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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第18章 包囲網編
450/500

450杯目「交渉の末に」

第18章終了となります。

次回からは第19章逆襲編が始まります。

あず君の奮闘をどうぞお楽しみくださいませ。

 ようやく寝静まろうかという時、窓の僅かな隙間から夜風が吹き抜けてくる。


 伊織にメールを送ると、容態は至って安定していることを聞き、ホッと胸を撫で下ろす。


 立花社長との交渉はどうかと聞かれたが、まだ難航中としか返せなかった。本当のことを言えば、胎教に悪いのは確かだろう。皐月のことは好きと言えば好きだが、流石に唯と伊織が承諾することはないと思っている。しかし、業務提携の条件が皐月とつき合うこととは、一体何を考えてるんだ?


 僕も皐月も天井を眺めながら、ひんやりとした掛け布団に身をくるんでいる。


「起きてるか?」

「うん……皐月、立花社長の言葉、どう思う?」

「というと?」

「さっき皐月のことを任せられるとか言ってただろ。僕は酒に酔ってるとしか思えなかったけど」

「親父は酔っている時でも、出任せを言ったりはしない。酒は人の本性を映す鏡と言うだろう。親父は私を助けようとしている。恐らくは私の結婚を避けるためにな」

「結婚を避ける?」

「そうだ。実は杉山グループから私を嫁に出すよう言われている。もし正当な理由もなしに断った場合、立花グループの立場が不利になる。立花グループ本部株の30%は既に杉山社長が握っている」

「――じゃあ、もしペナルティなしの契約を無効にされて、バリスタランドのワースト5店舗にでも入ったら、もう後がないってことか」


 相手の企業を乗っ取る場合、株の過半数、つまり本部株50%以上を確保する必要がある。


 裏切りが発覚した企業は容赦なく罰を受ける。オリオンカフェは杉山グループではないが、腹心とも言えるコーヒー会社だ。抜け穴を用意していたのは明確な味方だからだ。しかし、立花グループはオリオンカフェとは異なり、昔からの仲間ではない。親族と結婚でもしない限り、仲間とは認められない。


 ――何か引っ掛かる。オリオンカフェがそこまでの結びつきを持っているとでも言うのか?


 杉山社長の隠し子がどこかにいる。皐月さえ無事なら探す必要はないが、このままじゃ皐月が立花グループの未来を案じ、最悪の場合、自分の意思に反して嫁いでしまうだろう。女を物扱いする態度も気に入らない。皐月が杉山社長の息子に嫁ぐことは、彼女がコーヒーイベントに参加する場合、杉山グループ側で参加することを意味する。皐月は杉山グループにとって最大の脅威だ。


 なるほど、敵の狙いは調略だ。立花グループを助けながら皐月の嫁入りを阻止するには、何か画期的なアイデアが必要だ。まさかとは思うが、立花社長は本気で皐月を僕に託そうとしているのか?


「あず君、1つ提案がある。しばらくあず君の家で暮らしてもいいか?」

「えっ……そ、それはちょっとまずいんじゃないかな」

「私があず君に寝取られたことにすれば、立花グループは被害を受けずに済む。親父がいくら実家に帰るよう催促しても戻らない場合は、相手も親父を咎めることはしないはずだ」

「皐月が嫁がなくて済むようになるまでの間なら、面倒を見ないこともない。でも最低限、唯と伊織の許可は必要だ。駄目ならいっそ杉山グループの業務提携から離脱して、うちの味方をするよう言ってくれ。損した分の補填くらいはしてやる。次の優勝回数勝負で全勝すれば、本部株だって戻ってくる」


