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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第17章 死闘編
428/500

428杯目「人生実験」

 時は流れ、季節は緩やかに夏へと変化していく。


 以前から続いていた暑さが猛威を振るい、バリスタランドの客たちは早くも帽子をかぶっている。


 6月上旬、僕は34歳の誕生日を迎えた。家にはいくつかのプレゼントが届いている。


 多くがまだ僕が味わったことのないコーヒーだ。シングルオリジンだけじゃなく、新しい組み合わせのブレンドコーヒーまである。葉月グループが世界進出を果たして以降、多くのコーヒー会社と業務提携を結び、コーヒー農園も面積を拡大した。新たなプロセスも増え、コーヒーはより一層深みを増している。


 新たなプレゼンを考えるにあたって目立つ変化だ。


 コーヒーが進化しているとなれば、当然バリスタも進化しなければ追いつけない。プロ契約制度禁止が法制化されれば、またしてもガラパゴス列島として取り残されることになる。日本代表が予選落ちの常連となれば、うちの店舗どころか、全国のカフェの売り上げにも影響することは間違いない。だが僕の心配を払拭するように、今月オタワで行われたワールドコーヒーイベントにおいて、皐月がWBC(ダブリュービーシー)WBrC(ワブルク)で優勝を果たし、史上初の同時二冠達成となった。やはり皐月はうちのバリスタの中でも頭1つ抜けている。2027年のバリスタオリンピックでも優勝候補筆頭に挙がるだろう。那月はWLAC(ワラック)でファイナリストとなり、最終3位となった。8月に行われるワールドパティスリーカップの準備を並行しながらこの成績だ。別の大会に出ているジェシーが参加しなかったとはいえ、ラテアートに特化した練習をしていれば、優勝はほぼ間違いないと言える素質を世界に示したのだ。これで那月がバリスタとパティシエの二刀流を続ける布石が1つ揃った。


 ワールドコーヒーイベントの結果を受け、葉月珈琲に世界中から新規のコーヒーファンが押し寄せた。


 バリスタランドにも外国人観光客が押し寄せ、バリスタカードの人気に拍車が掛かった。特にバリスタオリンピック2015東京大会の僕が写っているカードは、たった5枚しか生産されておらず、その内の1枚が約2000万円で取引された。トレーディングカードの価値は年々高騰し続けており、コレクションとしてだけでなく、投資アイテムとしても人気を集めている。


 皐月がメジャー競技会二冠を達成したことで、皐月のカードも価値を上げている。


 午前10時、唯はバリスタランドに出かけることが日課となった僕の姫カットをヘアブラシで丁寧に整えてくれている。僕のそばでは伊織が制服を着用し、マスターとしての自覚を体に刻印している。


「バリスタカード、結構人気あるんですね」

「伊織のカードも値段が高騰してるぞ」


 唯の部屋には僕のカードが何枚も集められ、コレクションとして本にファイリングされている。


 時折唯は僕のファイルコレクションを眺めながら、うっとりとした目を輝かせている。


「あんまり無駄遣いしちゃ駄目ですよ」

「そう言いながら唯だって買ってるじゃん」

「バリスタランドにしか売ってないですから、いちいち赴かないといけないのが欠点ですけど」

「えっ……来てたの?」

「紫と雅がどうしても行きたいって言うので、下の子を葉月珈琲塾に預けてから、一度だけ行きました。あず君が完全監修をしただけあって、店内の清掃は行き届いてましたけど、メニューが全部ひらがなとカタカナだけだったのが気になります」

「あの方が分かりやすいだろ。何せみんなして簡単な漢字を誤読するせいで、千尋も慶さんも漢字なしの研修を考えたくらいだからな。学校に行ってるのに、漢字も読めない奴が段々増えてる。他の人を雇おうにも、みんなどこかしらに所属してるし、この前もバイトの1人が乱闘騒ぎを起こして、大学を謹慎処分になったし、先が思いやられるというか、あんまり人のこと言えねえな」

