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社会不適合者が凄腕のバリスタになっていた件  作者: エスティ
第5章 経営者編
111/500

111杯目「時代の影」

 時は流れ、2012年を迎えた。


 元日の昼からは親戚の集会があり、唯に家の留守を任せ、璃子と共に祖父母宅へと赴く。唯は僕らが帰ってくるまでに数多くの家事をこなしている。まるで主婦が3人いるような感覚だ。


 その間に練習をしてもいいのだが、唯は家事を徹底している。ありがたい話ではあるのだが、僕はどうもそれが引っ掛かる。親戚内での話題の中心は常に僕だった。他に話題がないのかと思えるほどで、このことからも、僕以外の人の活躍はあまり振るわないことが窺える。


 璃子、リサ、ルイは少し遠くの席で大輔たちと話している。


 僕はレオやエマと動画の話をしていた。親戚内で特に若いこの2人は、世界的な某動画サイトについて色々と聞いてくる。相変わらず流行には敏感だな。


「ねえねえ、あず君って年収どれくらいなの?」

「手取りだと、1億円くらいかな」

「マジでっ!? やばくない!? あっ、でも社長だからある意味普通かもね」

「社長が全員稼いでるわけじゃねえぞ」

「あたしもそれくらい稼げたら、家とか車とか買っちゃうのにー」

「家と車は金食い虫だ。買わない方がいいぞ」


 収入はほとんどが動画の広告収入であり、役員報酬を遥かに上回る税金を払っていた。


 リスク分散で収益化していたのは正解だった。


 ていうか何でみんなしてそんなに物を買いたがるんだ?


 僕としては全部借り物でもいいくらいだ。金持ちになったら家とか車とかを買うって、正直全く意味が分からないんだが。発想が消費者のままでいる人は、どんなに稼いでも一生貧乏だ。お金なんてただの数字なんだし、必要な時に必要な額だけ調達できればそれでいい。ないと不便だから稼いでるってだけで、それ以上の意味はない。お金のために過労死するとか馬鹿げてる。物欲を満たすために金持ちになりたがる人に限って、金持ちになった時、何がしたいのかを全然言えない。


 生きるための貯金とかあんまり意味ないし、いざとなったら他人に頼ればいい。


「えっ!? あず君手取り1億円なのっ!?」

「一応な」


 僕の話がリサたちがいる席にまで広まった。うちの親戚内での情報伝達スピードは新聞より早いと言われている。リサは随分とハイテンションな様子。親戚内では1番の拝金主義者だ。


「1億円かぁ~。あたし、あず君に嫁いじゃおうかなぁ~」

「何で僕に嫁ぐ話になってんのっ!?」

「だってあず君とだったら、うまくやっていけそうって思ったから」

「いやいや、社会不適合者だし、絶対に苦労するぞ」

「だったら尚更親戚から結婚相手を選んだ方がいいと思うよ」

「僕と結婚したい人なんていないだろうに」

「あず君、自分が超優良物件だって自覚ないでしょ?」

「むしろ超訳あり物件だ」


 ただでさえ学生時代の影響からか、1人でいることが好きだから、自分と本気でつき合いたい人なんていないと思ってたし、僕に言わせりゃ、結婚って言葉自体が死語だ。


 昔は家がなければ生活自体が成り立たたなかった。故に家を維持するための概念として結婚制度が必要だったが、今は家制度もないし、結婚する必要性がない。


 自由恋愛が主流になったんだから、結婚制度なんてとっとと廃止して、パートナーを気軽に複数人作れるようにすればいい。生まれてきた子供は国が面倒を見る。ただでさえ結婚しないと子供が産みにくい国なのに、結婚できるのが1人だけっていうのがおかしい。そりゃみんなが相手を選ぶのに慎重になるわけだ。気づいた時には相手がいないまま、アラサーとかアラフォーとかになって婚期を逃す。


