娘は2日目の文化祭を満喫したい
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──娘は2日目の文化祭を満喫したい
1日目はバニーガール使い魔喫茶で忙しかったクラリッサたちだったが、2日目からは他の生徒と交代して時間に余裕が出てきた。
午前中の生徒会の受付を終わらせると、クラリッサはリーチオたちとともに文化祭を見て回ることにした。文化祭は3日間開催ということで、部活の先輩たちがいる高等部の催し物に顔を出す生徒たちもいた。
文化祭でも部活動の活動を盛んにしようと、文化委員会は部活動ごとの催し物を推奨していた。この良く晴れた空の下で屋台を出す部活動もあり、または体育館などで普段の練習に成果を見せる部活動もある。
「パパ。どこから見て回る?」
「そうだな。まずはお前と同学年のクラスの催し物から見ていくか」
クラリッサが制服に着替えて尋ねるのに、リーチオがそう告げた。
娘のクラスの催し物がおかしいのか、それとも学園全体でそういうものなのかというのをリーチオは知っておきたかったのだ。
「ところで、お前。あの怪物は?」
「怪物じゃないよ、アルフィ」
リーチオが尋ねるのにクラリッサがそう訂正した。
「アルフィはクラスに残してきたよ。アルフィは人懐こいから私がいなくても大丈夫だし、アルフィ目当てで来るお客さんもいっぱいいるだろうからね」
「あれに監視の目を付けてないのか……?」
クラリッサが告げるのに、リーチオが表情をこわばらせる。
「アルフィはひとりでも平気だよ」
「絶対に平気じゃない」
既にアルフィはひとりを狂気に陥らせているぞ。
リーチオはクラリッサがいない間にさらなる人間を狂気に陥らせたり、見ていない隙に子供を食べてしまったり、おばあさんに酸を浴びせたりしないかと心配になった。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫、大丈夫。多分だけど」
「多分じゃ困るんだが」
そのころバニーガール使い魔喫茶にいるアルフィは主人の言葉を感知し、サイケデリックな色合いに発光した。突然光りだしたアルフィにクラスメイトもお客さんもびっくりしたが、アルフィは光るだけで何もしなかった。
「それより見て回ろう」
「まずは2年B組からだな。2年B組は──」
リーチオが配布されたパンフレットを捲る。
「クイズ喫茶」
「なにそれ」
2年B組には「クエスチョン・ティアマト」と書かれた看板が置いてある。
「入ればわかるだろう。行ってみよう」
「おー」
というわけで、クラリッサたちは2年B組へ。
「いらっしゃいま──」
クラリッサたちを笑顔で出迎えようとしたのは──皆さん覚えておいでだろうか──『ジョン王太子殿下名誉回復及びクラリッサ・リベラトーレ対策委員会』のフローレンスである。彼女がウェイトレスの格好をして、クラリッサたちを出迎えようとした。
「クラリッサ・リベラトーレ! よく顔が出せたものですね!」
「それほどでも」
「褒めてないですわ!」
照れるという風な顔をするクラリッサにフローレンスが突っ込んだ。
「ところで、テーブルに案内してよ。私たち、お客さんだよ?」
「むぐっ。仕方ないですわね」
クラリッサが告げるのにフローレンスがクラリッサたちをテーブルに案内する。
「クイズ喫茶って何するの?」
「ふふん。私たちの出題するクイズに正解したら、お土産を差し上げるというものですわ。もっともあなたでは無理でしょうけれど」
フローレンスの成績はクラリッサよりちょっといいぞ。
「ただでお土産をあげるの? 今回は収益金がクラスに還元されるんだよ?」
「あいにく、いつもお金に困っている平民と違って、私たちには余裕がありますの。せこせこと小銭を稼ぐ必要などないのですわ」
「これはいつか没落するね」
「喧嘩売ってるんですの!」
クラリッサがやれやれという風に肩をすくめるのにフローレンスが叫んだ。