 皐月は眉を顰め、考え込むように口を閉じた。


「――葉月グループが勝てさえすれば……全て元通りになるんだな?」


 いつもより低い声で尋ねる皐月。どうやら本気らしい。


「……きっとな」


 希望を仄めかす言葉しか言えなかった僕は……考えるのをやめた。


 12月上旬、強化合宿の日々を過ごしている時だった。


 先月から月一を週一に頻度を増やし、千尋に代わって皐月が強化合宿の指揮を執ることに。


 強化合宿に参加した者は、出勤日数が減っても、社内貢献度には響かないよう、葉月データに数値調整を依頼した。立花グループとの交渉は続いている。皐月と同居する話は保留にし、機会を窺ってから話そうと思ったが時間がない。大分から帰路に就く際、僕と皐月を見送りに来た立花社長が呟いた。杉山グループから年末までに皐月を引き渡すように言われていると。まるで助けを求めるかのようだ。僕は振り返ることもなくタクシーに乗ったが、皐月は家の前から動かない立花社長を何度も振り返った。


 千尋の裏切りによって士気が落ちてしまったが、すぐに皐月が取り戻してくれた。


 先月から唯、花音、桜子、皐月が追加招集により、定期的に参加することに。


 主力の座を勝ち取った花音は強化合宿を知るや否や、自ら参加を志願した、花音と桜子は珈琲班に所属となった。唯と皐月は喫茶班に入った。だが小夜子は一向に姿を現さない。妹が事実上敵側にいる手前、まともに姿を現すことができない。そこまで気を使う必要など皆無だが、小夜子は自宅で練習を積んでいるとのこと。たまには参加するらしいが、ここにいる多くのプロバリスタに競技を見てもらう機会がなければ、自らの競技を客観的に見れない分不利だ。


「凜、分からない時はパンフレットを見ながら説明しろ。コーヒーのことであれば、ジャッジが基礎知識を持っている前提で話してもいい。説明文は長いほど有益だと思われがちだが、実はそうじゃない」

「えっ、たくさん話せばいいものじゃないの?」

「フレーバーの宣言を必ずしないといけないだけで、JBC(ジェイビーシー)創成期の頃はほとんど話をすることなく、黙々と競技が行われていたくらいだ。今みたいに始めから終わりまで入念に説明する文化を国内予選と世界大会に普及させたのはあず君だ」

「よく喋るもんね」


 凜がジト目を向けながら言った。僕は顔をニヤケさせながら後頭部に手を置いて誤魔化した。


「最近のコーヒーイベントは喋りすぎる人が多いからな。ワールドコーヒーイベントが過度に話さなくても総合スコアには響かないって注意喚起しているくらいだ。花音もそんなに話してなかっただろ」

「あず君が凄いだけだもんね。結局みんな、無意識にあず君の模倣をしてたってことだよね」

「私は言いたいことを言うだけで済ませていた。だから簡潔に伝わりやすかったんだろうな」

「――ねえ、アマチュアチームの人だけ贔屓にされてる可能性はないの?」


 練習を一休みしている凜が尋ねた。


 今年のコーヒーイベントでプロがアマに負け越したことは大きく取り上げられたが、アマチュアチームから世界大会辞退者が相次いだことで、真摯に世界一を目指すプロの姿勢が再評価されたのだ。


 だが大敗を喫したこともまた事実だ。


 凜はまだ若い。杉山社長が1枚噛んでいる可能性がゼロとは言わないが、明らかな実力差だ。バリスタ競技会で優勝を狙えるだけのポテンシャルを大きく伸ばした鍛冶は敵ながら天晴れだ。うちのバリスタが弱いわけではない。バリスタマネージャー不足という弱点があったから負けたのだ。


「何か不審に思う点でもあったか?」

「だってアマチュアチームの人ばっかり勝ってるんだもん」

「凜、結果に対して不平不満を言うなら、誰もが贔屓だと思うくらいの競技をしてから言え。あず君には実力があったからこそ、書類選考で落ちた時、誰もが不正だとすぐに気づけたんだ。一応ファイナリスト全員のスコアシートを見てみたが、特に贔屓していたところもない。いくら杉山社長がコーヒー協会の会長とはいえ、そんなことをするためだけにコーヒー業界を汚すようなマネをするのはリスキーな行為だ。まずは結果を出せ。話はそれからだ」

