表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

妖刀の正体

「え、マジ?」


 それが私の、率直な感想だった。

 すごく驚いたね。山の中の小さな祠で拾った刀が、そんな物騒なものだったなんて!…いや、刀の時点で十分物騒だったわ。

 でも私、昨日これめっちゃさわっちゃったよ!?峰のところとか頬ずりまでしちゃったよ!?

 なんかすごく手に馴染むというか、持ち心地がいいというか。

 そんな刀が、死の呪いを宿した呪物?

 嘘だと疑うよそりゃ。


「マジだ」


 けど、先生は無情だった。

 もうちょっと希望持たせてくれてもいいじゃん。


「しかもだ。その刀の呪いは、とてつもなく強力なものだ。霊体などの、本来命を持たない者に対しても、滅びという名の死をもたらす程にな。」


「え!?それって私もやばいってこと!?」


「そうだな。」


 そうだなって、軽!大事な生徒がそんなヤバイ物持ってたらもっと心配してよ!


「だからこそ不思議なんだ。なぜお前は無事なんだ?」


「なぜって言われても…私の方が強いからじゃないの?」


「少なくとも俺の目には、お前より刀の方が強い力を持っているように見える。」


「ゑ゛」


 驚きすぎて変な声でちゃったよ。

 なんせなんだかんだで、私より強い相手に会わなかったからね。

 それなのに、おもちゃで遊ぶみたいに気軽に持ってた刀が、私より強いって言われたら、そりゃおどろくよ。

 というか、私よく生きてるな。


「ようやく事の重大さがわかったか…。はっきり言って、その刀は謎が多すぎる。そんな危険なシロモノが山にあったこともそうだが、何より不可解なのは、その刀より格下のはずのお前が持てているということだ。それはつまり、そんな危険な刀が、格下に持たれることを、受け入れているということに他ならない。その理由はいったいなんだ?お前、本当に心当たりないのか?」


「あるわけないじゃん。」


 当たり前じゃん。昨日見つけたばかりなんだから。

 まあ、この刀が私を受け入れてくれているというなら、特に心配しなくていいのかな?うん。きっと大丈夫だね!


「はぁ、そうだよなぁ。とりあえず、その刀も今度上司と会うときに見せよう。連絡は私がしておく。」


「ありがとうございます!」


「それで、お前、本当にそれ持っててなんともないんだよな?」


「はい。むしろ持ってるとすごく落ち着くんですよねぇ」


「そうか。それなら、お前持ってても問題ないか?というか俺達の手には余るから、どうしようもないんだが。とにかく、何かおかしいと思ったら、すぐに手放せよ?」


「わかりました!」


 とりあえず、持ってていいみたい。

 まあ、きっと大丈夫でしょう。

 さて、今日は帰ろうかな。





 ~???~


 “それ”は昔、人間だった。

 人間だった頃の名は忘れ、今でも思いだせない。


 小規模な村落で、父と母とともに、苦労しながらも健やかに生きていた。その村落は、とある神を信仰しており、毎日神に感謝して過ごしていた。


 ある日、その村を一体物の怪が襲った。何本もの蔦が体から生えた、人のような姿をしていた。

 村の男達は立ち向かい、女子供は避難しようとした。しかし、男達はほとんど何もできずに殺され、女子供は伸びてきた蔦に絡めとられ、逃げることすら許されなかった。


 年老いたものや赤子は殺され、若い女は慰みものにされた。その中には当時、十になるかどうかという童女だった“それ”も含まれていた。

 乱暴に、物のように扱われ、三日もせずに女達は死んでいった。神に助けを求めるものは大勢いたが、ついぞ救われることはなかった。

 最後に残ったのは、“それ”だった。一番、使われることが少なかったからだ。

 そして、物の怪に使われ、意識が朦朧とするなか、“それ”は殺意を募らせていた。それは物の怪に対して、いくら願っても助けてくれない神に対して、そして、不条理なこの世に対して。

