娘は使い魔を友達に馴染ませたい
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──娘は使い魔を友達に馴染ませたい
バニーガール使い魔喫茶が決まったので、とりあえずどの使い魔は店に出しても大丈夫かということを調べることになった。
トゥルーデのハクトウワシのシロやヘザーのオオアナコンダのジェイソンなどは、客に危害を加えそうでデンジャラスである。使い魔喫茶に来て使い魔を食われたら、笑い話では済まないのである。
「シロは大丈夫よ! よそ様に危害を加えたりしないわ!」
「この間、その使い魔に襲われかけたんだけど……」
「よそ様に危害を加えたりしないわ!」
トゥルーデは何が何でもシロを喫茶店に参加させる構えにでた。
「うちのジェイソンも大丈夫ですよう。この子は私にしか巻き付きませんからあ。間違ってよそ様を絞め殺したり、赤ちゃんを丸のみにしたりすることはないと思いますう」
「……凄く不安だ」
ヘザーが自分の首に巻き付いているジェイソンを撫でながら告げるのに、クラスの面々が不安そうにジェイソンの様子を眺めていた。
「他に問題のありそうな使い魔は?」
「うーん。私のハリエットはちょっと移動が面倒かも」
ハリエットは巨大なガラパゴスゾウガメだ。移動するためにはサンドラが荷台に乗せて運ばなければならない。
「……というか、みんな最大の問題から目を背けてない?」
「……やはりあれを直視しなければならないね」
ウィレミナがブルーを撫でながら告げるのに、サンドラが頷いた。
最大の問題。
「最大の問題って何?」
「クラリッサちゃんのアルフィだよ」
クラリッサがきょとんとした顔をして首を傾げるのにウィレミナがそう告げた。
そうなのである。
ちょっと人を襲ったり、使い魔を狙ったりするシロや、怪しげな危険性を秘めているジェイソンなどよりも明白に危険なのはクラリッサのアルフィである。
確かにシロのように今まで人を襲ったことはないが、その見た目は見ているだけで正気が損なわれるものである。その上、鉄を溶かす酸を吐くとかいう他の使い魔を上回る危険性を有している。どう考えてもアルフィが一番危ない。
「アルフィは問題にならないよ。アルフィはいい子だから」
「前にロンディニウム・タイムスにイースト・ビギンに化け物が出たって記事になってたけど、それがものすごくアルフィに似てたのは偶然かな?」
「偶然、偶然」
「目を見て話そうか」
クラリッサがアルフィを散歩させただけで大惨事になったのはサンドラたちも知っているのである。その記事は夕刊では一面で掲載され、朝刊でも掲載されていたのだから。
「クラリッサちゃん。収益金とアルフィ、どっちが大事?」
「どっちも同じくらい大事」
「どちらかひとつしか選べないとしたら」
「両方選べるようにする」
「欲張りすぎる……」
クラリッサは物凄く欲張りなのだ。
「アルフィがいても大丈夫だよ。アルフィはこんなに可愛いのに」
そう告げてクラリッサはバスケットの蓋を開けた。
「く、来るぞ!」
「心臓の弱い人は逃げてー!」
次の瞬間、教室がパニックに陥る。
「……君たち、失礼過ぎない?」
「至って普通のリアクションだよっ!」
クラリッサがジト目で周囲を見渡すのに、サンドラがそう叫んだ。
「テケリリ」
そして、恐怖の大王──ならぬ、アルフィがバスケットから眼球をつき出した。
「出た……」
「う、直視できない……」
アルフィがのそのそと姿を見せるのに生徒たちが自分の使い魔と一緒にクラリッサから離れていく。アルフィは周囲を見渡すとサイケデリックな色合いに変色した。
「アルフィ。いい子、いい子。みんな酷いね。アルフィのこと、可愛くないだって」
アルフィは眼球を8つ形成した。
「いや、クラリッサちゃん。どう見てもそれは可愛くないぜ」
「可愛いよ。ウィレミナの美的センスがおかしいんだよ」
「んんん。それを可愛いという人に美的センスを問われたくない」
アルフィは100人中100人が目をそむけたくなる外見をしているぞ。
「クラリッサちゃん。それって毒とか吐かない? 食べ物を腐食させたりしない? 他の使い魔を食べたりしない? それでお客さんに危害を加えたりはしない?」
「しないよ。失礼だね、サンドラ」
「だって不安になるから!」
アルフィは自分が疑われているのに触手を蠢かせた。
「じゃあ、アルフィを実際に他の使い魔と交わらせてみよう? そうしたらアルフィがどれだけ無害で可愛いかってことが分かると思うよ」
「……本当に他の使い魔、食べたりしない?」
「しない」
アルフィは疑わしかった。
「ほら、アルフィ。友達に挨拶してきて」
「テケリリ」
アルフィは一鳴きするとのそのそと近くにいたサンドラのハリエットに近づいた。
「ブオ―……!」
すると、サンドラのハリエットが今までにない速度で走り去っていった。
「ワン、ワン! ウー……!」
続いてウィレミナのブルーに近づくとブルーは唸って威嚇を始めた。
「テケリリ」
「キューン! キューン!」
アルフィが触手を伸ばすのに、ブルーは逃げていき、ウィレミナの背後に隠れた。
「シャー! シャー!」
「ガアッ! ガアッ!」
それからは動物大合唱である。
アルフィが移動するたびに威嚇の鳴き声が響き渡り、使い魔たちが逃げていく。教室の中はどったんばったんの大騒ぎとなり、何事だろうかと他のクラスの生徒が覗きに来ては、アルフィの姿を見て悲鳴を上げて去っていった。
「……おかしいな。ここで無垢な動物同士の友情が形成されて、そのことからみんながアルフィを無害な存在だと認めてくれる流れだと思ったんだけど」
