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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第16章 愛弟子の大舞台編
397/500

397杯目「対抗馬の本拠地」

 11月上旬、僕は葉月グループのスパイとして、自ら東京に潜り込んだ。


 杉山珈琲のバリスタツアーに乗り込み、僕を乗せたバスが東京の町を走っている。


 サングラスをかけ、マスクをつけながら風邪気味の症状を装った。バスを降りてから杉山珈琲本社ビルの中を覗いてみれば、あの杉山景子が真っ黒なリムジンから降りてきたのだ。杉山景子は杉山珈琲の社長に就任してからというもの、日々業務に追われている様子だ。


 労働者は時間を払ってお金を買うが、社長はお金を払って時間を買う。


 当初は千尋に嫁いで寄生するつもりだったが、今は予定を切り替え、杉山グループの息が掛かった誰かを杉山景子に婿入りさせることで、杉山景子は実質的に支配権を得た。これで杉山家の全員が結婚を果たしたわけだが、幸せとは程遠いもので、流石にあの父親には抗いきれなかったようだ。


 同席しているのは、次世代を担う若手のバリスタ、コーヒー業界を見守ってきたコーヒーファン、杉山珈琲に投資するかどうかを熟考している投資家だ。旧穂岐山珈琲ビルでもあるこの場所で、杉山珈琲は最先端の研究を引き継ぎ、バリスタを目指す多くの人にアピールしようと考えている。


「なあ、あんたも杉山珈琲を見に来たんか?」


 隣に座っていた若布のような短髪の男から馴れ馴れしく声をかけられた。


「あー、一応ね。ゴホッゴホッ」

「おいおい、大丈夫かいな?」

「心配ないよ。昨日ずっと仕事してた影響かな」

「なんか自慢に聞こえるな。あっ、そうや、紹介が遅れたな。俺は神崎彰(かんざきあきら)。京都の宇治ってとこから上京してきたんや」

「私は雁来木染(かりきこぞめ)。よろしく」


 僕は今、雁来木染という女性として、このバリスタツアーに潜入中だ。


 偽名も変装も璃子が考えた。よく女性と間違われる特徴がここで活きるとは思わなかった。


 Gパッドと呼ばれるブラを身につけ、あたかもGカップの女性のように見えている。


 そして何より、この案を思いついた璃子に脱帽だ。僕ならではの潜入方法だし、この日バリスタの動画を出すことで、あたかも岐阜にいるかのようなアリバイ工作もできるし、疑われる心配はどこにもない。


「俺さー、ここ最近の不況でリストラされたばっかで結構暇でな、そしたら親からバリスタを目指してみないかって言われて、杉山珈琲に入社しようと思ったんよ。何でもバリスタを募集中って話や」

「バリスタになるのは簡単だけど、プロになるのは大変だよ」

「プロなんてならへんて。たかが仕事や」


 笑い飛ばしながら男が語る。僕としてはこんな奴に仕事をしてほしくはない。


 資本主義の限界と言うべきか。本来そこまで働く気のない者が生活費を稼ぐためだけに、熱中するほどやりたくもない仕事をこなし、本当に働きたい人から枠を奪い、熱意のない仕事で企業を衰退させるという摩訶不思議な構造がある。サラリーマンになるだけなら誰でもできる。だがプロのレベルで利益を生み出すほどの仕事をこなしているのは恐らく2割程度で、残りの8割は企業に養われている穀潰しだ。


 この人も社会の被害者だ。仕事先というよりは、扶養先を探している。


 葉月珈琲塾のカリキュラムと対極に位置している人は、案外数多く存在するのかもな。


 リストラで退職ってことは、余程嫌われていたか、仕事ができないんだろう。


「……そのたかが仕事で生き延びられない奴が、これから需要の増えていく仕事でやっていけるかねー」

「うっ! 仕事が俺についてこれなかっただけや」

「人が仕事を選ぶように、仕事だって人を選ぶ。就活するなら選ぶ側だけじゃなく、選ばれる側の視点を持つことだね。あくまでも選ぶ側に拘るなら、人事をあっと言わせるくらいの実績を持ってから。持たざる者は、最悪誰でもできる仕事に就職して。実績とか資格とかを身につけるしか選択肢はないよ。まっ、あくまでも就職して生きていくならの話だけどね」

