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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第19章 逆襲編
466/500

466杯目「グループの課題」

 柚子は相変わらずの仕事ぶりだ。最初は疑っていた客をすぐに納得させた。


 最適なプランを指差しながらタブレットを渡し、入会希望者の入会手続きを済ませた。


 客が帰った後、今までの経緯を報告させ、葉月マリッジカフェの状況を把握する。


 退会手続きは存在せず、結婚すれば『成婚退会』となる。


 会員が紹介申請する度に、プランに沿った異性を1人紹介し、紹介した人数分だけ紹介料が発生する課金制だ。入会料は同じだが、紹介料はコースによって変動し、紹介する相手の条件が良いコースほど高くなる仕組みで、申請するしないは自由だ。途中で辞めたくなったら紹介申請をやめるだけで済む。あまりにも紹介申請がない場合は催促するが、だからと言って退会させることはない。退会手続きを省くだけでも運営側の事務負担が大きく下がるのだ。


 利便性を追求しつつ、無駄な作業はとことん減らしていく。


 スクラップ&ビルド方針を思いついたのは僕だ。


 学生の頃、学校の教師たちを見ていて気づいた。教師の仕事がブラックなのは、仕事がビルド&ビルドになっていて、増えることはあっても減ることがない。無駄な部分を見つけて削減する発想がないところには頭の悪ささえ感じた。当時の僕は思った。仕事を教えられるべきは、むしろお前らだろうと。


 そこで思いついたのがスクラップ&ビルド方針だ。1つ1つの仕事の重要度を評価し、新たに仕事を増やした場合、最も重要度の低い仕事を削減しなければならないというルールだ。増やしてばかりでは疲弊するし、何より職場がブラック化していく。当時の教師たちは、さながらブラック企業に勤める社員のお手本を示しているかのようで、お前らも将来こうなるんだぞと言われているような気がした。


 二度と同じ過ちは繰り返さない。


 紹介申請をしないまま1年が経過すれば『自動退会』となる。理由は会員が増えすぎると管理が難しくなるためだが、紹介申請をする意思がない人を弾くためでもある。結婚相談所に来る人は自らの条件に難を抱えている。性格に問題がなく、条件の良い人なら、わざわざ婚活をせずとも引く手数多だ。自動退会になれば、再入会する必要がある。無職の人もそうだが、長期にわたって虚無な状態が続いている人は、何らかの障害を隠し持っていることが多く、データが蓄積すれば、結婚に向かない人を入会前に弾くこともできるようになるが、この案は柚子に拒否された。


 葉月マリッジカフェは、他の婚活イベント会社にはない特徴がある。


 無職の人を葉月珈琲塾に紹介し、知識や技能を身につけさせてから仕事を紹介する。


 職場に定着したところで、マッチングプランに加入させる『就婚活プラン』が存在する。就活にも婚活にも人間力が必須だ。柚子は人間力を鍛える教育に長けた葉月珈琲塾との連携に目をつけた。


 実際、就活と婚活はよく似ている。自分をアピールしなければならない点、相手を見定めなければならない点、継続的につき合っていくだけの度胸がなければならない点だ。就活に特別支援が必要ならば婚活にも特別支援が必要であると考えた。少子化の原因は婚姻数の少なさだ。結婚は稼ぐ力がなければしようと思わない人が多い。稼ぐ力とは人間力だ。ここに大きな課題があると感じた柚子は、思い切って無職にも特別支援の手を広げた。葉月グループならではのやり方だ。婚姻数が減っているのは、結婚制度が抱える欠陥を修正しなかったこともあるが、やはり生きる力を伸ばす教育を怠った結果でもある。


