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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第17章 死闘編
409/500

409杯目「カフェコンサルタント」

 3月下旬、僕らはチャーター便でロサンゼルスに降り立つ。


 3日後にはWTD(ワテッド)ロサンゼルス本戦が始まる。


 本戦開始までに練習を積み、どうにか打開策を練らないと、ジェシーには勝てそうにない。他にも3Dラテアートを究めた猛者たちが世界中から数多く参戦する。周囲を見渡してみれば、大会前ということもあり、人前で二丁スプーンを使いこなし、3Dラテアートを描いているバリスタの姿が見えた。


 僕、桃花、凜の3人で人で大会に臨む他、皐月、チェンにも来てもらった。


 日本を発つ直前、皐月が同行することを志願した。どうしても間近で僕の活躍を見たいと譲らず、最後は正面から抱きつかれ、色気のある声を耳元で囁き、大きな膨らみを腕に押しつけ、思わず同行を認めてしまった。伊織は冷めた顔を僕に向け、那月は桜子の目を隠した。競技の種類にもよるが、ラテアートの場合は特別な食材を持参するわけでもないし、サポーターの仕事はなくてもいい。チーム葉月珈琲のサポーターを務めることはないが、他のチームの偵察をしてもらうことを条件とした。


 チェンは3Dラテアートのコーチとして来てもらったが、ロサンゼルスにいる有望株をスカウトする役割も担っている。今回はサポーターなしでの参加となったが、この大会では意味を成さない。


 WTD(ワテッド)はチームメイト以外がステージに上がることは禁止されている。


 以前の桜子のように、居てくれるだけで力強い存在だし、凜の保護者代わりに連れてきた意味もある。凜はまだ義務教育卒業前の15歳、大会規定ギリギリだ。この大会に未成年が参加する場合、15歳以上20歳未満は保護者同伴が条件となるため、凜の保護者として親父を連れていこうとしたが、親父は風邪でダウンし、お袋は親父の面倒を見ながらユーティリティー社員として過ごしているために来れないとのこと。そこで誰を誘おうか迷っていた時、奇しくも皐月に白羽の矢が立った。


 この前皐月に触れた時の柔らかい感触がまだ腕に残っている。とろけるような柔らかさと質感だ。ただでかいだけじゃない。張りまであって瑞々しい潤いさえ感じた。大きさや形だけなら璃子や唯にも負けてないし、目に入ってしまったら最後、逸らし続けるのは至難の業。巨乳鑑定士の日常は辛いのだ。


 こいつ……僕の弱点を知り尽くしてやがる。


「ここがロサンゼルスか。なかなか良い場所だな」

「とりあえず3日間はここで3Dラテアートの練習だ。決勝までの課題を全部やる」

「大会が終わったら?」

「いっぱい遊ぶに決まってんだろ。凜はロサンゼルスで何がしたい?」

「美味しいものをいっぱい食べながら観光したいなー。カフェ巡りもしたい」


 意気揚々とやりたいことを語る凜。


「まるであず君だな」

「ですね。カフェを見ただけであんなに興奮するなんて」

「僕もカフェ巡り行きたーい!」


 子供のように燥ぎながら、とろーんとした笑みを浮かべるチェン。


 風で靡いた髪がチェンの顔を隠すと、彼はすぐに両手で髪を視界から追い出すように掃う。


 新しい場所に赴く楽しさはチェンもよく知っているようで、今までに行ったことがない場所を前に心が躍っているのが直に伝わってくる。旅行向きの性格だ。普段は引きこもり体質な僕とは対照的で面白い。