「……分かった。じゃあ今度は誰もが驚く競技をして、必ず優勝してみせる」

「その意気だ」


 凜が意気揚々と作業ステーションへと向かう。


 実際の競技を再現しやすくするため、極力大会と同じシチュエーションと作業ステーションを再現している。長いテーブルにはセンサリージャッジ4人が座る席もあり、世界中から取り寄せた最新鋭のコーヒーマシンを揃えている。コーヒー業界が大きく注目されたことで、コーヒーマシンに手を出す企業も増えていき、より性能の高いコーヒーマシンの量産化が始まった。


 皐月になら問題なく任せられる。僕がいない時でも存分に練習ができそうだ。


 まずはアドバイスを工夫した。積極的指導を見直し、消極的指導を導入した。相手が教えてほしいと言うまでは放置し、全て自主性に任せた。コーヒーイベント前までは頼まれるまでもなく指導してしまったことで、結果的に型にはまってしまっていた。分からないことがあれば、世界大会でも実績のある皐月や桜子に聞くこともできるし、最難関の課題でもあるシグネチャーのテイスティングもしてもらえる。


 今回からは2大会へのエントリーを義務付けた。凜がJBC(ジェイビーシー)の練習をしているのはこのためだ。通常であれば、流れ作業の習得から始めるが、凜はJLAC(ジェイラック)で流れ作業を習得済みだ。話しながらコーヒーを淹れる作業には慣れているし、マルチタスクの課題はここにいる全員が克服しているのも大きい。バリスタとしての基礎だけなら、うちでもトップクラスだ。


 ――もしかして、璃子はこのために強化合宿を始めたのか?


 数時間後、合宿が終わり、全員が帰路に就く。


 僕らを乗せたレンタカーが閉店後の葉月珈琲に着いた。


 僕らが休日の際、那月にマスター代理を任せ、ユーティリティー社員の教育を担当させた。営業は特に問題はなかったようで、マイナー店舗のスタッフも質が上がっている。葉月珈琲塾を卒業するか、ルーキー店舗扱いとなっている他社店舗で経験を積まなければ、葉月グループの店舗に所属できない規則を新たに試験導入している。うまくいけば葉月グループの来年度、つまり1月から本格導入される予定である。通年採用であるため、バリスタを究めたくてたまらない連中が自動的に集まってくる。


 皐月は自宅に戻るどころか、帰宅を拒むかのように僕の腕を掴んだ。


「皐月さん、どうしたんですか?」

「唯さん、あなたと伊織と……3人で話したいことがあります」

「いいですよ。じゃあ上がってください」


 夜の8時を迎えていたが、唯は嫌な顔1つせず招き入れた。


 伊織は雑巾を持ちながら背中を曲げている。あれほど休めと言ったのに。


 唯、伊織、皐月の3人は、拭き掃除が終わったばかりのテーブル席に着いた。


 皐月が大分出張中の出来事を全て打ち明けた。杉山社長に隠し子がいること、このままでは嫁がされること、立花グループが杉山グループに吸収合併されそうなこと、業務提携の条件として僕と皐月がつき合うことを特に誇張するわけでもなく、ありのままに。


 万が一にも2人が承諾するとは思えないが……。


「……そんなことがあったんですね」

「杉山社長に隠し子がいたなんて」

「もしかして、土門さんとか」

「それはない。年が離れ過ぎてるし、杉山社長と違って詰めが甘い。あのじじいの年齢を考えれば、隠し子は僕より年上である可能性が高い」

「一度同意するふりをして、会わせてもらってから断ってみたらどうですか?」

「そんなことをしたら立花グループが吸収合併される。皐月はそれだけは防ぎたいんだろ?」

「ああ。そこで1つ頼みがある。私をあず君の……3人目の恋人にしてほしい」

「「「!」」」


 僕、唯、伊織が同時に舌を巻いたまま開いた口が塞がらない。


 無理もない。事実重婚というだけでも前代未聞の話だ。


 正当な理由であれば、相手は皐月が嫁ぐことを諦め、立花グループがペナルティを受けることもない。皐月も立花社長も具体案は出ていたが、世間的なタブーに触れる手段でもある。多少評判を下げることはあれど、両方助かるにはこの方法しかないと見た。