 自分の食い扶持すら確保できない者が、誰かと一緒に生活しようなんて思う余裕はない。葉月マリッジカフェは多くの婚活イベント会社が抱える弱点を見事に克服している。


 入会希望者が来ないなら、自前で作ればいいのだ。


 無職の中にも結婚願望を持つ者はいる。だが無職の男が結婚相談所に赴けば門前払いにされる。女性の場合は無職でも受け入れ可能な結婚相談所もあるが、これは男が女を養うべきという性別役割分業の思想から生じているバグのような状況だ。無論、葉月マリッジカフェでは男女平等に扱っている。職に就いている者には、入会させてから手頃な相手を紹介していく。無職の人を募集し、葉月珈琲塾で生きる力を身につけさせ、就婚活プランに則った婚活支援を行い、結婚に相応しい人間を育成する。


 婚活プランは至ってシンプルであり、個人に応じたランク制となっている。


『ブロンズ会員』は年収500万円未満の男性が所属し、女性会員は必ず年収500万円未満の男性会員を紹介される。男性は全ての女性から紹介され、会員の約60%が所属している。主な在籍者は貧困層であり、男性会員のみ年収が変わった場合は他のランクに移動する。


『シルバー会員』は年収500万円以上1000万円未満の男性が所属し、女性会員は年収1000万円未満の会員を紹介される。男性会員は40歳未満の女性から紹介され、会員の約10%が所属している。中間層であり、格差が広がったことで、二極化しつつある日本では希少となっている。


『ゴールド会員』は年収1000万円以上2000万円未満の男性が所属し、女性会員は年収2000万円未満の会員を紹介される。男性会員は35歳未満の女性から紹介され、会員の約25%が所属しているのだ。主に新富裕層が在籍するが、所謂金持ちではなく小金持ちである。


『プラチナ会員』は年収2000万円以上の男性が所属し、女性会員は同じランクの会員を中心に全ての男性会員から紹介されるのだ。男性は30歳未満の女性の中から紹介され、会員の約5%が所属しているのだ。富裕層の男性ではあるが、基本的に問題児ばかりである。


()()()()()()』は無職の男女が仮入会という形で所属することとなり、葉月珈琲塾に就婚活枠で入塾する。身の回りの世話からアプローチのやり方までを手取り足取り学習させ、就職させてから正式な入会となり、基本的にはブロンズ会員からのスタートとなる。仮入会している人数は、正式入会している人数を遥かに超えている。非正規雇用の人や、脳機能に偏りのある人も特別支援会員に応募することができ、適切な育成を受けられるのだ。


「ふぅ、やっと終わった。コーヒー淹れてくれない?」


 一息吐いた柚子が休憩室の椅子に腰かけ、安堵の表情を浮かべた。


「はい。さっきまでずっと喋ってましたね」


 宇佐さんが気さくに話しながら、コーヒーを淹れ始めた。


「就職決めたんだな」

「……難しい判断でした。両親に相談するくらい悩みました。大分に戻ったら、もう皐月さんに会えなくなると思うと、とても心苦しいものがありました。皐月さんはお仕えしているお嬢様というより、妹のような存在ですから。それに両親からも、お前の信じた道を進みなさいと言われました」

「葉月グループは君の決断が間違っていなかったことを証明できるグループだ」

「皐月さんとつき合ってるのに、よくそんなことが言えますね。心配になってきましたよ」

「皐月のことは必ず幸せにする。だから心配すんな」

「私が心配しているのは、あなたとつき合っている件が公になることで、皐月さんの人生が台無しにならないかってことです。皐月さん、ああ見えて結構デリケートなんです。私がここに残って皐月さんと同じ職場を目指そうと思ったのは、皐月さんを世間の目から守るためです。皐月さんをお守りできるのは私だけと心得ています。それに、私はまだ、あなたを認めたわけではないことを……お忘れなきよう」


 鋭い目を光らせながらも、きっちりと無駄のない動作でコーヒーを淹れた。


 皐月の教育係を務めていただけあり、マルチタスクを得意としているようだ。


 宇佐さんは立花グループから晴れて葉月グループに鞍替えしたが、岐阜での暮らしにはすっかり慣れている。引っ越し先は葉月マリッジカフェ。今度は柚子にハウスキーパーとして仕えることとなった。葉月珈琲塾に入塾し、バリスタ修行を行い、早くも卒業単位の1割を獲得してしまった。早ければ1年足らずで卒業できるが、こいつの皐月に対する執念は常軌を逸している。


