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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第15章 最果てのバリスタ編
362/500

362杯目「窮鼠噛む」

 エマの依頼は早くも残酷な結末が見えた。仮交際の相手なんて信用してはならない。


 ここまで水族館デートは順調と言えるものだった。エマは仮交際の相手を疑うこともせず、純粋で健気な気持ちをずっと保ち続けている。そんなエマを思うと心が痛い。


 皐月としては断りたいが、断らずに諦めてもらう方法を模索しているのがすぐに分かった。さっきから目を細めながら俯いている。頭の中で必死に言い訳を考えている時の顔だ。何故だろうか。ほとんどの人間とは一期一会で、一度会った後は一生会わない可能性の方が高い。


 にもかかわらず、人は何故か嫌われることを恐れ、目の前の相手に平伏してしまう。


 水族館の中はガラス越しに様々な海の生物が気ままに泳ぎ、見事なまでに共存している。


 こんな時にどの魚が1番美味いのかを考えてしまう僕は病気だろうか。職業柄、いつも食材を工夫することばかりを考えてしまう。魚介類は和食にも中華にも洋食にも使われる万能選手だ。ここにいるだけで大きな魚屋にいるかの如く、食欲が無尽蔵に湧いてくる。


「あっ、翻車魚の部屋に入って行きますよ。私たちも入りましょうよ」

「ばれたらどうすんだよ?」

「カモフラージュのために、私たちも楽しむんですよ。自然体でいれば、案外ばれないものですよ。一定の距離を保ちながら、こそこそついていく方がばれやすいと思います」

「……しょうがねえな」


 ポケットからスマホを取り出し、皐月にメールを送ってみたが、すぐに気づいたようで、皐月は紺色のスマホをバッグから取り出し、エマと北島さんから少しだけ距離を置いた。


『そっちの様子はどう?』

『あまり良くないな。エマが困り果ててる。他人の恋愛事情に口を挟む気はないが、この人はエマの相手に相応しくない。もっとも、相手の方から既に断り気味のようだが』

『決まりだな。後でエマに合否を報告しておく』

『つき合うかどうかくらい自分で決めればいいと思うが』

『言葉を返すようで悪いが、断りの返事くらい自分でできないのか?』

『私にも立場がある』


 痛いところを突かれたのか、これ以上は何も言わなかった。


 立場があると口走るのは、僕の経験上降参の合図だ。そこまでして守らないといけない立場とは。


 しばらくすると、エマが北島さんから離れた。行き先を目で追ってみると、どうやらトイレらしい。


 ――あれっ、この状況まずくねえか?


 北島さんの目の色が変わり、皐月に急接近する。


「ねえ、立花さんはつき合ってる人とかいるの?」

「いえ、いませんけど」

「じゃあさ、俺とつき合ってくれないか?」

「……気持ちは嬉しいですけど、私は当分、バリスタの仕事を頑張りたいんです」

「いきなり真剣交際しろとは言わない。仮交際、つまり友達からでもいい」

「友達と仮交際は別だと思うのですが――」


 北島さんが更に迫り、皐月は翻車魚のガラス窓に追いやられ、返答の隙を与えようともしない。


「バリスタの仕事を頑張りたいって言うなら、俺をサポーターにしてほしいんだ。立花さんの夢を一緒に叶えたいし、俺ならそれができると思う。俺もバリスタオリンピックチャンピオン目指してるし、共通の夢を持ってるんだからさ、立花さんと一緒なら、どこまでもやっていける気がする」

「北島さんさんはどこのお店にお勤めなんですか?」

「えっと、穂岐山珈琲名古屋支店だよ。今回は書類選考に落ちちゃったけど、次は通ってみせるよ」

「そうですか。名古屋支店ってことは、結構近いんですね」

「それで? 仮交際は認めてくれるのかな?」

「……えっと、今はその――」

「嘘を吐くのは良くないなぁ~」

「「!」」


 この時を見計らっていた。エマがいない上に、誰もが翻車魚に夢中になっているこのタイミングを。


「あなたは昨日のマスター。どうしてここに?」

「ちょっと依頼を受けたもんでね。やっと尻尾を出したな」

「嘘ってどういうことなんだ?」

「穂岐山珈琲名古屋支店は令和恐慌の影響で撤退した。かつて存在した店舗ではあるけど、穂岐山珈琲は以前よりも弱体化して、今じゃ関東周辺にしか店舗を展開してないし、全国各地にあった店舗は撤退している。穂岐山珈琲に勤めているバリスタなら、これくらい常識のはずだよな?」

