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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第一部 魔法少女専門動画サイト"マジマジ"
24/384

7-2.



 マスクドナイトNIOHチャンネルの事実上の活動拠点となっている、寺下が経営する喫茶店メモリー。

 普段は常連客を相手に細々と商売をしている店であるが、臨時休業の札が欠けられた店内に客の姿は無い。

 周囲の目を排除した貸し切りの喫茶店、そのテーブル席にある少女の姿があった。

 少女は朱美の隣に座っており、対面の席には千春と天羽が陣取っていた。

 テーブル席から少し離れたカウンター付近の調理スペースでは、寺下が興味深そうに少女たちの様子を見ている。


「…は、はじめまして、あなたがマスクドナイトNIOHさんですね? 私は早坂(はやさか) 友香(ゆか)って言います。

 何時も動画を見ています! 私、NIOHさんに会えるのが凄く楽しみで…」

「…お、落ち着いて下さい。 と、とりあえずもこちらこそ、はじめまして。 先輩って、呼べばいいのかな? "ウィッチ"さん」

「そんな、私が先輩なんて…」


 少女は見るからに大人しそうな地味な雰囲気であり、図書館あたりが似合いの一昔前の文学少女のように見えた。

 年は天羽より少し上の高校生くらいだろうが、動画配信者として活動を始めた目立ちたがりとは対極に位置するような少女である。

 見た目からは全く想像がつかない、彼女が千春たちの街を守っていたあの魔法少女と言うのか。

 この日朱美に呼び出されて集まった千春たちは、唐突に彼らの先輩と言える歴戦の魔法少女"ウィッチ"を紹介されていた。






 以前にも触れたとおり朱美と言う名の女性は、報道関係の仕事に対して非常に興味を持っていた。

 そんな彼女が魔法少女関連と言う摩訶不思議な現象に関心を持たない筈は無く、朱美に密かに魔法少女関係の情報を集めるという趣味に勤しんでいたらしい。

 この趣味の一環として朱美は千春の知らない所で、密かにこの少女と接触を果たしていたのだ。

 我が町を守る偉大な魔法少女、ウィッチこと早坂 友香と…。


「…お前、よくこの子を見つけられたな。 君は俺たちと違って、動画配信やSNSをやっている訳でもないんだろう?」

「勿論、そんなことはしてません。 私も最初は驚いたんです、ずっと隠れて魔法少女をやってきたのにいきなり声を掛けれれて…」

「自分から目立とうとしなくても、魔法少女の姿は嫌でも人目に付く。 この町周辺で見つけた魔法少女やモルドンの目撃情報を分析したら、友香ちゃんにたどり着くのはそこまで難しいことでは無いわ」