 岐阜コンでは宇佐さんの長所が全て表れた。


 運営を任せてみれば、的確に指示を出し、1000人規模の参加者を見事にまとめ上げた。当初は葉月商店街の中だけで行われていたが、以前から採用しているスタンプラリー方式がハマり、岐阜コンが終わってからも度々客が来てくれるようになると、商店街の外にいる店舗までもが参加を希望し、岐阜コン公認店舗に加盟する形となった。噂が噂を呼び、岐阜コンを通して宣伝ができることを知った店舗からの応募が殺到する事態となった。去年からは葉月商店街の店舗に加え、外側から20店舗が、毎回の抽選で加盟できることとなったのだが、それでもキャンセル待ちの店舗が相次いでいるという。


 葉月商店街及び葉月マリッジカフェ主催となってからは日本一規模の大きい婚活イベントとして、旅行サイトにさえ名前が載ることとなった。葉月マリッジカフェは葉月グループのカフェとしてだけでなく、カップリングが決まりやすい結婚相談所としても有名となった。


 柚子は社長よりも、雇われ店長としての適性を持った戦術家であることが証明されたのだ。


 参加者についても応募が殺到した場合は抽選となるが、葉月マリッジカフェの会員であれば抽選なしで参加することができる。入会者の守備範囲となる都道府県は、岐阜、愛知、福井、京都、滋賀、三重までとし、東西の大都市を代表する結婚相談所との削り合いを避ける形となった。


 葉月マリッジカフェのバリスタがメジャー店舗に昇格した例はない。マイナー店舗にも序列というものがある。次世代トップバリスタの有力候補は、喫茶葉月、雑貨葉月、ラテアート葉月、レストラン葉月といったトップバリスタがマスターを務め、コーヒーイベントでの出世欲が強い店舗に所属となる場合が多いのだが、葉月マリッジカフェや葉月ショコラはコーヒーとは別の分野に力を入れている分不利だ。


 プロ契約は結べるが、期待値が低い分、予算配分が少なくなる。


 宇佐さんはコーヒーイベント未経験者だが、コーヒーの淹れ方については、独学による教養がある。


「分かった。だったら必ず認めさせてやるよ。マイナー店舗のバリスタは、マスターに認められればメジャー店舗から人員補充の打診があった場合に、他の連中に実績で勝れば昇格のチャンスがある。柚子に昇格候補推薦を認めてもらうか、コーヒーイベントで結果を出し続けて、FA権を取得すれば、葉月珈琲に昇格できるってわけだ。できるかどうかは君次第だがな」

「柚子さん、コーヒーイベントで結果を出したら、昇格を認めて頂けますかぁ~?」


 目を光らせながら両腕の拳を顎に近づける宇佐さん。


「私としては、貴重な戦力をそう易々と手放したくないんだけど」


 半ば呆れ顔のまま、柚子は長髪を後ろにすく。


「それにバリスタとして働きながら、婚活アドバイザーもできる人なんて、希少価値が高いもの」

「そこを何とか……私、どうしても皐月さんのお供がしたいんです」

「なあ、こいつそんなに仕事ができるのか?」

「うん、思った以上にね。昇格推薦候補の件は考えておくけど、あんたは葉月珈琲塾を卒業すらしていないんだから、まずは塾の卒業と、コーヒーイベントへの出場を目標にしたら?」

「……分かりました」

「あず君、ちょっといい?」

「お、おう……」


 柚子に言われるがまま後をつけた。宇佐さんが再び作業へと戻る。


 今度は会員と思われる女性の紹介申請を引き受け、手頃な男性を紹介する。


 カップリングしてから結婚にありつく確率は、1割を超えれば上出来とされる。だが彼女の仕事ぶりを見れば、他の結婚相談所を潰しかねない勢いだ。皐月が言うには、宇佐さんの家は礼儀作法に長けている伝統の名家と聞く。礼儀作法の指導はカップリングをさせる基本である分相性が良い。礼儀正しい人間を1人でも増やすべく、九州地方を中心にマナー教室を展開している。


