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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第二部 VS魔法少女
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6-2.


 ここ数か月で千春は、魔法少女の力によって身を滅ぼした者を何人も見てきた。

 魔法少女と言う異常の力を手に入れたことで、人の輪から外れてしまった可哀そうな少女たち。

 そして千春は他の事に目もくれずNIOHチャンネルへ熱中している天羽から、彼女たちと近い物を見た。

 魔法少女のそれとは少し毛色が違うが、マジマジと言う独特の世界にどっぷりと嵌まり込んでいる天羽の日常が心配になったのだ。

 しかしそもそも千春は天羽の一面しか知らず、もしかしたらプライベートでは普通に過ごしているかもしれない。

 年頃の少女が年上の異性に心を開かないのはある意味で当然なので、千春は天羽の本音を聞いていそうな者から話を聞くことにする。


「天羽さんのプライベートですか? どうしたんですか、藪から棒に…」

「いや、凄い今更なんだけど、あいつがNIOHチャンネルにのめり込み過ぎている気がしてな…。 そのせいで学校で孤立とかしていないか、心配で…」

「うーん、正直私も天羽さんのことは良く知らないんですよね。 学校も違いますし…」


 何時も通り喫茶店メモリーの休憩室でペンタブを触っていた彩雲に、千春は天羽のことを尋ねる。

 同年代ということもあり彩雲と天羽は、喫茶店メモリーで顔を合わせた時などに良く話をしていた。

 彩雲ならば千春の知らない天羽の姿を知っているのではと考えたのだが、帰ってきたのは予想外の答えだった。


「あれ、天羽と結構仲良さげだったじゃ無いか? よく話していたし…」

「天羽さんとは此処くらいでしか話ませんよ。 話の内容も大体は兄さんの事や、私のイラストのことですし…。

 言われてみれば、天羽さんのプライベートって謎ですよね…」

「お前もそうなのか…。 そうだよな、結局俺たちと天羽は動画仲間でしか無いんだよな…」


 彩雲と天羽は同年代ではあるが通っている学校も違い、二人の接点と言えばマスクドナイトNIOHこと千春になってしまう。

 自然と顔を合わせた時に交わされる会話は、千春やNIOHチャンネルの話題になってしまうのは当然である。

 この様子だと彩雲も天羽については、千春と同程度の情報しか把握していないようだ。

 千春は今更ながら天羽とのつながりは、NIOHチャンネルを通した物しか無い事を自覚させられる。






 天羽 香と言う名の中学生と組んで、千春がマジマジで活動を始めたのは今から半年ほど前の頃だ。

 最近は魔法少女の相手に忙しかくて動画作りを疎かになっていたが、それまでは天羽と二人三脚で活動していた。

 千春は天羽のことを仲間であると思っていたのだが、予想以上に自分は仲間の事を理解していなかったらしい。


「はぁ…、今更気付いたの? あの子は社会人で言うなら、仕事と私生活をきっちり分けるタイプよ。

 あんたや私は彼女に取っては仕事仲間だけど、プライベートを話せる友達でも何でもないわ」

「そういう物なのかな…」


 恐らくのその手の機微に詳しい朱美にも相談してみたのだが、彼女はそんな物であると千春の懸念をばっさりと切り捨ててしまう。

 千春が今更ながら気付いた天羽のスタンスは、朱美に取っては先刻承知の物だったらしい。

 天羽自身もそのスタンスを特には隠しておらず、今更ながら認識のずれに気付いた千春が阿呆なだけなのだ。


「別にいいでしょう、それで…。 あんたが自分で言ってた通り、香ちゃんとあんたは単なる動画作りのパートナーでしか無いのよ。

 それなのに仕事仲間がプライベートに首を突っ込んできて、香ちゃんの方が迷惑しているんじゃ無い? ぶっちゃキモイわよ、バカ春」

「うぅ、それは…」


 NIOHチャンネルを通した繋がりだけとは言え、それで天羽と千春の関係は上手く行っていた。

 それを要らぬお節介を焼こうとして、天羽のプライベートに足を踏み入れようとしたのは千春の方である。

 朱美に痛い所を突かれた千春は、何も反論できずに言葉に詰まってしまう。


「本人も言っていたと思うけど、あの子は要領のいい子よ。 あんたが考えているような状況には絶対ならないから、もう放っておきなさい」

