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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第14章 コーヒー業界転換期編
338/500

338杯目「アクシデント」

 さっきまでの静かな時間は何とやら。あまり眠れなかったが、ここは耐え抜くしかない。


 アイスクリームはまだ固まっていないし、12時から3時にかけて客でいっぱいになる。それまでに序盤からアイスクリームを使ったメニューで列を作ることができればと考えた。


 しかし、隣のブースと冷凍庫が同じであったために、とんだ妨害を受ける破目になってしまった。那月はどうにかやる気を取り戻したが、アイスクリームを使ったメニューを注文された時が問題だ。那月には問題ない旨を伝えたが、正直に言えば、かなりピンチだ。


 まるで大本営発表のように伝える格好となってしまったが、士気が低ければ良い作品は作れない。


「アイリッシュコーヒーをください」

「かしこまりました。ホットかアイスか、どちらになさいますか?」

「じゃあホットで」


 ホットかアイスの注文を忘れた客に確認し、ドリッパーを使い始める響。


 生クリームをシェイカーに入れると、一定のリズムで小刻みにシェイカーを振るい、1人1人の客に対して冷静に提供する。どのチームもコーヒーカクテルはバーテンダーが作っていた。バリスタの経由することはなく、エスプレッソマシンやドリッパーを使いこなしていた。


 誰がどのメニューを作るべきかという規定はない。


 あくまでも大まかな役割というだけで、パティシエ担当が忙しくなったら、バリスタ担当かバーテンダー担当のどちらかがクローズキッチンに加勢する。無論、その逆も然りだ。那月は簡単な英会話こそできるが、コーヒーカクテルは得意じゃないし、オープンキッチンに出すわけにはいかない。


「スティックアイスケーキのストロベリー味をセットでちょうだい」


 高そうな赤いドレスのマダムが僕らに声をかけ、カウンター席に腰かけた。


 遂に注文がきたか。僕らのとっておき、コーヒーとの相性を考えて作った何種類ものスティックアイスケーキだ。この大会の本質はバールマンであること、すなわちコーヒーだけでなく、カクテルやスイーツとの相性を考えたコーヒーマリアージュを意識したメニューが有効であると考えた。


「畏まりました……あず君、どうするんだ?」

「仕方ねえだろ。やるっきゃない」


 冷凍庫内を見ると、スティックアイスケーキはやはり固まっていない。


 ボウルの縁が今にも溶け出しそうだ。ちょっと柔らかいけど、後半用のアイスはまだ那月が作り始めたばかりだし、もうこれしかない。まずは自分で試食してみるか。


 ――溶け出したアイスの液体感が口いっぱいに広がった。


 その後にドリップコーヒーを口に含んだ――ん? これ、以外と合うんじゃねえか?


「どうしたんだ? やっぱり駄目か?」

「いや、大丈夫だ。懸けてみよう。客の味覚を信じるしかない」


 スティックアイスケーキは三段層になっているが、真ん中のアイスがドロドロと溶け出している。見栄えの悪さは言うまでもない。1番上の薄いピンク色に輝くストロベリーが特徴だ。


 赤いドレスのマダムが不思議そうな目で首を傾げた。


「どうして溶け出してるの?」


 やはり説明を求められるか。


 終わったと思いかけたその時――。


「真ん中のアイスの部分はソースとして食べていただこうと思い、柔らかいものに仕上げています。素材の味を活かしたスティックアイスケーキとなっておりまして、通常は冷やし固めたものを提供しますが、近年は冷えすぎて食べ辛いと感じるお客様もいることを知りました。そこで私たちは冷えたままのアイスケーキという固定観念を崩し、常温に近い温度帯のアイスケーキを作れないかと考えたのです。しかも適度に溶け出していることによって、コーヒーと混ざり合うことを容易とするため、最高のコーヒーマリアージュをお楽しみいただけます」

