娘は3日目の文化祭も楽しみたい
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──娘は3日目の文化祭も楽しみたい
文化祭3日目。
「クラリッサちゃん。見つかった?」
「んー。まだ。ここら辺にあると思うんだけどな」
2日目はリーチオたちと楽しんだので、3日目はクラスメイトとともに楽しむことにしたクラリッサたちである。
今は高等部のクラスで催されている宝探しに参加していた。宝探しというのは、そのクラスでヒントをもらい、高等部の校舎内に隠されるお宝を探すというものだった。
クラリッサたちは『いつも規則正しく24時間営業』というヒントから校舎内の時計台が怪しいと考えて捜索しているのだが、お宝はなかなか見つからない。24時間動いている学校内の施設など時計台ぐらいしかないのだが。
「クラリッサちゃん。あったよー!」
「おお。でかした、サンドラ」
サンドラが時計台の裏に隠してあった宝箱を見つけた。
「金貨が入ってる」
「これを持っていけば引き換えてもらえるね」
宝探しを催している高等部のクラスに金貨を持っていけば、そこで景品と引き換えてもらえるのである。景品はなかなかリッチなものが揃っている。流石は王立ティアマト学園の文化祭と言えるわけである。
「よしよし。文化祭が3日間になってよかったね。高等部のクラスも見て回れるんだもん。高等部の催し物は将来の参考になるしね」
「そうそう。テクニックやノウハウを学び取って、さらなる儲けにつなげなくちゃ」
サンドラが笑みを浮かべて告げるのに、クラリッサがサムズアップした。
「あー。これから見ていきたい場所があるんだけど、いいかな?」
「ん。いいよ」
ウィレミナが尋ねるのにクラリッサがそう返した。
「ところで見ていきたいものって?」
「陸上部の先輩がやっている催し物。よかったら来てっていわれてるんだ」
「ああ。そういえば私も部長の演劇に呼ばれてた」
ウィレミナが告げるのに、サンドラが思い出したように手を叩く。
「なら、そっちに行こうか。どんな催し物やってるの?」
「ええっと。推理喫茶だって」
「推理喫茶?」
「あたしもどんなのかは分からないよ」
クラリッサが首を傾げるのにウィレミナは肩をすくめた。
ウィレミナの先輩のクラスが行う催し物は不明であった。
「ま、行ってみれば分かるか。そのクラスは?」
「中等部3年C組」
「よし。では、出発」
というわけで、クラリッサたちは中等部3年C組へと向かった。
「本当に今年の文化祭はいろいろと見て回れるね。3日間開催になってよかったよ」
サンドラはホクホクの笑顔でそう告げた。
「まあ、私のおかげだよ」
「クラリッサちゃんは特に何もしてないからな?」
クラリッサは生徒会にいたが、文化祭を3日間にすることにはかかわっていないぞ。
高等部の校舎と中等部の校舎は渡り廊下で繋がっている。今回は3日間の開催ということもあって、高等部と中等部を行き来する生徒もおり、渡り廊下はごったがえしている。高等部から中等部に行く生徒、中等部から高等部に行く生徒。
「パンフレット! パンフレットありまーす!」
「新聞部おすすめのスポットをご紹介いたします!」
新聞部は新聞部でこれまでの新聞を特別展示している他に、文化祭の催し物をまとめたパンフレットを作成したり、1日目、2日目の評判を基に作成したおすすめスポットリストなども作成していた。
文化系の部活にとって文化祭は活躍の舞台である。
手芸部は凝った刺繍やぬいぐるみを披露しているし、文芸部は最近発売された書籍の書評や自作の小説などを披露している。料理研究部なども、新しくて見栄えのいいスイーツなどを提供している。
部活動の催し物で稼いだ収益金はその部活動に還元されるということもあるので、どこも部費を増やそうと頑張っている。もっとも、収益金は微々たるものと割り切って、ここは自分たちの活動を知ってもらおうとする新聞部のような部活動もあるが。
そんな部活動の活動も3日間という日程だからこそ、ゆっくりと見て回れる。今までは興味のあるものだけしか見れなくて、部活動の展示も必要最小限だったが、今年は部活動も盛んに展示物を増やしている。
