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100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます  作者: あまうい白一
第三章

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5話

「お久しぶりです、我が師」

 

 喫茶スペースに現れたルネットは、まずそう言って俺に声を掛けて来た。


 そして、人狼種特有の狼耳と狼の尻尾を揺らして、俺の横まで歩いてくる。


「久しぶりだな、ルネット。元気だったか?」

 

 俺も椅子から立ち上がり、そう挨拶すると、ルネットはわずかに垂れた狼の耳を動かしながら、真面目な顔で頷いた。


「至極、元気です。特に今この時が、これまでで一番元気になっています」


 大きい声ではないが、ハキハキとした冷静な声で言ってくる。

 顔も真面目なままだ。

 

 ただし、ルネットの尻尾はブンブンと振り回されている。

 

 ……人狼種特有の感情が、尻尾で出る奴だな、これは。

 

 彼女は、昔から、感情を表情に出さない代わりに尻尾で出すことが多い。

 その辺りは変わっていないようだ。

 

 ともあれ、この姿を見る限り、確かに元気そうではあるようだ。

 そんな彼女に対し、フィーラが近くまで寄って微笑みかける。

 

「ルネットちゃん、相変わらずカッチリしてるのね」

「む、フィーラ。貴女も変わらず、我が師の前だとゆるゆるだな。劇団の主をしていたころは、私くらいにしっかりしていたのに」

「あはは、立場を手放したからね。それは変わるわよ。そもそも、マスターがいるといないとじゃ違うけどね!」


 フィーラとルネットは、そんな感じで軽くしゃべり合っている。どうやら、戦争後から今の今まで、結構な付き合いがあったようだ。

 

 弟子同士の仲が深いのは良い事だ、と眺めていると、


「そうだ。どうして貴女は我が師とこの街にいるのだ? 羨ましい」


 ルネットは真面目な表情のままフィーラにそう問いかけた。


「ルネットちゃんは、相変わらず後半に本音が漏れるわねー。まあ、色々とあってね。先生と、そちらのリンネちゃんと旅をしているのよ。……って、そうそう。リンネちゃんのこと、紹介しなきゃね! こっちにおいで、リンネちゃん」

「あ、は、はい」


 フィーラに手招きされて呼ばれたリンネは、そのままルネットの前に立つ。


「リンネとは……まさか、我が師の手紙の返却を務めていた、あのリンネか?」

「は、はい。お返事書きを務めていたリンネ・ルートスタントです」

「そうそう。私も、交易都市で初めて会ったの! とってもいい子で、良い妹弟子なのよ!」

「あ、ありがとうございます、フィーラさん」

「ふむ……ということは、私にとっても良い妹でしということだな。であれば、よろしく頼む、リンネ。私のことはルネットでも、ルネット姉とでも、何とでも読んでいいからな」

「は、はい、よろしくです、ルネットさん」

「うむ!」


 フィーラの怒涛の後押しもあったが、ルネットはどうやらリンネを気に入ったようだ。

 

 ……フィーラとルネットは、性格的な所はともかく、勢い的には似ている部分が多いからな。

 

 その辺り、リンネも上手く付き合っていけるだろう、と思いつつ。

 弟子同士の挨拶も終わったところで、俺はルネットに改めて声を掛ける。


「ルネット。この手紙を君に届けに来たんだ」


 手紙を差し出しながら言った瞬間。

 

 ――ビシッ

 

 そんな音がなるかのような勢いでルネットはすぐにこちらを向いた。


「頂きます、我が師」

 

 そして手紙を受け取るなり、即座に読み始めた。

 こちらの行動に対する動作がとても素早い。

 

 昔以上にメリハリがついた動きになったなあ、と思っている間に、

 

「拝見、終わりました」


 と、ルネットが手紙をたたんで、こちらを見た。

 

