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娘はライバルと決着をつけたい

……………………


 ──娘はライバルと決着をつけたい



 最終プログラム。模擬魔術戦。


 王立ティアマト学園VS聖ルシファー学園の合同体育祭を開催する条件として、聖ルシファー学園の生徒会長アガサ・アットウェル自身が指定した競技。


 出場者は──。


「やるよ、クラリッサちゃん!」


「おう」


 王立ティアマト学園側、クラリッサとサンドラ。


「いきますよ、ブレント・バレット君。大会のリベンジです!」


「はい、先輩!」


 聖ルシファー学園側、アガサとブレント。


 アガサは天才的な美的センスの持ち主。クラリッサとは対照的だ。


 ブレントは稀代の天才魔術師と言われるほどの魔術の達人。大会では惜しくもクラリッサに敗れたが、今回はアガサとともにリベンジを誓っている。


「最終プログラム。模擬魔術戦です。この間の魔術大会では王立ティアマト学園と聖ルシファー学園がデッドヒートしたバトルを繰り広げ、大会が大いに注目されたことは記憶に新しいかと思います。今回はその大会で雌雄を争った王立ティアマト学園魔術部と聖ルシファー学園魔術部のエースたちが出場します。大きな拍手を!」


 クラリッサたちがグラウンドに出るのに拍手が鳴り響いた。


「頑張れー! クラリッサちゃーん!」


「アガサ会長! 応援してまーす!」


 そして、観客席からクラリッサたちに向けて声援が響き渡る。


 クラリッサもアガサも人気が高い。


 クラリッサは口さえ閉じていれば銀髪の美少女で、魔術の才能は抜群に秀でている。運動神経も抜群で、男子からも女子からも好かれるタイプだ。実際のところ、クラリッサのことを表向きにしか知らない生徒たちから、クラリッサはラブレターを何度も受け取っている。男子女子問わず、クラリッサは生徒たちを魅了するのだ。


 そして、アガサも人気である。


 アガサは生徒会長として当選しただけあって、生徒たちから人望がある。彼女なら大事な仕事を任せられるという信頼があるのだ。またアガサも寒いギャグさえ発さなければ、秀でた美的センスと美術の才能を持った美少女である。彼女もその才能とさっぱりとした性格から男子女子問わず人気があり、もらったラブレターの数はクラリッサ以上だ。


 そんなふたりの運命的対決を前にしてグレイシティ・スタジアムは熱狂に包まれていた。今は同点であるからにして、これでどちらかが勝てば、勝った方の優勝である。


「みんなー! ここで魔術大会のリベンジを果たしまーす! 応援してねー!」


「アガサ会長ー!」


 アガサがにっこり笑って、観客席に手を振るのに声援が一段と大きく響く。


「私に任せろ」


「クラリッサちゃーん!」


 クラリッサが観客席に向けてグッとサムズアップするのにまた声援が大きくなる。


「いよいよですよ、クラリッサさん! ここで決着をつけます!」


「よし来た。今度も勝つのは私たちだ」


 アガサがクラリッサにびしっと告げるのに、クラリッサが拳を鳴らした。


「このグレイシティ・スタジアムが熱狂に包まれています。泣いても笑ってもこの試合で両校の決着は付けられます」


 アナウンスが高まる声援に対してそう告げる。


「聖ルシファー学園の代表選手アガサ・アットウェルさんは同校の生徒会長を務め、アルビオン王国青少年美術展において王国大賞を受賞したほどの天才的美的センスの持ち主として知られています。魔術の才能についても、これまで魔術大会で聖ルシファー学園を優勝に導いてきた功労者です」


 アナウンスがアガサについて説明を行う。最後の競技なだけあって気合が入ったアナウンスが行われている。


「同じく聖ルシファー学園の代表選手ブレント・バレットさんは魔術において天才的才能に恵まれた人物として初等部時代から魔術大会などで活躍してきました。魔術大会における新記録達成3回というのは誇るべき成績です。その天才的魔術師としての素質がありながら、幼げな外見をしているギャップから女子生徒の人気が高いそうです」


