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俺はマスクドナイト  作者: yamaki
第一部 魔法少女専門動画サイト"マジマジ"
17/384

5-3.


 マスクドナイトNIOH、マスクドシリーズの一つであるマスクドナイトを元ネタとした魔法少女の力の形。

 これを主役に置いたチャンネルにおいて、必然的にマスクドシリーズの話題が出てくることは避けられない。

 しかし残念ながらチャンネル主の今時の女子中学生である天羽は、基本的に男子向けの作品であるマスクドシリーズに縁のない生活をしていた。

 かろうじてマスクドナイトの存在を知っているくらいで、マスクドシリーズの知識はほぼ皆無と言っていい。


「これまでのチャンネルの動画は全て拝見しましたが…、天羽さんの無知っぷりには呆れかえりました。

 マスクドへの愛が滲み出るばかりの、マスクドナイトNIOH様とは大違いです」

「あの…、それは…」

「そんなんだから私たちマスクドファンたちの間で、天羽さんがニワカだって馬鹿にされているんです!

 天羽さんはもっと、マスクドシリーズの勉強をした方がいいですよ!!」


 魔法少女専門の動画投稿サイトということもあり、サイトの閲覧者は基本的には魔法少女好きであってマスクドシリーズのファンでは無い。

 そのためマスクドナイトNIOHチャンネルの立ち上げ当初は、天羽のマスクドへの無知はそこまで問題にならなかった。

 しかしマジマジの住人の中にはマスクドシリーズにも詳しい人間も混ざっており、リアルにマスクドナイトへ変身する千春の噂がマスクドファンの世界にも徐々に広まっていったのだ。