「人のことって……何のことですか?」

「喫茶処江戸っていうバリスタランドの店だ。あいつら、とんでもない伏兵を忍ばせていやがった。この前根本に聞いたんだけどさ、鍛冶は僕の影響でコーヒーを淹れるようになって、今じゃ生粋のコーヒーオタクだ。アマチュアチームが急に強くなった秘訣は鍛冶が指導を担当したからで、コーヒー事業に参戦してからは、バリスタコーチとしての才能を覚醒させやがった。アマチュアチームのクオリティを熟成させたのも恐らくあいつだ。京大卒で暗記に優れていると聞いた。ということは、過去に活躍したバリスタオリンピックファイナリストのデータも全部頭に入ってるはずだ。仮にあいつらが改良の天才だとすれば、これから僕らが戦うのは、バリスタオリンピックファイナリストレベルの相手ということになる。総合的には歴代ファイナリストに及ばないけど、1つの競技だけなら、僕や伊織にも匹敵するだろうな」

「根本さんもトップバリスタですし、鍛冶さんもバリスタの資質を持っていても不思議ではないですね」

「石原はバリスタトレーナーとしての経験もある。あの2人がアマチュアチームを育て上げたんだ」


 僕がそう言った途端、一瞬だけ唯の手の動きが止まり、伊織は手に持っていた水色の蝶ネクタイを地面に落としてしまい、慌てて拾い上げてから手で埃を払った。


 唯の表情が曇ったのが顔を見ずとも分かった。コーヒーイベントとバリスタランド、この2箇所を各個撃破しない限り、葉月グループに未来はない。二正面の戦争をしているのは僕とて同じなのだ。


 文字通り僕の背中を優しく押すと、晴れやかな気持ちで外に出た。


 梅雨の時期、この日も雨が地面を叩くように降り注ぐ中、タクシーでバリスタランドのメインゲート前で降りると、周囲に溶け込みながら入園する。地面には水溜りができていて長靴が欲しくなる。


 中央エリアへと赴き、アマチュアチームのいる喫茶処江戸に入店する。


 僕自身の姿で訪問した時は妙な遠慮を感じ、あまり情報を聞き出せなかったが、雁来木染でいる時は対等な目線で話してくれるし、バイトたちの本音をしっかりと聞き出すことができた。


 今日は変装することもなく、堂々とカウンター席に腰かけた。


「はぁ~、疲れたぁ~」

「お疲れさん。コーヒー淹れよか?」


 アトラクションで体力を奪われ、溶けたチーズのようにぐったりと頭を突っ伏している百美。


 神崎は慣れない仕事で消耗している百美を気遣い、1杯のコーヒーを淹れた。


 自棄酒のように飲み干し、百美は大きく息を吐いた。居酒屋に飲みに来たおっさんかよと思いながら、僕はカバンからコーヒー豆のサンプルを取り出した。


「神崎、ちょっとキッチン借りるぞ」

「別にええけど、それどこの豆や?」

「マダガスカルシドラ、通称アンバーマウンテンだ」

「アンバーマウンテンって何?」

「百美ちゃん知らんのかいなー。この前あず君がコーヒーランクの話をしとったやん。アンバーマウンテンはコーヒー豆の品評会で優勝した代物や。ただのスペシャルティコーヒーやない。スペシャルティコーヒーの頂点に君臨したコーヒー、トップオブトップや」

「あー、そういえば、この前あず君が言ってたねー」


 研修の時もアルバイト全員に説明されたはずだが、やはり右の耳から左の耳か。


 ポテンシャルはあるが、あまりにも要領が悪い。初等教育から躓いてきたのが見て取れる。


 神崎が恐る恐るアンバーマウンテンを淹れると、さっきまで飲んでいたコーヒーとは比べ物にならないほどの香しいアロマが鼻に入ってくる。アロマに誘われた成美もオープンキッチンに姿を現した。