「なんや、まるで俺が就職に向いてないような口ぶりやな」

「向いてるかどうかは分からないけど、いい加減な気持ちで仕事してきたっていうのは分かる。今は会社が選んでくれないなら自分でやるって思えるような人じゃないと生き残れない社会だし、そこまで労働に拘りがないんだったら、親に頼るか、生活保護でも受けることだね」

「身も蓋もないなー。他のみんなからは甘えてるって言われたけど、甘えた選択肢を提示されたのは初めてや。なんかあず君みたいやな」


 窓に顔を向けながら冷や汗をかいた。


 ……本人なんだけどな。でも今バレるわけにはいかない。


 杉山珈琲本社の1階は練習場所から受付嬢がいるロビーに姿を変えていた。エレベーターで15階まで上がると、杉山珈琲のバリスタたちが商品の宣伝をするべく、多くの人に商品を宣伝しているところであった。メジャー競技会に参加する予定のバリスタは、名札をつけていて分かりやすい。


 ボブヘアーに小さい顔が特徴の有田美樹(ありたみき)は杉山珈琲のバリスタの1人だ。元々は穂岐山珈琲育成部所属だったが、給料アップに目が眩み、寝返ってしまった。


 有田の隣には、丁寧な口調と大きな胸が特徴の水無麻実(みずなしまみ)がいる。水無も杉山珈琲のバリスタであり、他のコーヒー会社に在籍していた時にメジャー競技会で結果を残したことで、穂岐山珈琲からの引き抜きで入社した身だが、彼女も乗っ取られた際、杉山珈琲に鞍替えしている。


 こいつらがこの年から戦っていたアマチュアチームか。


 ――あれっ、あと2人いると聞いたが。


 周囲をキョロキョロと見渡した。これじゃ完全に不審者の極みだ。


「うわー、あの外国人の子、めっちゃ可愛いやん」


 神崎が頬を緩ませ、鼻の下を伸ばしながら言った。


 目線の先には2人の外国人らしき外見の人物がいた。1人は白に近い金髪に青と緑が均等に混ざった瞳の少女、その隣には茶髪に近い金髪の青年が接客をしながらコーヒーを淹れている。神崎はすっかりと少女に夢中のようで、僕の服の袖を引っ張りながら2人に近づいた。社内ではコーヒーファンに向けたアマチュアチームの宣伝がされており、早くもファンで埋め尽くされている。


「すみません。俺たちにもエスプレッソをください」

「はい。少しお待ちください」


 返事をしたのはアナスタシア・マカロヴァ。コーヒーイベントに参加していた杉山珈琲のバリスタだ。


 細身で小柄な姿は幼女のように見えるが、プロフィールを見ると、皐月と同い年だと分かった。本来であればロシア代表を決める国内予選に参加するはずだったが、東ヨーロッパで起こった騒動の影響で国内予選が開催されず、日本の国内予選に参加したロシア国籍の女性だ。


 どこか愛梨によく似ていて、ふんわりとした印象だが、彼女もまた、必死なのだ。


「へぇ~、じゃあロシアから来たんや」

「はい。しばらくはここで過ごしながらメジャー競技会に出場して、優勝を狙おうと思ってます」

「優勝しても日本代表になれないのに、何で参加してるん?」

「……会社との契約です」


 どこか後ろめたそうにアナスタシアが目を逸らした。


 以前はメジャー競技会のロシア代表として名を馳せ、次世代のバリスタオリンピック優勝候補とまで言われるほどの実力を誇るが、バリスタオリンピック2023ダブリン大会に参加できず涙を呑んだ。実力はあるのに行き場のない彼女に杉山社長が目をつけ、入社させていたのだ。この場所が杉山珈琲として成立する前から秘蔵っ子として温めていた。どうりですんなりと行動に移せたわけだ。


