第320話 おいおい、勇気あるなアイツ
―――視線に気づく数分前
日常系百合アニメを見ているような気分だった。
いや、女の子同士を何でもかんでも百合と括るのは間違ってるとは思うが、目にあるその光景は紛れもなく日常系アニメを彷彿とさせる光景だ。
「ふっふっふ、我が道の前に立ち塞がる者なし!」
「わーすごい、唯華ちゃん! 一発でクリアするなんて!」
「それも、基本二人プレイ専用を二丁拳銃でやってしまうなんて......さすがお姉ちゃんを目指した女、格が違う」
現在、学校から離れ、ゲンキングとよく行くゲーセンにやってきていた。
もちろん、今回の目的は俺をサンドバッグにすることじゃないので、そこは少し安心だ。
それから、先ほど彼女がやっていたのはシューティングゲームだ。
簡単に言えば、迫りくるゾンビの群れを銃を使って倒すだけのもの。
その台には二つのコードに繋がった銃があり、最大二人でプレイ可能だ。
しかし、ゲンキングはその銃を一人で二つ使い、あろうことかクリアしてしまった。
相変わらずゲームセンスが冴えわたっているとは思っていたが、まさかここまでとは。
やはりゲンキングはゲームに限って言えば右に出る者はいないんじゃなかろうか。
「ん?」
そんなことを思っていると、ゲンキングがしれっと俺に目配せを送ってきた。
そのドヤ顔のように見える顔は、もしかして俺を誘っているのか。
「どうした? 急にこっちを見て」
「いや~、ちょっと気分良くなってスイッチ入っちゃってさ。
最大効率を目指してクリアしてみせようかなって思って。
んで、そのためには拓ちゃんの協力が必要なの。やったことあるでしょ?」
「やったことはあるよ.....そりゃ、付き合ったのは一度や二度じゃないし。
でも、RTAをやるなら一人でやった方が最大効率だと思うけど」
「あれは魅せㇷ゚の類だから。それにちゃんとデュアルプレイして証明するのが、一番このゲームと向き合ってる感じがしない?」
別にやること自体は構わないんだが――そう思って残り二人を見れば、琴波さんは期待に満ちたような目を向けていて、美玻璃ちゃんは「本当にできるんですか?」と疑わしい目を向けていた。
どうやらそもそもこの輪に俺が混じっているという違和感に気付いていないらしい。
となれば、一人だけ気にするというのもおかしな話だ。
「わかった。俺に出来ることはするよ」
「うん、拓ちゃんはそれがいい。それでいい。
そのままアタシの後ろについてくればいいから」
なんか頼もしい言葉を受けつつ、俺はゲンキングと一緒にプレイを始めた。
美玻璃ちゃんと仲良くする会なのに、俺と一緒でいいのかとは思うが、それが望まれてるのだから仕方ない。
そして俺は画面に向けて、両手で握った大きな銃の引き金に指をかける。
「あれ、さっきと動きが違う......」
と言うのは琴波さんの言葉だ。
というのも、先ほどのゲンキングが「命を大事に」だとすれば、今は「ガンガン行こうぜ」なのだ。
まるで左右から来る敵に歯牙もかけず、正面からやってくるちょっと厄介そうな敵ばかり相手している。
ポインターが画面の中央からほぼ動かず、代わりに俺のポインターがあっちへ行ったりこっちへ行ったり。
言うなれば、ゲンキングが前衛とすれば、俺が後衛からサポートしている感じだ。
サポートの負担が半端ではないが、明らか厄介そうな相手はゲンキングのヘッドショットが刺さり、ほとんど近づいて来ない。
そんな調子が続き、やがてボス戦。それもやることは変わらない。
ボスが雑魚を大量排出するが、その大半を俺が処理する。
言うなれば、俺はほとんどボスに攻撃していない。
代わりに、ゲンキングが自身のHPを無視して攻撃を実行するので、採算は取れてる......のかもしれないが、それでもこっちはゲンキングが死ねば詰むのでヒヤヒヤも止まらない。
そしてやがて――