 アンバーマウンテンは去年の『カップオブエクセレンス』と呼ばれる品評会、言うなればコーヒー豆の世界大会で優勝を果たしたのだ。優秀なスコアを獲得して入賞したコーヒーはオークションにかけられ、通常よりも高額で売られることになるのだ。コーヒー豆の品質向上、優勝した農園の他のコーヒー豆の需要増加、若い世代が高度な知識をコーヒー農園に持ち帰る動機作り、貧しい国で生産されるコーヒー豆の価値を高めることによる生産地域の経済的発展支援などを目的に運営されている。


 入賞したコーヒー豆はオンラインサイトで情報公開され、インターネットで国際オークションが行われるのだ。登録してメンバーになれば誰でもオークションに参加でき、最高額の応札者に販売される。従来の販売では、生産国の管理団体や輸出業者などの中間業者が多数入るため、その分コーヒー生産者の取り分が減っていたが、カップオブエクセレンスでは、落札金額のほとんどが生産者に渡る。オークションの参加者にとっては最高品質のコーヒーを生産者から直接購入できるメリットがある。


 国際オークションではスペシャルティコーヒーのコーヒー豆の相場より高額で入札される傾向にある。コーヒー農園経営者は名誉ある称号を与えられるだけでなく、オークション効果による高額の報酬を受けられ、更にオークションの参加者から高品質の生産者として認知されると、多数のコーヒー関係者と継続的な取引に発展する可能性もある。コーヒー農園にとってはこの上ない出世のチャンスだ。優勝すれば僕でさえあまり飲めないほど爆売れする勢いで、今後生産される分までもが取引対象となる。


 アンバーマウンテンは葉月グループのコーヒー農園で量産されることとなったが、早くも各国から注文が殺到し、皐月が優勝した今年のWBC(ダブリュービーシー)決勝に至っては、全てのバリスタがアンバーマウンテンを使用した。それもそのはず、アンバーマウンテンはカップオブエクセレンスの歴史上唯一の満点を叩き出し、今後の品評会を出禁になることが決まった最強の豆にして、最高の環境で最高のプロセスを踏んだ最高の豆だが、メジャー店舗で売る分はめっきりと減少してしまった。


「品評会出禁って、つまり……殿堂入りの豆ってこと?」

「まあ、そういうことになるな。成美、クローズキッチンにいるみんなをここに呼んでくれ。今日はやるべきアトラクションもねえだろ」

「えっ、もしかして、これを飲ませるために中止にしたの?」

「ご名答。みんなには一度、バリスタとしての自覚を持たせたい」


 成美は隣のバイト全員を呼び寄せた。


 この日は全員のシフトが一致する日でもあることを僕は知っていた。


 僕はアンバーマウンテンをこの場にいる全員に淹れた。


 量が少ないため、カップの半分にも満たない量しかないが、世界一のフレーバーを証明するだけであればこれだけで十分だ。神崎、成美、バイトたちがほぼ同時に口に含むと、全身が痺れるような感覚に魅せられ、風味が鼻の中を吹き抜け、飲む者全てを圧倒する。


 最愛の恋人は進化の可能性をまたしても見せてくれた。


 流石は神聖な力を得た場所で育っただけのことはある。


「――なんやこれ、今までのコーヒーと全然ちゃう! いやっ、これをコーヒーと呼ぶんやったら、俺が今まで飲んできた飲み物は何なんや!? こんなコーヒー、世界中探してもそうそうないで!」

