表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/50

★番外編①★

「父上、ゼビア王立学院の卒業式へ、私を行かせてもらえないでしょうか?」


 執務室で向かい合う私の言葉に、父上が、肩をすくめる。


「レナルド、クリスティアーヌ嬢も、その卒業式には出るのだろう?」


 口にしたことはないが、私の気持ちがどこにあるのか、父上にはお見通しらしい。


「はい。ですが、個人的な感情だけで行きたいと言っているわけではありません」

「ほお。では、どういう意味で、行きたいと言っているんだ?」


 もしかしなくても、父上にはすでにお見通しのことで、私の考えは幼いのかもしれない。だが、私はクリスティアーヌ嬢の友人として、わずかだとしても力になりたいのだ。


「我が国を守るためです。カッセル王国が、ゼビア王国に仕掛けてきているらしいことは、父上もご存じのはず。このままでは、ゼビア王国がカッセル王国に攻略されてしまうやもしれません。隣国であるゼビア王国を攻略すれば、カッセル王国はそう遠くないうちに、我が国へ攻撃を仕掛けてくるでしょう。ですが、戦いになれば、我が国の国民たちが疲弊することになります。ゼビア王国の平和を維持することで、我が国の平和も維持することにつながります。王立学院の卒業式は、すべての貴族が集まると聞いています。ゼビア王国の貴族たちが、カッセル王国とのことをどう考えているのか、知るいい機会だと思います。ですから、将来のゼビア王国を予測するために、ぜひ一度王立学院の卒業式へ参加したいのです。いずれ、この国の騎士団を率いる立場として」


 今の騎士団は、父上の弟、つまり叔父上が率いている。

 私も幼いころから、将来は騎士団を率いていくのだと言われてきたし、自分でもそうなるのだと思って、研鑽をつんできていた。

 だから、あの噂を耳にした時から、一度ゼビア王国に行っておきたいと思っていたのだ。ゼビア王国の貴族たちが、現状をどう思っているのか、知りたかった。

 それに、要所である城を譲ったという、信じられない話も耳にした。それが本当なのか確かめたくもあった。

 クリスティアーヌ嬢が望む未来があるのかどうか、知りたかった。


 私の言葉に、父上が頷く。


「そうだな。それはいい心がけだ」


 ホッと私が小さく息を吐くと、父上が頬杖をついた。


「何なら、いっそクリスティアーヌ嬢も奪ってくるがいい」


 楽しそうに笑う父上に、私は首を横に振る。


「そのことは、関係ないと」

「だが、ファビアン殿は、つまらぬ令嬢に骨抜きになっているのだろう? ファビアン殿が見向きもしないクリスティアーヌ嬢を奪ったところで、ゼビア王国との軋轢にはならぬだろう?」


 あの噂は、当然父上も知っているか。

 聞いた時、本気で腹が立った。……もちろん、そんなことを表には出しはしなかったけれど。


「クリスティアーヌ嬢は、ゼビア王国のために身を粉にして働くつもりでいるのです。その気持ちを、ないがしろにしたくはありません」

「……レナルドは、案外意気地がないな」


 大袈裟にため息をつく父上に、私もため息をつき返す。


「意気地のあるなしではありません。常に理性的であれ、と言うのは、父上ではありませんか」

「皇太子にはワルテ殿を据えれば良い。ワルテ殿は、物事をよく見ている。私としても、ファビアン殿が次期国王になるよりも、ワルテ殿が次期国王であるほうが望ましい。意味は、分かるか?」


 父上の言葉に、私は頷いた。

 それは、今考えられる一番最良の策だ。

 あの皇太子では、ゼビア王国は遅かれ早かれ滅ぶしかない。

 口を開けば失言だらけ。無知であることを恥ずかしくも思ってもいない。どうしてそんな尊大にいられるのか不思議でしかなかった。


「血を流さぬ方法を考えます」


 私の答えに、父上が頷いた。


「その方が良かろう。その役目を持って、レナルドを私の名代として行かせよう」


 私は目を見開いた。まさか、そんな大役を任されるとは思ってもみなかった。

 でも、すぐに覚悟は決まった。絶対に、ファビアン殿下を廃嫡させてみせる。


「ただ」


 私が続けた言葉に、父上が首をかしげる。


「ただ?」

「それと、クリスティアーヌ嬢を奪うことは、別問題です。クリスティアーヌ嬢の気持ちがないのならば、我が国に連れ帰ってくることはあり得ません」


 きっぱりと告げると、父上が大声で笑いだした。


「レナルドは、やっぱり意気地がないな」

「私の意気地など、どうでもいいのです。クリスティアーヌ嬢にとっての幸せを、願っているのです」


 例え、私が失恋したとしても。


 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