第329話 バチバチの初邂逅
美玻璃ちゃんの覚悟により、俺は無事に背水の陣に立たされた。
まさか吹っ切れた......というか、人を頼ることにした美玻璃ちゃんがここまで行動手的とは。
さすがに美玻璃ちゃんからの徹底抗戦の構えは予想外過ぎるぞ。
ということは、ここから推測するに、美玻璃ちゃんは絶対に敵に回してはいけないタイプだ。
もはや戦わなければならないって追い込まれたら、ここまでやってやるってんだから。
いや、そもそも敵対する意味もメリットも特にないんだけどね?
「それじゃ、行こうか」
「......はい」
俺の掛け声に対し、美玻璃ちゃんはゆっくりと頷く。
それから一度彼女が大きく深呼吸をするのを見計らってから、俺はリードするように歩き出した。
当然だが、ショッピングモールに入ってからいきなりエンカウントとはいかない。
そもそも今日にいるかも怪しいのだ。
美玻璃ちゃんからすれば「いる」らしいけど。
なんかそれもそれでやだなぁ、いや不意打ちよりはよっぽどマシだけど。
「どうしますか? どこか周囲を見て回りますか?」
「そうだね。往来で突っ立って待ち構えてるわけにもいかないし。
何か買い物があるなら付き合うけど......どう?」
「そうですね。これといって急ぎはないですが......」
俺の問いかけに対し、美玻璃は顎に手を当てて思考し始める。
その時ですら、俺から絶対に手を離さないような意思を感じた。
というか、もはや指の間に彼女の指が食い込んで若干痛いぐらい。
「美玻璃ちゃん、美玻璃ちゃん。そんなに強く握らなくても逃げないから。
なんだったら、ずっと握ってるってのも気持ち悪いでしょ?
別に、移動以外は手を放しててもいいんだよ?」
「別に、そんなことないですよ。
気持ち悪いなんてこと思ったことないです」
「――っ」
その言葉に、不覚にもドキッとさせられてしまった。
だって、今までの美玻璃ちゃんの態度からすれば、俺は完全に姉妹百合を害す間男だ。
だからこそ敵対していたというのに、一応そう思ってくれる信用はあるみたいだ。
そんなことを思っていると、美玻璃ちゃんは「それに」と言葉を続け、
「いつ現れてもいいように備えてるだけです。
タイミング悪く、私達が手を放してる時に慌てて繋いでも隙を与えるだけですから。
目指すは完封。そうでもなくても、再起不能程度には潰さなきゃいけない相手です」
という言葉が彼女の本音と見た。
だからこそ、心の底から俺は彼女と敵対しなくて良かったと安堵している。
仮に、彼女が社会に出て大人の人脈で悪事を始めたら、証拠すら残さずに完全犯罪しそうだ。
それこそ、玲子さんのためならやりそう――というのが、失礼な話だが俺の今でも思う感想。
だからこそ、玲子さんは美玻璃ちゃんに自分以外の頼る手段を見つけて欲しがってたし。
もっとも、自分以外の暴走を止める役を増やしたかったというところだろうけど。
「なるほど。どこまでできるかは相手の出方次第だけど、やれることはやろう」
「言質取りましたからね?」
「嫌な脅しかけてくるなぁ」
その言質がただの飾り言葉であることを全力で祈るよ。
そんな会話もほどほどに、美玻璃ちゃんが「服が見たいです」と言ったのでそこに向かうことに。
道中、人が行き交う中をエスカレーターの上昇のタイミングで索敵してみたが、以前見たような顔はおろか制服すらあまり見かけない。
仮に見かけても大抵が女子二人組だったりする。少なくとも、男子は一度も無いな。
「そんなにキョロキョロしてたらバレますよ。
それよりも仮にも私の彼氏役を任されたんですから、もう少し堂々としてください」
「ごめん、どうにも気になって。
そうだね、普通はデートに集中して周りは見えてないはずだもんね。
ちゃんと美玻璃ちゃんのことを見ることにするよ」
「いや、私のことは別にそこまでは......」