 国内予選が事実上の世界大会と化していることは特に気にしていないようだが、彼女がプロとの対決に熱を入れるのには理由がある。それはロシア代表枠を復活させたいがためだ。ロシア人が他の国のバリスタ競技会で優勝したとなれば、才能を惜しんだ運営側に切なる声として届き、特別に個人での出場を認めてくれる可能性があると杉山社長に言われ、心が動いたんだとか。


 バリスタとしての想いを語っている時のアナスタシアからは確かな熱意を感じた。


 話題に比例するように、声は大きく、手振りは大袈裟に、目は輝きを増した。


「いつか必ずロシア代表枠を復活させて、またみんなと一緒に競技がしたいんです。世界大会の舞台で」

「ふーん、そんなに出たいものかねー」

「当たり前でしょ。今やバリスタはただの職業じゃなく、プロの競技なんだから」

「それは聞き捨てならないですね」


 アナスタシアの隣に陣取っていた男が鋭い目を向け、嫌味ったらしくボソッと呟いた。


 冷たい声を発しながら僕に目を向けたのはダニエル・クロフォード。この人がアマチュアチーム8人目のメンバーであったことを僕は思い出した。プレゼンしていた時の声と見事に一致している。終始リズムを狂わせることなく、精密機械のような競技をこなしていたコーヒーカクテラーだ。


 エプロンが似合わないと思うほどの生真面目さが顕著だ。


 神崎はアナスタシアと楽しそうに話している。さっきまでぎこちなかったが、アナスタシアが日本語を話せると分かってからは言葉使いが流暢だ。間違うのが怖くて話せないのもあるが、全く通じなかった時の気まずさも原因の1つだったりする。結論を言えば、日本人は自分だけが滑った後の空気が怖いのだ。


「何か文句でもあるの?」

「バリスタはコーヒーをお客様に届けるのが仕事です。それをプロの競技にしようなんて馬鹿げてます」

「じゃあ何で君まで競技会に参加してたわけ?」

「社長が3年間、日本の国内予選に参加し続ければ、結果に応じた報酬をくれると言いました。あくまでも業務としてやるだけで、好きでやるわけではありません」

「報酬ってそんなに多いの?」

「ええ。私はアメリカの貧しい家庭に生まれました。アメリカは自由の国と呼ばれていますが、それは自己責任の裏返しでもあります。私の両親は病気になりましたが、お金がなくて死にました。残された私は必死に勉強しました。でも貧しいために学費を払えず、大学にも行けないまま社会に出てみれば、大卒じゃないからと、単純労働しかありません。そんな時、友人が私にバリスタの仕事を紹介してくれました」


 ダニエルはここに辿り着くまでの経緯を切実に話してくれた。


 バリスタの仕事を懸命にこなし、地元ではそこそこ名の知れたバリスタになることはできた。


 アメリカにメジャー競技会があることを知ると、すぐさま応募するが、予選こそ突破すれど、いつも決勝を前に敗れ、決勝ではマイケルジュニアを始めとした才能溢れる上位勢の圧巻とも言える競技を見た。ダニエルは彼らの栄光を指を咥えて眺めているしかなかった。決勝どころか参加の壁すら厚く、抽選漏れで大会に参加する機会を失うことも少なくなかった。


 成功したバリスタの共通点を入念に調べた結果、ダニエルはある法則に気がついた。それは生まれつき家庭が裕福で、何の障害もなく高学歴を獲得している人ほど決勝進出を果たしやすい富裕の法則だ。出自がそのまま出世できる確率にまで響いている現実をダニエルは痛感した。


 ダニエルがバリスタを志したのは18歳、それまではコーヒーに触れる機会すらなく、やりたくもない学校の勉強に食らいつくだけで精一杯の状況だ。小さい頃からコーヒーに触れ、バリスタ教育を受けてきたエリートにはまず勝てない。この時点で学びの格差が生まれている。