 アナウンスは暴走していた。


「そして、王立ティアマト学園の代表選手サンドラ・ストーナーさんはここ最近の部員減少に伴う魔術部の衰退を案じて、魔術部に入部した熱心な魔術部員です。この間の大会でも活躍し、先輩たちに無事に優勝をプレゼントすることができました。将来の夢は宮廷魔術師になることである彼女は模擬魔術戦でどのような活躍をするのでしょうか」


 アナウンスが紹介するのにサンドラが顔を赤くした。


 流石に公衆の面前で将来の夢などをばらされるのは恥ずかしい。


「最後は王立ティアマト学園の代表選手クラリッサ・リベラトーレさん。なんと魔術部には仮入部で大会に出場し、大会新記録を更新しました。魔術大会における個人戦戦闘部門においては実に32秒で2体のゴーレムを撃破! 個人戦芸術部門においても49点という満点に近い成績を叩き出しました。今回の彼女の活躍に注目が集まります」


 アナウンスがそう告げるのにクラリッサがどやっとした顔をしていた。


 対するブレントは面白くなさそうな顔をしているが、アガサの方はにやりと笑っていた。今度こそリベンジするという自信に満ちた笑みだ。


「それでは選手の紹介が終わりましたところで競技を説明させていだたきます」


 アナウンスがそう告げて、王立ティアマト学園のちびっこ魔術教師と聖ルシファー学園の魔術教師がグラウンドの真ん中に立った。


「コンストラクション」


 ふたりが同時にそう詠唱するとグラウンドに地面から木々が茂り始め、同時に分厚いコンクリート製のトーチカによく似た構造物が出現する。そのトーチカの中には甲冑を纏った標的が6体出現する。


 これは東部戦線で実際に要塞として使われているものだ。


 東部戦線では魔道歩兵が今、ちびっこ魔術教師と聖ルシファー学園の魔術教師が行ったような野戦築城魔術で陣地を形成し、人間を遥かに上回る戦闘力を有する魔族と争っていた。このトーチカに歩兵たちが立てこもり、外に向けて魔道式小銃を叩き込むのだ。


 つまり、これはほぼ東部戦線における実戦演習に近い環境だ。


「おおっと。これは難しい課題です。代表選手たちはあの6体の目標をどれだけ早く、どれだけ美しく、どれだけ連携して撃破するかを問われるわけです。審査員は5名。実践性、芸術性、団結力が審査されます」


 審査員には王立ティアマト学園から2名、聖ルシファー学園から2名、王立アカデミーから1名の計5名で行われる。この審査のためにわざわざ高い報酬を支払って王立アカデミーから審査員を引っ張ってきたのはアガサである。