「1ドゥカートを笑うものは1ドゥカートに泣くんだよ。よくよく覚えていることだね」
「余計なお世話ですわ!」
クラリッサが慈しむような視線で告げるのに、フローレンスが叫んだ。
「で、メニューは?」
「平民に出すメニューなど──」
そこでベニートおじさんがドンッと机を叩いた。
ベニートおじさんは体は衰えていても、武闘派の心を持っている。そのベニートおじさんが無言でフローレンスを睨むのにフローレンスが言葉に詰まった。
「し、仕方ないですわね。今回だけはメニューを出して差し上げますわ……」
「何度も来るほど面白味のある店じゃないからそれでいいよ」
「くうっ!」
クラリッサが告げるのに、フローレンスがクラリッサを睨み殺さんばかり睨んだ。
「メニュー表ですわ。好きなのを選ぶといいですわ」
「やれやれ。碌なものがないね。値段も高いし」
「嫌なら何も頼まないでくださいまし!」
クラリッサのところよりも良心的な価格だぞ。
「じゃあ、クイズを早速やらせてよ。なんでも答えるよ」
「いいですわ。準備してきます」
クラリッサが紅茶などを注文してからそう告げた。
「クイズですわ」
フローレンスがパネルを持ってきてそう告げた。
「かの有名なアレクサンドリアの大図書館を破壊したのは誰でしょう?」
「……クイズ?」
「クイズですわ」
クラリッサはてっきり『パンはパンでも食べられないパンはなんだ?』みたいな問題が出るものだとばかり思っていたぞ。
「……魔王軍?」
「違います。はい、不正解。お土産はなしですわ」
プークスクスと言うようにフローレンスがそう告げた。
「古代ロムルス帝国のアウレリアヌス帝がパルミュラ帝国との間でアレクサンドリア奪還戦を繰り広げたときに焼失したわ。そうでしょう?」
そこでパールが涼しい顔でそう告げた。
「せ、正解……」
フローレンスは平民の家族がこのことを知っているはずがないと思っていたのだが。
「どうしてパールさんは知ってたの?」
「実際に戦いに参加した人に知り合いがいたからよ」
「へー」
パールが告げるのにクラリッサが納得する。
(実際に戦いに参加した人? アレクサンドリアの大図書館が破壊されたのは1000年以上前よ。何を適当なことを……って、エルフ!? この人、エルフじゃない! エ、エルフなら知っていてもおかしくはないかも……)
フローレンスは内心で凄く動揺していた。
「さて、お土産をいただこうかな?」
「ちっ。分かりましたわ。出ていく際にこれを提示してくださいまし」
そう告げてフローレンスはクラリッサにお土産の引換券を手渡した。
「儲けた。これでそっちの売り上げは落ちるね」
「いちいちうるさいですわ! さっさと食べて出ていってくださいまし!」
というわけで、お土産のクッキーの詰め合わせを受け取ると、クラリッサたちは2年B組のクイズ喫茶を後にした。
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クイズ喫茶でお土産をもらったクラリッサたちは次のクラスに向かった。
……のだが……。
「お化け屋敷……」
クラリッサは心底落胆した様子で掲げられた『ホラーハウス』という看板を見た。
「なんだ。お化け屋敷、苦手なのか?」
「苦手じゃない。つまらないから嫌いなだけ。リアルにお化けなんていないし、プロの役者がやっても陳腐なお化けを素人がやったって、どうやっても退屈な出来になるだけだよ。私は初等部で5年間お化け屋敷をやってきたから分かる」
リーチオが尋ねるのにクラリッサがそう告げた。
「そうですよね。お化け屋敷なんて馬鹿らしいですよね。別のところ行きましょう」
「ピエルトさん。お化け屋敷苦手なの?」
「そ、そんなことはないよ、うん」
こう見えてピエルト、お化けの類が凄く苦手なのである。
ピエルトも武闘派として敵対組織の構成員や密告者を吊るしたり、ミンチにしてりしてきたのだが、どうにもお化けは実在するような気がするのだ。本当にお化けがいるなら、今頃自分の周りはお化けだらけだろうに。