「やったー、クリアー!」
ゲンキングは勝利を体に表すように諸手を挙げて喜びを示した。
対して、俺は終わったことに対する安堵感と、疲労でそれどころではない。
しかし、ゲンキングがハイタッチを構えて待機中なので、仕方なくそれだけはした。
「凄-い、唯華ちゃんの攻めのスタイルも、拓海君のサポート能力も凄かったよ!」
「さすがお姉ちゃんに仕えていただけありますね。
お姉ちゃんに鍛え上げられたと言っても過言ではない」
「いや、それはさすがに過言かな」
なにしれっと姉の手柄みたいに主張してるんだこの子は。
それはともかく、それ以降はゲンキングと俺のペアを真似して琴波さんと美玻璃ちゃんが挑戦。
クリアこそは出来なかったが、意外と良い線行っていたと思う。
それから、今度は琴波さんの買い物の付き合いで、ショッピングモールへ移動。
そこから小物を中心に売っている店に入ると、そこで東大寺さんが目を輝かせた。
「あ、オジタマだぁ!」
「オジタマ」とは最近――より少し前に流行ったおじさんの姿をした卵の黄身である。
全く持ってそのデザインセンスはよくわからないが、どうやら琴波さんは激刺さりしたらしい。
「へぇ~、これがあの.....」
「えぇ......」
そんなオジタマを見た二人の反応は実に顕著に分かれていた。
ゲンキングはヲタクであるため、その存在は知っているようで比較的好感触。
対して、美玻璃ちゃんはその独特のキャラセンスに引いていた。
まぁ、美玻璃ちゃんはそういうのに興味あるようには見えないよな。
それからというもの、琴波さんが色々なところへ目移りしながら、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。
それに振り回されるようにゲンキングも美玻璃ちゃんも移動していく。
それこそ、その洗練された琴波さんの動きはさながら生鮮市場にいる主婦のようで。
もはや何でも「可愛い」という女子みたいに、その言葉を連呼しながら歩き回る。
そんな光景を横目に、俺は邪魔しないように別の棚でグラスとか物色していた。
別にこれといって興味があるわけではないのだが、意外とデザインが目に入るのだ。
そして眺めていると店内と反対側――通路の方から一人の男子がじっと立っていることに気付いた。
チラッと視線を向けていれば、そこにいるのは短髪をした一見快活そうな高校生だ。
年齢は同じぐらいか、顔の幼さ(根拠薄め)から一つ下といったところ。
ちなみに、制服から別の高校の人っぽい。
まるでサッカー部にでも入部している男子生徒が、じっと視線を向けている。
それも俺に見られているということに気付かないぐらいじーっと。
だから、俺はその視線を追って目線を向けてみれば、そこにいるのは連れ三人だ。
まぁ、端から見れば彼女達はどうやっても人の目を引き付ける華やかさを持っている。
だからこそ、ああして見られるってことは、割とある......あるんだが――なんだろう、この妙なモヤッと感。
別に、彼氏彼女でもないってのに独占欲を感じて少し自分が気持ち悪い。
男の嫉妬ほど醜いものは無いというのに。
ましてや、俺の立場でそういうことを思うのは。
「......やっぱりそうだ」
そんなことを思っていると、通路に突っ立てている男子高生が呟いた。
周りの音で一瞬わからなかったが、今「ソーダ」とか言ってなかった?
え、炭酸? ここ小物売り場だからそんなもの打ってないけど――
「おーい、美玻璃ー!」
瞬間、その男子高生は片手を大きく振り上げ、躊躇なく大声を挙げながら三人のもとへ向かっていく。
え、仮にも、知り合いが友達と一緒にいる状況で一人で突っ込むか!?
読んでくださりありがとうございます。(*^_^*)
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