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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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319/321

第319話 とりあえず話は進んだかな?

「久しぶり、美玻璃ちゃん。元気唯華だよ。

 元日の時はレイちゃんと一緒に手伝いに来てくれてありがとね」


「私も久しぶり、かな。東大寺琴波です。

 今日は......いや、今日からかな。よろしくね」


「よ、よろしくお願いします」


 美玻璃ちゃんを説得した放課後。

 俺は早速美玻璃ちゃんの友達となるべく人物を二人ほど集めた。

 その二人が、先ほど自己紹介をしていたゲンキングと琴波さんだ。


 美玻璃ちゃんには友達がいないというが、この二人なら元日に面識がある。

 ともなれば、いざ友達を作るとなれば、この二人が一番適任であろう。

 先輩は少しハードルが高いので、一旦保留ということで。


「にしても、拓ちゃんから急にお願いされたと思ったからなんだと思ったよ。

 でもまぁ、面倒な厄介事って感じじゃなくて良かったかな」


「俺ってゲンキングの中でそんなトラブルメーカー扱いされてんの?」


「というか、これもある意味含まれるんじゃ......あ、別に美玻璃ちゃんのことを悪く言ったわけじゃないよ? 単純な感想というか、そういうアレだから!」


「わかってますよ。東大寺先輩のことはお姉ちゃんからも伺ってるんで――油断ならないハイエナって感じで」


「私、玲子ちゃんから一体どう評価受けてるの!?」


 美玻璃ちゃんからの予想外の一言を受け、琴波さんが目を白黒させる。

 しかし、それを端から聞いている俺とすれば、意外と間違ってないというか。

 いや、それを俺が言うのもなんかおかしいか。

 せめて言葉にするなら、ラッキーパンチが致命傷級という感じか。


 ともあれ、すでに面識があるし、一度は話してたことある相手なら友達にもなりやすいだろう。

 それに、二人とも玲子さんの妹であり、後輩でもありで可愛がってくれそうだし。


「それじゃあ、早速だけど連絡先交換しない?

 このまま今日だけ遊んで解散ってのもつまらないじゃん。

 それに、わたしとしても美玻璃ちゃんとしゃべってみたかったんだよね」


「う、うちもお願いします! よろしくね、美玻璃ちゃん」


「......はい」


 先輩二人、それも玲子さんが懇意にしてる相手であるせいか美玻璃ちゃんが押され気味だ。

 というか、陰キャ特有の初対面に対する透明な壁というのを感じる。

 心のA〇フィールドがだいぶ強いようだ。まだまだ打ち解けるには時間かかりそうか?


 にしても、ゲンキングの出だしが完全に陽キャそのものだった件について。

 もはや段々と演技とかの領域じゃなくて、素で根明みたいになってきてる気がする。

 言うなれば、ただのゲーム好きのギャルだ......なにそのヲタクが一番好きそうな設定。


「よし、これで交換完了。それじゃあ、早速どこ行こっか。

 美玻璃ちゃんが行きたい場所あれば、そっち優先するけど」


「わ、私は.....」


 俺の前では親の仇のように強気の美玻璃ちゃんが、二人の前ではタジタジモード。

 そのギャップに少しだけ俺は妙な愉悦感を感じるも、さすがにこれ以上の邪魔は出来ない。


 百合ではないが、目の前にはそれに匹敵する領域が広がっている。

 花園を踏み荒らそうなんて心は俺の中に持ち合わせていない。

 というわけで、俺は少しずつ後ずさりして、踵を貸した瞬間――、


「――っ!」


 満足した顔で帰ろうとした瞬間、俺の制服の裾が引っ張られた。

 てっきりゲンキングか琴波さんの二人かと思って振り返れば、俺の裾を掴んでいたのは美玻璃ちゃんだ。

 おっと、これは一体どういう状況だろうか。


「何一人だけ帰ろうとしてるんですか!?」


 ゲンキングと琴波さんには見えない、俺にしか見えない美玻璃ちゃんの顔。

 その顔は二人に向けていたものとは違い、険のある瞳を宿した表情になっていた。


 相変わらず俺にだけ妙に当たりが強い彼女である。

 小声で言ってきたというのに、まるで耳元で叫ばれたような圧を感じた。

 そして、そんな彼女は俺を逃す気はないようで、


「確かに、帰ろうとしたことは否定しないけど、だからと言って俺がいても邪魔でしょ?