「チェンさんも考えてることは同じみたいだな」

「ふふっ、こんなこと言ったら失礼ですけど、とても可愛らしいです」

「桃花さん、今更こんなことを聞くのもどうかと思うが、何故WTD(ワテッド)に出るんだ?」

「えっ……それは……璃子さんから打診されて……」

「璃子さんから?」

「はい。璃子さんからあず君を助けてほしいと言われて、もしあず君が大会で結果を出さないようなことがあれば、日本国内のコーヒー業界は間違いなく衰退すると」

「随分と大袈裟だな」

「プロ契約制度の危機が迫ってるとか言ってましたけど」

「各都道府県がプロスポーツ以外のプロ契約を禁止する条例を打診している件だな。賄賂の温床になることを防ぐためと聞いたが、これは自由競争に反する行いだ」


 璃子はプロ契約制度のためというより、バリスタ競技会の魅力を知らしめるために僕を参加させた。


 次世代育成にまず必要なのは、憧れを集めるためのロールモデルの存在だ。誰かに憧れ、誰かと同じ競技を始めた例は少なくない。主に若年層の目を葉月グループに向けさせるのが目的だ。


 旅の疲れからか、少しばかり体が重く感じる。


 近くのカフェに寄っていこう。目の前のカフェはアメリカ風だ。


 ここは、ロサンゼルスのダウンタウン内にある日本人街、リトル・トーキョー。


 多くの日系企業がオフィスを構え、日本人や日系人に向けた店舗が数多く並んでいる。


 ロサンゼルスはカリフォルニア州の南部に位置しており、西は太平洋に面している。広大な平地が広がっているが、大きな河川は流れておらず、コロラド川などから水路を引っ張っている。市の北東にモハーベ砂漠、北西にコースト山脈、東にシエラネバダ山脈が広がっている。


 ダウンタウンや沿岸部は地中海性気候、内陸部は砂漠気候に属する。年間降水量は少なめの乾燥地帯。夏の降雨が少ないため、夏場の降水量がなしだったこともある。1年を通して温暖だが、冬は雨も多く、朝晩は10度前後まで下がる。夏の日中は40度近くまで上がることもあるが、乾燥しているため、夕方を過ぎると涼しくなり、夜は15度近くまで下がって肌寒くなることもある。


 一風変わったカフェが僕らの前に聳え立つ。


 広いウッドデッキが特徴のカフェだ。窓は全て空いていて、店内まで吹き抜けになっている。


 ここまで開放的なカフェの中ではそこそこ人が並び、コーヒーセットを売っている。多くの人はパフェも一緒に注文している。どうやらここの名物はパフェらしい。


『カフェ・エンジェル』と書かれた看板の下に扉がある。空いたままの扉を通り抜けると、観光客と思われる者たちが談笑しながらスイーツとコーヒーを嗜んでいる。


「いらっしゃい。何人ですか?」


 金髪ポニーテールの白人女性店員がウインクをしながら小声で話しかけてくる。


 20代くらいだろうか。ギャルみたいにテンション高いな。


「5人だよ。お勧めのコーヒーセットある?」

「今のお勧めはー、ブルーマウンテンとチョコパフェのセットかな。席は奥の方にあるよー。ねえねえ、アズサハヅキでしょ。良かったらサイン頂戴。サービスするから」

「お、おう」


 女性店員の勢いに飲まれ、反射的に頷いてしまった。


 周囲に目を配り、サイン色紙とマジックペンをさりげなく出してくると、僕はすぐにサインを済ませ、コーヒーセットを注文する。レジの近くの壁には有名人と思われるサインがコレクションのようにズラリと並び、僕のサイン色紙も名を連ねた。ハリウッドスターやアーティストのサインばかりだ。機内食を取ってからそんなに時間は経っていない。束の間の休憩と思って過ごそう。


 決済を済ませ、全員が6人分の席に着いた。


「さっきいっぱいサインが飾ってあったけど、やばいね」

「誰でも知っていそうな人のサインばかりだった。あず君もそこまでの存在になれたわけだ」

「たまにありますよね。有名人のサインを集めて飾っているお店」

「有名人のサインはそれだけで宣伝になるからな」

「羨ましいなー。私もこういうお店でサイン書けるようになりたい」

「凜だったらきっとできる」

「ホントにぃ~?」


 キラキラとした目を僕に近づける凜。


「僕ができたんだ。凜もできる。大事なのはできるって信じることだ。できるまでやっていたら、いつか必ずできる。根拠なんていらねえからさ、もっと自信を持て。葉月珈琲塾卒業生だろ」