「へぇ~、それは楽しみねー」


 溶け出したスティックアイスケーキを食べるマダム。


 黙ったまま目を見開き、頷きながら僕らを見つめた。


「とても美味しい。口の中にアイスが広がってコーヒーともマリアージュしてる」

「ありがとうございます」


 ホッと胸を撫で下ろす響。少し遠くの席から注文が届くと、響がすぐに対応する。


 僕も目の前の客たちからの注文を受け、コーヒーメニューを作成していく。


 パンケーキ、スティックアイスケーキ、ワッフルを軸としているが、これはメニューに多様性をもたらしながら調理時間を短縮するためである。何とか誤魔化すことができたが、本音ではどう思っているか分からない。口では何とでも言えるが、味は嘘を吐かない。


 しかしながら、溶け出したスティックアイスケーキも美味かった。


 響のアドリブにも驚かされた。とてもとってつけた言葉とは思えない説明だったし、マダムが英語に慣れていないことに逸早く気づき、話すスピードを遅くして話しているところも魅力的だ。こんな細かいところにまで響の人間性が表れていたが、表情にはやや罪悪感が漂っている。


 しばらくはラッシュに対応するので精一杯だったが、普段の葉月珈琲はこんなもんじゃない。


 響もまた、いつもよりマシだと言わんばかりに冷静に注文をメモし、調理時間の短いメニューから順番に提供していく。葉月珈琲での日々が修業としての意味を成していることを響が証明してくれた。カウンター席だけでなく、その後ろに設置されたテーブル席にも客はいる。


 しかもテイクアウトメニューを注文する客に対しても、コーヒーはかなり有効だった。


 ラッシュを終えたところで、僕はクローズキッチンにいる那月の様子を見に行った。


「那月、スティックアイスケーキだけど、どうにかなりそうだ」

「本当に?」

「もちろん。特に苦情とかはなかった。普段から基礎をしっかりと叩き込まれているからこそ、多少崩れても良いものが作れるってことだ。優子のお陰だな」

「……」


 いつもは陽気な笑顔を見せてくれる那月だが、今日はとてもお淑やかだ。


 女性らしさはあっても、そこに那月らしさはなかった。


「どうした?」

「……エスプーマ……忘れちゃった」

「はぁ?」


 ひえー、何でこんな時に限ってエスプーマ忘れるかなー。


 手が動く前に目で頭を抱えそうだ。那月にとってチーム戦は初めてだ。


 作品も考えなきゃいけないし、緊張感は察するに余りあるものだった。


「だって普段使わないんだもん」

「言い訳無用。このままじゃ、生クリームを使ったメニューを注文された時、調理時間が予定より長くなっちまうぞ。どうするつもりだ?」

「ハンドミキサーがあるから、これで何とかする。ちゃんと確認したはずなのになー」

「分かった。じゃあ僕が取ってくるよ。那月の部屋か?」

「うん。じゃあこれ、カードキー。キッチンに置いてると思う」


 カードキーを受け取り、会場の外に出ようと考えた時だった――。


「あず君、スティックアイスケーキの追加注文が相次いでいるぞ!」


 応援を呼ぶ声が後頭部に響いた。真っ先に驚いたのは那月だった。


「ええっ! 嘘でしょ!」

「いや、本当だ。本来なら固まった状態のスティックアイスケーキを出すのが常識だが、溶け出したスティックアイスケーキが想像以上にコーヒーと合うみたいで、噂を聞いた客たちが集まってきた。どうやらコーヒー業界の権威であるあず君が作っているのだから、きっと間違いないと太鼓判を押す人が、うちのブースを宣伝してくれたみたいだ」

「そーゆーのパティシエとして複雑なんだけどなー」

「一時はどうなるかと思ったけど、お隣さんのお陰で繁盛しそうだ」


 後で人づてに聞いた話だが、アイスケーキは冷え固まっているものが多く、食べにくいという声が多いことは大きな課題であった。そのため他のチームはアイスケーキを敬遠し、まともにスティックアイスケーキを売っているのはうちだけという始末だったのだ。


