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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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321/321

第321話 なーんか噛み合わない感じは

 女子のグループに声をかけに行く――それは男にとって想像以上に勇気がいる行為だ。

 それこそ、俺も相手がゲンキングぐらいの交友関係なら行くことも難しくない。


 しかし、それ以上に交流回数がない、もしくは初対面のグループに声をかけに行くというのは、普通の男子ならまず尻込みしてもおかしくない。

 俺も間違いなくすると思う。行こうと思ってもある程度の精神統一が必要だ。


 そんな所業を、とある他校の高校生はやってみせた。

 それもゲンキング、琴波さん、美玻璃ちゃんというよりにもよって声がかけずらい花園へ。

 まるで久しぶりの再会のような気安さで輪に入り、そこで何やら会話している。


 あいにく店内のうるささにより、何を話しているかわからない。

 しかし、三人の反応からある程度状況の推察ができるだろう。

 というわけで、俺は周りから不審に思われない程度に盗み見ることにした。


 その謎の男子高生と基本的に会話をしているのは、ゲンキングだ。

 玲子さんのために鍛えた社交術と、もはや最近陽キャとなり始めてる特性を活かし、初対面との会話を不得手とする二人を庇っているようだ。


 そして、ゲンキングに会話を任せている二人のうち、時折琴波さんがしゃべっている。

 彼女も性格的に決して初対面に強いほうじゃないはずだが、ゲンキングがいるからしゃべれているのだろう。


 とはいえ、基本的には静観姿勢であり、事の成り行きを見定めている。

 そして、最後の一人である美玻璃ちゃんが一番顕著な反応をしていた。

 というのも、若干腰が引けているのだ。

 

