霊能者
ガラガラ
「はい、みんな席について。」
ホームルームの時間になり、担任の凜導先生が入ってきた。
凜導 縁先生。
若くて綺麗な女の先生で、とても生徒思いの良い先生で、男子にも女子にも人気があるんだよね。ちなみに現国の先生だよ。
そしてそんな凜導先生だけど、この人、見える人だ。しかも、霊能者とか呼ばれる人だね。なぜだかわからないけど、なんとなく直感的にわかっちゃったんだよね。あ、霊能者だ、って。
さてさて、どうしようかな?ぶっちゃけ、ばれても構わない。この人なら、言いふらしたりしないだろうし。よし、いっそのこと、自分から打ち明けてみるか。協力者がいた方が、もしものときに何かと動き易いからね。特に、それが先生みたいな立場と信頼のある大人なら。もしものときがなにかって?もしものときはもしものときだよ。
それじゃあ昼休み、いや、効果後の方が人に聞かれる心配がないか。よし、放課後に話してみよう。
ちなみに、これだけ考えてても数秒しか経ってない。この霊体の思考速度、やっぱりおかしいね。
「それじゃ、出席とるわね。休みの人は…いないわね。体調の悪い人は…美霊院さん。顔色悪いわよ。大丈夫?」
ありゃりゃ。また言われちゃった。できるだけ元気そうに…いや、それよりいつもと同じようにするのがいいかな。空元気だと思われるかもしれないし。
「大丈夫ですよ。それにしても、そんなに顔色悪いですか?それ言われるの、今日で三回目なんですよ。」
「そうなの?でも、ほんとに心配になるぐらい顔が真っ青よ。大丈夫なら良いのだけど、もししんどくなったら、ちゃんと休むのよ。」
「はい、わかりました。」
ふう。これ、いつまで言われるのかな?まあ、もしかしたら仮病をつかう事があるかもしれないし、その時には便利かな?
それに、言われるのも今日だけだろうし、それに実害があるわけでもないし、気にしなくてもいいかな。
その後、ホームルームは恙無く終わり、凜導先生は他のクラスで一限目の授業があるから出ていった。
さて、一限目は…英語か。
それから、授業はいつも通り進み、昼休み。
いつもは弁当を持ってきて、教室で食べるんだけど、必要なくなったから作ってない。いつもだいたい一人で食べてるから、誰かに言い訳する必要もない。
さて、何しようか。いつも、弁当を食べ終わったら図書室行ってたけど…。なんかつまらないよね。いつもの繰り返しみたいで。せっかく死んだんだし、いつもと違うこと、してみたいよね。……もう十分してるような気もするけど。気にしない気にしない。
んー。とりあえず、校舎を色々まわってみようかな。もしかすると、私が気づいてない幽霊とか見つけられるかもしれないし。
それじゃあ、レッツラゴー!
今のところ、目新しい物は見つけられてない。いくつか力の強い悪霊とか浮遊霊を吸収したぐらい。ちゃくちゃくと、私に力と技術と知識が増えていってるね。あれ?あそこにいるのは、凜導先生と…もう一人は諏藤先生だね。二人で何してるんだろう?
ちなみに諏藤先生は数学の教師で、フルネームは諏藤 遊牙ってゆうんだ。諏藤先生も、面倒見が良くて、人気がある先生だね。
それにしても、ほんとに何してるんだろう。それに、二人が今いるのって、今朝私が呪いと一緒にたくさんの魂を食べた、あの鏡の前なんだよね。気になる。よし、盗み聞きしちゃおう。やり方は簡単。二人の方に耳を澄ますだけ。音を聴くだけなら、この学校の端から端まで完璧に聞こえるけど、会話を聞き分けるにはちょっと集中しないといけない。
さてさて、何を話してるのかな?
「やはり、呪いが祓われ、囚われていた魂もなくなっているな。」
「やっぱりかあ。まあ、ここの鏡が取り替えられたってわけじゃなかったし、これで確実になったわね。それで、なんでかわかる?」
「いや、わからん。仮説ならいくつかたてられるがな。まあ、さすがに自然消滅だけはないと思うぞ。」
「そりゃそうでしょ。かなり強い呪いだったのよ、この鏡の呪いは。そんなのが自然消滅するわけないでしょ。それで?その仮説って?」
「少しボケただけなのだが…、まあいい。仮説だが、一番確率が高いのは、今年入学してきた一年に、俺達でも歯がたたないクラスの霊能力者がいる可能性だな。」
「なるほど。二年生や三年生の子が最近能力に覚醒した可能性よりかは、ありえるかしら?。」
あ、凜導先生。ほとんど正解です。
「その可能性はまず無いと思うが……まあどちらにしろ、この鏡の呪いをどうにかできる奴がこの学校にいるってことはほぼ確実なんだ。味方ならいいが、もし敵だったら、応援を呼ばなければならないだろう。」
「そうね。とりあえず、この件は保留で、生徒の中に能力者がいないか探りつつ、基本的にこれまで通りってとこかしら?」
「そうだな。それで、こちらは今日他には特に異常は見られなかったが、そっちはどうだ?」
「そうね、まず、竹内君と馬場君にくっついてた呪いが取れてたわ。」
「ほう、ちゃんとお祓いしてもらったのか。お前の忠告を聞き入れるなんて、思ったより素直なんだな。」
「ええ、少し驚いたわ。あんまりひどいようなら、口止めしてから私が祓おうと思ってたのに、今日見てみたらきれいさっぱり無くなってるんですもの。」
私が食べたからね!
「まあ、良かったじゃないか。それで、他にはあるか?」
「それが、少し気になる事があるのよ。」
「気になること?」
「ええ。私のクラスの美霊院さん、知ってる?」
「美霊院?あーあのちっちゃい奴か?」
はい!そのちっちゃい奴です!。
「そう、そのちっちゃい子。実は、今日の朝その子の顔色がすごく悪かったの。」
「顔色が悪い?それぐらいなら、よくあることだろ。」
「それが、生気が全く感じられないくらい顔が真っ青だったの。それにそれだけじゃないのよ。私はあまり“視る”のは得意じゃないわ。そんな私でもよく視ればわかるくらい、強い霊気を内包していたの。」
「なに?お前が目をこらしてわかるくらいと言うと、俺達以上か?そんなまさか。それがお前の見間違いでもなんでもなく、ほんとのことだとしたら、もしかするとこの鏡も…」
「ええ、私もそう思うわ。」
「そうか…。とにかく、一度見てみるとしよう。ちょうど次は三年二組で授業だ。その時についでに見ておこう。」
「頼んだわね。」
そう言って、二人はそれぞれ次の授業の準備をしにいった。
それにしても、二人も霊能者がいたなんてね。
この学校、昨日までは気づかなかったけど、けっこうヤバイところだったんだね。
さて、次の数学の授業、どうしようか。




