★番外編⑤★
「ファビアン殿下。いつ、私を婚約者にしてくださいますか?」
学院の中庭で友人達と談笑をしていたら、向かいのベンチで、こてり、とノエリア様がファビアン殿下の体に頭を寄せたのが目に入った。
あ、あざとい!
そして、言っていることが意味が分からない!
ファビアン殿下にはクリスティアーヌ様という婚約者がいるのに!
「ノエリア様、それは、口にしてはいけないことですわ!」
私はつい、向かいからノエリア様に忠告してしまった。
私の周りで、あ、という気まずい空気が広がったのがわかる。
……ごめんなさい。つい、ついやってしまったの。
「ふふふ。私たちがお似合いだって、誰もがわかるのね」
ああ。……やっぱり駄目だった。
「ノエリア、今のはそういう意味なのかな?」
ぱちくりと瞬きをしているファビアン殿下が首を傾げる。……気づいてくれるかしら?
「ええ。そうですわ! ふふ。私たちのこと、学院の皆さまも応援してくださっているのよ」
「そうか。心強いな」
「ち……」
私の口が友人たちの手によってふさがれる。友人の一人が私の耳に口を寄せる。
「一歩間違えば不敬罪よ」
んー、んー、と呼吸ができないことを必死で伝えると、友人たちが口から手を離してくれた。
私は忠告した友人を見る。
「そ、そんなことないわよ。事実を述べているだけだもの!」
「カリマ様、言っても無駄だって、そもそもわかっているじゃない。ノエリア様には言葉が通じないし、ファビアン殿下は理解もしてくださらないわ」
「いえ! 私は今日こそ、ファビアン殿下に理解していただくわ!」
私が立ち上がると、友人たちに手を引っ張られて、またベンチに座らされる。
「もう無駄よ。二人は二人の世界に入ってしまっているもの」
目の前のベンチでは、ファビアン殿下とノエリア様が目をそらしたくなるほど、周りを気にもしない様子でいちゃいちゃしていた。
……ファビアン殿下、ノエリア様の制服のボタンをはずすのはおやめください……。
見ていられなくて、私は目をそらす。
「行きましょう」
友人たちが先に立ち上がって、私を立ち上がらせてくれる。
私たちは、二人の行動に困っている。
……あの人たち、話は通じない上に、恥じらいってものがない!
私たち……純真な乙女なのに。
学院の風紀を乱さないでほしい……。
だけど、そう思っているのは、私たちくらいのものみたい。
……クリスティアーヌ様がノエリア様をいじめているって、どうしてみんな信じているのかしら?!
クリスティアーヌ様は、ずっと来ていらっしゃらないのに!
クリスティアーヌ様だったら、ファビアン殿下に理解できるように伝えることができるのに!
私たちには、とてもできやしない。
誰一人として、あの二人組に言葉を理解させた人はいないのだから。
……クリスティアーヌ様、能力の足りない私たちをお許しください。
完
モブ主人公。本編には一切出てきておりません……。