「できるまでやったらできるって、なんかあず君らしいね」

「あず君が言うなら、私、最後まで自分を信じる」

「自分を信じ抜くには、社会に出たら必ず起こる問題を解けるようになる必要がある。例えば色んな扉が100種類あるとする。その中から正解の扉に辿り着くには、どうすればいいか分かるか?」


 まず桃花に顔を向けると、桃花は人差し指を首に当てながら唸った。


「うーん、一か八かに賭けるくらいしか思いつきません」


 まあそうなるよな。普通の人の解答だ。


「皐月はどう思う?」

「全部の扉を開ける。これなら確実に正解に辿り着ける」


 確かに1つしか開けてはいけないとは言っていない。


 皐月はルールの穴を突くのがうまいな。


 だが全部の扉を開けている間に人生が終わってしまうこともある。早い段階で辿り着ければ正解だが、そうならない可能性もある。確率で正解が決まるなら、それはギャンブルと変わりない。


「なかなか筋が良いな。常識に囚われない発想は大好きだ。チェンは?」

「僕も皐月ちゃんと同じことを考えてたかな」

「なるほど。凜は?」

「……正解って、多分人によると思うの。この問題の場合、正解の扉がどんなものかが明確じゃないし、まずは正解の扉の定義を自分で考えて、当てはまる扉を開けばいいんじゃないかな。例えば赤色が好きだったら、赤色の扉を開くとかね」

「ふふっ、実を言うと、この問題には正解がない。でも個人的には満点をあげたい解答だ。この中じゃ、凜が1番発想の柔軟さに長けているな。社会に出たら、正解のない問題が次々と押し寄せてくる。だから自分なりの答えを試行錯誤で作っていく能力が問われるわけだ。お見事」

「まっ、私が本気を出せばこんなもんだよ」

「……」


 冷めたように下を向く皐月。凜は対照的に満面の笑みを浮かべた。


 桃花はため息を吐いているが、チェンは至っては顔色1つ変えないほど冷静だ。


 今までの人生経験の差が諸に表れている。問題に1回ぶつかったくらいで一喜一憂するようじゃ、まだまだだね。チェンを除くこの3人には経験が必要だ。桃花に新しい発想は難しいようだ。穂岐山珈琲時代に松野や俊を超えるシグネチャーを開発したが、採用されなかったばかりか、別のバリスタのアイデアから着想を得て作られたもの。新しいを作るのは難しいのだ。


 しかしながら、新しいコーヒーの開発をせずとも、別の競技をこなすことで、自信にはつながるはず。頭はそこまで使えずとも、一度覚えた技術を洗練する才能を持っている。もしかしたら、桃花はアマチュアチームにいたかもしれない存在だと僕は悟った。


 璃子が桃花と凜を寄こした理由がよく分かった。どちらも新しい発想より技術の習得に適性がある。


 もし僕がこの2人に画期的な3Dラテアートを教えれば、2人はすぐに習得することができて、自ずと総合スコアを上げることができるわけだ。僕は最初から2人を手足のように扱えばよかったんだ。アジア予選の時も凜は僕が作ってみせたキャラクターをいとも簡単にマネしてしまった。


 ただコピーができるだけの人間は数多くいるが、より正確なコピー、つまり再現性に特化した能力の方が3Dラテアートには適している。何でもっと早く気づかなかったんだろう。


 つまり残りの課題は僕だけということだ。


 しかも凜に至っては他の競技でも必要となる自分の正解を作る能力まで備わっている。WBC(ダブリュービーシー)で優勝した日に生まれた次世代のスターは、既にデビューの一歩手前まで迫っていた。


「桃花、凜、大会の課題だけど、1つ良い方法を思いついた。明日僕の部屋に集合してくれ」

「それはいいけど、なんか凄く楽しそうだね」

「あったり前だろ。ジェシーに対抗する手段を思いついちまったんだからさ」

「へぇ~、結構面白いことになりそうだね」


 チェンは両肘をテーブルにつき、両手で頬を触りながら言った。


 さっきから極上のアロマで飲むことを促すブルーマウンテンを口に含んだ。


 ……このキャラメルナッツのようなフレーバー、甘味、酸味、苦味、渋味とうまく共存しながらも一切の雑味がない。しかも旨味まで入っているシグネチャー仕様……間違いない、メジャー競技会で使われるレベルの競技用コーヒーだ。何故こんなものが普通の店で売られているんだ?