 宇佐さんはそんな名家の分家にあたり、裕福とは言えない。


「まだ新人なのに、物怖じすらしないで淡々と完璧に業務をこなすの。正直申し分なさ過ぎて恐怖すら感じたなー。通常業務から諜報までこなして、周囲の店舗の状況まで把握してる。一体何者なの?」

「皐月の教育係を務めていたハウスキーパーだ」

「最初はバリスタ修行のついでに入会希望者の手続き案内でもしてくれれば御の字と思ったけど、案内だけじゃなく、婚活に関するデータを提供した上で的確なアドバイスを実行させて、あともう少しのところで自動退会しそうだったアラフォー女性を3人もカップリングさせたの。もし結婚に結びつくようなことがあれば、昇格候補推薦を認めざるを得なくなるけど……私はあの子に残ってほしい」

「気に入ったんだな」

「それもあるけど、あの子は皐月ちゃんに依存しすぎなところがあるの。バリスタの仕事だって、いつか昇格してから皐月ちゃんと一緒に仕事をするためだってハッキリ公言してる。でもあの子にはバリスタとしてよりも、教育したり助言したりする仕事の方が向いていると思うの。皐月ちゃんを育てたのがあの人だというなら、他の人たちにも同様の教育をすれば――」

「人間力の全体的な向上が見込める。だろ?」

「そゆこと。宇佐さんも本気みたいだけど、私も本気なの。葉月グループは社員の育成を塾に依存しているところがあるけど、大半はうちに就職せず、別の道で生きていく。でもそれじゃ足りないの。中途採用された社員の育成も充実させないと、このまま新人だけの育成で進むと、あと10年でグループ内の戦力が先細りになるって璃子が言ってた」


 柚子が壁に体重を預けながら腕を組んだ。


 言っていることはよく分かる。意欲と才能の方向が一致しないのだ。


 璃子が言っている懸念とは、人間力を育てる教育を施すのはいいが、他の企業に入れば、それは敵に塩を送るようなもので、ライバル企業を育てるだけの結果になる。葉月珈琲塾を卒業してからうちに入ってくる人数よりも、中途採用で入社する人数の方が多いのだ。


 今は暫定的な応急処置として、中途採用された人を葉月珈琲塾で育成しながらマイナー店舗に送り込んでいるわけだが、これだけでも多忙になる上に、入社のハードルを上げてしまっている。多くの人は塾に通いながら仕事をするような器用なマネはできないし、厄介なことに、真面目に通学してきた連中ほど、葉月グループで通用しないのだ。今までに学んできた従順性や均質性を全て白紙に戻し、かつて引っこ抜かれてきた主体性や創造性をまた植えつける二度手間が発生する。20代半ばまでの人生を無駄にさせている教育システムの弊害がここにも表れているのだ。


 中途採用だけでは、彼らが今までに受けてきた教育の影響を受けてしまう。無論、葉月グループでは通用しない人材であることが多く、他のコーヒー会社から転職してきた連中も工場労働者と同じ適性を持っている。他の企業でなら、いくらでも潰しが利くかもしれないが、変化の時代を駆け抜けるだけの能力は持ち合わせていない。やはり親から説得するしかないのか。


「美羽も同じことを言っていたな」

「50歳定年が裏目に出てるね」

「老人が多数派になったら今の国会みたいになるぞ。それこそ先細りの沈みゆく船だ。半世紀以上昔の価値観で企業を動かされたらたまったもんじゃない。だから役員とユーティリティー社員は定年なしにしているわけだし、社員は若い方がいい」