 結婚したい人が多いのに未婚者が多いのは一緒になって生活するまでのハードルが高すぎるからだ。なし婚が流行っているのも、一緒になるためのハードルを少しでも下げるためであり、結婚に必要とされてきた恒例行事を全部省ける。文字通り結婚式も指輪も新婚旅行もなしだ。


 こんな手の込んだ手抜きをするくらいだったら、結婚制度自体をなくしてもいいんじゃないかと思っている。しかもさりげなく男を指して物件とか言っちゃってるし、完全に男をATMとして見ているのが諸バレなんだよなぁ~。リサらしいと言えばらしいのだが。


「でもリサはあず君のことをよく知っているし、家事もこなせるから丁度良いんじゃない?」


 リサたちの母親である京子おばちゃんが突如リサとの結婚を示唆する。何でこの国の女ってやつは、男女平等を求めながら、専業主婦になりたがるんだろうか。


「ちょっと待って!」


 柚子が話の進行を阻止しようと待ったをかける――何やら焦っている様子だ。


「どうしたの?」

「だったら私もあず君の結婚相手に立候補する」

「「「「「ええっ!」」」」」

「……リサ、私はあず君を譲る気はない……親戚から結婚相手を選ぶなら、私にだって権利があるはず」

「……言ってくれるじゃん。あたしだって、あず君を諦める気はないから」


 突如対立するように2人が睨み合った。お互いの目から電撃がバチバチ流れているように見えた。


 女同士の争いって泥沼化しやすいから厄介なんだよなぁ~。ここは早めに争いの芽を摘んでおくか。


「あのさぁ、誰も結婚するなんて――」

「「あず君は黙ってて!」」

「あっ、はい……」

「フランスだったら事実婚ができるし、日本は結婚しないと制度の恩恵を受けられないから、無理にとは言わないけど、一緒になるんだったら、結婚の方がお勧めだよ」

「何でエドガールのおっちゃんまで結婚を勧めてくるんだよ?」

「私もフランスにいた頃はあず君と同じ考えだったけど、家族っていいもんだよ。リサはおっちょこちょいだから、それをカバーしてあげられるパートナーが必要だ」

「カバーだったら璃子で間に合ってる」

「璃子だっていつか相手を見つけたら独立するよ。そんなことを言ってられるのは、あず君がまだ本当の1人ぼっちを知らないからだ」

「――本当の1人ぼっち?」


 何故かエドガールのおっちゃんにまで説教を受けたが、一体何があったんだ?


 エドガールのおっちゃんは何かを思い出したように深刻そうな顔になる。


 まるで倒産を隠していた時のジェフみたいな顔だ。


「あず君には話しておくよ」


 エドガールのおっちゃんはそう言うと、金色(こんじき)の短髪を指でカリカリと掻きながら自らの過去を語り始めた。ドイツ系フランス人でリサたちの父親だが、エドガールのおっちゃんが楠木家の一員となったのには深い訳がある。僕がバリスタを目指す時も、店の存在がバレた時も、ずっと僕の味方で居続けてくれた理由も判明した。不思議に思っていたが、かなり前に話してくれた。


 楠木エドガール、本名、エドガール・カミュはフランス人を片親に持つドイツ生まれである。元々は両親の下でバリスタをしていたが、不況で事業が悪化すると店が倒産し、新天地を求めてフランスへとやってくる。フランス国籍を取得し、コーヒーカクテルを淹れていたこともあり、専門知識を活かしながらバーテンダーとして働き始める。京子おばちゃんと出会ったのもその時だ。


 今度はフランスで不況となり、店の倒産と共に無職になる。彼の両親は失意から病気に罹り、それからすぐにほぼ同時期に亡くなった。彼は全てを失い、自暴自棄になるが、そんな時に手を差し伸べてくれたのが、当時好景気のためにフランスを旅行中だった京子おばちゃんだった。