 俺だって女子同士の楽しい時間を邪魔するほど無粋じゃないよ」


「楽しいかどうかを判断するのは私です。

 言うだけ言って責任はこっちなんて、そんな無責任は許しません!」


「そんなこと言われても――」


「だ、だから――ついてきてください」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の目は思わずパチクリしてしまった。

 なぜなら、今の美玻璃ちゃんの言葉は自ら弱みを見せたに等しいからだ。

 それも、大好きな姉を奪おうとしている野郎に対して。


 相手が憎ければ、そういった借りを作りそうな選択は絶対に取らないはず。

 だからこそ、逆に言えば、そうするということは最低限の信用がされてる裏付けにもなる。

 え、俺って美玻璃ちゃんから信用されてたんだ......。


「何呆けているんですか?」


「いや、その......あまりにも意外な言葉だったもんでつい」


「確かに、私が早川先輩を頼るなんて本来ありえません。

 ですが、少なからずお姉ちゃんに対して誠実な対応は目にしています。

 もちろん、アレが全てなんて微塵も思ってませんが.....この中で一番使用できるのは先輩だけですから」


 瞬間、草原の上を駆け抜ける突風のように爽やかな気持ちが駆け巡った。

 そう、これはツンが「デレ」た時の反応だ。

 加えて、若干ツン要素もあるのがプラス評価でもある。


 生来、ここまで綺麗なツンデレを見た事があっただろうか。

 それこそ、ツンデレキャラなんてフィクションの世界にしかいないと思っていた。

 しかし、それがこんな身近に.......いやぁ、ツンデレって存在してるもんなんだなぁ。


「きゅ、急に黙ってなんですか。まさかそんな言葉じゃ信用できない......って感じですか?」


「んぐっ」


「本当になんなんですか!?」


 いや、まさかそんな下手に甘えられるような雰囲気出されると思ってなくて。

 男ってギャップに弱いという俗説を聞いたことがあるが、案外間違ってないのかもしれない。

 少なからず、俺は見事にそのギャップにやられてしまった。


 もちろん、それは好意とは別種のものだが、とりあえずサムズアップだけしておこう。

 あ、なんか「本当になんだコイツ」って感じで見られた。

 ともあれ――、


「ゲンキング、琴波さん! なんか俺もついて来て欲しいっぽいんだけど――」


「ちょ、早川先輩!」


「俺も同伴でもいい? といっても、基本的には三人に仲良くしてもらいたいがメインって感じなんだけど」


 美玻璃ちゃんに胸倉を掴まれ大きく揺さぶられながら、俺は二人に尋ねる。

 すると、その二人は一度顔を見合わせると、言葉を交わさず頷きあい、それから俺に向かってサムズアップで答えた。

 どうやら問題なさそうなようなので、


「美玻璃ちゃん、無事に同伴の許可が出たよ」


「やっぱり早川先輩なんて嫌いです!」


 羞恥心で顔を真っ赤にされながら、胸倉を掴んだ状態で嫌悪宣告。

 しかし不思議なことに、俺には先程の行動でツンデレフィルターが形成されたので、その言葉に対しても即死効果は無効。

 もちろん、「嫌い」と言われたダメージは負うけど。


―――十数分後


「これ良さそうじゃない?」


「わぁ、可愛い。このオジタマ!」


「東大寺先輩の可愛いセンスはちょっと目を疑いますね」


 ショッピングモールの一角、楽しそうに会話する女子達から少し離れた位置で別の棚を物色していると、妙に視線が彼女達に向いている一つの視線に気づいた。

読んでくださりありがとうございます。


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