間を考えるならば、そろそろ招待客も増やしていかなければならないのだが。しかし、今はクリスティンがクラリッサをマークしているため、自由に動けないのだ。


 それでもクラリッサは客層を広げるつもりだ。


 今年度の予算で部室棟は別の場所に建て替えられ、大きなものとなる。ジョン王太子が部活動の充実を掲げたおかげだ。テーブルカードゲーム部の部室も広くなるので、より一層の集客が見込めるようになるだろう。


 それはお金儲けに繋がるのだが、今のクラリッサにはやらなければいけないことがあった。ウィレミナを高等部に案内する口実作りだ。


 お金儲けも大事だが、友達を疎かにしてはいけない。


「フェリクス。何か近い行事で賭けられそうなものある?」


「近い行事か……。テニス部の大会、陸上部の大会、チェス部の大会。ここら辺だな」


「ふむふむ。夏休み前でも結構ギャンブルの種になりそうなものはあるものだね」


 フェリクスが並べた行事を見て、クラリッサがうんうんと頷く。


「全部で賭けをしよう。ビッグゲームとはいかずともそれなりの収益にはなるはずだ。今年は私たちが生徒会を辞めちゃったから、合同体育祭ができるか微妙なところだし、賭けをできるところで確実に賭けていこう」


「そうだな。文化祭もギャンブル禁止のままだろうし、賭けることの楽しさをアピールしておかないと、これからのビジネスに支障が生じる」


 クラリッサが告げるのにフェリクスが頷いた。


「ところでスポーツくじの販路拡大を狙っているんだけど、聞いてくれる?」


「なんだ?」


 ここでクラリッサが声を落とした。


「実をいうと、高等部での売り上げが上手くいっていないんだ。というのも高等部の生徒会がスポーツくじの購入額に限度を付けててね。その生徒会は解散して、新しい生徒会になったんだけど、この方針が続くと売り上げが落ちる。そこで高等部でスポーツくじの販売を拡大するために、ひとつ高等部生徒会に殴りこもう」


「ふうむ。高等部になると金持ってる奴が増えるから、それは販路を拡大しておきたいところだな。少なくとも金額制限は撤廃してもらいたい」


 クラリッサの言うように高等部生徒会は風紀の乱れなどの観点からスポーツくじの販売を認めながらも、ひとり当たりの購入額に制限をかけていた。ひとりあたり1500ドゥカートまで。それがかけられている制限だ。


 スポーツくじの控除率は30%前後なので、控除率が10%ぐらいのカジノほどではないものの、より多くの人間に、より高い金額を賭けてもらわなければ儲からない。


 それに金額の制限があるとゲームが盛り上がらないし、スポーツくじそのものがいかがわしいもののように思われてしまう。まあ、実際、いかがわしいのだが。


 というわけで、金額制限は撤廃していただきたいのだ。


「決まりだね。名目上は高等部生徒会の活動を見せてもらうということで、さりげなく話を持ち出そう。制限をかけた生徒会は既に解散しているからチャンスはあるよ」


「よし。分かった。準備するものはあるか?」


「フェリクスが来てくれればそれでいいよ。それから──」


 そこでクラリッサが告げる。


「ウィレミナにも来てもらうからね」


「は?」


 これがウィレミナを高等部に案内するという口実だった。


……………………


……………………


「ってことは、あたしはギャンブルの規模を大きくするために高等部に行くの?」


「そだよ。いい口実でしょ?」


「そうかなー……」


 クラリッサから話を聞いて高等部に向かうウィレミナは何とも言えない表情をしている。もっとさりげなくて、ポジティブな口実がよかったのだが、そういう口実が思いついていれば、自分で実行している。


 クラリッサを頼った時点でこうなるのは仕方ないことなのだ。


「まあ、生徒会を訪問したら高等部をぶらりとやるから、その時に先輩に声をかけるんだよ。クラスは分かってる?」


「うん。1年C組。進級するときに教えてもらった」


 この世界にはスマートフォンという便利な道具がないので、物事をひとつ知るだけも大変なことなのだ。先輩と連絡を取り合うのにもSNSやメールを使えない。実際に顔を合わさなければ、距離は遠のいていくばかり。