 そして彼らはこう思った、このチャンネルの主はニワカ過ぎだろうと…。


「いや、そこまで言う事は無いんじゃ…」

「有るんです! 仮にもマスクドシリーズを題材にしたチャンネルならば、クラッカー様をお菓子と勘違いするんじゃ有りません!!」

「…仕方ないじゃない、そっちの方は知らなかったんだから!?」


 マスクドナイトNIOHチャンネルに上がっている動画は、その全てが千春とモルドンの戦いの記録という訳ではない。

 以前に投稿した"変身してみた"の動画のように、変身後の千春の能力を活かしたちょっとした小ネタとフリートークを混ぜた形の動画も投稿されていた。

 例えば甲斐が憤りを示しているのが動画内で、以下のようなやり取りがあった。

 千春が何気なく口にしたマスクドファンなら絶対に知っている"マスクドクラッカー"の略称を、天羽はあろうことか同じ響きのお菓子として捉えたのだ。

 チャンネルに上がっている動画での天羽は一事が万事この調子なため、甲斐のような生粋のマスクドファンには彼女の無知さが許せないのだろう。


「…そうだな、俺も天羽はもう少しマスクドシリーズの勉強をした方がいいと思ってたんだ。

 丁度いいから妹と一緒に、マスクドファングをマラソン視聴して見るか」

「いや、此処は古き名作、マスクドウインドを見せるべきだよ、千春君」

「それならどっちも見ればいいんです!! 今からみんなで、マスクドシリーズの合宿をしましょう!!」

「…え!?」


 そして此処にマスクドシリーズガチ勢と思わしき甲斐が現れたことで、その同類である千春と寺下が彼女に共鳴してしまう。

 展開に着いていけない天羽と彩雲を尻目に、マスクドファンたちの中で勝手に話が進んでいく。

 未だに状況が呑み込めない天羽と、先の展開が読めて諦めの境地に至った彩雲は支え合うかのように自然と手を結ぶのだった。











 マスクドシリーズは基本的に一話三〇分枠の番組で、一年の期間で一シリーズ五十話前後を放映する。

 コマーシャルやOP・EDをカットして本編だけ見ても一話でニ十分程度、これを全話見ようと思ったら単純計算で十六時間以上。

 つまりぶっ通しで見る前提ならば、丸二日あれば二作品をフルに見ることが可能なのだ


「お願い、もう寝かせて…」

「ほら、見てください! 此処のファングの変身シーンは、ファンの間で語り草の名シーンなんですよ!!」


 喫茶店メモリー奥の休憩室は今、臨時のマスクドシリーズ放映会場となっていた。

 寺下の私物であるプレイヤーを使って、天羽のマスクドシリーズ徹夜マラソンは二日目に突入している状況だ。

 マスクドウインドを完走した天羽たちは、そのまま二作目のマスクドファングの視聴に移行している。

 今にも眠りの世界に落ちそうな天羽であるが、その隣で目を輝かせながら解説してくれる甲斐がそれを許さない。

 ちなみに当初巻き込まれた彩雲は、塾と言う用事があったので一日目の途中で既に離脱している。

 寺下と千春は一日目の閉店時間から二日目の開店時間までは付き合ってくれており、現在は目の下に隈を作りながら店番中だ。


「ほらほら、これがウインドをオマージュしたセットなんですよ! どうです、凄いでしょう!!」

「えぇ、確かに昨日見たやつと同じ感じだけど…」


 昨日散々話題に上がったメモリーの店内で再現したと言うセットも、所詮は背景なので横で説明されなければ見逃してしまいそうな存在感しか無かった。

 確かに言われてみればその通りなのだが、これを初見で気付くのは余程のファンでも無ければ無理だろう。

 何処の世界でも極まったオタクは居るものであり、天羽は今更ながら安易にマスクドナイトを推したチャンネルを作るのではないと後悔していた。


「…天羽さん、本当にあなたがマスクドナイトNIOH様を生み出したんですか?