 稲妻の速さで興味を持った。大会レベルのシグネチャーが当たり前のように売られていることに。


 レシートを見てみれば、まるで料亭で宴会をしたような数字が書かれている。どうりでこんなに高いわけだ。5人もいるとはいえ、100ドルを軽く超えるとは。しかも日本のコーヒーよりずっと高い。アメリカの物価ってこんなに高かったっけ。昔来た時よりも明らかに値段が上がっている。アメリカが豊かになったわけじゃない。日本が貧しくなったんだ。不況の嵐は今も爪痕を残し続けている。


 うちに来てくれる客も、どちらかと言えば外国人が多数派だ。


 色々と思い知らされた。夜を迎え、ホテルに戻ると、僕はチェンと同じ部屋に入った。桃花、凜、皐月の3人は隣の相部屋となり、比較的広い部屋を確保した。3Dラテアートはどこにいても練習ができる。ホテルの部屋の中で練習を繰り返し、大会まで備えるわけだが、まだ課題は山積みだ。


 僕の向かい側のベッドにチェンが腰かけた。


「チェンはあの3人、どう思った?」

「葉月グループのメジャー店舗所属なだけあって、みんな魅力的な才能を持ってるね。特に皐月ちゃんの活躍は、僕の耳にも届いてるよ。アジア担当スカウトとして色んな国に行ってるけど、アジアのバリスタの間でも有名になってるくらいだし、相当な才能だね。桃花ちゃんは人の技術を覚えるのが早いね。アイデアの改良も得意みたいだし。凜ちゃんは一度没頭すると、大人顔負けの作品が作れちゃうのが凄いね。なんか昔の自分を見ているみたいで惚れ惚れするよ。接客中は大人の立ち振る舞いなのに、競技になると急に子供に戻るのが興味深いね」

「信じてもらえないだろうけど、ああ見えて最初に会った時は枯れた植物みたいにつまんなそうな顔で、部屋の端っこの方で燻ぶってた。ああいう子でも、こんなに変われるんだと思った。葉月珈琲塾の方針は間違ってなかった。自己肯定感さえ保てるようになれば、自分で自分を修正できるようになる」

「葉月グループの社員は他と全然違う。あそこまで自分に自信を持てる社員が揃ってる企業は見たことがない。子供たちも葉月珈琲塾に通わせようと思ってる」

「それは構わないけど、不登校になるのが条件だぞ」

「えっ、何で学校行かせちゃ駄目なの?」

「葉月珈琲塾は自己肯定感と好奇心を育てること、つまり自信を持つことに特化してる。でも学校は基礎知識と引き換えに子供から自信を奪う。従順な労働者を育てるコツは自信を奪うことだ。両方行ったら塾で作り上げた自信を学校で潰す構図になるだろ。基礎知識の勉強なんて他の場所でもできるし、たった1つの枠組みに固定化するから、ピンチになっても逃げられなくなるんだよ。うちの塾は学校が持つ欠点を全て補ってる。僕は自分の教えを広めるために塾を立ち上げたわけじゃない。社会の構造が全然変わらないから抵抗してるだけ。どっちを信用するかはチェンの自由だけど、日本の学校に行かせるくらいなら、連れて来ない方が100兆倍マシだぞ」

