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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第53話 おいおい、勝手にボーダーを超えさせられたぞ

「改めて、ワタシは白樺永久と言うわ。呼び方は好きなようにして」


「では、白樺先輩で。俺は早川拓海です」


「名前呼びじゃないのね」


「結局指定するんですか」


 そんないつも隼人にするような軽口を返してしまえば、白樺先輩は「冗談よ」とクスクスと笑っていく。

 距離感もロクにわからないのにいきなり弄ってくるとは......この人上級者か?


 現在、放課後のとある空き教室。

 横並びに座りながらも、向かい合っている。

 昨日は先輩が図書委員会ということもあり、翌日に日を改めて今の挨拶という流れに至っている。


 それにしても、この部屋......置いてある本棚にズラリとたくさんの本が並んでいるな。

 どれも文学小説みたいな感じかと思えば、意外とラノベもあった。


「鮫山先生からおおよそのことは聞いてるわ。

 読書感想文コンクールで最優秀賞を取りたいのよね」


「その事実、俺が初耳なんですが」


「あら、違うの?」


「何言ってんだ、あの先生......」


 というか、俺の参加の有無にかかわらず先輩にまで話が通ってるって用意周到すぎんか?

 俺ならやるだろって予想してそうやったってこと? なら、大正解だよ! チクショウ!


 そんな俺の様子を見ていた白樺先輩はじーっと視線を送って来るかと思えば、両手に持っていた本にしおりを挟んで閉じると、話題を変えるように口を開いた。


「そうね、ワタシはあなたの指南者役として任されたわけだけど、ただ闇雲に指導をしたところで効果的な指導ができるかどうかはわからない。

 というわけで、まずは互いのことを知っていきましょう」


 放課後の日差しが先輩の顔を一部オレンジ色に染める。

 先輩は存在自体が儚げな文学少女といった感じであり、それ故の雪のような肌の白さがオレンジ色に染まる光景はなんだか挿絵の一ページを見てる気がした。


「それじゃ、最初はどんな質問にしようかしら?」


「好きな食べ物とか......」


「ふふっ、思ったより可愛らしい質問をするのね。

 いいわよ、ワタシはイチゴが好きなの。あなたは?」


「俺は今は辛い物ですね。最初は苦手だったんですが、今は慣れてきて美味しく感じます」


 これはダイエットによる味覚の変化が原因と思われる。

 科学的根拠は置いといて、俺の辛い物を食べて汗をたくさんかけば痩せれんじゃね? という楽観的思考に基づく行動の結果によるものだ。

 正直、それの効果が出てるかどうかは些かわからない。


「いいわね、苦手なものが好きになるって。まるで一歩成長したみたいで。

 それにしても、どうしてわざわざ苦手なものを食べようと?」


「それは俺の体系を見てもらえればわかりますよ。

 この摘まんでも痛くない皮下脂肪。正しく必要のない駄肉でしょう?