 エドガールのおっちゃんは京子おばちゃんと結婚し、日本へとやってくる。葉月商店街から少し離れた場所で紅茶専門店を夫婦で営んでいる。リサたちも暇な時は店を手伝っている。奇しくもコーヒー、酒、紅茶という世界三大ドリンクを意図せず習得するに至る。僕も子供の頃、たまにエドガールのおっちゃんの店に赴いていた。葉月家も楠木家も最初こそおじいちゃんを除いてみんな会社勤めだったが、不況によって慣れない個人事業主かバイトになってしまったことで、みんな安定した人生に対する願望が強くなっていった。だがエドガールのおっちゃんは安定した人生など存在しないことを知っていた。


「結構大変だったんだな」

「そうだな。でも今はさ、こうして家族に囲まれて幸せに暮らしてる。どんな時にもめげなかったのは家族がいたからだよ。私は一人っ子で、ずっと他に身内がいない日々を過ごしていたから、家族がどれほど大きい存在であるかが分かるんだ。あず君もいつか分かる時が来るよ」


 僕もそれなりに挫折や逆境を繰り返しているが、エドガールのおっちゃんも大概な気がした。


「エマはお兄ちゃんの争奪戦に参加しないの?」

「あたしはパス。あず君は結婚相手としてよりも、お兄ちゃんに欲しいタイプだから。仕事ができるところとか、いざって時に頼りになるところを考えると、やっぱお兄ちゃん向きだと思う」

「仕事してない時のお兄ちゃんは()()()だけどね」


 ――悪かったな。どうせ僕は手のかかる兄貴だよ。


 璃子とエマは高みの見物をするようだ。結婚などする気はないが、柚子とリサによる玉座なき争いはしばらく続きそうだ。リサはエドガールのおっちゃんに話しかけられ、しばらくは2人同士の会話だ。その隙に僕が逃げるように、部屋から廊下に出て庭を眺めていると、柚子が僕の隣に座ってくる。


「ちょっと見苦しいところを見せちゃったかな」

「ちょっとどころじゃないと思うけど」

「でも私は本気だから。私はあず君が好き。最初はちょっと気になるだけのいとこって思ってた。学生の時に何度か男子に告白されたことがあるんだけど、その度にあず君の顔が浮かんできて、つき合おうとは思えなかったの。どんなに努力をしても、あず君以上に誰かを好きになることがなかったの。親戚に恋愛感情を持つなんて……気持ち悪いよね?」


 柚子はクールビューティーな外見とカリスマ性から周囲の男にモテていたが、柚子に恋人がいたという話は聞いたことがない。でも交際を断り続けていた理由が僕だとは思わなかった。


 ずっとそれで悩んでたのか。そばにいたのに全く気づかなかった。


「別に気持ち悪いとは思わないけど」

「あず君がWBC(ダブリュービーシー)で優勝した時から、あず君への気持ちがより一層強くなっていった。叶わないって分かってるのにっ……でも、リサに取られるのも我慢できない」


 柚子の目からは涙がボロボロとこぼれていた。


 僕の気持ちを知りながら、ずっとそんな風に思っていたことも知らず、ひたすら柚子にコーヒー愛を語っていたのか。今思えばずっとサインを出し続けていた気がする。


 僕と2人きりになると、必ず抱きついてきたこと、一緒にケルンまで行っていた時には遠慮なく一緒に寝ようとしていたこと、常に注意深く僕の言動を観察して僕の嘘を見抜いたこと、柚子が僕が好きでいることを前提とするなら、今までの全ての言動に対して説明がつく。


 今日、柚子はリサの嫁ぎ発言に釣られ、慌てて僕に告白する格好となった。


 柚子らしくもないミスだ。いつもの冷静な柚子であれば、こうはならなかったはず。


「柚子の気持ちは凄く嬉しい。でも僕は――」

「分かってる。あず君はコーヒーが好きだもんね」

「なんか誤解してるみたいだけど、僕にとってコーヒーは恋人という名の趣味だし、恋愛対象はあくまでも女だ。一緒にいて落ち着ける女がタイプかな」

「ふふっ、知ってる。コーヒーを飲んでる時って、凄く落ち着くもんね。つまりあず君は、コーヒーのような女性が好みなんだ」

「――そうかもな」


 親戚たちから勧められ、リサと柚子とデートの約束をすることに。


 デートしたら結婚したくなるはずだよと言われたが、僕としては誰かと一緒になるんだったら事実婚でやっていきたい。みんな僕の結婚観を知っていたが、それでも結婚させたがるのは何故だ?