「でもこのままで本当に大丈夫なのか? あんまりやり過ぎるようなら、少し注意した方が…」

「若いんだから、そんな時期もあるわ。 私も学生時代、寝食を削って事件を追った物よ。 懐かしいわね…」


 天羽のプライベートが見えなくても、今の彼女がNIOHチャンネルの運営に全力投球をしている事は察せられる。

 恐らく自身が持てる全ての時間をこれに費やしており、それ以外は全ては疎かになっている事だろう。

 千春は今更ながら天羽の現状について心配になり、NIOHチャンネルの活動を抑えるように言うべきか悩んでいるようだ。

 しかし朱美の方は過去の実体験もあって、それ程天羽のことを心配していないらしい。


「ああ、そういえばお前もあんな感じだったよな…。 そうか、それなら大丈夫かな」

「…何かむかつく反応ね、それ」


 若者が部活や趣味などに全力投球するのは、良くある話と言える。

 千春が当時同級生だった朱美が、異様な熱意で学内の色恋沙汰や不祥事を追っかけ回していた姿を思い出していた。

 NIOHチャンネルに熱中している今の天羽の姿は、方向性は違えどもかつての朱美に近い物がある。

 もしかしたら朱美は天羽と同類の気配を感じており、それもあって問題無いと断言できるのかもしれない。

 千春の方も過去の朱美と重ねた事で妙な納得感を覚えたらしく、とりあえず天羽に対してすぐに動く気は無くなったようだ。











 通販事業の宣伝の件もあるので、どちらにしろ千春は天羽と共に動画作りに勤しむことになる。

 それならば下手に波風を立てずに、今まで通りビジネスパートナーとして付き合った方が無難であろう。

 動画関係で定期的に顔を合わせることになるので、そこで天羽に何らかの異常が見えたらその時に対処すればいい。

 これまで通りの関係に戻った二人は、順調にNIOHチャンネルでの活動を行っていた。


「…魔法学部からの協力依頼? 確かそれって魔法少女の研究をしている、日本で唯一の大学だよな?」

「マスクドナイトNIOHさんに是非、私たちの実験に協力して欲しいんだって。 協力してくれれば実験風景は、動画に使ってもいいって書いてあるわよ」


 そして千春が動画活動を再開してすぐに、その協力依頼がNIOHチャンネルの元に届けられた。

 何時かの警察関係者からのメールを思い出させるそれは、魔法少女の研究をしている酔狂な大学から届けられた物であった。

 例の魔法少女研究会のように、魔法少女という不可思議な存在やその能力を研究しようとしている者たちは多い。

 偉い物理学者が魔法少女の能力を分析して、物理法則を完全に無視した結果に発狂したと言う話もある位だ。

 その存在は否応なし世間で認知されており、あろうことか魔法少女を専門に学ぶ学部を設立した大学まで出来ていた。


「実験って何をやるんだよ? 解剖されるとかだったら、絶対お断りだぞ」

「そんな訳無いでしょう。 でも面白そうよ、お兄さんが前に戦った渡りのモルドンに関する実験だって…」

「…渡りのモルドン? おいおい、一体何の実験をする気なんだよ」


 大学の実験とやらに余り興味を持てなかった千春は、この協力依頼には余り乗り気では無さそうだった。

 しかし天羽から教えられた実験のテーマを聞いた瞬間に、千春の表情は一変してしまう。

 渡りのモルドン、それは千春に取っては忘れたくても忘れられない存在である。

 千春とシロとリューと現地魔法少女と言う多数の戦力を前に、渡りのモルドンはそれを一蹴をして見せた。

 リューの捨て身の策と渡りのモルドンの食い意地の悪さが無ければ、下手をすれば千春はあの戦いで殺されていたかもしれない。


「どうするの、お兄さん? 私は別にどっちでもいいけど…」

「…とりあえず、もう少し内容を見てから考える。 俺の携帯にも情報を回してくれ」

「オッケー」


 渡りのモルドンの名前を出されては切って捨てる訳にもいかず、千春は天羽から魔法大学から届いたメールを転送して貰う。

 天羽の方はこの協力依頼その物には興味が無いようなので、千春の判断で実験の参加・不参加が決まりそうだ。

 千春は自分の携帯でメールの全文を読んで、渡りのモルドンに関わるらしい事件の内容を詳しく確認するのだった。



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