「恋人のふりをしてくれるだけでもいい。ほとぼりが冷めてから、話し合った結果、ただの友達に戻ったと言えば済む話だと思う。もちろんただでとは言わない。外部に漏らさないという条件で立花グループと業務提携を結ぶことを親父に打診すれば、必ず応じてくれるはずだ」

「……そんな条件では承諾できません」

「どうして駄目なんですか?」

「私たちにとって、そんなことはどうでもいいんです。肝心なのは皐月さんの気持ちです」

「私の……気持ち」


 唯も伊織も皐月の言葉に不信感を抱き、目を尖らせながら皐月に向けている。


 いつもは見せない表情だ。僕の恋人は2人だけで十分だと表情だけで伝えている。


 皐月には申し訳ないが、立花グループのことは諦めてもらおう。もしくは障害者雇用促進法を無理矢理にでも守る方法もあるが、結局誰も幸せにならない方法だ。何の実績もない連中を雇ったところで、競争原理に大きく反する。この足の引っ張り合いもGDPを大きく下げてきた要因だ。葉月グループは社内失業者を1人も出さないのが義務だし、条件は飲めないことを唯も伊織も十分に理解している。


 勝ったな。疲れたし、風呂にでも入るか。


 僕が2階へと移動しようとした時だった――。


「私も唯さんもあず君を愛しています。生半可な気持ちであず君に近づくなら認めません。ましてや誤魔化すためだけの恋人なんて言語道断です」

「ですね。自分の気持ちに嘘を吐くような人はあず君の恋人に相応しくないですから」

「……分かった。なら正直に言おう――私はあず君が好きだ! あず君がバリスタオリンピックを制覇した時から、ずっと夢中になって追いかけてきた! 愛してると言ってもいい! もしこの気持ちが偽りだったら、腹を切っても構わない!」


 皐月が赤面しながら手を胸に当て、高らかに宣言すると、唯と伊織が晴れやかな顔色に変わった。


 伊織は可愛らしい歯を見せながら皐月に擦り寄り、唯は席を立って僕に歩み寄ってくる。後ろめたいと言わんばかりに乾いた唇を舌で舐め、一息吐いてから再び口を開いた。


「けど……あず君には唯さんと伊織がいる。私に入り込む余地なんて――」

「私は賛成ですよ。皐月さんは真剣にトップバリスタを目指しています。私もあず君と結ばれる前は皐月さんと同じ気持ちでした。こんな不純な気持ちを何故持ってしまったのだろうと、自分を責めたこともたくさんありました。でも私はあず君や唯さんに言われて気づきました。どんなことがあっても、自分の気持ちにだけは嘘を吐いちゃいけないと」

「伊織……」


 胸に頭を擦りつけるように抱きついてくる伊織の小さな体を皐月が両手で受け止めた。


「皐月さん、私のお腹にはあず君の子供がいます。世間が事実重婚が理解するまでは、この子に苦労を強いることになるかもしれません。けど……その分この子を幸せにできる自信があります。あず君のそばに居られるだけで幸せなんです。唯さんの子供だって唯さんの幸せな姿を見て過ごしています。皐月さんはあず君と一緒に居られるだけで幸せと思えますか?」

「もちろんだ。葉月珈琲への栄転が実現した時は本当に嬉しかった。ここで一緒に働けなかったのは残念だが、今は中山道葉月で一緒に働いているんだ。こんなに幸せな日々はない」


 伊織が唯の顔を見つめると、皐月も共同注視するように首を向けた。


「唯、まさか賛成なんて言わないよな?」

「そのまさかです。皐月さんのことは前々から観察していました。それに丁度家事手伝いが足りないところでしたから、助かります」

「家事手伝いかよ」

「いいじゃないですか。これから6人目が生まれるんですから」

「だったら僕が手伝うけど」

「ふふっ、駄目です。あず君には大事な仕事があるじゃないですか」


 笑顔を至近距離まで近づけながら唯が言った。


 怖い怖い! 何だこの妙な圧はっ! これ以上は何も言うなってか!


