第328話 それはちょっと覚悟決めすぎ!
玲子さんに背中を押された屋上から移動し、現在ショッピングモールに向かう道中。
そこまで続く人通りの多い道を、美玻璃ちゃんを横に連れながら歩いている。
そんな光景が少しだけ不思議に思えるのは、美玻璃ちゃんというキャラクターを知ってるからだろう。
言うなれば、絶対的なシスコンである美玻璃ちゃんが特定の男には見向きもしない......という謎の安心感だろうか。
これまでを振り返っても、俺に対して絶対的に弱い姿勢を見せなかった。
それこそ、美玻璃ちゃんがイジメの解決を依頼してきたあの時ぐらいだ。
故に、隣に美玻璃ちゃんがいて、その近くに玲子さんがいないというのはその――
「違和感あるなぁ......」
「なんですか、急に人のこと見てその発言。バカにしてるんですか?」
「いやいや、バカにはしてないよ。する要素もないしね。
ただまぁ、これまでの美玻璃ちゃんのシスコンぶりからすると、現状の違和感が凄いというか」
「ふふん、そうでしょう! なにせお姉ちゃん一筋ですから!」
「それ、喜ぶところなんだ......」
突然胸を張ったかと思えば、自分のことのようにドヤ顔する美玻璃ちゃん。
もはやその態度はシスコンの面目躍如と言ってもいい。
相変わらず、姉の話になると水を得た魚のように活き活きするなぁ。
「だから、お姉ちゃんに近づく男は私が見定めるって決めてるの。
お姉ちゃんはね、綺麗だし、可愛いし、一生純潔でなければいけないの」
「急に角の尖らせるのやめてね」
それでいて、このユニコーンっぷり。もはや姉をなんだと思っているのか。
やっぱりもうとっくに美玻璃ちゃんにとって玲子さんは姉という立場を超えているのでは?
身内が厄介ヲタクとか......う~ん、俺が玲子さんの立場なら確かに妹の将来が心配になる。
そんなことを思っていると、急に美玻璃ちゃんはイタズラっぽい笑みを浮かべ、
「だから、先輩の行動如何では、この私が特別にお姉ちゃんと仲良く出来る唯一の男の人として認めてあげてもいいですよ」
「際ですか。それはありがとうございます......って、あれ? まだ認めてもらってなかったの!?」
「まさかお姉ちゃんに尽くしたぐらいで認めてもらえるとでも?
あんなのは当たり前の行動です。
でなければ、どうやってお姉ちゃんに贅沢な暮らしをさせるというのですか。
もし、もやし生活でもさせようものなら、頭が胴体と泣き別れすると思ってください」
「もうその調子でトラウマと戦ったらいいんじゃないか.....?」
いつもの調子と言えばその通りだが、些か火力が高すぎではなかろうか。
とてもこれから助けてもらおうという人の態度ではない。
とはいえ、下手に怯え続けられてるよりかはマシなのかも?