 もし冷え固まったスティックアイスケーキを売っていたらどうなっていたか。


 作品を出すことを決めたのは僕だ。危うく僕の采配で予選落ちが確定するところだった。


「じゃあ、今固めているアイスケーキは?」

「朝の分と同じ状態で出した方がいいだろうな。まさかここまでウケるとは思わなかった。全く、何が正解なのか分からん。あず君、カードキーは那月に返しておけ。出ていく暇はないぞ」

「はぁ~」


 受け取ったばかりのカードキーを那月に返し、ブースに残る決意をする。


 本来冷えた状態で出すアイスケーキだが、溶けるかどうかの瀬戸際で提供しなければならず、品質にまで気を使う作業には那月も骨が折れたようだ。


 午後6時、再びやってきたラッシュがピークに達した。


 チーム葉月珈琲のネームバリューが効いていたのか、僕らは多くの客を相手にメニューを提供し、体力がゴリゴリと削られていく。普段は6時間労働だが、今日はこの2倍の時間を耐えなければならない。


 僕の全身は限界を迎え悲鳴を上げていた。このままだと注文を間違えてしまいそうだ。


 休み時間もないまま、競技開始から既に9時間が経過した。ラッシュがやっと終わり、少しはマシになったものの、この久しぶりの長時間労働には流石に応えた。


 日本のサラリーマンは毎日この状態に耐えているのか……そこらの懲役刑が可愛く思えてくる。労働の機械化をしたのに、何故こんなにも忙しすぎる毎日をみんなして送っているのだろうか。


 足に力が入らなくなり、ブースの壁に手を置いた。


「あず君、大丈夫か?」

「大丈夫なわけねえだろ。普段の2倍だぞ」

「那月と交代するか?」

「那月は裏の作業で忙しいだろ。この大会には2人の人生がかかってる。もっと……頑張らないと――」


 クローズキッチンに戻ろうとすると、体がフワッと浮いたような感覚に襲われてバランスを崩し、視界が一気に朦朧とする。僕の様子に気づいた響が駆け寄ってくる。


「! ――あず君っ!」


 響の声を最後に意識が遠のいていく――。


「――ん? ここは?」


 見覚えのある天井が目に入ってくると、その場にムクッと起き上がった。


 僕はクローズキッチンに並べられた椅子の上で寝ていたことを認識する。


「あず君っ!」


 突然視界に入ってきた那月が僕を強く抱擁する。


「那月……」

「ごめんね。こんなに疲れきっていることに気づきもしないで」

「気にすんな。ところで今何時だ?」

「もう8時だけど」

「8時って、もう終盤じゃねえか! 何で起こしてくれなかったんだよっ!?」


 言おうかどうかを考える前に言葉が口から出てしまっていた。


 こんなこと、少し考えれば分かるはずなのに。響はオープンキッチンで接客を担当している。これだけ立ち仕事をしてもなお疲れを見せないあたり、流石は仕事のプロと言ったところか。


 僕が虚弱体質だということをすっかり忘れていた。


 克服したつもりだったけど、無理は禁物だったようだ。


「だってあず君、凄く疲れているような目だったし、無理に起こすのも悪いと思って」

「客はどうした?」

「客なら問題なく捌いたぞ。私と那月の2人でな」

「那月が?」


 思わず耳を疑った。クローズキッチンに引きこもらせるはずだった那月が、僕が休養している間に最前線に出て戦ってくれていたのだ。普段は外国人客と喋ろうともしない那月がだ。


「那月はあず君が倒れてから、バリスタ担当の代行を自ら志願してな、一生懸命客たちとコミュニケーションを取りながら、コーヒーメニューを完璧に調理したんだ。お陰で助かった。英語はまだ粗かったが、伝えようとする努力はちゃんと伝わっていたぞ。コーヒーの調理も何の問題もなかった」