 今はダイエットしてて、それで辛い物食べて汗かけば痩せれんじゃね? と思って食べ始めたのがきっかけです」


「だとしたら、そこまで大きく的外れな考えでも無いわよ。

 辛い物を食べた所で痩せれることは無いけれど、辛い物には脂肪の分解を助ける効果があるみたいだから食後に運動をすればいいみたいよ」


「え、マジすか!? って、よくそんなこと知ってますね」


「ただの本の虫の知識自慢よ」


 そういう割には誇らしげな様子はなく、まるで見透かしたような視線で見てくるだけ。

 先輩、俺よりも小さいけど、玲子さんみたいな謎のオーラがあるな。

 なんというか、大物になるぞって感じが凄い。


「なら、他に何かダイエットに役立ちそうな情報ってあります? あ、図々しいですかね」


「気にしなくて大丈夫よ。

 あなたがただワタシを口説こうとして無理やり話題を繋いでるようじゃないし。

 あ、残念ながらワタシの好みは自分よりも高身長で、話の趣味が合う人よ。ごめんなさいね」


「俺の介入の余地もなく突然フラれたんですが」


「安心しなさい、人生でフラれる回数は一番多いので2回の32パーセント、次が同率で1回、その次が3回の23パーセント。

 平均で見れば2.4回らしいから。そのたった1回がこの場で得られただけに過ぎないわ」


「得られたというか、与えられたというか。

 勝手に胸倉掴まれて殴られたような感じなんですけど」


「ふふっ、面白い例えするわね」


 俺が理不尽な言葉にツッコんでいけば、先輩はクスクスと楽しそうに笑っている。

 そんな様子に毒気を抜かれて、俺も仕方なくため息を吐いた。


「早川君とは初対面だけれど、今のやり取りでワタシの好きな人種だとわかったわ。おめでとう」


「あ、ありがとうございます......?」


「ちなみに、女性の中で同じ“好き”という言葉であってもかなりの差があるから気をつけてね。

 そして、ワタシの好きは人としての好きであり、性的な好意での好きではないわ。ごめんなさい」


「なんでまたフラれた気分になるんだろう......」


「あら、2回目ね! 良かったじゃない、もっとも多くの人が経験するパーセンテージに乗ったわ。

 平均を超えるまでにはあと1回という所まで来たわね。リーチじゃない」


「そんなリーチ嫌すぎる。というか、この2回が圧倒的に理不尽」


 そんな返しに再び先輩はクスクスと笑う。

 この人......完全に俺をイジリに来てる。

 このままじゃ絶対無理やり三回目の流れが来るから、その前に話題を変えよう。

 俺が平均値を超えてしまう前に! いや、さっきの2回ノーカンだけどね!


「そういえば、先輩は鮫山先生から直々に指南者役に選ばれたとのことらしいですけど、さっきも部屋を尋ねた際に本を読んでいたように本を読むのが好きなんですか?」


「えぇ、好きよ。本は自分に知識を与えてくれて、自分が味わえない物語を見せてくれて、ワクワクするような気持ちを与えてくれる。

 そんな感じで本という魔力に魅入られてしまったせいか、今ではすっかり本の虫。

 他人と関わる機会もその時間に費やしてしまったせいで、今絶賛ボッチ中よ」


「その割には随分とハキハキしゃべるようですし、人のこと容赦なくイジリ倒してくるんですけど」


「別にワタシは人と関わるのが苦手というわけじゃないの。

 ただ、そこに人がいることは認知出来ても興味が湧かないだけ。

 だから、基本人と関わらない。そんな時間は本と向き合いたいからね」


「ん? なら、俺の指南者役を引き受けてくれたんですか?」


 その理屈なら俺との時間なんてそれこそ無駄でしかないはず。

 その質問に先輩は少し考えるような素振りをして目線を落とすと、すぐに視線を戻して答えた。


「ワタシも少し考えてることがあってね。

 本を頼りにしてもどうにも自分らしい答えというのが思いつかないから、たまには趣向を変えてみようと思っただけよ。

 だけど、会って特にピンと来る人じゃなかったら、これで終わるつもりだったわよ」


「それじゃあ、俺は......」


「合格ね。ま、鮫山先生がわざわざ連れて来る生徒なんだから、ワタシにとって害がある人物じゃないことは考慮していたけど。

 でも、それはあくまで現段階の話よ。言っておくけど、今あなたの後ろには隠しカメラが置いてあるから」


「え?」


 俺は思わず後ろを振り向く。しかし、そこには本があるだけ。

 まるでカメラを置くような余地はないはず。

 だが、先輩に言われた通りに本を引っ張り出してみれば、それは本の見た目をした箱であり、よく見れば背表紙の部分にカメラが覗いていた。うわっ、こわ!


「これは早川君に愚かな行動をさせないためにあえて教えたこと。

 もちろん、それ以外にも色んな場所にあるから。

 仮に二人っきりであなたが劣情のままにワタシに襲い掛かって、そのままワタシを性奴隷として言いなりにすることは出来ないわ」


「しませんよ、そんなこと。というか、もしかしてそういうジャンルもお読みで?」


「ジャンルは問わないで読むことにしてるの。

 でも、マゾというわけじゃないから趣味に合わないわ。ごめんなさい」


「もう流れ読めたぞ......」


「あら、3回目ね! ボーダーを超えたわ、おめでとう!」


「それが言いたかっただけですよね?」


「ふふっ、バレてしまったわ」


 そんな感じで話をすることしばらく、結局書き方を指導されることなくその日は終わった。


*****


「では、お先に帰ります」


「えぇ、気を付けて」


 そう言って拓海が部屋を出ていく姿を見送った永久は静かに呟く。


「あの子が勇者ね......」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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