「凄く甘いし、酸味も効いてて美味しい」

「これ本当にコーヒーなの? あたしが知ってるコーヒーと全然違う」

「コーヒーって……こんなに美味しかったんだ」

「やっぱり葉月グループって凄いです」

「あたし、このコーヒーだったら毎日飲みたいですけど……高いですよね?」

「そうだな。もし店に出してたら、1杯5000円だろうな」

「「「「「5000円っ!?」」」」」


 周囲が一斉に木霊し、再び赤茶色に染まったコーヒーを見つめ、改めて世界最高峰の価値を思い知る。


「……私、このコーヒーを使いこなせるようになりたいです」

「私もです。今はまだ、あず君には及ばないかもしれませんけど……」

「……」


 理恩と真凜が意気込みを語りながら飲み干した。


「これがバリスタ競技会で使われているコーヒーの一部だ。アンバーマウンテンもバリスタオリンピックファイナリストが使ってるし、WBC(ダブリュービーシー)でもファイナリスト全員が使った。店で売ったら富裕層しか飲めないし、実質競技用のコーヒーと言っていい。バリスタとして通用する人間がどんなコーヒーを使っているかを知ってもらいたかった。トップバリスタになれば、毎日本当に美味いコーヒーが飲めるようになる。そのことを伝えたかった。そこでだ、みんなに1つ提案がある」

「提案って、まさかまた時給アップと引き換えに、色んな業務をやれって言うんですか?」

「そうじゃねえよ。無理にとは言わねえけどさ、もし他にやりたいことがないなら、将来的に葉月グループへの就職を考えてくれねえか?」

「「「「「!」」」」」


 バイトたちがシーンと沈黙し、静かに息を呑んだ。緊張感が全身の表皮を覆っているのが見て取れる。


 僕がこのことを伝えようと思った理由はただ1つ。こいつらに明確な目標を与えるためだ。


 少しずつではあるが、バイトたちは実学を身につけている。だがそれだけでは限界があることが確認できた。学生組は学校生活の疲れが残ったまま勤務をしているし、フリーター組はフルタイムで慣れない業務をし続けて疲労困憊だ。いつ撤退してもおかしくない店でバイトを続ける不安が業務にも表れていた。


「正直に言おう。来年の3月末をもって、中山道葉月は撤退する」

「「「「「!」」」」」


 印籠を突きつけられたように神崎たちが首を少しのけ反らせる。


 ずっと隠してきたけど、隠していてもしょうがない。今は団結するべき時だ。


「えっ、じゃあ俺も成美さんもクビなん?」

「そんなわけねえだろ。神崎はバリスタトレーナーとして、成美はバリスタコーチとして、他のマイナー店舗に勤めてもらうから心配すんな」

「はぁ~、良かったぁ~」


 ボソッと呟きながらホッと胸を撫で下ろす神崎。


「問題は君らだ。3月末まで猶予をやる。バリスタとして社内貢献度を上げてみせろ。成績次第で正社員昇格もあるし、バリスタ競技会に競技者として参加するところまではいかなくても、最悪サポーターに専念してくれたらそれでいい。今はバリスタの数が段々増えてきてるけど、バリスタのサポーターにトレーナーにコーチが圧倒的に不足してる。一度学習すれば生活に困らない仕事だ。世界中にいるバリスタが仕事相手だから、バリスタ競技会が存続する限り、食い扶持がなくなることもない。もちろん途中でやりたいことが見つかったら、すぐにやめてもいい」


 バリスタの需要が高まり、『バリスタマネージャー』の仕事が台頭している。


 競技会優勝を目指すバリスタに専属し、競技会ではサポーターとして物資運搬、店ではトレーナーとしてバリスタとしての立ち振る舞いを訓練し、競技会ではコーチとしてアドバイスを送ったり、カッピングをして客観的な評価をしたりして、専門的な技能を指導して習得させる。


 葉月ユーティリティーサービスは高給取りであるにもかかわらず人材不足だ。


 人間力を含むあらゆる能力が鍛えられるにもかかわらず、あまりやりたがる人がいないのだ。


 仕事とは誰かがやりたがらない業務を代行することだ。やりがいなんてない。指示されるような仕事ができないなら、経営者かフリーランスしかない。こいつらに経営者としての才能はないのに、最も向かない仕事がサラリーマンときた。好きなことを仕事にできればラッキーだが、そう簡単にはいかない。


「バリスタマネージャーですか」

「そうだ。競技会に出るだけがバリスタじゃない。バリスタを育てたりサポートしたりすることもまた、バリスタの仕事だ。あらゆる問題にぶつかるだろうが、できることを一通りやってみてくれ」