「あず君が毎日コーヒーの指導をしてくれたお陰だよ。お客さんみんな喜んでたし……ありがとう」


 とろーんとした目で感謝を伝える那月。


 たった2人で接客から裏の仕事まで、よくこなしてくれた。


 昨日あまり寝られなかったことや、競技時間の長さを甘く見積もっていたことが今回の失態を招いた。この2人じゃなかったら、ここでギブアップしているところだ。


 ――何が2人を助けるだ。おんぶにだっこなのは僕の方だ。


 自分の無力さに無性に腹が立ってくる。那月は両腕を枕に眠ってしまった。そりゃ半日以上ずっと働きっぱなしだもの。そりゃそうなるわな。どうにかラッシュの時間までは耐えた。誰がセンサリージャッジなのかも分からないまま、競技は終盤を迎えている。せめて残りの時間は僕がやらないと。


「響、後は僕に任せてくれ」

「大丈夫なのか?」

「ああ。那月は寝かせておけ」

「……そうだな」


 オープンキッチンに戻ると、観客たちは徐々に帰っていった。


 他のブースはもう片づけの準備を始めている。ラストオーダーはない。終わるその瞬間までが競技時間だというのに、もう終わった気分で談笑まで始めている。


 葉月珈琲ではまず見られない光景だ。営業時間中にスタッフ同士が談笑しているような店は、決まって客が全然いない店だ。客が来ないから談笑しているのではない。書き入れ時を見極めるだけの力もなく、スタッフの修業もせず、呑気に談笑するような店だから客が来ないんだ。


 うちは客が来ない時はスタッフの腕を向上させるべく、大会に向けた練習を促したり、より美味いコーヒーを淹れるための指導をする。必要があればバリスタ以外の練習をさせ、マルチスキルを習得させる。談笑なんてしている暇はないのだ。だが他の店は客が来ない暇な時間を持て余している。


「そろそろうちも片づけるか?」

「いや、うちはこのまま続ける。まだ競技中だ」

「客のほとんどはもう帰ったぞ」

「だからどうした。他所は他所、うちはうち」

「お袋によく言われた台詞だな」


 複雑そうな顔のまま腕を組む響。別れたはずの響の母親を口に出すあたり、話題にすることをタブーにしているわけではなさそうだ。国際結婚の象徴的存在でもある彼女は何を思うだろうか。


「周りに合わせている内は雑魚キャラだ。僕らが今ここにいるのは営業のためじゃない。競技のためだ。ただコーヒーを淹れているだけじゃなく、感動を売っているという自覚を持て」

「何故葉月珈琲が6時間労働なのかが分かった。あず君は常に最高のパフォーマンスをスタッフに求めている。だがパフォーマンスが十分にこなせる時間は限られてる。だから最も集中しやすい時間帯のみに労働時間を集約しているわけだ。葉月珈琲は他のカフェのスタッフよりも集中力が高いし、1人あたりの生産性では業界トップクラスなのがよく分かる」

「やっと気づいたか」


 半ばからかうように言った。うちがしてきたことが間違いじゃないことがよく分かった。


 那月がパティシエとしての技能だけでなく、バリスタとしての技能を持っていたからこそ、僕が動けない局面を乗り越えることができた。響の咄嗟の対応力があったからこそ、アクシデントの被害を最小限に食い止めることができた。みんな本当に凄い。ようやくメジャー店舗のスタッフらしくなってきたな。


 マルチスキルが競技にも活きていることを初めて実感した。全ては裏打ちされた現場力に他ならない。たった1つのスキルだけで生きていこうなんて思っていた自分が恐ろしくて笑えてくる。


 でも競技時間はいつも1時間程度だったし、これにすっかり慣れてしまっていたのは反省点かもな。


「あず君は本当に凄いな」

「今更気づいたのかよ」

「ふふっ、謙遜はしないんだな」

「僕は過小評価も過大評価もしない主義だ。謙遜なんて始めた日には、自信喪失するのは時間の問題だ。人間は望んだ以上の成果は果たせないからな。ところで、スティックアイスケーキは売れたか?」

