3話 「秘事」
チャットで話しただけのあなた。メールで話しただけのあなた。文字だけの関係。それで成り立っていたあなたと私。画像も配信してくれたあなた。音声も配信してくれたあなた。そして私は、あなたに興味を持った。それから、あなたに恋をした。そんなの恋とは言わないわ!実際に会ってもいないで好だなんて!なあんて言う頭の固い人間は無視しましょ。
初めて生で観るあなたは、やっぱりどこか魅力的。俗世界から離れた孤高な感じがする。まるで、私の生き写し。同じ匂いが漂っている。どこにも居場所がなくて、存在感もなくて、ただただ生きている感じ。でも・・・空虚じゃない、廃墟じゃない。心の内に潜む、何か妖しい光が漏れてるわ。
小声のあなた。
内気のあなた。
小心者のあなた。
人見知りのあなた。
眼を見て話せないあなた。
だけど、あなたの秘めた心を私は知ってるの。その逸脱した性格に私はそそられたの。
そう、互いに逸れてしまった人生の道。そして今、その逸れた道が交わってしまったのよ?ああ、逸れてしまったお陰で、私たちは出逢えたの。なんて幸せな運命!真っ当に生きてたら出会えない人生なんてロマンティック!
「じゃ・・・」
「うん」
私達はホテルに入る。初めてのホテル、私もあなたも。
部屋は五階。
あなたは私を見つめてる。
私もあなたを見つめてる。
でも、内気なあなた。
見つめる場所は私の首みたい。
そう。
私は、見つけた。
私を、見つけた。
人には言えない。
あなただけ、あなたにだけ。
私は、あなたを待っている。
あなたの命令待っている。
いつものあなたを待っている。
エレベーターの前。
あなたは私に囁いた。
あなたは私に呟いた。
私は小さく頷いた。
五階の部屋まではほんの数秒。
私は急いでジャッケットを脱ぐ。
私はシャツのボタンに手を掛ける。
エレベーターの扉が開く。
先に乗るあなた。
そして私。
私は急いでシャツを脱ぐ。
下着は約束通り付けていない。
あなたは私の服を持つ。
私はあなたに背を向ける。
急いでスカートに手を掛ける。
すぐ脱げるスカートを履いてきたの。
私はまだ背を向けたまま。
そのままスカートをあなたに渡す。
開くエレベーター。
人はいない。
私はそのまま歩き出す。
靴下。
靴。
それだけの姿。
あなたは後ろを歩いてる。
鍵はあなたが持っている。
服もあなたが持っている。
そう、この刺激。
私はこれを望んでた。
あなたは私を見ずに部屋に入る。
あなたはソファーで足を組む。
私はベッドに潜り込む。
私はあなたに視線を送る。
普段のように。
いつものように。
私に命令して欲しい。
文字じゃなくて、あなたの声で。
私は奴隷。
あなたの奴隷。
私を辱めて。
私を縛って。
私物にして。
暴言を吐いて。
踏みにじって。
私は。
あなたに。
励むだけ。
尽くすだけ。
奉仕するだけ。
忠義するだけ。
犬になる。
猫になる。
鳥になる。
あなたの物になる。
痛くても。
強くても。
初めてでも。
優しくしても。
虐げられても。
道具を使っても。
私はあなたを待っている。
私は変かも。
でもいいの。
気付いたの。
解ったの。
それが私。
それがあなた。
私は被虐愛者。
あなたは荷虐愛者。
私はマゾヒスト。
あなたはサディスト。
今までは文字だけで。
今日は行動で。
求む私。
求められる私。
求むあなた。
求められるあなた。
存在意義。
存在意味。
存在理由。
存在狭義。
存在確認。
あなたの命令。
それで私が存在出来る。
それで私が生きられる。
命令は私に興味があるから。
命令は私を求めているから。
命令は私を必要としているから。
命令は私を必須としているから。