 僕には分からないことだらけだ。うちの親は相変わらず定期的にお見合い写真を持ってくるし、この年から親に起業させて忙しくなれば、お見合いなんて考えてる場合じゃなくなると思ったけど、この手の仕事には慣れていたのか、すぐに順応すると、お見合いをまた勧めてくる。


 このお見合い攻勢の影響により、去年から学生時代からの知り合いや美羽たちのように起業してから出会った人も含め、10人以上の女と知り合い以上の関係になっていた。


 一時的に仮交際の状態になったりもした。仮交際の期限が過ぎた後も定期的にこの内の誰かとデートしたり、偶然会った時には一緒に歩いたりする時間を繰り返した。誰と仮交際をしていても反対する様子がない辺り、どうやら誰とつき合うかの決定権は僕にあることを世間は認めたようだ。


 1月上旬、実家が無事に改装を終えた。


 12月の内に終えてほしかったが、少し手間取ってしまったらしい。親父から改装が終わったことを伝えてもらい、やっとかと思いながら店の営業を終えた後で実家へと赴いた。


 うちの実家ということは、金華珈琲の真向かいにある。実家は今までとは見違えるビジュアルになっていた。僕の目の前には、木造でできたオシャレな黄土色の外観、外国人が来た時を想定した日本語と英語の両方で書かれている看板がある。内装は少し濃いめの茶色をベースとした木造の家具が置かれ、客席も10席あるため、店内で焙煎したコーヒーを客が注文して飲むことができる。


 基本的には焙煎したコーヒー豆をパック売りすることをメインとし、注文を受けたコーヒーを飲ませるサービスをサブとした。つまりこの店は外国人観光客がうちにやってきた後、葉月商店街に寄ることを勧めるための受け皿として活躍してもらう予定だ。外国人観光客が来てくれれば、普段は殺風景極まりないうちの商店街も、少しはかつての賑わいを取り戻すはずだ。


 表の看板には日本語と英語で『葉月ロースト』と書かれている。


 何を隠そう、これがうちの実家の『店名』である。特に何の捻りもないが、これくらいシンプルなのが望ましい。余計なことはしなくていいのだ。


「ふーん、流石は親父だ。芸が細かいな」

「この焙煎機も最初は使うのが難しかったけど、今はどうにか使いこなせるようになった。これならどうにか店を回せそうだ。お母さんも去年近くの花屋を辞めて、今年からここを手伝ってくれるって決断してくれたんだから感謝しろよ」

「心配すんな。あそこの花屋より高い給料出すから」

「あず君、そういう言い方は良くないよ。あの花屋さん、結構気に入ってたけど、お父さんだけだと心配だから。それにコーヒーの焙煎だったら私もやったことあるし、接客も自信あるから安心して」


 そんなわけで、親父もお袋もうちで働くために去年バイトを辞め、正社員として僕の会社である葉月珈琲で働くことに。親父もお袋も接客業だったこともあり、研修の必要がほとんどなかった。


 長年世話になった金華珈琲とは、意図せず競合することになるかと思いきや、実はそうではない。


 金華珈琲が葉月ローストの取引先である。


「店を開くのはいいけどさ、肝心のコーヒーはどうするんだ?」

「コーヒー豆は親父が仕入れてくれ。仕入れるのはスペシャルティコーヒーのみにして、なるべく希少価値の高い珍しいコーヒーを優先的に仕入れてほしい。必要があればエスプレッソで1杯1000円、ドリップコーヒーで1杯3000円のコーヒーにしてもいいからさ」

