第153話:付与魔法使いは時間の潰し方に悩む
◇
さて、空腹が満たされた今の時刻は十五時。
夜までどのように時間を潰そうか考えていた時だった。
「む、今日は稽古の日じゃったな……」
ソフィアが懐中時計を見て少し焦った様子で呟いた。この様子だと、どうやら何か予定を失念していたらしい。
「稽古?」
俺が反応すると、ソフィアは事情を説明してくれた。
「我が里のギルドでは、毎週金曜日になるべく大勢で集まって稽古をするようにしているのじゃが、約束の時間までもう少しなのじゃ。うっかりしておったわい……」
言われて、今日が金曜日だったことを思い出した。言い訳というわけではないが、冒険者はあまりカレンダーを意識しないので、曜日感覚に疎くなってしまうのだ。
更に、ニーナとマリアが補足してくれる。
「エルフのギルドは、ギルドと言っても自警団のような組織なのですが、少ない人数で外敵から里を守らなくちゃいけないので連帯を大事にしてるんです」
「週に一回だけど、すごく勉強になるよね」
なるほど。里として大事にしている行事に長老が遅刻するのは確かに良くないよな。
「そうだったのか。こんな日に付き合わせて悪かったな……。今からでも間に合いそうか?」
「とんでもないのじゃ。ここから遠くないしワシだけなら間に合うのじゃが、アルスたちを一旦送ってからでないとじゃし……」
どうやら、俺たちのことを気にしての悩みだったらしい。
「アルスさんたちは私たちと一緒に帰るので大丈夫ですよ。任せてください」
「うん、家に帰るだけだもんね」
ニーナとマリアの提案。一見これで問題なさそうだが、ソフィアはやれやれと首を振った。
「皆二人を心配していたのじゃ。疲れてるじゃろうから今日は稽古には参加しなくて構わんが、ワシとしては顔は見せてやってほしいと思っておる」
「それなら、アルスさんたちを送った後に合流するので——」
と、遅刻での参加を申し出ようとするニーナにソフィアが言葉を被せた。
「今日の無遅刻特典は聖卵プリンじゃが?」
次の瞬間、ニーナとマリアの間にどよめきが起こる。
「なっ……⁉︎」
「そ、それは……っ!」
えっと……プリンって、あのプリンだよな? 黄色くて甘くて、ふわふわとした食感のスイーツ。確かに美味しいが、そんなに驚くほどのことか……?
と思っていると、思わぬ方向から声が上がった。セリアだ。
「ええええっ⁉︎ 一年に一度しか卵を産まない『虹の鶏』の極上卵を使ったプリンですか!?」
「えっと……セリアは何か知ってるのか?」
「はい! 私、実はこう見えてスイーツのことは詳しいんです」
えへんと胸を張るセリア。
「『聖卵』は、『虹の鶏』というすごくデリケートな鶏が一年に一つだけ産み落とすものすごく貴重な卵なのです……よね?」
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