「よし。お化け屋敷にしよう」
「クラリッサちゃん!?」
それを見抜いたクラリッサは迷うことなくお化け屋敷を選んだ。
「何? ピエルトさん、お化けがいると思ってるの?」
「い、いやさ。こう暗がりに入ると俺たちを狙っている暗殺者とかにやられるんじゃないかって心配しているんだよ」
「文化祭に暗殺者は招待されないよ」
ピエルトが苦しい言い訳をするのに、クラリッサがあっさりとそう告げた。
「ピエルト。てめえ、まさかお化けが怖いだなんて思ってねえだろうな? てめえはリベラトーレ・ファミリーの幹部だぞ? ええ?」
「も、もちろんですよ、ベニートさん! この世の中にお化けなんているはずないじゃないですか。ハハハ」
お化けよりもベニートおじさんの方が怖い。
「なら、お化け屋敷ね。まあ、多分陳腐な出来にがっかりすると思うよ」
「まあ、学生の出し物だからな」
クラリッサたちは入場料を支払うと、お化け屋敷に踏み込んだ。
「暗い」
「暗いな」
窓は遮光カーテンで覆われているのか、光は差さず、教室の中を包み込む暗闇の中でうっすらと経路が示されているのが見える。
「行ってみよー」
「お、おー」
クラリッサが威勢よく歩き出すのにピエルトがびくびくしながら続く。
「時計の音がする」
「そ、そうだね」
音響効果を狙ってのものか、教室の中では何十もの時計の音が響いていた。
「きしゃー!」
「ひぎゃっ!」
と、そこで突如人影が飛び出してきた。ピエルトが凄い悲鳴を上げている。
「あ。クリスティンだ」
「クラリッサさん?」
赤いドレスに前髪をだらりと顔面に垂らしたお化けの格好をした少女は、よくよく見ればクリスティンであった。
「ちょっとは驚くですよ」
「お化けなんていないし」
「うがーっ! なら、どうしてお化け屋敷に来たー!」
「まあ、いろいろとあって」
怖い格好のまま威嚇するクリスティンにクラリッサはピエルトの方を見た。
ピエルトは気絶しそうになっている。
「クラリッサさん。明日は後夜祭の後に反省会があるですよ。逃げないように」
「お化け屋敷にきてお化けより怖いものに出くわした……」
クラリッサはお金にならないことはしたくないのだ。
「怖いのはこれから先です。きっとびっくりするですよ」
そう告げるとクリスティンは物陰に引っ込んでいった。
「行こうか」
「あ、ああ。そうだね」
そして、引き続きお化け屋敷。
お化け屋敷内ではこれでもかという具合に西洋人形が並べられていたり、どういう原理を使ったのかそれが振り返ったり、宙を舞ったりして、そのたびにピエルトが悲鳴を上げてはベニートおじさんに怒られていた。
ベニートおじさんがあまりに怒鳴るものだから、お化け屋敷のお化け担当の生徒たちも怯えてしまい、ちょっとだけしか姿を見せなかったり、完全に姿を見せなくなっていた。これではもはやお化け屋敷ではない。
「全然怖くなかったね」
「そ、そうだね。ぜ、全然怖くなかったね」
クラリッサが平然と外に出るのに、ピエルトが安堵の息を吐いた。
「ね。やっぱりお化け屋敷なんてちゃちだったでしょ?」
「そうだな。やはり学生の出し物は学生の出し物だな」
クラリッサが告げ、リーチオが頷いた。
「次は気を取り直して、敵地偵察に回ろう」
それからクラリッサたちは小説喫茶などを見て回った。
小説喫茶では小説を無料で貸し出し、お茶をしながら小説が読めるという喫茶店だったのだが、クラリッサは読書になど興味はなく、早々に立ち去った。
残るはゲームの店であったり、ただの喫茶店などであったりとこれと言った特色もなく、やはりクラリッサたちのバニーガール使い魔喫茶の方はどうにもおかしいという結論になったのであった。
色物な催し物はクラリッサたちのバニーガール使い魔喫茶ぐらいである。
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