「大惨事だよ!」
教室の中は机も椅子も黒板もカーテンも滅茶苦茶になっていた。
「これ、絶対無理だろ。姉貴のシロだけでも危ないのに、それ以上の使い魔って。アルフィは使い魔喫茶には不参加な」
「酷い。アルフィは自分も売り上げに貢献したいよーって言ってるよ」
「色が変わっただけじゃねーか」
アルフィはただサイケデリックな色合いに変色していた。
「というか、アルフィがいると売り上げが間違いなく下がる。そんなものを見て飯を食いたいと思う人間はまずいない」
「私はアルフィと一緒におやつ食べるよ?」
「お前は少しおかしい」
クラリッサは休日の日はアルフィと一緒におやつを食べるのである。アルフィは雑食なのかクッキーもチョコレートも食べるぞ。多分、肉の方が好きだろうけど。
「みんなもアルフィを認めてあげてよ。ほら、フェリクス。抱っこしてみて」
「絶対に断る」
クラリッサがアルフィを差し出すのにフェリクスは全力で後退した。
「サンドラ」
「遠慮します」
サンドラも全力で後退した。
「ウィレミナ」
「ノーサンキュー」
ウィレミナも全力で後退した。
「はいはーい! それを抱っこさせてくださいよう! きっとその触手で……ふへっ」
「アルフィ。あれは変態だから近づいちゃダメだよ?」
「何故にい!?」
ヘザーだけが理解を示したが、クラリッサはアルフィをバスケットに入れた。
「そうだ。アルフィに着ぐるみを着せるのはどうかな? 猫と犬にも服を着せる人たちいるでしょ? そういう感じでアルフィに着ぐるみを着せてみよう?」
「うーん。それなら何とかなりそうな気もするけど……」
それで見た目の問題は解決するだろうが、何せアルフィは謎である。
突然客に向けて鉄を溶かす強酸を浴びせかけたり、来客者の使い魔をつまみ食いしたり、謎の電波を送信して周囲を狂気に陥らせたりしないという保証はないのだ。
「私だって使い魔と一緒に喫茶店がしたいんだよ。ねえ、いいでしょ?」
「うーん……」
アルフィは眼球を10つ形成していた。
「危なくなったらクラリッサちゃんがちゃんと止めてくれる?」
「もちろん」
「クラリッサちゃんが席を外すときはきちんと一緒に連れて行ってくれる?」
「もちろん」
「やっぱり諦めてくれる?」
「おい」
なんだかんだ条件を付けてもアルフィは不安である。
「みんなはちょっとアルフィのことを危険視しすぎだよ。どうして?」
「アルフィの正体は?」
「アルフィは謎」
サンドラが尋ねるのにクラリッサがそう告げた。
「せめて、正体が分からないと困るよ。ちゃんと調べたの?」
「大学にも連れていったよ。けど、謎のままだった」
著名な大学教授もアルフィにはお手上げだった。
「ねー。いいでしょー? アルフィも頑張るって言ってるよ?」
「触手が増えただけだよね?」
アルフィは触手を蠢かせている。
「クラリッサちゃんがちゃんと責任を取るならいいんじゃないかな? 見た目は着ぐるみでごまかして、後は何かの怪奇現象を起こさないことを祈る」
「祈るしかないかー……」
ウィレミナが告げるのにサンドラがため息をついた。
「それじゃあ、クラリッサちゃんのアルフィも一応参加だね」
「いえーい」
サンドラが告げるのにクラリッサが万歳した。
「んじゃ、アルフィのための着ぐるみを準備しないとね」
パンと手を叩いてウィレミナがそう告げる。
「そうだね。鋼鉄製で中が全く見えないのがいいね」
「おい」
サンドラはとにかくアルフィをお客さんから引き離しておきたいのだ。
「毛糸でこう包むようなものを作ればいい?」
「それならトゥルーデに任せて! トゥルーデがとっておきの技術を披露するわ! 可愛い着ぐるみでその得体のしれない怪物を包み込んであげるから!」
「アルフィは得体のしれない怪物じゃない」
トゥルーデがサムズアップして告げるのにクラリッサが頬を膨らませた。だが、現実問題として正体の分からないアルフィは得体のしれない怪物である。
「それではアルフィの着ぐるみはトゥルーデさんにお願いするとして」
「後は免責に関する書類を準備しよう。ここで起きたことに関して私たちは一切の責任を負わないという書類が必要だよ」
アルフィは謎である。何が起きてもおかしくない。
「クラスメイトの使い魔にみんな少し怯えすぎではないかね?」
そこで唐突に声を上げたのはジョン王太子であった。
「クラリッサ嬢の使い魔は確かに正体不明だが、実際の生き物なのだ。いずれ正体が分かるときがくるし、使い魔として従えている以上、クラリッサ嬢の意志に反した行動はしないと思うのだがね?」
「おおー。いいことを言う。特別にアルフィを抱っこさせてあげよう」
「そ、それはいいかな」
「まあまあ。そういわずに」
クラリッサはそう告げてアルフィをジョン王太子に抱っこさせた。
「テケリリ」
「あ。はい。テケリリ」
そして、謎の問答を行うアルフィとジョン王太子であった。
「それでもやっぱりアルフィは危険じゃないって言えます?」
「見た目はグロテスクだが、大人しい──こら! 私のモントゴメリーに触手を伸ばすのを止めないか! モントゴメリーが怯えているだろう!」
アルフィは隙を見てジョン王太子の使い魔を狙っていた。
「アルフィはいい子だよ。だから、大丈夫」
「本当に大丈夫なのかなあ……」
クラスの全員がそう不安に思う中、アルフィの文化祭参加が決定した。
……本当に大丈夫?
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