「それじゃ近所の人が飲みに来られないんじゃないかな?」

「スペシャルティコーヒーの中でも特に安いコーヒーだったら、エスプレッソ1杯500円くらいで売れるから大丈夫だと思うけど」

「1杯500円でも高い気がするけど」

「あのなー、うちは近所の人に来てもらうためじゃなくて、遠方から来た外国人観光客に売るための店だってことを忘れるなよ」

「もしかしてゲイシャも売るのか?」

「そうだな。うちはゲイシャの豆を仕入れることも多いし、焙煎を親父に任せようと思ってる。そういえば、うちのゲイシャ飲んだことあったっけ?」

「エスプレッソで1杯1000円、ドリップコーヒーで1杯3000円のコーヒーなんて、俺たち庶民からすれば贅沢の極みだ。そんなもん普通飲もうとは思わねえよ」

「じゃあ今度ゲイシャの生豆を送るから飲んでみろよ。一目惚れするから」


 僕とうちの親との間には微妙な温度差があった。


 金銭感覚が明らかに違っていたのだ。親父からすれば、1杯500円でも高く感じるらしい。僕としてはいくら値段がかかろうと、最高品質のものを売りたい。そのためにお金が必要なのであれば、いくらでも払う所存である。僕の金銭感覚がおかしいのではない。日本が貧しくなったのだ。


 物価も賃金も段々と下がり始めていたが、それでも消費が進まないのは国民が全面的に貧しくなったからである。起業した頃にも似たようなことを考えていた気がする。貧困層をターゲットにしてしまうと、どうしても値段を下げる必要が出てきてしまい、儲けが少なくなる上に、格安で大量に売っているスーパーやコンビニと競合することになる。そんなところとまともに競合すればまず勝てない。


 近所の人に来てほしいからといって情に流されてはいけない。


 人には温かく、仕事には冷たく。ビジネスの基本である。


「どうしても値段は下げないつもりか?」

「当たり前だろ。以前の暮らしには戻りたくない。貧困者につき合ってたらまた貧困になっちまうぞ」

「……お前なんか冷たくなったな」

「僕が冷たくなったんじゃない。親父がぬるくなったんだよ。生き残るためには、冷徹な判断が必要な時もある。親父のいた会社が潰れたのは、不況になった後も一切のリストラをしなかったために、全員共倒れになったからって聞いてるけど」

「あいつ……あれほど黙っとけって言ったのに」


 唐突な指摘に親父が嘆いた。以前、お袋から聞いた裏話だ。


 親父はバブル崩壊の頃、危機意識から当時の社長にリストラを進言するも、部下を見捨てられないと却下され、人件費の削減ができずに倒産してしまったのだ。温情でビジネスをしたら痛い目を見ることは親父が1番よく知っているだろうに。


 リストラを進言した親父自身が倒産と共に退職する破目になったことで、リストラされる人の痛みを知ったのだろうか。昔の親父はビジネスを知っていた。だが味方が無能だった。


 親父は降参したかのように、これ以上は何も言わなかった。


 1月中旬、晴れて葉月ローストがオープンする。


 うちの法人チャンネルで宣伝していたこともあり、葉月ローストはオープン初日から大盛況だ。僕は営業終了後、サングラスをかけてばれないようにしながら様子を見に行く。


 親父もお袋も今までのことを忘れるくらい忙しそうだ。これならどうにかやっていけそうだ。小夜子たち4人組もいる。そういやクリスマスの時に、葉月ローストのことを伝えておいたんだった。


 だが今会おうものなら、確実に他のファンたちに囲まれることは間違いない。


「今日はあず君いないんですか?」

「この人混みの中に、あいつがわざわざ入りたがると思うか?」

「あっ……確かにそうですね」

「あず君だったら青褪めた顔になって、空気と一体化してそうだよね」

「だよねー。あそこにいるサングラスをかけた人みたいに……ん?」

「あっ、あず君だ」


 ――やべっ! 早く逃げないと!


 みんなが一斉に僕の方向を見ると、さっさと駆け足で逃げた。店が繁盛していることが分かっただけでも収穫だ。何度か通行人から声をかけられた。外に出る度に男女問わず声をかけられることが多い。


 僕のモチベーションを下げているとも知らずに。

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