「交易都市にこんな事態が発生しているとは。報告のためにわざわざお越し下しまして、ありがとうございます、我が師よ」

「いやいや、元々こっちに来るついでだったし、問題ないよ。さっきもフィーラがチョコッといったと思うが、世界を回る旅をしているもんでな」

「フィーラとリンネはそれに付いていると。羨ましいことです。ええ、本気で。――メリッサ、市長の任期はどれくらいだろうか」


 ルネットの問いに、メリッサは笑顔をもって応対する。


「まだ数年残ってますので。今は、付いて行くのは止めて下さいね」

「うむ……。抜け道は探すが、とりあえず、了解した」


 メリッサの釘さしに、ルネットも抵抗せずに頷いた。 

 このやり取りだけでも、秘書とも大分良い付き合いをしているようだ。

 それもまた弟子の成長を見れているようで、素晴らしいことだ。

 そう思いながら、俺はふと気になったことを尋ねる。


「しかしルネット。よくメリッサさんが伝える前に来れたな」

 

 俺たちがここに来たことをどうやって知ったのだろうか。

 そう思っての問いに、ルネットは天井を指さしながら、

 

「ここの屋上で会議をしていた時に、この街と街道を繋ぐ門を通過する馬車に、乗っていたのが、見えていましたので。……ずっと深呼吸をして心を落ち着けるのに時間をつかってしまい、ここに来るのが遅れてしまいましたが

 

 そんなことを言ってきた。

 いくつかツッコミどころというか、気になる所がある台詞だなあ、と思っていると、

 

「え……と……? 屋上で会議をしてるんですか? というか……ここから門まで、結構な距離がありますよ……?」


 まず、リンネがそんな驚きの声を上げた。


 ここまで歩いてきたから分かるが、確かにかなりの距離があった。

 それこそ何の道具も使わずに、人ひとりを視認するのは至難の業だ。

 だが、ルネットはそれが出来るのだ。


「流石は《弓術狙撃手》。相変わらず凄い目の良さだな」


 昔から優れていた部分であるが、今もその力は現役らしい。 

 だから笑みと共に感想を伝えると、ルネットはぶるりと身と尻尾を震わせた。


「久方ぶりに、その言葉を聞けて嬉しいです。ですが、私の目は、我が師譲りものですので。師に比べたらまだまだかと。精進して励みます」


 真面目な顔だが、やはり尻尾はぶんぶん振っている。

 喜んでいるようだ。

 とはいえ、表情は冷静を保っているわけだし、そちらに合わせた方が、ルネットもやりやすいだろうと思って、笑みと共に頷いていると、


「市長。もしかして、会議の途中でいきなり休憩を申し出た切っ掛けは、アイゼン様たちが来たからですか……?」


 こちらの様子を眺めていたメリッサがそんなことを言ってきた。


「ありゃ? 会議の休憩って……もしかして仕事の邪魔をしてしまったか? すまないな」


 会議を中断させてしまったのだろうか。

 だとしたら申し訳ないな、と思って言ったが、しかしルネットは首を振った。


「いえ、それは違います。朝から何時間も会議を続けていたので、丁度休みを取るにタイミングが良かったというだけです。他の方々も集中力がそがれていましたので。決して、我が師が起因であるわけではありません。タイミングが良く、そうなったというだけです。

 ――確かに秘書の言う通り、私も、師が目の端に入って、興奮して冷静な喋りが出来なくなりそうだったからというのはありますが、それは私の事情ですし。こうして対処できていますので、気にしないでください」


 ルネットはめちゃくちゃ尻尾を振りながら言ってくる。

 冷静な自己分析は出来ているようだ。

 尻尾に感情が乗っているのは相変わらずだが。

 

「むしろこの時間のお陰でみんなが休めますし、私にも気合いが入り、ここからの仕事の効率はおよそ倍になりますので。どう考えても邪魔にはならず、プラスしかありません。お越しいただき、本当に感謝しま 