 あらゆるものの死を願った。

 その“念”を利用された。


 突如、自分を使っていた物の怪が、息絶えた。首がとんでいた。

 首を落としたのは、刀を持った老人だった。

 老人は、鍛冶師だった。

 鍛冶師は、幼い童女の、この世の全てに死を望む、その強い念に目をつけた。

 この念を呪術をもって利用すれば、あらゆるものに死をもたらす刀を作れるのではないかと。


 そして“それ”は、生きたまま釜にほおりこまれた。融けた鋼と混ぜられた。

 その血肉の混ざった鋼で、刀は造られた。

 そして“それ”の魂は、呪術により、刀に封じ込められた。

 それにより、あらゆるものに死をもたらし、魂を貪り喰らい、そのたびに力を増す、恐るべき妖刀が誕生した。

 最初にその妖刀が喰らった魂は、その妖刀を最初に持った鍛冶師だった。

 その妖刀は、持ち主すら喰らう、誰にも持てない刀だった。


 次に喰らったのは、無念のうちに死んでいった、村人達の怨念だった。そして同時に、あの物の怪の霊も喰らった。


 それから、“それ”は地獄の日々をすごした。絶えず、喰らった魂の怨嗟の声が聞こえる。何度懇願しても、止むことはない。

 その間も、妖刀は死を撒き散らし、魂を貪っていた。

 元々村があった場所、その周辺は、草一つ生えない不毛の大地となった。

 生き物など、蟻のこ一匹いやしない。近づいたものは、妖刀が撒き散らす死により息絶え、魂を喰われる。

 魂を喰らうごとに妖刀の力は増していったが、“それ”が聞く怨嗟も増すばかり。


 妖刀をどうにかしようとしたものもいた。妖刀の力を利用しようとしたものもいた。妖刀を手にいれようとしたものもいた。

 その中には、名だたる神や妖怪、英雄もいた。

 しかし、誰一人生き残ったものはいなかった。


 その妖刀が生まれてから数百年。“それ”の精神は壊れていた。意思など、とうにない。ただただ、死を撒き散らして魂を喰らうだけの物に成り果てていた。

 そんなある日、妖刀に触れるものがいた。実に百年ぶりのことである。神や妖怪、英雄の中には、妖刀に触れるものもいた。しかし、それだけだった。すぐに息絶えてしまう。

 ゆえに、それだけでは、“それ”はなんの反応も示すことはなかった。

 しかし、それで終わらなかった。

 持ち上げられ、その手の持ち主の顔の前に持ってこられたかと思うと…


「こんにちは。」


 声が、かけれた。


「おーい。聞こえてるかい?返事をしておくれよ。」


 そしてまた。しかし“それ”には届かない。

 無数の、怨嗟の声が邪魔をするからだ。


「んー。君ら煩いな。ちょっと黙っててよ。」


 そんなことを言う声の主。しかしそんなことで声が止むことはない。


「頑固者め。そんな奴らには、こうだ!」


 声の主が、そんなことを言った次の瞬間。怨嗟が消えた。

 これには“それ”もようやく反応を示した。長年自分を苦しめてきたものが消えたのだ。さすがに気づく。


「よし、静かになったね。それじゃああらためて。こんにちは。君のご主人様になるものだよ。」


 それが、妖刀である“それ”と、■■の■■である────の出会いだった。


 その後、“それ”は、主たる──に、名を与えられ、長年主を支え続けた。それは武器としてだけでなく、気楽な話し相手としても。

 数々の戦いを二人で制し、人に、妖に、神に、その名を轟かせた。まさに、常勝無敗。二人より強きものなど、存在しなかった。


 しかし、ある日二人は敗北を知ることとなる。

 最強である二人より、強きものなどいないはずなのに、なぜ?

 なんのことはない。確かに人にも、妖にも、神にすら二人に敵うものなどいなかった。ならば、数で押し潰せばいい。

 始めて、人と妖と神が、一つにまとまった瞬間だった。


 それにより、主は封印された。


 しかし妖刀はぶじだった。

 負けを悟った主が、その身を隠してくれたのだ。力の十分の一程を宿した、ダミーの刀を身代わりに。

 この日のことを、“それ”は忘れない。主を守はずの刀が、逆に守られてしまったのだから。


 その後、“それ”はまた、一人になった。

 主との特訓のおかげで、死を抑えることもできるようになったため、ただただひっそりと。隠れていた。


 しかし、あるとき見つかってしまった。とある村の、神主だった。神主はしかし、“それ”を神社の御神体として奉った。

 どうやら、この神社、刀の神を奉っているが、数日前に御神体の刀を盗まれていたらしい。途方にくれていたところ、神が創ったかのごとく素晴らしい刀が見つかったため、神からの贈り物だと、奉ることにしたらしい。

 そして何百年。そうやって奉られていたが、あるとき神社が火事にあった。そして真っ先に御神体として“それ”持ち出され、山奥の祠に安置されていた。

 神社は全焼したらしい。

 そして結局、神社は神主が高齢だったことや、跡継ぎもいないため、なくなったらしい。


 それから何年か、その祠に奉られていて、そこそこ参拝に来るものがいたが、徐々に減ってゆき。いつしか忘れられた。


 妖刀は、また一人。


 そうして何十年。

 あるとき少女がやって来た。

 こんな山奥になぜ?

 しかし、その少女の顔を見たとき、“それ”に衝撃が走った。

 そっくりだったのだ。あの主の顔に。

 驚いているまに、“それ”は少女に持ち去られてしまった。

 しかし、本当の驚きは、それからだった。

 その少女は、顔がそっくりなだけでなく、主と同じ能力まで使って見せた。かなり弱体化しているものの、黒い靄も、生命や魂をすいとる力も、それは間違いなく主のものだった。

 “それ”は思った。この少女は、主ではないか?と。

 どうやらかつての記憶は失っているようだが、この少女は間違いなく主だ。

 一晩触れあって、それは確信となった。

 そのどこか軽い性格も、“それ”の峰に頬ずりする癖も。主と寸分違わない。


 “それ”は歓喜した。叶わないと知りながら、何度望んだかしらない願いが、ようやく叶ったのだから。



『え、君名前忘れたの?そうか。んー。じゃあ、私がつけてあげるよ。そうだねぇ、君の名前は…』


 “それ”は思い出していた。初めて出会い、名をつけられたあの日を。


『決めた。君の名は、【死久】だ。宜しくね!』


 死久は、決意する。今度こそ、主を守り通そうと。

 そのためには、主に振るわれるだけではだめだ。自ら動かなければ、主を守ことなどできない。

 そしてそれには、体が必要だ。

 心当たりは、ある。



 最強の妖刀が、今動き出す。決意を胸に。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