「無理だよ。バリスタマネージャーって今の仕事よりも忙しそうだし、私にできることなんてないよ」


 目線を下に向けたまま、顔を横に向け、自信なさげの百美が訴えた。


 他のバイトたちもまた、百美に同意するように小さく頷いた。


 中山道葉月に馴染んだまではいいが、撤退した先のことまで考えていないことが浮き彫りだ。鉄槌で押し潰されたかのように自信がないし、この虚無感の正体は将来への不安以外の何ものでもなかった。


「あると言えばあるし、ないと言えばない。昔の僕は対人関係が苦手で、群れる必要なんてないとか言っちゃってさ、でもそれは世間のマジックで思い込まされていただけの幻想だった。うまくいかないことからずっと逃げてた。結局は自分次第だってことを知って、現実と向き合う覚悟を決めて、思い切って体当たりで競技に臨んでいなかったら、今の僕はなかった。ぶちのめされた経験があったからこそ、自分の中にある本当の可能性に気づけた。その時の僕みたいに、一度騙されたと思って、一歩踏み出してみろよ。今の自分を本気で変えたいならな」

「……今の自分」


 くよくよと唸るように呟く百美。何かを迷っているが、これは良い傾向と見た。


 バリスタマネージャーは本来フリーランス向きの仕事だ。


 特にこれといったやり方はない。自分なりのやり方でうまくいけばそれで良しだが、実績のあるフリーランスがやりがちな仕事であったために、バリスタマネージャーを育成する発想が存在しなかった。


 サポーター、トレーナー、コーチからなる三大業務は全部できるに越したことはないが、どれかに特化してもいいのだ。人と話すことが苦手であれば、黙々と作業ができるサポーターに、マニュアル通りにしか行動できないのであれば、決まった手順を教えるトレーナーに、拘りが強くて興味の範囲が狭いのであれば、専門知識を覚えてコーチに専念してもいい。将来の生活保護予備軍からバリスタマネージャーを輩出できれば、飯を食えない大人の問題に一石を投じられるのではないかと考えた。


 仕事が簡単すぎても生活費を稼げないし、難しすぎても今度は仕事ができない問題が発生する。特別アドバイザーとして4月から完全監修を続けている内に僕は気づいた。総合力を求められがちな仕事を分業化して育成することで、一見使えそうにない連中を有効活用できるのではないかと。


 うまくいけば無職から社会復帰もできるし、取り柄が生まれることで自信にも繋がる。


 しかしながら、バリスタマネージャーの育成システムはまだ発展途上、言わばサンプルデータだ。


 これがかつて伊織にも試した『人生実験』なのは分かってる。将来の生活保護予備軍に育成するだけの価値があるかどうかはこいつらに懸かっている。成功すれば後世の生活保護予備軍にも道は開かれ、飯を食えない大人問題の解決に大きな一歩を踏み出すだろう。だがもし1人もバリスタマネージャーを輩出できなければ、この国で社会復帰をするのは至難の業という烙印を押されるだろう。


 人を雇えばそれで解決する問題じゃない。


 雇用で生活を支える方針も、社会保障制度も限界がある以上、行く行くは変化の激しい世でどう転んでも生きていける人間を量産しなければ、飯を食えない大人問題はずっとそのままだ。


「今は仕事に専念してくれ。結論は来年の3月が終わるまでに出せ」

「「「「「……」」」」」


 用件が済むと、静まり返る中山道葉月を後にする。


 一部だけではあるが、既に結論を出している人もいるようだ。熟考して決めなければ意味がない。


 自分で決める経験に乏しい連中には、ちょっと厳しすぎる課題だろうか。だがいずれは自ら進路を決めなければならない。無責任な誰かに人生の主導権を渡してしまっては社会のせいと嘆きながら周囲に矛先を向けるまでが目に見えている。動かざるを得ない状況にでも追いやれば、少しは思い知るはずだ。


 世間に身を委ねる生き方なんて、高が知れていると。

読んでいただきありがとうございます。

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