「いやまあ、邪魔になってないならよかったよ」


 客観的に見て、効率が上がる休みは良い事だし。

 その辺りの判断を誤る子ではない。それは、自分が弟子として面倒を見ている時から教えて来たことでもあるし。何より、

 

 ……ルネットは嘘を言わない子だからな。 

 

 ならば、彼女の言い分に間違いはないのだろう。


「しかし、屋上で会議とは、ずいぶんと珍しい事をしているな。魔法都市の定例……って訳でもないだろう?」


 その言葉にルネットはこくりと頷く。


「はい。緊急事態故、街と周辺を見下ろせる場所での話し合いが必要になったので。会議室や市長室を使うよりも屋上の方が都合がよかったのです」

「魔法都市に残ったのって、会談の仕事があったからなんだよな? 緊急事態って言うほどなのか?」

「はい」


 ルネットは短くそう返事をした後、小声で、しかし、はっきりと俺たちには伝わる声で、


「……この街の存亡にかかわる事態です」


 そう言った。

 冗談ではない、とすぐに分かった。


「存亡、ね。そこまで言わせる会議の内容は……俺も聞いた方がいいか? 市長としての立場もあるだろうし、話せるかどうかは分からないが」


 今の俺は基本的に部外者で、そんなことを聞ける立場ではない。

 ただ、尋常ではない事態だと彼女が言っているのだ。

 だから手伝えることはないか、という意味でも問うた。


 すると、彼女は思考するように、少し目を伏せて黙ったあと、


「…………我が師に迷惑をかけるのは非常に心苦しく、本意ではありませんが――問題が発生しているのは事実です。なので、聞いて、意見を、ご助力を頂けるのであれば、非常に嬉しく思います」


 そう言ってきた。

 ならば、


「分かった。手伝おう。……リンネ、フィーラも良いか?」

「私はもちろん。先生の意のままに付いて行くのが私のやりたい事ですから」

「フィーラちゃんも、当然やるわ。ルネットちゃんが困ってるところは、助けたいしね」


 どうやら、二人もやる気らしい。更には彼女たちだけではなく、

 

「私も、魔法都市にはたくさんの取引先と、支部と、友人がいますから。可能な限り、手伝わせて頂きたいですね」

 

 ロウもそう言ってくれた。

 これで決まりだ。

 

「という訳で、ルネット。出来るだけの手伝いをしたいから、事情の説明を頼めるか」

  

 いうと、ルネットは力強く頷いた。


「はい。……ただ、私だけが話すよりも、事情を知る者全員で話した方が良いかと思います。つきましては、この奥で、魔法都市の市長ともお話をして頂きたく思うのですが。お願いできますでしょうか?」

「分かった。俺としてもその問題とやらが気になったまま、日々を過ごすのは好ましくないからな」

「お心遣い、感謝します……。メリッサ」


 ルネットは俺に一例をした後、メリッサに声を掛けた。

 すると、先程から目をつぶっていた彼女は、


「はい。オーケーです」

 

 小さく頷いて目を開けた。

 その表情は先ほどまで談話していた時とは異なり、とても真剣なもので。

 

「今、魔法都市運営部と短距離念話で説明と交渉を行い、約束を取り付けました。細かい事は、その場その場で説明が必要になりますが……すぐにでもアイゼンさんたちを招き入れての、会議が出来ます」


 どうやら、リアルタイムで念話による交渉を行っていたらしい。

 秘書というだけあって、その辺りの技能は熟練しているようだ。


「ありがとうメリッサ。場所はいつもの屋上だな」

「はい。なので、今からご案内します。皆さん、付いてきてくださいませ」


 そうして、メリッサの誘導の元、俺たちは市庁舎の職員専用路を通って、上へ上へと向かっていく。

先日より、あまうい初のオリジナル漫画原作「叛逆の血戦術士」という作品を始めていまして。コミックス第一巻が本日、9月9日に発売されます(表紙画像↓から公式サイトへ行けます)。


最強預言者のような最強主人公ものです。

是非一度、お手に取って頂ければ幸いです


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