 私は魔法少女のことは良く分かりませんが、此処までマスクドシリーズに興味を持っていない人があそこまで完成度の高い代物を作り出せるのでしょうか?」

「うっ…」


 暇なのか自ら志願してマスクドシリーズ全話完走に付き合った甲斐は、天羽のマスクドシリーズへの興味の薄さに違和感を覚えたらしい。

 彩雲が魔法少女であることを隠すため、あのマスクドナイトNIOHは天羽が魔法少女の力によって生み出したこととしている。

 しかし前に触れたが魔法少女の力は、その当人が真に望んだ物でなければ形にならないのだ。

 マスクドシリーズのコアなファンから見ても、マスクドナイトNIOHの出来栄えは非常に良い。

 そんな代物をこの天羽が生み出せたとは思えず、甲斐は天羽とマスクドナイトNIOHの関係を疑問視していた。


「ほ、ほら…、あれのデザイン担当は別にいるから。 泉美ちゃんも聞いたんでしょう、あれは彩雲ちゃんが考えたデザインだって。

 正直言って私はマスクドシリーズのことは知らないけど…、あのスケッチに感銘を受けてマスクドナイトNIOHを作り出したのよ」

「へー、矢城さんのスケッチが全ての始まり何ですか。 凄く絵が上手ですよね、矢城さんは…。

 確かにマスクドシリーズの事を知らなくても、あれを参考にすれば出来るのかも…」


 結果だけ見れば彩雲の成果を奪った形になる天羽であるが、流石に全てを独り占めするのは良心が咎めたようだ。

 自身に絵心が無いので後で絶対にボロが出ると分かっていたこともあり、天羽はマスクドナイトNIOHのデザイン担当は別に居ることを明言している。

 チャンネルでは顔出しNGのデザイン担当者として紹介しており、そこで彩雲の描いたマスクドナイトNIOHのスケッチなどを公開していた。

 謎のデザイン担当者の存在を知っていたからこそ、甲斐はあの落書きを見てそれが彩雲であると直感したのだろう。

 甲斐の方も彩雲のスケッチには関心していたため、どうにか天羽の説明に納得してくれたようだ。


「…私のことはともかく、泉美ちゃんはどうしてそんなにマスクドシリーズに詳しいの?」

「父がマスクドシリーズのファンなんですよ。 家にマスクドシリーズの全作品のDVDもあって、幼い頃から父と一緒にマスクドシリーズばかり見てました。

 そんな風に育ってしまったから、学校では話が合う友人はいませんでしたけどね…」


 実は今回の全話完走のために準備した映像は、全て甲斐が自宅に戻って取ってきた私物であった。

 甲斐は父親の英才教育によって千春や寺下に負けない、立派なマスクドマニアとなったらしい。

 しかしその教育の弊害として、彼女は学校で孤立する運命をなってしまったようだ。

 彩雲や甲斐と同年代の女子で、男子向けのマスクドシリーズのことが分かる者など滅多に居ないだろう。

 そこで男子と仲良くしようと言う訳にもいかず、結果的に甲斐は学校で感情を表に出さない孤高の人になっていた。


「…ほら、続きを見よう! 次はどんな話なの?」

「はい! 次はファングのライバルと言える…」


 今回の全話完走マラソンにおいて、甲斐は異様なテンションで天羽と共に過ごしていた。

 それは単に大好きなマスクド作品を見れているからだけでは無く、同世代の女子と一緒にマスクド作品を見ていることに興奮していたのだろう。

 そのことを察した天羽は笑顔でマスクドファングの視聴の再開を促し、甲斐もまた笑顔でそれに応じるのだった。











 全話完走マラソン二日目の昼頃、飲み物と軽食を持って千春が休憩室へと訪れる。

 そこには机に突っ伏して今にも死にそうな天羽と、疲れが見える物の未だに瞳を輝かせる甲斐の姿があった。

 当然二人の視線の先には絶賛再生中のマスクドファングがあり、冷静に見れば少々異様な光景と言えなくもない。


「おう、やってるな。 ほら、飯だぞ。 …大丈夫か、本当?」

「いえ、まだ天羽さんは余裕があります! 何しろ、後で動画のネタにするためか、ちょくちょく今の様子を自撮りしてたくらいですよ!!」

「こ、この位はいいじゃない…。 此処まで辛い思いしているんだから、ネタにしても罰は…」


 流石は一端の動画投稿者と言うべきか、天羽はこの苦行も後で動画のネタとして使うつもりらしい。

 そこまで頭が回っているならば、甲斐の言う通り天羽はまだまだ余裕があるのだろう。

 とりあえず持ってきた差し入れを置いた千春は、そのまま空いていた椅子に腰を掛ける。


「ははは、まあ一応ウインドの方は完走したことだし、此処で切り上げて少し休んでおけよ。 今夜一仕事入ったようだから、後は宿題ってことにしとこうぜ」

「一仕事って…、お兄さん?」

「ああ、朱美から連絡があったぞ。 今夜、モルドンとの一仕事が待っているぞ」

「うわっ、普通に嬉しい…。 それじゃあ、ちょっと休むわ…」

「モルドン!? やった、マスクドナイトNIOH様に会える!!」


 またしても朱美からモルドンの出現情報が舞い込んできたらしく、必然的に今夜は動画撮影の仕事になるだろう。

 流石に徹夜明けの状態だと色々と危険なので、今から夜まで休んでおけと忠告も兼ねて此処に来たらしい。

 これ幸いと天羽は再び机の上に突っ伏して、そのまま睡魔に飲まれようとする。

 リアルでマスクドナイトNIOHの活躍が見れる事に喜ぶ甲斐も、此処で全話完走マラソンを中断することに異は無いようだ。


「あれ、お兄さん? 仕事は…」

「店長の許可を取って、俺も時間まで休憩だ。 流石に徹夜明けで、重労働はキツイからな…。 後の仕事は呼びつけた朱美に任せたよ」

「絶対怒ってますよ、朱美さん…」


 天羽たちと同じく徹夜明けの千春もまた、モルドンとの戦いに備えて休憩室で休みを取るようだ。

 モルドン出現の連絡を入れた朱美をそのまま呼び出し、午後からの仕事を押し付けていた。

 千春は天羽の非難の視線を避けるように、そのまま椅子の上で瞳を閉じるのだった。

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