「えっ、それ本当なんですか?」


 皐月が北島さんに疑問を投げかけた。だが北島さんは全く答えない。


「……ちっ、もう少しで大物を釣れるところだったのになー。余計なマネしやがって」


 優しい顔から豹変し、目つきが鋭くなった。これがこいつの本性か。


「そっちこそ、何でこんなマネをしたわけ?」

「俺は生活のために婚活をしてた。それで岐阜コンに行ってみたら、アイドルバリスタの立花皐月と知り合いの女と偶然出会って、それで紹介してもらおうとチャンスを窺ってた。そしたらこの前奇跡的に出会えた。彼女と結婚できれば、貧乏生活とおさらばできると思ってたのになー」

「もしかして……無職なのか?」

「ああ、そうだよ。俺は令和恐慌のせいで会社をクビになった。再就職するために何でもした。でも俺は今年で33歳だ。この年じゃ、即戦力以外でまともな企業に就職できねえ。そこで俺は友人から岐阜コンの話を聞いたんだよ。そこそこ稼いでる女がいるってな」


 おいおい、僕と同い年かよ。長身で顔も悪くないのに、こうも違う人生を歩んでいる人がいるとは。


「皐月と仮交際をすることになったら、デートを重ねて好感度を稼いでから、無職になったことを告げて同情を買って、サポーターとして就職させてもらう予定だったんだろ?」

「そこまでお見通しか。お前、一体何者だ?」

「ただのバリスタ社長だ。僕ぐらいになるとな、思慮の浅い奴の考えは全部お見通しだ――!」

「来るなっ! 来るとこいつの命はないぞっ!」


 北島がバッグから刃物を取り出し、皐月の腕を必要以上に強い力で引っ張った。


「「「「「きゃあああああぁぁぁぁぁっ!」」」」」


 水族館にいた客たちが一斉に逃走し始めた。北島は刃物を皐月の首に突きつけた。


「逃走用の車と身代金を用意しろぉ! さもないとこの女の命はねえぞぉ!」

「馬鹿な真似はよせ。何でそんなことをする必要がある?」

「うるせえっ! 俺はここまで一生懸命に生きてきたぁ! 毎日朝から晩まで、奴隷のようにこき使われてぇ! 生活のために上司からの嫌がらせにも耐えたぁ! サビ残も嫌な顔1つせずにやった! なのに給料は全然上がらない上に、会社はクビになるし! 生活保護も受けられねえし! 無職になったせいでつき合ってた彼女にも振られたぁ! 俺は天涯孤独だぁ! 失うものは何もねえ! 何にも悪いことしてねえのにっ! ……こんな人生になったのは全部社会のせいだっ! だからっ! こんなクソみてえな社会に……復讐してやるんだよっ!」

「そんなの間違ってますっ!」

「「「「「!」」」」」


 振り返ってみれば、僕の背後にいた伊織が腹の奥から叫び、注目を浴びた。


「何だてめえは? 小学生はさっさと帰れ」

「私は成人してます。確かに世の中には理不尽なこともたくさんあります。だからみんな助け合って生きているんです。あなたは自分のことしか考えてません。エマさんはずっとあなたに寄り添おうとしていたんですよ。なのにあなたはエマさんの気持ちを無下にして、財産目当てで皐月さんに近づいたんです」