俺の言葉が思いのほか響いたのか、美玻璃ちゃんが顔を赤くして逸らした。
これまでの彼女の態度からすれば、あまりにも珍しい反応だ。
彼女が俺の言葉にこうも反応する時が来るなんて。
「あ、あそこです」
そう言って目的地に向かって指をさす美玻璃ちゃん。
服屋か。しかも、向かう先は女性服専門店。
正直、こんな場面を男女の組み合わせで見たら一発で相手が彼氏彼女って疑うわな。
もっとも、本人がどこまで考えて行動しているかは知らないけど。
単に玲子さんに似合う服を探しに来たとか.......パッと思いついただけなのに超ありそうな理由。
ともあれ、一体いつ出会うことになるのやら――、
「ここに来ると思ってたよ」
「「......」」
少し大きめの店内にて、それもちょっと奥の通路に言った所。
まるで関所で待ち構える門番のように――その男は立っていた。
あまりにも突然の、それも予想外の対面に虚を突かれた俺達は思わず黙り込む。
それに対し、驚いている俺達がおかしいかのようにその男――大久保良樹は首を傾げた。
それから、大久保さんはこちらが聞いてもないのに勝手にしゃべり始める。
「いや~、ここに来てくれるとは嬉しいね。
来るとは思ってたんだけど、確実に来るとはあまり思ってなくて。
候補は他にも百均とアニ〇イトの2つの候補があったんだ。
その中で3分の1が当たったのは幸運、いや、もはや運命に近いかな。
僕はそういう風に感じるんだけど、美玻璃ちゃんはどう思う?」
理路整然と、いかにも自分の主張が筋が通っているかのようにしゃべる大久保君。
若干捲し立てるような言い方は、こちらに会話に介入させる気は一切なく、終始自分のペースだ。
加えて、この男......さっきから俺の方に視界が微塵も動かねぇ。
まるでこの場で美玻璃ちゃんだけと偶然対面したかのように二人きりの空間を形成しやがる。
なんつーか、ゲンキングの言っている意味が肌に感じて理解した。
そんな突然の魔王のエンカウントに対し、美玻璃ちゃんは黙り続ける。
しかし、俺を握る手からは確かな恐怖による震えが伝わってきた。
加えて、手を握る圧力も先程より一層強い。大丈夫、わかってる。
「あの、すみません.......どちら様ですか?」
声が出ない美玻璃ちゃんに変わり、俺が対応することにした。
それに対し、大久保君は俺を一瞥し、仕方なさそうにため息を吐いてから返答する。
「どうも初めまして、僕は大久保良樹と言います。
美玻璃さんとは中学生の時からの同級生で、それで以前に偶然再会したので話したいと思いまして。
というわけで、二人で話したいので席を外してくれませんか?」
「.......は?」
おっと、不味い。あまりにも理解できない威圧感のある声が漏れてしまった。
もっとも、そこら辺を相手が理解してくれる感性があるかは不明だが。
にしても、こちらの自己紹介をさせる余地もなく、邪魔だから去れだと?
いや、さすがにそうは言ってないか。でも、そう言ってるようなもんだろこれ。
今の自己紹介から話終わるまでの一文で、一体どこまでの傲慢さが滲み出ていたか。
逆にこれを周りは誰にも止めなかったのか? もうこの時点でヤバさわかるぞ。
......いや、もはや止められなかった。もしくは、関わりたくないのかもしれないな。
ともあれ、一発目に「邪魔なのでお帰りください」とは言ってくれるじゃねぇか。
そうなったら、俺は意地でも帰らないぞ。もともとそのつもりだけどな!
「すみません、それは出来かねます。見ての通りデート中ですので」
「......デート?」
「はい、久川美玻璃ちゃんとお付き合いさせていただいてる――早川拓海と言います。
以後、お見知りおきを」
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