「ああ。とっくに売り切れだ。残りのメニューは2人でも調理が簡単だったし、あず君が料理を教えてくれていたお陰でどうにかなった。バーテンダーに料理のスキルなんていらないって思ってた。でもあず君は他のスキルが本命のスキルを育てると言っていたから、私はより高いレベルを求めてマルチスキルの習得をゼロから始めたわけだが、結果は大成功だった。料理ができるようになってからは、カクテル作りにも余裕が持てるようになったし、色んなことができる自分に自信が持てるようになった」

「そりゃ良かった」


 大半の人はマルチスキルなんて持ってないし、たった1つのスキルを持っただけで満足する。


 いや、自分はこの程度だと言い訳をして諦めてきたんだ。好奇心が尽きなければ、どこまでも突き進めるし、それさえ知っていれば生きていける。マルチスキル習得はそのきっかけにすぎない。響が自信を持てるようになったのは、いざという時の選択肢が広がったからで、何も特別なことじゃない。


 人間は色んなことができるという事実を思い出させることが、再教育における最適解だと知った。


 きっかけはおじいちゃんの教育方針だった。


 バリスタとしての技能が身についた僕に、今度はロースターとしての技能を教えてくれたし、鈴鹿がピアノを究めることを勧めてくれたのも大きい。マルチスキルを持つことがそのまま自信に繋がった経験をもとに葉月珈琲塾を始めてみたのだが、効果は思った以上に絶大だった。


 誰でも技能が身につけば自信がつくというもの。


 1人の白髭を蓄えた紳士的な男性客が響の目の前の席に着いた。


「いらっしゃいませ」

「ここのお勧めを貰おうかな」

「当店のお勧めとしては、葉月珈琲自慢のパナマゲイシャコーヒーセットとコロンビアシドラコーヒーセットの2種類がございますが、どちらになさいますか?」

「じゃあ、パナマゲイシャコーヒーセットを頼もうかな」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 響が視線を僕に向けながら小さく頷いた。


 僕は昔ながらの方法でドリップコーヒーを淹れた。


 自動化されていないエスプレッソマシンを扱ったのは久しぶりである。昔のように手動で慎重に分量を調節し、その日のコーヒーのコンディションやアロマを感じ、コーヒーの声に従い、3投目を早めに切り上げる形で仕上げた。苦味が後の方で抽出されることを知っているが故の抽出プロセスだ。


 コーヒーの声を聞くことで、どのあたりから苦味や渋味が抽出されるのかが手に取るように分かる。


 湯気が出ているコーヒーカップを響が持ち、カウンター席にコトッと丁寧に置いた。


「お待たせしました。パナマゲイシャコーヒーセットです」

「良い香りだ。芳醇なアロマだけで飲みたくなる」

「そのコーヒーは僕の運命を変えた渾身の自信作だ。これを作るために命を懸けてくれた人もいる。僕はその人に報いるために、ずっとこのフレーバーを守っていきたい。僕にとって世界一美味いコーヒーだ」

「思い出深いコーヒーなんだね」


 紳士的な男性客がコーヒーを口に含んだ。鼻から吹き抜けるフレーバーが男性客の度肝を抜くように嗅覚を刺激し、やがて味覚をも支配する。一発で恋に落ちる爽やかで激しさのある柑橘系のフレーバーだ。終始感じるオレンジのフレーバーが、今もこうして色褪せることなく残っていることが何よりの喜びだ。


 ファビオが育てたこのパナマゲイシャは、出会った頃よりも高く売れるようになり、葉月珈琲が農園を受け継いでからは、安く買い叩く業者は1人もいなくなった。


 少なくとも葉月グループのコーヒー豆は、どこの業者も敬意を持って仕入れるようになってくれた。


 遂に仇を取ることができたんだ。ファビオの夢を受け継いだ僕がやっとの思いで叶えた。


 今度はその思い出と共に、この慣れ親しんだフレーバーを世界に伝える。それが僕の夢だ。

読んでいただきありがとうございます。

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