 経験はお金で買えることを知った貧者の多くは夢を諦め、現実的な就職レールへと方針を転換するも、学歴の壁が重く伸し掛かる。学歴が低ければ単純労働者と見なされてしまうのだ。僕は学歴の価値など、とっくに失墜したものだと思っている。大卒の割合は年々増加傾向にあるが、企業だって馬鹿じゃない。あくまでもスタートラインに立ったというだけで、入社後は学歴以外の能力が要求される。


 そんな彼にもチャンスが巡ってくる。


 親がニュージーランドからの移民ということもあり、ダニエルがアメリカとニュージーランドの二重国籍であったことを知った友人からニュージーランド代表を目指してみないかと言われ、仕事をこなしながらコーヒーの研究に没頭する。その後はバリスタオリンピック選考会で見事ニュージーランド代表の資格を得たことからも、単に練習の機会に恵まれなかっただけであったことが見て取れる。


 バリスタオリンピック2023ダブリン大会には21歳の若さで最年少出場を果たし、予選落ちを喫するも、可能性をファンたちの目に焼きつけた。そんな彼に杉山社長が目をつけ、3年間JBC(ジェイビーシー)で活躍すれば、次のニュージーランド代表を決めるバリスタオリンピック選考会に推薦枠で出場させる約束をしたばかりか、贅沢をしなければ一生暮らせるだけの年金を出すとまで言われた。


 どうりで必死にならざるを得ないわけだ。


 弱みを握られた人間ほど、動かしやすい存在はいない。


 世界トップクラスのバリスタではなくとも、国内予選で優勝できる程度のバリスタなら比較的簡単に集めることができるし、参加することに反対されても、国際化が進んだと言えば、いくらでも誤魔化せる。


「私は負けるわけにはいきません。もうあんな貧困生活は二度としたくない」

「なるほど、それが君の敗因というわけか」

「どういう意味ですか?」

「君はずっとお金のために競技を行ってきた。でも世界で活躍するバリスタは、純粋にコーヒーのために競技を行ってきた。貧困が原因で練習もロクにできなかったことには同情する。だからうちは昔のダニエルみたいな人が何のハンデもなく活躍できるように、プロという選択肢が必要だと思ってるの」

「――まさかあなた、葉月グループの人ですか?」


 一瞬、心臓が強く胸の内を打った気がした。


 しまった。ここまで言うつもりはなかったが、やりすぎたか?


 周囲で業務を続けていたアマチュアチームのメンバーたちの手が止まる。


 こっちに気づいたか。プロという言葉に全身の毛を逆立てるように反応し、僕らの動向を窺っている。バスツアーまでやって、アマチュアチームの存在感をアピールしているにもかかわらずだ。


 まさか、こいつらもプロ契約制度を潰すだけのインセンティブを与えられているというのか?


 何かを怪しんでいる有田と水無が僕のそばに寄ってくる。


「ゴホッゴホッ、いやいや、私はただの役員だから。コーヒー会社を経営している雁来木染。うちも葉月グループに倣って、プロ契約制度を導入しようかなって思ってたところなの」

「あー、視察に訪れてたんですねー」

「もしかして風邪ですか?」


 不意に透き通るような女性の声が聞こえた。


「ああ、ちょっと風邪気味でね」

「最近はインフルエンザが流行ってるみたいですから、気をつけてください」

「風邪じゃなきゃ、プロ契約制度が必要なんて言わないですよね」

「こら、失礼でしょ。雁来社長、それはやめた方がいいと思います」


 水無が表情をほとんど変えることなく、冷静な口調で有田を咎めた。


「あっ、失礼しました。私たちはプロ契約制度を結んでいるバリスタに勝つように言われているもので」

「プロに勝つように言われたって、どういうこと?」

「実はプロ契約制度が普及してから、コーヒー会社が相次いで潰れて、失業者が続出しているんです」

「私も務めていたコーヒー会社から、主力を次々と引き抜かれて潰れてしまったんです。プロを目指さないとバリスタを続けられないと思って、プロを目指して穂岐山珈琲に入ったまでは良かったんですけど、その穂岐山珈琲も、プロ契約制度のために、1人のバリスタに大金をつぎ込んだ挙句、誰1人として世界大会で結果を残せず、赤字を記録したところにあの吸収合併ですから。それで今の社長はプロ契約制度では採算が取れないと思って、真っ先に廃止したんです。代わりにアマチュアチームができて、私たちにもチャンスが巡ってきたんです。プロに勝ち越せば、一生分の年金を出すと言われましたから」

