第322話 解決するためにも#1
美玻璃ちゃんへの指摘が終わった翌日の放課後。
俺は相談のために空き教室にやってきた。
そこではいつも通り先輩がカタカタとパソコンに文字を入力中だ。
相変わらず更新用のストックに勤しんでいるらしい。
聞けば、Web投稿サイトに投稿してからというもの、目覚ましい速度で読者を獲得しているらしい。
読み専門だった人が小説を書き始めたなら、とんでもない伸びをするというのは風の噂で聞いたことあったが、まさか先輩がそうなるとは思わなんだ。
未だ書籍化の声掛けは届いていないらしいが、書籍化ラインには乗っているので時間の問題だろう。
そんなノリに乗っている先輩に相談するのは忍びないが、ここは先輩の胸を借りよう。
「先輩、相談事があるんですがいいですか?」
長机に荷物を下ろし、パイプ椅子にどかっと座れば、率直に尋ねた。
瞬間、先輩のタッチタイピングの手が止まり、まずは視線だけがこちらを向く。
「何かしら? そんな改まって聞いてくるなんて。よっぽどのことがあったの?」
「よっぽど......まぁ、俺のことじゃないんですが、解決したい事案がありまして」
「それって久川さんの妹さんの話?」
話の文脈から推測し、先輩がサラッと確信を突いて来る。
さすがの先輩も俺が今置かれている状況ぐらいは知っていたか。
なら、話が早い。このまま流れで行かせてもらおう。
「そうですね。先輩もご存じかと思いますが、俺は俺の目的のために美玻璃ちゃんに自分を認めてもらう必要があるんです。
それで、美玻璃ちゃんと仲良くしようというのは良かったのですが、それで少し問題が起こりまして――」
そこまで言うと、俺は改めて先輩へと状況説明を始めた。
あまり他人の困り事をよそに話すのは行儀良くないが、先輩なら口は堅い。
それに、俺にない発想や知見を得れるとすれば、やはり先輩しかいないだろう。
「――というわけです」
「なるほど......つまり、あなたの推測では、久川さんの妹さん――美玻璃さんは小学生の時に関わりに持った男の子に付きまとわれているということね」
「付きまとわれてる.....というには、全然証拠が足りないですが、美玻璃ちゃんの悩みの種の原因であることは本人の反応から恐らく」
それに、仮にあの男子高生が付きまといをしているのなら、あんな堂々としてるものか。
俺のイメージとすれば、自分の不審な行動の目撃を避けるために、人目から遠ざかるはずなんだが。
「そうね。付きまといというには、あまりも行動がハッキリしてるしね。
ちなみに、それって他に知っている人は?」
「今のところは俺と先輩だけです。んで、小学校の時に美玻璃ちゃんがイジメに遭っていたのを知っているのは、俺達を除けば本人と玲子さんぐらいですかね」
「そう。なら、もう少し情報収集をするべきね」
そう言って永久先輩が自分のスマホを弄り、誰かに電話をかけ始めた。
そんな先輩の姿は少し新鮮に感じて。
というのも、先輩がスマホを触るイメージがないからだ。
いや、スマホぐらい誰でも触るだろと思うかもしれないが、先輩に限ってはあまりに希薄。
だから、たまに先輩が俺に電話してる姿がこういう姿なんだと思うと不思議な気分になる。
なんか気持ち悪い視点になってる気がするな.....一旦他のこと考えよ。
そんなことを思っている間にも、先輩の会話が終わった。
しゃべり口調的に随分と気安い感じであったが、そもそも先輩って友達いただろうか?