「怖い怖い、情報社会の負の面ってやつか…。 あんたもこんな聞屋に目を付けられて災難だなー」


 全ての魔法少女たちが動画配信などの活動を行っている訳ではなく、中には己の正体を隠して活動している者も居る。

 この早坂という魔法少女も自信が人目に付くことを嫌い、周囲に正体を隠しながら魔法少女をしていた。

 しかしジャーナリスト志望の嗅覚と言う奴か、朱美は僅かな情報から我が町の魔法少女まで辿り着いていたらしい。


「まあ、全く無名って訳では無いしな…。 マジマジにも動画が上がっているくらいだし…」

「フードの下の素顔を見るのは初めてですけど、ウィッチってこんな人だったんですね…」

「あ、あれを見たんですか!? 恥ずかしいです。 私の動画なんか、NIOHさんの動画と比べたら月とスッポンみたいなもので…」


 朱美ほど気合を入れていないが、千春や天羽も地元の魔法少女ウィッチについてネットで調べた事がある。

 千春などはマジマジに唯一上げられているウィッチの動画を見たこともあり、その少女が目の前に居ることに不思議な感覚を覚えた。

 芸能人でも見るかのようにこちらを観察する千春と天羽に対して、その視線に耐えられない早坂は見るからに焦り始める。

 その様子を見た千春は仕切りなおすように咳払いをしながら、改めて先輩魔法少女に対して話しかけた。


「悪い、少し不躾だったな…。 改めて初めまして、俺たちはマスクドナイトNIOH…。 矢城 千春って名前だ」

「私はチャンネル主の天羽 香です、よろしくお願いします」

「まあ知っているとは思うけど、俺たちはこの街で魔法少女の配信を行っている。 縄張りの話もあるし、本当ならもう少し早くに挨拶するべきだったよな…」

「いえ、私はそういうことは全然気にしませんから…。 私の代わりに戦って貰えて…」

「? 代わりにって…、もしかして君は…」


 マジマジなどで活動していないウィッチが、縄張り争いに興味を持たない事は半ば予想していた。

 しかしウィッチこと早坂の予想以上に弱気な口ぶりに、千春は違和感を覚える。

 そもそもこの数年間、街に現れたモルドンを倒してきたウィッチが最近になって全く姿を見せなくなった。

 これまで朱美からもたらされたモルドンの出現情報は、目の前に居る少女から流された物であったことは明白だろう。

 今まで自らの手で守ってきた街の平和を、海とも山とも知れない新参者の千春に託すような真似をしたのか。

 そんな千春の疑問に応えるように、早坂は足元に置いた鞄からある物を取り出して見せる。


「っ!?」

「クリスタルが…」

「NIOHさんの想像の通りです。 ウィッチは敗北したんです、モルドンに…」


 テーブルに置かれたのは、亀裂が見える灰色のクリスタルが嵌められた杖だ。

 魔法少女との力の源であるクリスタルの破壊、それは早坂がウィッチと言う名の魔法少女の力を失っていることを意味していた。

 千春が想像した通り、戦う力を失ったウィッチは千春にモルドンの対処を任すしか選択肢が無かったのである。

 これまで街の平和を守ってきたウィッチの敗北を知った千春たちは、その衝撃を前に言葉を失ってしまう。











 千春たちに壊れたクリスタルを見せた早坂は、淡々とした口調であの蜥蜴型モルドンとの経緯を語った。

 二つのクリスタルを持つモルドン、ウィッチの敗北とクリスタル破壊によるノックアウト。

 どれを取っても衝撃的な話であり、千春と天羽は暫く二の句が継げぬに言葉を失っていた。


「…二つのクリスタルを持つモルドン。 クリスタルが二倍だから実力も二倍か、そんなの有りかよ…」

「ウィッチがノックアウトされるなんて…、ノックアウトってやっぱり痛かったんですか?」

「…その前にダメージを受けて全身が痛かったから、余り痛みのことは覚えていませんね。

 ただ聞いていた通り、意識がぷっつりと断線する感じでした」

「うわっ、怖い…。 お兄さん、本当に気を付けて下さいよ…」

「ぶっちゃけ相手次第だぞ。 俺もクリスタル二倍のモルドンが相手だったら、同じような結果になるかもしれないし…」


 前線担当の千春はとんでもない実力のモルドンに興味を持ち、後方担当の天羽はノックアウトの体験談に興味を持ったようだ。

 試しに千春がかつて戦ってきたモルドンのクリスタルが倍になった時に、それらのモルドンに勝てる自信は全くない。

 マスクドナイトNIOHを初めてまだ1年も経っていない千春なら兎も角、3年もの間戦ってきたベテランのウィッチが敗れたのである。

 話に聞く蜥蜴型モルドンがどれだけの化け物なのかは、考えたくも無いのが千春の本音であった。


「で、でも…、ウィッチさんが負けったて訳じゃ無いんですよね? 話によるとウィッチさんが生きていて、モルドンの姿は消えていた…。

 だったら、ウィッチさんの最後の一撃が止めになったという事も…」

「そうだといいんですけどね…」


 ノックアウトされた早坂が生存していた事実から、天羽はあのモルドンが倒されたのでは無いかと希望的観測を行う。

 しかし天羽の言葉に対するウィッチの表情から見て、それは甘い推測であることは容易に察せられた。

 モルドンを撃破する条件はクリスタルの破壊、例え最後の攻防で口内のクリスタルを破壊出来たとしても相手にはもう一方のクリスタルがあるのだ。

 意識を失って無防備になっていたウィッチが生かされた理由は分からないが、蜥蜴型モルドンはほぼ間違いなく生きている。


「おい、朱美。 どうせこのモルドンのことを調べたんだろう? 何か新しい情報はあったのかよ?」

「…いいでしょう。 朱美さんがとある情報筋から得た新情報を披露してあげるわ」


 蜥蜴型モルドンの正体は何か、その事実を確実に追っているジャーナリスト志望の女性に対して千春は問いかけた。

 そもそも今日の集まりは朱美が主催者であり、わざわざ魔法少女関係の面々を集めたということは相応の話があるに違いないのだ。

 そして千春の予想通り、自信満々な様子の朱美は新情報とやらについて話始めた。


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