「バリスタにプロ契約制度が合わないと考えている社長は、周囲のコーヒー会社にも、プロ契約制度の廃止を推奨しているんですけど、穂岐山珈琲の時と比べると、コーヒーの研究がいまいちしにくいんです」

「研究がしにくいのは、予算を削られたからだよね?」

「はい。アマチュアなので、練習も研究も自費なんです。これが結構きつくて――」

「そこまで。これ以上愚痴を言ったら、社長に密告されるよ」

「はーい」


 水無はしっかり者のようだが、有田は比較的ノリが軽いようだ。


 ここに来て分かったことがある。アマチュアチームはプロに勝ちたい願望はあれど、プロ契約制度を潰す気はそこまでないようで、その気があるのは経営陣のみだ。


 それにしても不憫だ。プロ契約制度がないとはいえ、アマチュアチームは経費のほとんどが自腹だし、完全に一生分の年金を当てにしている。負け越した場合のことを考えていないとは思わないが、あまりにも無謀すぎる。バリスタの育成環境はうちの方が整っている。


 それでも負け越したのは――こいつらの無尽蔵なハングリー精神の賜物だ。


 昔の僕と同じものを感じる。貧困から脱するべく、頂点を究めようと無我夢中であったかつての自分の姿とピッタリ重なる。うちの弱点がまた1つ露見した。


 環境が良すぎるのも考え物だ。昔の僕のような不便さを感じさせたくないがために良質な環境を整備してきたわけだが、それが勝負事に甘える余地を与えてしまっている。こんなことになるなら、活躍できなければ次がないことを早くから自覚させておくべきだった。璃子が強化合宿を始めた理由がようやく分かった。契約解除をチラつかせることで、うちにいるみんなのハングリー精神を刺激するためだったんだ。少数精鋭で勝てればそれでいいと思っていたが、総力戦ではそうはいかないことを璃子は知っていた。


 アマチュアチームの動向を視察した僕は、東京で1日寝泊まりした後、タクシーで帰路に就いた。


「いやー、タクシーで送ってくれるなんて太っ腹やなー。ホンマ助かるわー」


 たまたま僕と同じホテルだった神崎と銀座で再会し、ひょんなことから一緒に帰宅することに。


「神崎さんが積極的にあの人たちと話してくれたお陰で、アマチュアチームの動向が掴めたお礼だよ」

「しっかしなー、まさかコーヒー業界がプロ契約制度を続けるかどうかで揉めてるとは思わんかったわ」

「コーヒー業界はプロ契約制度を導入してから飛躍的に業績を上げた事実があるのに、あの人たちはそのことを知らないまま、プロ契約制度を消滅させようとしてるの。業界の収益はスーパースターがいてこそだし、このまま業界を牽引していく人がいなくなったら、あの人たちお終いかもね」

「俺、生半可な気持ちでバリスタになろうとしてたわ。とても俺が務まる仕事やない」

「前にも言ったはずだよ。なるだけならできるって。行きつけの店とかないの?」

「あー、あるでー。和菓子処葉月ってとこや」


 ――やはり僕と人を結びつけてくれるのはコーヒーってことか。


 まさかとは思うが、こいつの力を借りろってことなのか?


 バリスタとしての技能は素人だが、妙に嗅覚や味覚が鋭いところがあり、テイスティングの時はフレーバーを正確に言い当てていた。今のうちにはコーヒーのフレーバーを見極められるだけのバリスタが不足している。職に困っているようならワンチャンあるかもしれない。


 僕らを乗せたタクシーは、沈みゆく夕焼けを追うように、静かに走り続けるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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神崎彰(CV:阪口周平)

有田美樹(CV:相模恋)

水無麻実(CV:渋谷ひめ)

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