 胸の前に手を当て、足を少しずつ後退しながら距離を取っている――明らかな拒絶反応。

 そんな美玻璃ちゃんに気付いていないのか、青年の視線は常に美玻璃ちゃんに向いている。


「そういえば、さっきも美玻璃ちゃんに反応しているような感じだったな」


 思い返せば、それこそその男子高生が話しかける直前。

 彼は大手を振り「美玻璃ちゃん」と呼びかけていたのだ。

 つまり、彼は美玻璃ちゃんに対して声をかけ、あそこまで突撃した。


 そんな彼に対し、美玻璃ちゃんは拒絶モード。

 表情も硬い笑みを浮かべ、明らかに逃げたがっている顔の上に張り付けている。

 ......なんとなーく、二人の距離間というものが見えてきた。


 それと同時に、隼人から仕入れた「厄介事を抱えている」という情報も活きてくる。

 俺の予想が正しければ、厄介事の種は十中八九あそこにいる男子高生のことだろう。

 ストーカーでもされているのか? とてもそんな人物に見えないが。


 そんなことを考えていると、最終的に話が落ち着いたのか男子高生が去っていく。

 その時の男子高生と美玻璃ちゃんの表情はまるで正反対だ。

 片やニコニコと満足した様子で、片や嵐が去ったことに安堵する様子で。


 その後、特にこれといって男子高生は振り返ることなく人込みに消えた。

 そんな姿を目で追っていると、突然右肩をポンポンと叩かれる。


「むっ」


「ふふっ、引っかかった」


 咄嗟に振り返った瞬間、俺の右頬が何やら尖がったもので止められた。

 ゲンキングの右手の人差し指だ。なんと古典的なトラップか。


「くっ、悔しい......見切れなかった」


「そんな反応するの拓ちゃんぐらいだよ」


 いくら来るのがわからなかったとしても、やはりそういうのは見切りたいじゃないか。

 そして、引っかからなかった際の相手の反応を見たくなるというか。

 そういうのは、むしろ「ざんね~ん」と煽りたくなるもので――と、それはともかく。


「さっきの人は美玻璃ちゃんの知り合い?」


 大声で名前を言っていたのですでに分かっているが、あえてそう尋ねてみた。

 すると、ゲンキングはコクリと頷き、


「そうみたい。なんでも中学からの同級生らしいんだ。

 それで中学の時、美玻璃ちゃんがどこの高校を行ったか知りたかったらしくて。

 で、たまたま見かけたから声をかけてきたって感じ」


 ザックリとした紹介だが、それだけならそこまで悪い人には見えない。

 が、少しだけ気になるところはある。

 というのは、「どこの高校を行ったか知りたかった」という一文だ。


 別に、たまたま再会した友達がどこの高校に行ったか気になるのは普通だろう。

 俺は中学の時の友達と会ってないが(というより、もはや覚えてないが)、仮にいたとすれば気になするかもしれない。

 しかし、そこで重要になってくるのが、その友達との距離間だ。


「ゲンキングが話を取り持ってたのって――」


「うん、美玻璃ちゃんの様子がちょっと気になってね」


 そう言ってゲンキングが視線を向ける先、そこには全力疾走した後のような疲れた美玻璃ちゃんの姿があった。


 そう、美玻璃ちゃんの場合、あの男子高生に対して明らかな壁を作っていた。

 となれば、美玻璃ちゃんはその男子高生にたまたま進学先を伝えなかったわけではなく、意図的に進学先を伝えなかったと推測できる。


 この「たまたま」か「意図的か」に関しては、マリアナ海溝ぐらい深い溝があるだろう。

 そして後者を踏まえて考えれば、二人の見え方にも明らかな異質さが浮かび上がってくる。

 もしかして.......いや、さすがに考えすぎか?


「琴波さんは何を話してたの?」


 一旦頭の中に思い浮かんだ可能性を保留し、情報収集を優先することにした。

 そんな俺の質問に対し、琴波さんは特にこれといって表情を変えることなく、


「うちは基本的に唯華ちゃんから振られた話題に同意したり、なんか食い違ってそうな話に辻褄合わせてただけだよ。

 うちも拓海君と関わり始めてから割と社交性になったと思ってたけど、まだまだみたいだったから」


「そうなんだ」


「ただ、やっぱり唯華ちゃんと同じで美玻璃ちゃんの様子がよくなかったから、美玻璃ちゃんに振りがちだった言葉の大半を代わりに受け止めてた感じはあるかな」


「二人に庇われるほど美玻璃ちゃんの様子がおかしくなっているのを知りながら、それでもあの人は美玻璃ちゃんに声をかけ続けようとしていた?」


 だとすれば、控えめに言って節穴にもほどがあるというか。

 人形相手に話しかけてるんじゃないんだから、相手の様子ぐらいわかるはずだ。

 そしてそんな相手と美玻璃ちゃんは、なにやら因縁らしき繋がりがある。


「美玻璃ちゃんは大丈夫......?」


「だ、大丈夫って思うぐらいなら助けてくださいよ......」


「それは悪かった。だけど、俺に対してそれだけの軽口を叩けるなら一先ず大丈夫そうだな」


「拓ちゃん、その判断はさすがに......」


 俺の美玻璃ちゃんに対する評価に、ゲンキングが物申したげな視線を向ける。

 だが、ゲンキングよ。これには俺にも一家言あるのだ。


 というのも、俺と美玻璃ちゃんは玲子さんを取り巻く環境でこれが正常な距離ということ。

 むしろ、美玻璃ちゃんが俺に対して虚勢すら張れなくなった時が一番不味いのだ。


 ともあれ、美玻璃ちゃんの態度、抱えている厄介事、先程の男子高生の反応といい、そしてゲンキングや琴波さんからの言葉といい、やはり可能性は高い。


 加えて、これが恐らくシスコンを、もとい玲子さん依存を加速させた要因なのではないかと思う。

 即ち――、


「美玻璃ちゃん、一つさっきの人のことで気になることを質問していい?」


「な、なんですか......?」


「彼とは中学の時からの知り合いかと思ったけど――小学生の時からなんじゃない?」


「――っ!?」


 そう尋ねた瞬間、美玻璃ちゃんの目が明らかに大きく開いた。

 同時に、自分が他人に知られてはいけない秘密を土足で踏み込まれたような嫌なを顔をして。

 その時、俺はそれ以上の言葉を控えたが、心の中で「ビンゴか」と呟いた。

読んでくださりありがとうございます。


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