これで部活動が活発になれば文化委員会としては大成功だ。
「3年C組、3年C組。あった」
「ミステリー&サスペンス」
3年C組の看板にはそう書かれていた。
「入ってみよう」
「先輩いるかな?」
クラリッサがそう告げ、ウィレミナが教室の中を覗き込む。
「おお。来たね、ウィレミナ君」
「先輩ー! 来ましたー!」
教室であたかもシャーロックホームズのような鹿撃ち帽とスーツを纏った長身の男子生徒が、ウィレミナに手を振って出迎えた。
「おや。そっちは友達?」
「そうです。クラリッサ・リベラトーレちゃんとサンドラ・ストーナーちゃん。クラリッサちゃん、サンドラちゃん。こっちは陸上部のフィリップ・パーカー先輩。先輩は男子陸上部だけど、陸上部は男女一緒に練習するからね」
「どうぞよろしく」
ウィレミナの紹介にフィリップが頭を下げる。
「……これがウィレミナが気になっている先輩?」
「……そうだよ。内緒にしておいてね」
このフィリップこそ、以前ウィレミナが話していた気になる先輩であった。
確かにいい感じの青年だ。顔立ちは整っているし、さわやかな印象を受ける。これで陸上部員としての成績もいいならば、ウィレミナが惚れるのも無理がないだろう。
「どこら辺まで進んでるの?」
「まだ顔と名前を覚えてもらったぐらい。あたし、陸上部としての成績がいいから、覚えてもらってるんだ。後はもうちょっと先輩のことが知れればなー」
「ぐいぐい攻めていかないと」
「引かれないかな?」
「引かれないよ」
クラリッサは自分が恋愛をしたことがないのに恋愛マスター気取りだぞ。
「じゃあ、この後、先輩と一緒に文化祭巡りできないか尋ねてみよう」
「そうそう。その意気だよ」
果たしてクラリッサなどの言うことに従って、本当に恋愛は成就するのか。
「で、推理喫茶って何するの?」
テールブルに案内されたクラリッサがそう尋ねる。
「推理喫茶はミステリー小説のような問題を解いて、犯人を当てるゲームです。問題に正解するとお土産を差し上げます。難易度は初等部低学年向けから、高学年向け、中等部向け、高等部向け、大人向けの5種類」
フィリップはそう告げてクラリッサたちにメニュー表を渡した。
「ふむ。私、ミステリーはさっぱりだよ」
「あ。私は文芸部員のころに少しかじったよ」
クラリッサは人死にが出まくる演劇は楽しむくせに、人が死ぬまでの過程をあまり理解していないのだ。映画の戦闘シーンだけみてポップコーンを食べているようなものである。碌な鑑賞の仕方じゃないな。
「3人集まればなんとやら。3人で謎を解こう!」
「それじゃ、中等部向けの問題と紅茶に──」
この催し物のよくできている点は推理に時間を使っている間に、紅茶やコーヒーをお客が注文してくれるという点である。
回転率は低いものの、用意しているお土産の数からすれば回転率が低い方が逆にいい。問題を前に唸り、長くお茶やお菓子を楽しんでもらえれば収益金はそれだけ増えるのだ。流石は中等部3年生。考えている。
「では、これが問題です」
「さてさて。我々の頭脳が試される機会だよ」
クラリッサはフィリップから問題を受け取った。
「『12月24日のこと。教会で殺人事件が起きたとの通報を受け、あなたは現場に向かった。現場には魔道式小銃で射殺されたと思しき、神父の死体があった。死亡推定時刻はその日の午後3時。この教会の関係者は羊飼いの少年と助祭とシスターの3人。当日午後3時のアリバイは羊飼いの少年は市場で羊のミルクを売っていたという。助祭は街で買い物を、シスターは手紙を送りに郵便局へ。羊飼いの少年の売ったという羊のミルクは新鮮で、助祭が買ったという布地は確かに店の物で店主の確認を得ており、シスターが送った手紙はちゃんと指定された日時に届いていた。どれもアリバイは確かなもののように思われた。だが、あなたはひとりだけアリバイが不確かなことに気づいた。その人物がこの事件の犯人だ。さあ、犯人はいったい誰だろうか?』と」
「む、難しい……」
クラリッサが問題を読み上げるのに、ウィレミナが呻いた。