「だから誰にも助けてもらえなかったんだ。そんな奴が結婚なんて、100兆年早い」

「黙れっ! こいつが立花グループの令嬢だってことは知ってんだ。さぞかしたくさんの身代金が取れるだろうなぁ! 俺が稼ぐはずだった金だ」

「その後は別の誰かを人質に取って逃走を繰り返すか。指名手配される前に降参した方が身のためだぞ」

「お前ら今の状況を忘れてるだろ。俺がその気になりゃ、いつでもこいつを殺せるんだぞ!」

「あー、そうだったな。じゃあそろそろ人質を解放してもらおうか」

「はぁ!? お前は何を――いてっ!」


 皐月が冷静な顔のまま右足を上げると、北島の右足を目掛けて渾身の力で踏みつけた。


 怯んだ北島の右腕を掴むと、拳を壁に打ちつけて刃物を叩き落とし、背中に蹴りを入れた。


「がはっ! ……てめえ」


 皐月が北島の腕を捻り、身動きが取れないように押さえつけた。


「哀れですね。あなたにエマは勿体ないですよ」

「皐月さん、武術が使えたんですか?」

「ああ。グループ企業の令嬢として、親父に護身術を叩き込まれた。役に立つとは思わなかったが」

「あず君、皐月さんが護身術使えるのを知っていたから冷静だったんですね」

「まあな。スポーツが得意と聞いて履歴書を見たら、空手に柔道に剣道の有段者ときた」

「そんなことより、こいつを警察に突き出すぞ」

「何やってるの?」

「「「!」」」


 僕らが後ろを振り返ると、そこには時が止まった顔のエマが佇んでいた。


「エマ、どうやらこいつはお前に相応しくないようだ――」

「しまったっ!」


 エマに注意を引かれていた皐月の隙を見て北島が逃げ出した。


「きゃっ!」

「エマっ!」

「動くな。動くとこいつを刺すぞ」

「ナイフは没収したはずだぞ」

「俺は用意周到でね。ナイフは2本持ってたんだよ」

「その狡猾さを仕事に活かすべきでしたね」

「うるさいっ!」

「あず君……助けてぇ~」


 エマが涙を流しながら小さな声を絞り出す。


 それにしても、皐月は身内が人質に取られているはずなのに、顔色1つ変えない。何という冷静さだ。僕でさえ動悸がするくらいなのに。やはりこいつ、只者じゃない。


「気に入らねえんだよ。お前みたいに、生まれつき何でも持ってるような奴は。金持ちじゃなかったら、誰がてめえみたいに才能だけで生きてる奴に声かけるかよ」

「北島さん、何でこんなことするの?」

「黙れ。お前は最初から利用されてたんだよ。最後まで利用させてもらうぞ。人質としてな」

「そんな……信じてたのに」


 エマの無念さが胸にズキンと伝わってくる。


 誰かが呼んでくれた警察が到着し、水族館を包囲するが、北島さんはエマを人質にしながらじりじりと逃走用の車へと向かう。事態は確実に最悪な方向へと向かっていた。


「済まない。私が一瞬でも油断したばっかりに」

「気にするな。エマが声をかけてくるなんて想定外だからな」


 このまま乗られてしまったらエマはどうなる?


 ずっと犯人につき合わされて、追い詰められれば、最悪道連れにされてしまう危険性もある。無敵の人を放置した結果、またしても事件に巻き込まれてしまった。伊織の時もそうだが、これは貧困を防げなかった行政の責任だ。あいつが言う社会の責任というのも、あながち間違いではない。


 ここまで奴追い詰めた社会にも責任があるにせよ、どうにかして奴を捕まえ、刑務所という最後のセーフティネットにぶち込んでやりたいところだ。


 エマを連れていく北島の後ろに人影が見える。


 ――あれっ、あいつ……何でここにいるんだ?