「あー、でも子供たちが皐月に対して抵抗持つんじゃねえか?」

「心配ありません。あっ、雅、皐月ちゃんが今日からしばらく泊まってくれるって」

「ホントぉ!? やったー!」


 1階から下りてきていた雅が両手を上げながら声を張り上げ、何の躊躇いもなく皐月に抱きついた。


「――何で?」

「知らないんですか? 皐月さんは子供たちからも人気なんですよ。仮にも今年二冠を達成したワールドバリスタチャンピオンにして、ワールドブリュワーズチャンピオンでもあるんですから。皐月さん、よろしくお願いしますね」

「私もよろしくお願いします」

「あ、ああ、よろしくお願いします」

「それと、私たちはもう家族なんですから、普通に喋っても大丈夫ですよ」

「……分かった。あず君、唯、伊織、しばらく世話になる。私にできることは何でも言ってくれ」


 唯に釣られて笑みが零れる皐月は、視界に入った髪を後ろに掃い、肌艶がより一層輝いた。


 皐月に歩み寄り、唯は雅の両目を両手で隠した。


 皐月の後頭部に右手を回し、目を瞑り、口づけを交わした。左手を肩に置き、静かに擦るように下へと滑らせ、たっぷりとした膨らみを揉みしだいた。体をブルッと震わせ、反射的に手で止められたが、すぐに受け入れ、また唇を重ねながら彼女の柔らかさを堪能した。


 こうして、皐月がうちに住むこととなった。居候としてではなく、3人目の恋人として。


 子供たちもすぐに皐月に馴染み、違和感なく受け入れている。


 ……忘れていた。子供たちは面白いことにしか興味がないし、興味を持った分野の第一人者のことは、大人よりもずっと詳しいものだ。僕だってそうだった。金華珈琲で歴代バリスタオリンピックチャンピオンに憧れを抱いたあの日から一度は会いたいと思っていた。


 唯が言うには、皐月は今年から子供たちにバリスタの基礎から教え始めていたとのこと。上の子は早くもバリスタの仕事に興味を持ち始め、学習の傍らシグネチャーの実験を始めている。皐月の影響を諸に受けていた。将来はうちの経営をしながらバリスタオリンピックチャンピオンを目指すんだとか。


 ――だったら尚更……葉月グループを守らないとな。


 12月下旬、葉月グループは立花グループと業務提携を結んだ。


 杉山グループを牽制する態勢に入ったことはすぐに知れ渡った。


 中山道葉月はマスターとなった皐月の活躍により、徐々に売り上げを盛り返していった。破竹の勢いは留まることを知らず、クリスマスイブには47都道府県中23位に躍り出た。どこにでもある普通のコーヒーだが、淹れる人が変われば味も変わる。コーヒーファンであれば、誰もが憧れる存在が淹れてくれたコーヒーをじっくりと味わおうとすることで、普段は気づかなかったフレーバーに気づく人もいたのだ。


 しばらくは皐月との交際を伏せ、業務提携は秘密裏に行われた。


 契約書を交わし、来年からのコーヒーマシン開発、製造の費用負担及びコーヒーマシンの優先的な購入または貸与を行う形で合意した。晴れて後ろ盾を得た僕に怖いものはなかった。杉山グループから本部株は取られなかったようで、他のグループを吸収合併するだけの余裕がなかったらしい。


 杉山グループの衰えは明らかだった。


 年末を迎え、僕は過ぎ行く時を惜しむように、夜空を見上げるのだった――。

読んでいただきありがとうございます。

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