「ミルクが新鮮だったってのは刑事の舌がおかしかっただけで、本当は古いミルクだったりしないかな?」
「うーん。この手の話でそれを疑いだすときりがないからねー」
クラリッサがナイスアイディアと言うように告げるのにウィレミナが首をひねった。
「分かった。犯人は助祭の雇ったヒットマンだ。きっと買い物に行くと見せかけて、そういう人間と接触したに違いない」
「クラリッサちゃん。勝手に容疑者を増やしたらダメだぜ?」
問題の中に犯人はいるのだ。
「そうか。自殺だ。自分で自分を撃ったに違いない」
「クラリッサちゃん……。問題文、よく読もう?」
3人の中でアリバイの不確かな人物が犯人だと書いてあるぞ。
「難しいかな?」
クラリッサたちが頭を悩ませているのに、フィリップがやってきた。
「先輩が問題作ったんですか?」
「ああ。クラスの一員として手伝ったよ。ミステリー小説は好きなんだ。陸上部は体を鍛えるためにやっているけど、ミステリー小説は頭を鍛えるのに読んでる。意外と柔軟な発想ができるようになっていいんだよ」
「へえ。おすすめの小説ってあります?」
「それなら──」
ウィレミナはごく自然にフィリップの趣味を聞き出し、会話に発展させたぞ。
真の恋愛マスターはウィレミナかもしれない。
「犯人は羊飼いの少年だ。その身体能力の高さを活かして、街から教会までの長距離射撃を成功させたに違いない。東部戦線でも2000メートルの狙撃を成功させた兵士がいる」
「クラリッサちゃん。どこをどう読んだら羊飼いの少年が狙撃手に見えたの?」
一方の自称恋愛マスターは頓珍漢な推理を披露していた。
「こういうのは証拠の品を疑うべきだよ。わざわざ新鮮なミルク、お店で買った布、期日通りに届いた手紙っていうのが示されているんだから」
「うーん。それより長距離射撃の方が疑わしくない?」
「疑わしくない」
どうしても羊飼いの少年を狙撃手にしたいクラリッサだ。
「ヒントが必要かな?」
そこでフィリップがそう告げた。
「先輩。ヒントください!」
「ヒントは動かせないと思っていても、実際は動かせるものだよ」
「動かせないと思っても、実際は動かせるもの……」
フィリップが告げるのにウィレミナが考え込んだ。
「あ。分かった」
そこでサンドラが声を上げる。
「何々?」
「手紙だよ。期日通りに届いたって書いてあるけど、別にその日その街の郵便局で送られたものとは書いてない。もっと前の日に別の郵便局で送って、ちょうどその日に届くようにしたんじゃないかな。新鮮なミルクとお店で買った布は動かせないけど、手紙の期日は動かせる。そうじゃない?」
「おおー。正解じゃない、それ」
サンドラが推理を披露するのにウィレミナが納得した。
「通り魔的犯行の可能性も」
「クラリッサちゃんは容疑者を増やさない」
クラリッサは最後まで頓珍漢な推理をしていた。
「はいはーい! 先輩、問題解けたっぽいです!」
「はい。では、犯人は?」
「シスター!」
「正解です」
ウィレミナが元気よく回答を告げるのにフィリップが拍手を送った。
「やっぱり手紙ですか?」
「そう、手紙。これは証拠品から犯人を探るものだね」
サンドラが尋ね、フィリップが答えた。
「それじゃ、お土産の引換券を渡すね。帰るときに交換していって」
「あの、先輩!」
そこでウィレミナが声を上げた。
「この後、一緒に見て回りませんか? よかったら、ですけれど……」
ウィレミナは心配そうにそう尋ねる。
「いいよ。これから交代してもらうから。友達も一緒に?」
「いえ! 先輩とふたりで……」
クラリッサたちは行ってこいというようにサムズアップしている。
「分かった。それじゃあ、少し待ってて」
そう告げるとフィリップはカウンターに向かっていた。
「やったじゃん、ウィレミナ。文化祭デートだよ」
「デートだと思われるように頑張りたいです、はい」
ウィレミナの気合は十分だ。
「では、私たちはダレル部長の演劇を見に行こうか」
「頑張ってね、ウィレミナちゃん!」
クラリッサたちはお邪魔虫とならないようにウィレミナたちと別れた。
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