 ウィレミナが危機感を抱くのも当然だと言えるだろう。


 ちなみに、世界的には東部戦線で部隊間の連絡を取り合うのに有線通信が使用され始めているころである。戦争は技術開発を活発化させるという説もあるが、今のところ有線通信網が張り巡らされているのは東部戦線と大陸の一部の都市間だけである。


 しかし、アルビオン王国でもその便利さに目を付けて、有線通信網を整備しようという計画が持ち上がっている。そして、よりによって、その工事を落札したのが、リベラトーレ・ファミリーの傘下にある土建企業なのだ。


 たっぷりとした工費の水増しと潤沢なキックバックを準備して、役人を味方につけたリベラトーレ・ファミリーは近いうちにロンディニウム周辺で有線通信網を整備することになる。将来的には海峡を越えてフランク王国へ、さらに大西洋を越えて新大陸に、有線通信網は整備されることになるという。


 それはさておき、今は有線通信と言ってもごく一部で、しかもモールス信号の時代だ。気軽に呟いたり、メッセージを送り合ったりはできない。


 この時代に遠距離恋愛などやろうとしてもほとんど無理だろうし、ちょっと学年が離れただけで疎遠になりかねないし、意中の相手に常に引っ付いて、この世界の確実な通信手段である手紙で距離を縮めるしかないのだ。


 恋する乙女も恋する男子も強いので、多少の困難は乗り越えられる……はずである。


「本当はウィレミナが定期的に高等部に遊びに行けるようになるのが一番いいんだけどね。手紙のやり取りとかはしてるの?」


「い、いや。そういうのは特に……。だって、付き合ってもないのに手紙送り合うとかないじゃん。そういうのは付き合い始めてからでしょ?」


「そういうものなのか」


 クラリッサは恋愛マスターではないので分からないのだ。


 生まれてこの方、彼氏いない歴15年。モテないわけではないのに、全く付き合わないという偏屈な美少女。彼女の理想はベニートおじさんのようにワイルドで、リーチオのようにスマートで、リベラトーレ・ファミリーの方に婿に来てくれる人なのだ。


「別に手紙くらいで文句は言われないだろ。クリスティンも付き合ってもないのに手紙送りつけてくるぞ。同じ学年なんだから会いにくりゃいいのに」


「フェリクス君はもうちょっとクリスティンさんのことを大事にしてやろうぜ」


 フェリクスの家には毎シーズン、クリスティンからの手紙が届くのだ。旅行に行きましたとか、風邪を引いてはいませんかとか、期末テストの勉強頑張ってますかとか、そういう手紙がよくよく届いている。


 フェリクスは特に手紙を返すわけでもなく、クリスティンに会いに行って、手紙の返事を口頭でしている。その度にクリスティンが唸っているのはここだけの話だ。


 クリスティンも手紙で返事を返してもらって、その手紙を大事に保管したいという乙女心があるのだ。フェリクスはその点を分かってあげよう。


「フェリクスはモテモテだからね。この間も女子に告られてた」


「マジで?」


 クラリッサがさらっと告げるのに、ウィレミナがフェリクスをガン見した。


「言うなよ……。確かに告られたけど、付き合う気はないから断った。一応、クリスティンとは話をしてるし、別の女子と付き合うわけにゃいかんだろ」


「ってことは、フェリクス君とクリスティンさんって脈あり?」


「さてな」


 フェリクスは軽い男だと同じ男子からは思われているが、実は義理堅い男なのだ。


「さて、そろそろ高等部の生徒会だよ。話が終わるまで待っててね、ウィレミナ」


「おうよ! あたしも一緒に行った方がいい?」


「んー。その方が口実としては自然かな」


「それじゃ、一緒に行くぜ」


 というわけでクラリッサたちは高等部生徒会に乗り込んだ!


 果たしてクラリッサたちはギャンブルの制限額を撤廃できるのか。果たしてウィレミナはフィリップに会うことができるのか。


 いろいろとやるべきことが多くて大変だ!


……………………

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