「こんな態度は先輩にだけト・ク・ベ・ツ、ですよ」
「全っ然嬉しくない特別感だなぁ」
うん、やっぱり怯え切った表情より、こっちの若干憎たらしい顔の方がいいな。
というか、俺ももはやそっちじゃない方が調子狂うというか。
大久保良樹の名前を聞いた直後の、あの青ざめた顔よりはよっぽどいい。
「おや、先輩みたいなタイプはこういう罵声がご褒美と思ったんですが違いました?」
「違いますね。なんだったら、さっきのは罵声どころか脅迫だったし」
それはそれとして、一回だけわからせたいと思うのは俺だけだろうか。
あまりこういう感情は持つべきではない、もうちっと大人の精神を持つべきなのはわかっている。
だけど、なんだろう......この鼻につくメスガキ感は。
これまでは玲子さんありきだったから気付かなかったけど、タイマンだとより感じる。
こうやってメスガキわからせジャンルというのは流行るのだろうか。
そんな他愛もない会話を続けること数分後、無事にショッピングモールに着いた。
その入り口に着く頃には、さすがの美玻璃ちゃんも先程の調子を沈ませ、表情を強張らせる。
なにせ、あの美玻璃ちゃんが俺の制服の裾を掴むほどだ。
前回の突然の再会が相当堪えているのだろう。
でも前回同様に、今回も美玻璃ちゃんは一人じゃない。
「大丈夫、俺の後ろに隠れてればいいから」
「な、舐めないでください。
私だっていつまでもこんなことでお姉ちゃんに迷惑かけるつもりはないんです。
それに、私はお姉ちゃんの一番槍。このぐらいどうってことありません」
「そっか。なら、期待してるよ。
とはいえ、今日に会うとは限らないから、もう少しリラックスしても――」
「いえ、多分――います」
俺の言葉に対し、美玻璃ちゃんが遮るように断言した。
態度も相まってその言葉は冗談に聞こえず、野生の勘というのだろうか。
たぶん今、彼女はどうしようもない胸騒ぎを感じているのだろう。
その気持ちを言葉にしたのが先程の発言。
すると途端に、ショッピングモールが魔王城に見えてきた。
老若男女誰もが行き来しているというのに......なんとも不思議な感覚だ
「.....え?」
その瞬間、俺の左手に少しヒヤッと汗ばんだ細い指が絡んだ。
突然の違和感に視線を向けてみると、俺の左手に美玻璃ちゃんの手がある。
しかも、俺の指の間を潰すようにしっかりと握られた恋人繋ぎ。
え、あ......え? え、なに、急になにこれ......?
「あの......」
「なんですか?」
「これは一体なんの真似でございますでしょうか?」
不味い、今日一の動揺で語尾が変になってしまった。
それに対し、美玻璃ちゃんは真っ赤な顔でポーカーフェイスを決めながら。
「何の真似って.....当然、恋人の真似でしょ」
「なんで?」
「なんでって、当然あのにっくき男をけちょんけちょんにしてやるためでしょ。
私だって鈍くはないんです。相手がどういうつもりで話しかけてるか察しがついてます。
というか、私に告白した男子が翌日にイジメられ始めた時点で予想出来ましたよ」
あぁ、あのひっどい内容のことか。
確かに、美玻璃ちゃんからすれば、告白してきた相手は印象に残るよな。
んで、その相手が翌日からイジメらへ始め、挙句に転校したとなれば......まぁ、そうだな。
でも、それを知ってこの行動に出るって――、
「だから、あの男にとって私が誰かの所有物になるってのが酷く許せないんですよ。
傲慢で幼稚でただ周りに恵まれただけで、それを自分の力で手に入れたと勘違いしてる男には」
「そりゃそうだろうけど、いくら何でも刺激し過ぎじゃ......」
それこそ、俺が大久保良樹を説得する上で一番懸念していたことだ。
何事も穏便に済ませられるならそれに越したことは無い。
だから、俺も仲の良い先輩後輩で行こうと思ってたのに、まさかそれを美玻璃ちゃんから崩しにくるなんて!?
「いいじゃないですか、刺激させて目にもの見せてやりましょうよ。
お前が欲しがっていたものはとっくにお手付きになってたってね。
あの男が私のガワだけで好きだのなんだのほざいているなら、それだけで話し合いもせずに見限ってくれるかもしれませんしね」
「でも、そうじゃなかったら、確実に俺の立場ってヤバくない......?」
「なんですか、今更ビビってるんですか?
もうこうなったら運命共同体です。全力で叩き潰しましょう。
こんなピンチこそヒーローなら救ってくれるんじゃないんですか?」
こちらを煽るような表情と言葉、それだけなら自暴自棄になったとも捉えられる。
しかし、握られた手の圧から、同時に感じる震えから――これが彼女の覚悟と知った。
もっとも、その覚悟は些か無鉄砲さを感じるが、あぁわかったよ。
「なら、玲子さんに怒られる前に終わらせようか。
よろしくな、今日限りの彼女さん」
「こちらこそです、今日限りの彼氏さん」
読んでくださりありがとうございます(*^_^*)
良かったらブックマーク、評価お願いします