 大会とほぼ同じ条件で。それでもってして相手に勝つ。


 アガサは本当にリベンジを果たすつもりなのだ。


「では、作戦会議のために5分間時間が与えられます」


 アナウンスがそう告げてクラリッサたちがチームごとに集まる。


「ど、どうするの、クラリッサちゃん? あんな頑丈な目標を相手にするなんて初めてだよ! 本当に撃破できるのかな……?」


「できるよ。この間のゴーレムと同じようなものだし。ただ、チームワークを魅せるにはちょっと考えなければいけないことがあるね」


 クラリッサはそう告げて唸る。


「よし。決めた。芸術点狙いで派手に行くよ」


「どうするの?」


 サンドラが困惑するのにクラリッサが作戦を語った。


「な、なるほど。けど、上手くいくかなあ……」


「私に任せろ」


 心配そうな顔をするサンドラにクラリッサが肩を叩いた。


「それでは作戦会議の時間は終了です。聖ルシファー学園から始めてください」


 そして、いよいよ競技が開始された。


「さあ、ご覧あれ。あっと驚く、このアガサ・アットウェルのイリュージョンを!」


 アガサは高らかと宣言すると指を拳銃の形にして、トーチカに向けた。


 それと同時に地面を氷の川が流れていく。それは木々を凍り付かせ、トーチカを凍り付かせ、そしてトーチカ内の標的を凍り付かせた。


「行きます!」


 続いてブレントが腕を振り下ろす。


 トーチカに向けて無数の金属の槍が降り注ぎ、トーチカを破壊し、目標全てを破壊しつくした。トーチカは完全に破壊されている。


「今のはどのような作戦だったのでしょうか?」


「あれはトーチカのコンクリートを低温状態にすることで強度を弱らせ、そこに攻撃を加えるというものですね。きわめて高度な作戦です。これは高く評価せざるを得ない」


 実況と解説のアナウンスがグレイシティ・スタジアムに流れる。


「得点が発表されます」


 審査員たちが点数の書かれたカードを掲げる。


「10点、10点、8点、9点、9点。聖ルシファー学園、得点は46点!」


 わーっと歓声が鳴り響く。


「アガサ先輩、流石です!」


「ブレント様、素敵ー!」


 観客席から湧き起こる歓声にアガサたちが優雅に頭を下げた。


「こうなると王立ティアマト学園も高度な作戦が必要とされるでしょう。果たして勝つのは聖ルシファー学園か、それとも王立ティアマト学園がここでひっくり返すか?」


 アナウンスが流れ、再びコンクリートのトーチカと森が出現する。


「行くよ、サンドラ」


「分かった、クラリッサちゃん」


 クラリッサはサンドラにそう告げると、グラウンドの前に出た。


「王立ティアマト学園、今難題に挑みます」


 アナウンスがそう告げるのにクラリッサがにやりと笑った。


 そして、クラリッサは手をスタジアムの天井にかざす。


 すると、どうだろうか。トーチカの上空に巨大な金属の槍が出現した。


 大きさは鉄道車両一両分の大きさ。それがトーチカの上空で静かにたたずむ。


「ショータイム」


 クラリッサがそう告げてかざした手を振り下ろした。


 鉄道車両一両分の重量を有する金属の槍がトーチカに向けて勢いよく降下する。観客席では観客たちが衝撃に備えて屈みこみ頭をさまざなものでかばった。


 そして、衝突。


 トーチカは鉄道車両一両分の重量によって破壊され、同時にはじけ飛んだ金属の破片がトーチカを叩き割る。


「サンドラ!」


「いっくよー!」


 トーチカが壊れたと同時にサンドラが巨大な火球をトーチカに向けて叩き込んだ。


 火球はトーチカの内部に飛び込み、そこにあった標的全てを炎によって薙ぎ払った。標的は吹き飛び、残骸が審査員席まで飛び散る。


「す、凄まじい光景です。トーチカが完全に破壊されてしまっています」


「聖ルシファー学園が氷できたので、炎で返したのでしょうか。見事なコントラストです。これは審査員たちも判定が難しくなるのではないでしょうか?」


 アナウンスが流れ、会場が静寂に包まれる。


「得点が発表されます」


 グレイシティ・スタジアムの観客たちが息をのんで見守る中、得点が発表される。


「10点、10点、9点、8点、10点。王立ティアマト学園、47点です!」


 そしてスタジアムが一斉に湧き起こった歓声に支配された。


「王立ティアマト学園が1点差で聖ルシファー学園に勝利です! この王立ティアマト学園と聖ルシファー学園の合同体育祭の優勝は王立ティアマト学園となります!」


 もはやアナウンスも歓声でかき消されてよく聞こえない。


「クラリッサちゃん! やったぜー!」


「サンドラちゃん、流石ー!」


 ワーワーと響く歓声にクラリッサが小さく、サンドラが大きく手を振った。


「また負けてしまいましたね」


「君たちも凄かったよ」


 アガサがクラリッサのそばに来て告げるのにクラリッサがそう告げて返した。


「しかし、惜しみなく全力で戦ったので後悔はありません。ちょっと悔しいですけれど、ここまでやったのですから満足してます」


 そう告げてアガサが右手を差し出した。


「私も気持ちのいい試合ができて満足だよ。機会があればまた」


「その時はうちのブックメーカーも参加させてもらいますよ?」


「抜け目がないな」


 クラリッサはそう告げてアガサの右手を握り返した。


「抜けてるのはダメなんですよ。ブックメーカーだけに誤字脱字は禁物」


「……そうだね」


 アガサがにこりと笑うのにクラリッサは真顔になった。


「雌雄を争った両選手が握手を交わしています。これぞスポーツマンシップでしょう。それでは今大会はこれより閉会式へと移ります」


 楽しかった合同体育祭もお終い。


 クラリッサはがっつりと儲け、また来年も同じことができないかなと思ったのだった。でも、来年はクラリッサは生徒会じゃないのだ。


 アガサのリターンマッチは高等部に入ってからのお預けかな?


……………………

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