「お前確か会社に所属してたよなー。家族と会社に身代金を要求してもらおうか」

「そんなに困ってるんだったら、ちゃんと言ってくれれば助けたのに」

「綺麗事も大概にしとけよ。どうせお前も俺のことを見下していたんだろう。俺がつき合ってきた女はみんなそうだった。うちが貧乏だと知るや否や、みんなゴキブリを見るような顔で俺を見下した。お前みたいなお調子者の女を見てると、イライラするんだよ」


 こいつは何も分かってないな。ある程度の稼ぎがないと、将来結婚した時に安心して育児ができない。女は婚期が近づくと子供を意識する。子育て中は無力な状態だ。そんな時に自分の生活費すら稼げない奴と結婚したいなんて思わない。だから大半の女は、男に稼ぐ見込みがなければ見切りをつける。


 稼ぐようになってからモテたという話はよく聞くが、それは結婚する資格のある土俵の上の存在として認識されるようになっただけで、決してモテたというわけではない。


 こんなことも分からないようでは、落ちるべくして落ちたとしか言いようがない。


「そんなことないよ。うちだって元々貧乏だったし、近所の人がうちの紅茶を買ってくれて、ずっと支えてもらってきた。だからあたしもみんなのために頑張ろうと思って。慣れないバリスタの仕事も一生懸命覚えて、料理もお菓子もちょっとずつ習得してきたの」

「……俺にそんな環境はなかった」

「あたしにだってなかったよ。けど……地道に努力を繰り返せば、いつかきっと報われる時が来るって、教えてくれた人がいるの」

「そんな奴と出会っていたら、俺の人生も変わってたかもな」


 北島が腕の力を緩めたその時――。


「あっ、てめえっ!」


 一瞬の隙を見てエマが逃げ出した。慌てて北島が後を追いかけるが、エマは僕の胸に飛び込み、無事に保護された。熱くなっていたエマの体を抱擁する。幸いにも怪我はなかった。


「怖かったよぉ~!」

「よしよし、もう大丈夫だ」

「このアマっ! 死ねえええええっ!」


 北島が刃物を僕らに向けて襲ってくる。僕は咄嗟にエマを庇うように前へ出た。


 しまった。皐月と伊織は警察から事情聴取を受けるために僕のそばを離れていた。


 この時、僕は初めて死を覚悟した。最愛の恋人よ、君は役割を終えた僕にピリオドを打つのか?


 そんなことを考えながら、どうにかして刃物を受け止めようと考えた。これは県内の貧困を防げなかった僕への罰なのか、それとも偶発的な事件なのか、あるいはここで死ぬはずだった身内の命運を無理矢理変えようとした代償なのか、それは神のみぞ知る結論だ。


「がはっ!」


 打撃音が聞こえると、北島が僕の目の前で俯せに倒れている。


 北島の後ろに、1人の男がチョップの構えで佇んでいる。首の後ろに打撃を与え、気絶させたらしい。


「やれやれ、相変わらず治安の悪いとこやな」

「やっぱり君だったか。拓也」

「えっ、どうして拓也さんがここに?」

「何でって、久しぶりにあず君の家に遊びに行こうと思ったら、あず君が家におらんかったんや。それで水族館にいるって唯ちゃんから聞いて迎えに来たんや。お前何でコラボの日忘れてんねん!」

「あっ……そういやそうだった」


 すっかり忘れてた。今日は拓也とコラボ動画を収録する日だった……。


「お嬢ちゃん、怪我はないか?」

「は、はい……大丈夫です」

「それは良かったな」


 エマが初めて雌の顔になるのを見た。拓也はそんなエマに歯を見せながら笑顔で答えた。


 北島は3人の警察官に取り押さえられ、現行犯逮捕された。


「大丈夫かっ!?」


 皐月と伊織が両腕を振るいながら慌てて駆けつけてくる。


「怪我はない。拓也が助けてくれた」

「そうだったか」

「まさか拓也さんが来てくれていたなんて思いませんでした」

「この前ゆうたやん。正月過ぎたら遊びに行くって」

「あっ……」

「2人共忘れてたんかいな」


 下を向きながら顔を抱え、ため息をつく拓也。


 思わぬ助けが入った。ニートだからと見捨てず、動画投稿者仲間としてつき合い続けたのが功を奏したらしい。ここまでの経緯を話すと、拓也は被害者であるエマよりも、加害者の方に同情を示した。