「ふふっ、あず君らしいね。考えとくよ」


 そう言ってチェンはベッドに横たわり、大の字に体を伸ばしながら天井を向いた。


 僕もチェンと同様の動作をマネした。心を落ち着かせたいのがすぐ分かった。


 空や天井を見ると自然と落ち着く。チェンも僕と同様のマインドスイッチを持っているようで、既に緊張感はどこかへと立ち去っていた。自らの心と向き合う時間を設けた僕らに隙はなかった。チェンは僕らに指導するというある意味では最も大変な仕事を引き受けてくれたことに改めて感謝の念を抱いた。


 チェンは家族と一緒に暮らしながら過ごしたい。


 ちょっと考えれば、すぐ分かることなのに。


「子供たちって言ってたけど、もしかして2人いる?」

「うん。今年2人目が生まれたよ。娘が2人もいると、結構騒がしいんだよねー」

「分かるよ。うちも子供が5人いるからさ」

「5人って……結構多いね」

「最初の1週間は学校に必ず行かせて、次の週からは、自分で選ばせるようにしてる。不思議なことに、うちの子は小学生になった2人が揃ってホームスクーリングを選んだ。選択権があると知った上でな」

「どんな理由で不登校になったの?」

「長女は茶髪を黒に戻せと言われて反発したから。長男は授業が簡単すぎてつまらないからって理由だ。どれもめっちゃしょうもねえだろ」


 チェンは笑いを堪えようとするが、結局我慢ができずに笑い出す。


 2児の父親として思うことはあるようだ。うちで働いているのも家族のためで、バリスタとしてどうありたいかは二の次のように見える。子供がどう育つかも気になるみたいだが、放っておいても問題ない。


 子供は全てを見抜いている。固定観念のない子供にとって、つまらないものは本当につまらない。葉月珈琲塾に通い、自分に合った課題をこなしてる。大体の子供は中学生くらいで卒業するが、うまくいけば小学生初の卒業生になるかもしれない。積み残しと同じくらい、伸び残しの問題もある。本当はもっと伸びるはずなのに、習ってない漢字を使うなとか言われるせいで、思ったより学習ができないまま残されるというか、平均レベルの子供以外がまるで考慮されていない場所を、どうして信用などできようか。


 縛られた子供ほど引き籠りになりやすい。凜が明るい性格になれたのは縛りから解放したからだ。


「僕には夢がある。コーヒーで世界を平和にするっていう夢」

「君もコーヒーが持つ力に気づいてたか」

「まあね。どこの国に行ってもカフェには争いがないし、みんなコーヒーカップを片手に楽しくマイペースに寛いでる。あんな空間を世界中に増やしたいと思ってる。バリスタ競技者を引退したら、世界中を飛び回って、カフェを起業したい人を応援するコンサルタントになりたい。だからカフェの建築とかも勉強してて、計画から設計までは援助しようと思ってる」

「カフェコンサルタントか。チェンならできる」

「あず君ってさ、誰にでも君なら()()()って言ってるよね?」


 何かに気づいたようにチェンが顔を僕に向けた。


「さっきも言ったけど、僕が夢を叶えられたのは、何よりできると信じたからだ。才能とか努力とかも大事だけど、何より困難があってもへし折れない気持ちだ。天才じゃなくても、うまくいってる人はいくらでもいる。うちの塾の教育は天才を育てるためじゃない。天才だろうと凡人だろうと飯を食える大人にするためだ。チェンは兄弟とかいる?」

「お兄ちゃんが2人いるよ。長男が引きこもりで、次男がコーヒー農園で働いてて、僕が三男」

「……もしかして、親が教師だったりする?」

「何で分かったのっ!?」


 まるで遅刻を確信した学生のようにチェンが飛び起きた。


「ふふっ、長年の勘だ」

「教えてよー。ねー、何で分かるのー?」


 掴みかかるように、僕のベッドに乗り上がるチェンが子供のように甘えてくる。


 やはり僕が思った通りだ。放っておかれた子供の方が伸びる。過干渉を受けると、石に躓いて転んだだけでへし折れてしまう。チェンは放任されて育っている。どうやら世界共通の問題らしい。


 チェンは日を跨ぐまで、ベッドに横たわる僕を寝かせてはくれなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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