第318話 美玻璃ちゃんの説得
玲子さんの蘇生は抜群であり、美玻璃ちゃんは無事に復活した。
というか、あんな感じで復活するなら、もはや頭は最高にハッピーかもしれない。
すまん、少し愚痴ってしまった。と、それはともかく――、
「美玻璃ちゃん、もう大丈夫なの?」
俺が様子を伺ってみると、心配した俺には相変わらず敵視のある目つきだ。
しかし、その目つきもすぐに少しだけ弱々しいものになると、
「その、早川先輩のことは感謝してます......お姉ちゃんと仲を取り持ってくれてありがとうございます」
「覚えてたんだね」
「正直、記憶は曖昧ですが、お姉ちゃんがあんな状態で私をどうにかできるのって、もはや早川先輩ぐらいしかいないじゃないですか」
一応、あの廃人みたいな状態でもそういう認識は出来る思考はあったんだ。
となれば、俺が良心でやっていた美玻璃ちゃんへのフォローも案外悪く無かったかもしれない。
やっておいて良かったな。意外な加点要素だ。
「美玻璃、拓海君が二人で話しがあるみたいなの」
そんなことを思っていると、玲子さんが突然美玻璃ちゃんに話題を切り出した。
そのあまりにも早い話題転換に、俺が一瞬置いてかれそうになったが、俺としても目的はそこだ。
美玻璃ちゃんの依存体質......をどうにかできるとは思わないが、それでも姉に傾く信頼が分散すれば、玲子さんとしても動きやすくなるだろうし、信頼されてると言う意味では俺も認められてることになるし。
そんな玲子さんの言葉に対し、美玻璃ちゃんが俺に冷たい視線を向ける。
「なんで私なんですか」みたいな顔をしてるが、用が無ければ話さないよ。
だって、気軽に話しかけたらそっちの方が嫌われそうだし。
「......わかりました。少しだけですよ」
すると、さすがの美玻璃ちゃんも玲子さんからの頼み&俺に対する負い目から話を受け入れてくれた。
これでようやく前進だ。いや~、ここまでが短そうで長かったね。
というわけで、美玻璃ちゃんとは放課後に話をする約束をつけて――放課後。
昼休みと同じように美玻璃ちゃんを屋上へ呼び、そこで話をすることにした。
玲子さんには、念のため屋上の踊り場で待機してもらっている。
「それで、話って一体なんですか?」
相変わらず俺への警戒心が抜けきらないのか、言葉はトゲトゲしい。
しかし、これでも俺に対して耳を傾けてくれてるだけマシというものだ。
だからこそ、俺も余計な言葉を飾らずに言う事にした。
「単刀直入に言うよ、美玻璃ちゃん――友達を作ってみないか?」
「はい?」
俺の突然の提案に対し、美玻璃ちゃんが目を白黒させる。
恐らくこれまでの玲子さんに対する依存体質について指摘されると思ったのだろう。
それは間違っていない。
だって、現に俺の話題はそこから逸れていないのだから。
俺の場合は、単にアプローチ方法を変えただけの話。
「これまでの美玻璃ちゃんの行動、正直俺から見ても目に余る。
それこそ、依存と言ってもいい。玲子さんが怒るのも当然だ。
それに、玲子さんって常に隣に誰かいて欲しいってタイプでもないしね」
姉妹の関係性がそこで完結してる、相互援助出来ているなら話は終わりだ。
しかし、玲子さんは自立出来てる方だし、その足を引っ張るというのは美玻璃ちゃんとしてもしたくはないことだろう。
故に――、
「......私が友達を作れば解決すると?」
「だって、美玻璃ちゃんに友達と呼べる人はいないでしょ?」
「うっ......」
俺の言葉に対し、美玻璃ちゃんからダメージボイスが聞こえる。
しかし、それを認めるつもりはないのか、あくまで目は敵視を向ける。
「な、なんでそんなことわかるんですか?」
「俺にだって、それぐらい調べられる交友関係ぐらい持ってる。
それこそ、そういったことに詳しい人がな」
この情報に関しては、大地と空太に実は陰で協力してもらっていた。
大地からは部活内の後輩から情報収集を、空太からは一年生にも人脈がある柊さん経由で情報を――と言った感じで。
相変わらず、空太はなぜか柊さんに気に入られてるようで、そこら辺はようわからん。
と、それは置いといて――、
「美玻璃ちゃんが入学してからこれまで、最低限の事務的な会話は出来るようだけど、逆に言えばそれ以外の会話をしている姿は目撃されていない。
それは美玻璃ちゃんが休み時間になれば、常に玲子さんのもとへ駆け寄っているからだ」
だからこそ、一年界隈でも美玻璃ちゃんは「極度のシスコン」で誰も寄り付かない。
玲子さんばりのルックスを持ちながら、美玻璃ちゃんに告白した男子もいないらしい。
まぁ、入学してからそんな日が経っていないし、まだ無いだけかもだけど。
「美玻璃ちゃんにとって玲子さんが一番。それ自体は何の問題もない。
人に大切な人を決められるなんてあってはならないしね。
それはそれとして、美玻璃ちゃんには友達を作るべきだ。
だって、現に美玻璃ちゃんの行動によって玲子さんは傷ついているわけだし」
「ぐぅ......」
「自分が大切な人を守りたいってだけなのに、それで大切な人が傷ついてたら悲しいでしょ?」
「あが......」
「となれば、玲子さんにとって何が救いになるか......美玻璃ちゃんならもうわかるんじゃない?」
定期的に俺の容赦のない言葉が刺さっているのか、美玻璃ちゃんが体を捩らせる。
もう若干涙目だ。それでも睨む姿勢は止めないのだから、くっころ騎士みたいに見えてしまう。
やめてよぉ、まるで俺が悪いことしてる.......悪いことはしてるか。
「正論で殴ってそんなに楽しいですか!?」
「正論って自覚はあったんだ。なら、良かったよ」
俺の言葉を正論と聞き受け入れられるなら、美玻璃ちゃんには今からでも別の道へ行く方法があるということ。
少なくとも、玲子さんを「女神信仰」し始めたユニコーン末期みたいな状態からは抜け出せるわけだ。
別にユニコーンが悪いとは言えないが、玲子さんが被害を被ってるなら別だしなぁ。
「それで、もし仮に万が一の可能性で早川先輩の言葉が正しいとして一体どんな意味があるというんですか?」
「如実に認めたくない意思が伝わってくるけど......まぁ、話を聞いてくれるのならいいか。
まぁ、簡単に言えば、美玻璃ちゃんにとって頼れる人を増やすってことさ」
「頼れる人を......?」
「そう、今まで美玻璃ちゃんにとって頼れる人は姉以外誰一人いなかった。
それはきっと過去の経験から誰かに弱みを見せることを避けた結果なのだろうと思う」
「――っ!?」
俺が暗に美玻璃ちゃんの過去のことを知ってることを諭すと、賢い美玻璃ちゃんはやはりすぐに気づく。
同時に、向ける視線はこれまでものとは違い、鋭い怒り感情に変わった
そりゃそうだ、俺の言葉は明らかに美玻璃ちゃんの神経を逆撫でするものだ。
でも、ここを触れずにして真に話し合いが出来るだろうか。嫌、無理だ。
だって、そこが美玻璃ちゃんの依存の根本であるから。
そこを解決せねば、きっと彼女自身も前進は望めない。
そして、それ自体は恐らく見張ちゃんも気づいている。
「俺が友達だなんておこがましいことは言わない。そう思ってくれるなら嬉しいけどね。
でも、そうじゃないなら、提案した身としてまずは頼れる二人を紹介するよ」
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