 エマもまた、自分自身の恐怖よりも、加害者に同様の感情を示したのだ。


 平たく言えば、2人共かなりのお人好しであることが見て取れる。


「あの、あたし、楠木エマといいます」

「俺は城之内拓也。よろしくな」

「あれっ、2人って知り合いじゃなかったっけ?」

「動画で見たことはあるけど、会ったのは初めてやな」

「それより、これからどうする?」

「残念だけど、事情聴取が終わったら解散しよっか。あたしはもう大丈夫だから、心配しなくていいよ」


 僕らを気遣うように、どこか寂しそうな顔でエマが言った。


 両手を腰のあたりで結び、顔を上げたまま頭を下げた。


「それにしてもめっちゃ美人やなー。あず君また妾作ったんか?」

「妾じゃねえよ。葉月創製のエース、立花皐月。次世代トップバリスタ候補生だ」

「立花です。さっきはどうも」

「困った時はお互い様や。あれっ、伊織ちゃんもおったん?」

「はい。あず君と一緒にエマさんの後をつけてたんですけど、まさかこんなことになるなんて」

「まあ無事やったし、ホンマ怪我人が出なくてよかったわ。後でコラボ動画撮影しようや」

「分かった。そういえば、岐阜に移り住んだんだっけ?」

「まあな。俺の家結構近いから、必要があればすぐ来れるで」


 拓也が豪語するように言うと、エマは分かりやすいくらいに目を輝かせた。


 その後、僕らは事情聴取を済ませ、無事に帰宅した。


 全国ニュースになったが、僕らの名前が公にされることはなかった。犯人のプロフィールは公開され、皮肉にも刑務所という名のベーシックインカムを受給することとなった。行政が人々を貧困から守ってやらないから、刑務所か強盗の二択を迫られることになるんだぞと言わんばかりだ。


 1月下旬、エマは過去を引き摺ることなく、拓也と真剣交際を始めた。


 これで楠木家のいとこ全員にパートナーができた。


 エマは昔から男運がなく、危機的状況を直接的に誰かに助けられた経験がなかった。


 恋のトリガーを引いてくれる人がいなかっただけだ。北島はエマの婚活にある意味貢献した。拓也は昔からの仲間だし、信用は十分ある。今の今まで彼女さえできなかった拓也にとっては、出会った女はみんな姫君のような存在だ。唯には事件のことを話したが、他のみんなに話すことはなかった。


 プライベートのことは明かさなくていい。今はバリスタオリンピックに集中させたい。


「あず君、今度一緒に大会に出てくれないか?」


 機嫌良く声をかけてきたのは響だった。


「えっ、何で僕がまた出ないといけないわけ?」

「伯父の蒸留所を守るには、あず君の力が必要だ」

「もしかして、コーヒーカクテルの大会か?」

「大当たりだ。今度オスロで行われる。あまり大きな大会じゃないが、毎年30ヵ国から凄腕のコーヒーカクテラーが参加する。アジア人初のワールドコーヒーイングッドスピリッツチャンピオンだろ?」

「忘れてると思うけど、僕は下戸なんだぞ。作品を新しく作るとなると、テイスティングの必要もある」

「案ずるな。テイスティングは私がやる。真理愛さんも参加してくれると言った」

「真理愛が?」

「ああ。あず君と一緒に出られると言ったら、喜んで応じてくれた」

「あのなー」


 相変わらず行動力の塊だ。好奇心を摘み取られずに大人になった連中が集まったはいいが、まだまだ荒削りといっていい。真理愛が許可を出している以上は仕方ねえか。


 響は度々葉月コーヒーカクテルに赴いてはアイデアを拾ってくる。一度相談に行くか。真理愛にも都合があるし、次世代を担うコーヒーカクテラーを育てる役割を見事に果たしている。莉奈も若菜もJCIGSC(ジェイシグス)を始めとしたコーヒーカクテルの大会で徐々に結果を残している。葉月コーヒーカクテルを、葉月珈琲に並ぶライバル店舗に育て上げた仕事っぷりには脱帽だ。


 経営者としての教育を受けてきただけあり、その手腕は僕より上手だった。

読んでいただきありがとうございます。

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