めちゃくちゃ失礼な疑問だが、ぶっちゃけ先輩は友達を作ろうとしないので。
「誰に話したんですか?」
「一番状況に詳しい人物に決まってるじゃない。
あなたからの相談事だもの。手抜きなんてしないし、そのためなら相手も選ばないわ。
だから、あなたは大船に乗った気分で待ってなさい」
と先輩が自信ありげに言うので、それから待つこと数分後。
普段俺達しかいない空き教室にドアのノック音が響き渡った。
咄嗟に振り返ってみたが、さすがにドア付属のスモークガラス越しじゃ見えないな。
それからすぐにドアが横に引かれると、そこから現れたのは美しい銀髪をした美少女。
そう、言わずもがな玲子さんである。
まさか先輩が呼び出した人が玲子さんだったとは。
「意外と言いますか......先輩って玲子さんと電話することあるんですね」
「滅多なことじゃないわよ。互いの利害が一致したのみかしら。
そして今回に限っては、あなたの協力者として呼んだだけ。
久川さんの妹さんの話を詳しく聞きたいなら、身内に聞くのが一番でしょ?」
それはそう。全くもって正しい判断なので、反論のしようがない。
とはいえ、個人的には出来れば玲子さんに知らせたくなかった気持ちもある。
それは、美玻璃ちゃんがふとした時にそれに気づいてどう思うか気になったからだ。
美玻璃ちゃんの性格なら自分の厄介ごとに姉を巻き込むなんてしたくないだろう。
それをするぐらいなら、誰にも頼らず墓場まで持っていくのが彼女だ。
それに、それを仮に玲子さんが解決してしまったならば、美玻璃ちゃんの中にある姉への憧憬度がさらに飛躍的に上昇してしまう。
そうなれば、美玻璃ちゃんのシスコンも治療困難な領域に達してしまうだろう。
そんな二つの方面から、俺は玲子さんではなく先輩に相談した。
しかし、先輩は合理性の塊である人物であることを失念していて、結局こうなってしまったが。
であれば仕方ない、俺も意識を切り替えて解決方法を探るのみ。
「拓海君、美玻璃の様子はどう?」
「どう、か......なかなか難しい質問だね。
俺と美玻璃ちゃんの関係性を言っているのなら、屋上の一件から変わりないよ。
玲子さんからの問題解決とすれば、少し気になることがあってね」
「気になること.....?」
俺の言葉に、玲子さんは何も知らないように首を傾げる。
あれ、てっきり話してあるとおもってたんだけど。
そう思ってみると、先輩を見ると、ゆっくりと首を横に振られた。
どうやら先輩は大事なことは俺の口から言えと暗に示しているようだ。
ま、玲子さんから頼まれたとはいえ、今の相談主は俺か。
そして俺が力を借りたいんだから、俺が言うのが筋ってものか。
それを理解すると、俺は改めて玲子さんの方へ向き直す。
それから、とりあえず近くにあるパイプ椅子に座ってもらい話を始めた。
当然、話すことは昨日のどこからともなく現れた男子高生のことだ。
「実は――」
その男子高生と美玻璃ちゃんは小学校からの知り合いである。
もっとも関係性が良好とはとてもいいがたいが。
加えて、俺の中ではさらに二人の言動の違いに対する理由に思い当たることがあるのだが、さすがに憶測の域をでないので、その前に玲子さんから確証を得られればありがたい。
「なるほど......美玻璃がそんな状況だったとわね。
私も姉としてまだまだ自覚が足りないわ。
妹の抱えてる悩みに気がつかないなんて」
「それは仕方ないと思うよ。
美玻璃ちゃんの性格を考えるなら、玲子さんファーストだから。
玲子さんに対して重荷になるようなことはしたくないと思うはず」
むしろ、美玻璃ちゃんの方が玲子さんに対して上手く隠せていたと思うぐらいだ。
しかし、その隠し事もこれまで。
この先、俺も玲子さんも美玻璃ちゃんも円満に事を運びたいなら、この問題を解決する他ない。
そしてその解決のカギを握っているとすれば、それは玲子さんの記憶に限る。
「それで、小学校の時の記憶に関して思い出せる?」
「そうね。私の記憶が確かなら、その人物は美玻璃の敵――その張本人よ」
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