「役員だけじゃなくて、役員も定年なしなんだ」

「50歳を過ぎても余程優秀な人なら役員に、そうでないならユーティリティー社員だ。ほとんどの人はユーティリティー社員に回るし、極力現場の意見を反映することを義務化してるから問題ない。仕組みさえ何とかなれば、後は勝手に成長してくれる。後は継続的なインバウンドと事業のオンライン化を確立しないとな。競技会は体力がないと続かないし、年を取った人には、若手の指導をさせたい」

「その先駆けに宇佐さんを考えてるの。久しぶりに見つかった婚活アドバイザーだし、理恵さんもあと5年経てばユーティリティー社員に移行する。そうなったら店舗スタッフを卒業しないといけないでしょ。5年なんてあっという間だよ。時間がないの。どの道中途採用した社員を教育するシステムが必要だし、塾に通わせながら仕事なんてさせていたら、どこかで限界が来るよ」

「……そうだな」


 柚子は至って冷静だった。経営者時代の経験が活きている。


 塾通いから仕事までを無理なくこなせる人は少数派だ。できれば不登校児たちを抱え込んでしまいたいが進路の自由を阻むことはできない。可能な限り優遇して、うちに入社させるくらいしか方法が思いつかない。優秀な若者が集まるようにならなければ、企業の将来なんてない。


 婚活アドバイザーは育成が難しいし、柚子が妊娠中の時は、瑞浪1人で葉月マリッジカフェの柱となっていた。瑞浪は手頃な相手を度々見つけたが、高齢がネックとなり、結婚には至らなかった。しかも両親が老人ホームに入ったことで遂に独り身となってしまった。動き出すのが遅かった。だが分かったこともある。瑞浪は結婚したかったんじゃなく、安心を得たかったのだと。


 ふと、オープンキッチンのショーケースからザッハトルテを取り出した瑞浪の姿が見える。


 将来に対する不安など微塵も感じていない。無糖のホイップクリームを皿に盛り、コーヒーと共に腰かけている客がいる机の上に置いた。本人が言うには、結婚はもう諦めたとのこと。ソロとして生きる覚悟を決め、周囲の人たちとの人脈作りに必死だ。常連とも積極的に話し、時折婚活アドバイザーとして助言を送っている。まずはカフェとして客寄せし、結婚願望のある客を見つけては結婚相談所に姿を変える。瑞浪もザッハトルテを自分で購入し、同じように盛りつける。


 スタッフ用の座席に座ると、客が来るのを待ちながらザッハトルテをフォークで切り分け、刺しながら持ち上げると、口の中へと運び、敏感なくらいに甘さと苦さを舌で感じ取る。自分は何を目指していたんだろうと、途方に暮れるのが表情で分かる。結果に対して不満はない。だができることなら結婚したかったと、表を通り抜けるカップルを見ながら感じている。見切りはつけた。だからこそ、自分と同じ思いをしてほしくないのだと彼女は密かに思っている。それも1つの人生だ。


 宇佐さんを見守りつつ、僕は葉月マリッジカフェを後にするのだった――。


 5月上旬、伊織が服のボタンを外し、ぎこちない動きながらも、燈に授乳を始めた。


 伊織は以前から唯に授乳やベビーミルクの作り方を学んでいたこともあり、特に教わることもなく子供の面倒を見ている。たった1人の母親だけでは限界がある。母親は子供にあれこれと過干渉に接してしまうが、子供にとっては大きな罠だ。昔は祖父母や近所の人が子育てのやり方を教えてくれていた。核家族化した今、軌道修正してくれる人がいなくなった。


 今ではママ友の集会が廃れているが、もしかしたら必要だったのかもしれない。


 うちに限って言えば、ママ友が常に3人いる状況だ。


 疑似的ではあるが、セルフPTAがあるこの状況なら子供たちも安心して過ごせる。新居に住み始めて1ヵ月が経つ。葉月珈琲に住みながら店の営業をしていた自分はもういない。


 バリスタとしての腕が衰えないよう、僕はコーヒーを淹れ、唯の目の前に置くのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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